あなたがスターリンになったらどうしますか?   作:やがみ0821

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短め。


スターリンの後継者 そして、不発に終わったイギリスの計画

 

 

 

 スターリンがもっとも悩んだのは後継者だ。

 強大化したソヴィエト連邦や数多の同盟国を纏め上げるのは簡単ではない。

 史実のようにフルシチョフやブレジネフに任せては悲惨なことになるのは間違いないだろう。

 

 悩んだ末に、スターリンは自身の後継者をアレクセイ・コスイギンとするべく、党内や軍、NKVDへ以前より根回しを密かに行っていた。

 史実において彼はブレジネフ時代に経済改革を推進し、また外交面でも西側諸国との平和的共存を模索したり、第二次印パ戦争の解決に尽力するなどしている。

 そして、彼を支える人材として、ユーリ・アンドロポフ、ドミトリー・ウスチノフといった面々をスターリンは選定していた。

 

 

 もっとも、彼は自分の死後に後継者に選んだコスイギンがうまく舵取りをできず、最終的にはソ連崩壊を迎えてしまうかもしれないが、そうなったとしても仕方がないと割り切っていた。

 

 スターリンからすれば自分ができることは全てやったと思っており、死んだ後までソ連の舵取りを任されるのは御免被る。

 

 とはいえ、コスイギン達をはじめとした党内の中堅や若手達には耳にタコができる程に人民の生活が最優先であることや汚職及び犯罪組織の根絶、同盟国との共存共栄、平時の軍拡は最小限に留めることなどをスターリンは言い聞かせている。

 

 またスターリン自らが執筆したソ連邦の将来に関することを纏めた数冊のノートを彼らに渡していた。

 それには彼らに言い聞かせていることや今後の技術開発などに加えて、未来において起こるかもしれない最悪の出来事について書かれている。

 

 それは史実におけるソ連邦崩壊に至るまでの出来事であったが、この世界に合わせて幾つもの改変がなされていた。

 ノートを読んだコスイギン達は、スターリンが自分の死後にまでソ連の行く末を案じていることに驚いたのは言うまでもない。

 

 

 後継者の育成に忙しいスターリンであったが、そのような最中で足を引っ張ってきたのは明確に敵対の姿勢を打ち出しているイギリスだ。

 既にフランスが脱落しており、イギリスも分離独立の危機であるがかろうじて踏み止まっている状況だ。

 

 そんな状態にも関わらず、イギリスは世界中で密かに反ソ連・反スターリンを煽って、かつてソ連がやったように武器や物資の支援を計画しており、これにはアメリカも一枚噛んでいた。

 この支援対象となった組織にはソ連内部や同盟国内に存在する反ソ組織や反共組織、反スターリンを掲げる共産主義者達なども加わっている。

 

 呉越同舟であるが、ソ連を倒せれば、あるいはスターリンを暗殺できれば何とかなると彼らは思っている節があった。

 

 しかし、今やスターリンの権威は比類なきものとなっており、彼に対する暗殺を防ぐべくNKVDによって過剰なほどに防備が固められていた。

 スターリンが基本的にはモスクワのクレムリン宮殿から動かないこともあって、とてもではないが外部からは手を出せない。

 かといって内部において、スターリンとよく接している人物達――側近や高級軍人は勿論のこと、使用人や警備の兵士達もスターリンによってソ連邦が黄金の時代を築き上げたことを疑う者は誰もいない。

 故に暗殺の協力者どころか情報提供者を得ることもできず、イギリスもアメリカもソ連邦中枢部の情報は何も得られていなかった。

 一方、ソ連側はイギリスやアメリカ政府及び政府機関や軍における様々な情報を、多数の情報提供者から得ている。

 

 ソ連の躍進や発展に伴い、ソ連に感化されて現地の協力者は増加の一途を辿っている。

 

 早い話、ソ連は全てお見通しであった。

 

 

 

 

「イギリスとアメリカの支援対象はソ連が叩き潰したかったものばかりだ」

 

 わざわざリストアップしてくれてありがとう、とスターリンは言いたいくらいだった。

 この情報を得て、既にNKVDが動き始めている。

 

「結局のところ、平和的共存及び緊張緩和をするには向こう側が折れてくれるしかない」

 

 ソ連側は対話の扉は常に開いていると両国に対して、事あるごとに呼びかけている。

 そして、イギリスもアメリカも本当にソ連と全面戦争をしたいかというと、そういうわけでもない。

 両国政府の内部には共存共栄を目指す動きがあり、また軍人達は表立っては言わないもののソ連軍と戦っても勝ち目がないと判断しているようだ。

 

「敵対姿勢の国々におけるハト派を、これまで以上に支援していくことが解決の道だ」

 

 ソ連やその同盟国全てを合計すれば十数億人にもなる超巨大市場はイギリスやアメリカにとって魅力があると思うのだが、彼らの既得権益をソ連が木っ端微塵に破壊したのも事実であり、中々難しいものだとスターリンは思う。

 

「イギリスやアメリカ視点でソ連侵攻をする場合、どのようなことになるかトゥハチェフスキー達に検討してもらおう」

 

 スターリン自身も、かなり興味があった。

 たとえユーラシア大陸のどこかに上陸を許しても、モスクワまで到達するには大きな困難が幾つも待ち構えている。

 

 核兵器が無い以上、ソ連軍や同盟国軍を排除するには通常兵器でもってやるしかないのだが――

 

「今ではソ連だけで1500万は動員できる。同盟国も合わせれば……陸上で勝つのは到底無理だと思うのだが」

 

 無論、敵側の戦略・戦術によっては各個撃破し続けることで、ソ連領内へ手が届くことになる。

 しかし、敵軍が制空権や制海権を常に維持し続けられるかというと怪しいものだ。

 

 制空権を失えば空からの攻撃に晒されて兵力が消耗し、制海権を失えば補給切れで立ち枯れる。

 

「トゥハチェフスキー達はどういう回答をするんだろうか……」

 

 スターリンは楽しみが増えたと思うのだった。

 

 

 

 

 




たぶん次で終わりです。

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