幸村部長から朝練前にグラウンド100周と柳先輩から貰ったトレーニングをこなすように言われた翌日。
「遅い!!」
朝練2時間前に来たら先に真田副部長が待っていた。
「貴様!こんな時間に来てあの量のトレーニングがこなせると思うか!」
「はぁ」
「ちゃんと返事をせんか!早く準備運動をして走れ!」
「はい」
真田副部長の叱咤激励?を受けながらゆったりトレーニングをこなしていき、朝練が始まる30分前には言われたトレーニングを終えた。
幸村部長も短時間で朝練前にこなしたことに驚いていたけど、真田副部長の口添えもあってズルをしたんじゃないかなどの言いがかりはつけられなかった。
でもまだ幸村部長からやめてもいいとのお達しは受けていないのでトレーニングは続行中だ。
ついでにこのことを知っているのは幸村部長、真田副部長、柳先輩に赤也だけ。
隠しているわけではないが、言う必要もないし、朝練前に終わっているから皆知らない。
「うへーお前よくそんなん続けられるな。俺なんて朝練でもギリギリなのに」
「まぁ、準備運動にはちょうどいいし、柳先輩がせっかく俺のために考えてくれたトレーニングだしな。」
そんな中今週末レギュラーと準レギュラーは他校の練習試合に行くこととなった。
赤也は唯一1年レギュラーなので、他校に行く予定だ。
俺たちは学校で自主練。
「へへっ♪じゃあな桐生!練習サボんなよ?」
「お前にだけは言われたくない。いってら」
「おうっ!!」
レギュラー陣達が行った今残ったのは一年とレギュラーになり損なった2年と3年。
部の空気はいつもより緩く、先輩達は後輩に雑用を押し付け練習もサボっていた。
1日くらい、サボるだけならいいかと見過ごそう思っていた。
だが、何人かで部室内を掃除していると先輩達が入ってきて折角綺麗にした場所をまた汚しはじめる。そして運悪く赤也の私物に目をつけたのだ。
「おい、なぁこれ切原のラケットじゃね?」
「くそっ、1年のくせに何本も持ちやがって、どうするよ?」
「ぶっ壊そうぜ、調子に乗ってレギュラーになりやがってムカつくんだよ」
「どうせ今頃他校の前で無様な試合を見せつけて立海の恥晒しをしてるに決まってるぜ」
4人の先輩達が赤也の悪口を次々口にする。
「おい、1年!告げ口したらゆるさねぇからな」
俺達を睨みつけそういうと先輩達は赤也のラケットを持って行く。
「お、おい。どうする?」
「どうするったって・・・」
「ねぇ、先輩方、無様な試合ってどんな試合なのか教えてくださいませんか?」
正直、普段の俺なら見て見ぬ振りをしているだろう。でも赤也のことは何だかんだで気に入っている。気がついたら俺は先輩達を挑発していた。
「あ?お前何だ?」
「こいつ、幸村にストレートですぐに負けた桐生とかいうガキだろ」
「1年がしゃしゃるんじゃねーよ」
「まぁまぁ、いいじゃねーか。何お前俺たちと試合したいの?」
「えぇ、もし良ければ」
「いいぜ、もし俺ら4人全員負けたら切原のラケットは返すぜ。もしお前が負けたらお前がこのラケットを壊せ」
こいつ結構エグい提案をしてくるなと思ったが、俺が負けるわけない
「分かりました。」
「けっ、生意気なガキだぜ」
4人の先輩は勝利を確信していた。
自分達はレギュラー入りは果たしていないが最近テニスを始めたばかりの歳下に負けるわけがないと。
だが、その考えは試合が始まった瞬間に掻き消えた。
全身に浴びる見えないプレッシャー、恐怖、それらを本能で理解した。
ボールを追わなければ、リターンを返さなければならないのに恐怖で体が動かない。
ここで立つだけで自分は精一杯で、逃げたいのに逃げられない。
気がつけば祈っている。この試合が早く終わることを。自分が彼の視界から消えることを。
早く終われ、早く・・・
「げ、ゲームセット マッチウォンバイ桐生、6-0」
その言葉がコートに響いた瞬間、身体にのしかかっていた重圧が一気に消える。
「先輩、見るに堪えない無様な試合を見せて頂いてありがとうございました」
そういうと桐生は切原のラケットを俺達から取り返し、去っていく。
もしこれが試合が始まる前の自分ならブチ切れていた言葉だろう。でも今は試合が終わったことへの安堵の気持ちが勝っていた。