幸村(妹)side
兄と喧嘩をした。
私と兄は3歳差で、お兄ちゃんはいつも穏やかで優しいし、喧嘩なんてしたことないことが自慢なくらい私達は仲が良かった。
でも今年の冬にお兄ちゃんが倒れて、そこからお母さん達は何でもかんでもお兄ちゃんにつきっきりになってしまった。
朝早くからお父さんもお母さんも仕事で、夜はお母さんはお兄ちゃんの所に行ってから帰ってくるから夜遅いし。お父さんだってお兄ちゃんの入院費とか手術代稼がないといけないからって残業が増えて、家で一人の時間が増えた。両親と出かける時といったらそれはお兄ちゃんのお見舞いの時。
夜ご飯もお母さんが作り置きがほとんどになって、そのうち私が家事を担うようになっていった。
こんな時だもん、家族が団結しなきゃいけないって分かってる。
皆で遊びにいく計画してる中私は家のことで遊びにいけない。
おもちゃとかゲームだって欲しいけど、少しでも節約しなきゃいけないから我慢しなさいって言われる。
いつまで我慢しなきゃいけないの。
お兄ちゃんが病気にさえならなければなんて何度思ったか。
でもお兄ちゃんがなりたくて病気になったんじゃないって分かってるし、こんなことを考えてしまう自分が嫌で、あまり深く考えないようにって思ってた。
でもお兄ちゃんの容体は日に日に悪くなっていく。自分で着替えたり、食事すら自分で取れなくなっていた。
そしてお兄ちゃんはあんまり笑わなくなっていった。それでもお兄ちゃんに笑って欲しくて学校で起こった面白い話をしていると何故かお兄ちゃんの顔が一瞬辛そうに見えた。
「お兄ちゃん、どうかした?」
「いや、綾音は毎日楽しそうでいいね」
お兄ちゃんはきっと悪気はなかった。
私だって悪気なんてなかったし、怒るつもりなんかなかった。一番つらいのはお兄ちゃんなんだもの。でもその言葉を聞いたら今まで我慢してきたことがぶり返してきて、お兄ちゃんの為に私がどれだけつらい思いしてるか、それを誰にも吐き出せないのがどれだけ辛いか。
お兄ちゃんの辛さは私にわからない。私の辛さだってお兄ちゃんに分かるわけない。
「全然楽しくなんかないよ!!バカ!!!」
気がつけば大声でお兄ちゃんに怒鳴っていて、病室を飛び出していた。
イライラして家に帰ると、それまで我慢していた鬱憤を晴らすように家で大声を出していた。
一人だし思いっきり全部ぶちまけたっていいよね。
「何よ!あのバカ兄ー!!私の気も知らないでーーーーーー!!!!」
「私だって見たい映画も!欲しいものも我慢してるし!家事だって!今では私がほとんどしてるんだから!」
カサカサ・・・
叫んで一瞬平静に戻ると庭から物音が聞こえてきて、ベランダの窓を開けるとそこにはお兄ちゃんの後輩の桐生さんがいた。
「き、桐生さん・・・」
「・・・こんにちは」
「聞いて、ました、よね。」
「うん」
「別に俺に気にせず吐き出していいよ。我慢なんて別にする必要なんてないんだから」
そんな言葉、久しぶりに言われた。
前はお父さんもお母さんも我慢しなくていいっていってくれてたのに、最近は我慢してってばっかりだったから。
歳上の人に我慢しなくていいって言われたのが嬉しくて、それを皮切りに桐生さんの前で涙が止まらなくなって、今まで抱えてきたことを全部吐き出した。
分かってる。1番辛いのはお兄ちゃんだってことも、私が学校での面白い話をしてた度にお兄ちゃんを傷つけてしまっていたことも。
桐生さんは私を優しく抱きしめて、赤子をあやすように背中をポンポン叩いてくれて、そしたらいつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていた。
朝目が覚めると私のベッドの上で目がパンパンに腫れていた。
そういえば昨日一切の家事を行えていなかったと思って、キッチンに向かう。
あれ、朝ごはんにお弁当作ってある。
食器も洗われてる・・・
机の上には桐生さんが書いたメモがあって、お母さんに電話して桐生さんが昨日の家事を代わりにしたとのこと。そのメモには朝ごはんは冷蔵庫にあって今日の夜咲くであろう月下美人を鉢植えに移したからお兄ちゃんに持って行って欲しいと書かれていた。
喧嘩した昨日の今日で気まずいんだけど。
多分これでお兄ちゃんと仲直りしろってことだよね。
レンジで温めて朝ごはんを食べる。美味しっ!!!あの人こんなに料理上手だったんだ!!今度教えてもらえるよう頼んでみよう。
お兄ちゃんに鉢植えを持って行くのまだ少し気が引けるけど、桐生さんのご飯食べたら元気出てきたかも。
これでお兄ちゃんと仲直り出来たらいいな。