1年と2年の試合結果をまとめ、それぞれデータを集めていく。
今年の1年で有望株である切原赤也の試合を観戦しデータを取る。準レギュラーの川崎相手にあそこまでの差を見せつけて勝利するとはな。予想以上だな。
切原のデータを集め終えた後、次に目に入ったのはジャッカルと桐生という1年の試合だった。
確か桐生はテニスは未経験だった筈、なのに準レギュラーのジャッカル相手にあそこまで打ち合える1年が赤也の他にもいたとは。
「蓮二、試合は終わったのか」
「あぁ、とっくに終えてデータを取っている所だ。弦一郎も試合を終えて試合観戦しようとしているようだな。」
「あぁ、その通りだ。にしても桐生という1年は未経験にしては筋がいい」
「お前もそう思うか。持久力は勿論、反射神経、動体視力、ポテンシャル事態は俺より高いだろう」
桐生のデータを取る為にジャッカル達の試合を目を向けると桐生のボールに段々違和感を覚えてくる。
さっきの球はもう少し角度をつければ点は取れたはずだ。
今の球はもう少しスピードを速くすればジャッカルは追いつけなかったはず。
やがて俺はその違和感の正体に気づいた。
・・・そうか、この1年生は手を抜いて試合をしているのか。
未経験だった者がジャッカル相手に手玉に取るとは信じられない。
やがて精市が2人の試合を取りやめて、次に精市と桐生の試合が始まった。
流石に精市相手に手を抜いて戦えないだろう。データを取るチャンスだと思ってペンを強く握りしめる。
だが、その試合は俺の予想を遥かに上回る結果となった。
「ゲームセットマッチ ウォンバイ幸村6-0」
桐生は先程の何倍にも手を抜きわざと精市に負けたのだ。
精市もそのことにご立腹らしく機嫌を悪くして俺の方へ近寄ってくる。
「蓮二、彼の名前何だっけ?」
「桐生葵だ。俺としたことが全くマークしていなかった。不覚だ。」
「明日の朝までに彼に厳しめのトレーニングメニューを用意しておいてくれ。明日から蓮二のメニューとグラウンド100周を終えるまで練習には参加させない」
「・・・分かった」
これは相当怒っているな、無理に諌めるとこちらに飛び火するだろうから日を改めてから話をしよう。
まずはトレーニングメニューを作らなければ。そう思い、桐生のデータを取りに向かう。
「あとあの子結構食えないから気をつけてね」
「あぁ、わかった」
精市からそう言われたものの桐生は誰かと言い争いになったり、先生に反発したことのない優等生だ。
先程の精市との試合で本気を出さなかったのも恐らく下手に目立って反感を買いたくないからだろう。
早速俺は試合を終えた桐生にデータを取らせてもらえるように話しかけに行く。
「桐生、すまないが今からデータを取らせてもらえないか?」
「まぁいいですけど」
「テニスを始めたのはいつからなんだ?」
「立海のテニスに入部してからです。」
「ふむ、そういえばお前は赤也に誘われて入部したんだったな」
「はい」
「赤也からはお前が体力テストなどで本気を出した所を見たことないと聞いたが本当か?」
「まさか、そんなことないですよ。たまたまです」
「・・・・そうか。ところで先程のジャッカルと精市との試合だが、わざと手を抜いていたのは何故だ?」
「別に抜いてませんよ。あれが俺の実力です」
「嘘だな、ジャッカルの試合はともかくとして精市との試合はありえないミスを連発しすぎだ。」
「桑原先輩との試合で疲れていましたから」
「ほう、表情や呼吸を見ていた限りでは何も変わらないように見えたが」
「「・・・・」」
「まぁいい。とりあえず精市からお前用のトレーニングを渡すように言われた。4月に行った体力テストの結果は確か今日返却された筈だ。用紙は持っているか?」
「・・・はい」
桐生の渡された用紙の数値を見て、それが全く当てにならないことをすぐ様察する。
なぜならその数値は全て切原と全くといいほど同じだったからだ。
「じゃあ、俺そろそろ行きますね。」
追究しようとする俺を面倒くさがったのか桐生はすぐにその場を離れてしまった。
『あの子結構食えないから気をつけてね』
頭の中で先程精市から言われた言葉が反響する。
「ふ、もう少し精市からの忠告を聞くべきだったな。」
そうして、俺はとりあえず桐生の体力測定結果に基づきトレーニングメニューを考えることにした。