今回は次の為の幕間みたいな感じですね
紗香と央佳からの依頼に紲は早速とばかりに奔走する……つもりだったのだが、
「何で俺が生徒会の仕事をせにゃならんのだ?」
「良いじゃない」
央佳は先に帰宅し、生徒会室に紲を残して仕事を押し付けた。
当然だが紗香も生徒会の仕事を行っている。
資料に生徒会の印鑑を押すだけの単純作業ではあるが、如何せん量が多い。
「これ央佳にも手伝わせた方が良かったんじゃないか?」
「央佳は明日からやってもらうから大丈夫よ。それに彼女にはメイアさんの同行を窺って貰わないとね」
メイアの事を出されては紲は押し黙る他に出来なかった。
何も知らない紲が調べるよりは知っている央佳が調べるのが効率が良い。
まあ、央佳本人は調査のつもりはなかろうて。
「あのさ……そろそろ“本題に入ったらどうだ?”」
紲が紗香に対して“そのように切り出した。”
仕事の手は止まらないが空気が明らかに変化した。
「明日には担任を通じて話す予定だった事よ」
そう前置きをして紗香は話の口火を切った。
紲も真剣な表情を作ると、彼女に向き合う。
「ここ最近、学校の周りで妙な薬を売ってる奴がいるみたいなの」
「薬を?」
それはテレビで報道される程のよく耳にする話だ。
周辺で起きているのならなおのこと危ない。
『魔法使い』なんて言っても人間だ。
押しの弱い人に無理矢理に薬を飲ませるだなんて話や、拉致を行うだなんて噂も飛び交う程だ。
「具体的に狙われるのは1年が多いわ」
「さしずめ、妙なキャッチコピーを触れ混んで薬を売ってくるってところか?」
紲の問い掛けに「正解」と返した。
新しい生活を迎え、気持ちも上の空気味になる。
そういったところを突いてあの手この手で商売をしてくる。
「だけど、何だってそんな話をするんだ?」
「明日の朝一、なるべく早く登校して1年の様子を見て欲しいの」
紗香の言いたいことはシンプルだ。
薬をやっていそうな、明らかに様子のおかしい生徒が居たら教えて欲しいと暗に告げている。
「簡単に言うけどよ……全員が昨日入学したばかりなのに分かる訳ない――」
紲はそこで言葉を区切った。
まさか――と、紲は紗香の方を向き直る。
「メイアに疑いを掛けてる……のか?」
「本当は嫌なんだけどね」
苦々しい表情でも否定の言葉は重ねなかった。
それは肯定――紲の推測を真っ向から肯定した。
「一番に見るべきはメイアって事なのか?」
「そうなるわ」
でもこれはあくまで嫌疑でしかない。
出会ったばかりだがクラスメイトを疑うなんて馬鹿馬鹿しい。
というより、央佳に申し訳が立たない。
「疑うなんてしたくはないけど……クラスメイトとしては気に掛けておくよ」
紲は――いや、紗香だって一緒だ。
メイアを疑いたくなんてない。
だけど、些細な可能性でも残っているとなれば話は大きく変わってくる。
「私だって有り得ないと思いたいんだけどね」
きっと、それは難しい話なのだと紗香は言いたかった。
しかしながら、こういった事柄に私情を挟んでいたって真実は見えてこない。
身内の仲間だろうと、誰かが心を鬼にして調査せねばならない。
「でもメイアの事を抜きにしても薬か……厄介な案件だよ」
生徒に被害が出れば、それだけで大問題だ。
それよりも厄介な事として取り上げるならこちらが好奇心旺盛な年頃な事だ。
興味を惹けば、若者は手を簡単に出してしまいそうだ。
「そんな人の好奇心を抑えておくなんて無理な話だな」
この手の話を止める事は一生掛かっても出来ない。
解決案があるとすれば……問題を根本から断ち切る。
だが、こんな手合いには下手をすると相当に大きいバックがある可能性も否めない。
立ち回りには十二分に注意を払わないと自滅する。
「解決案は紲と同じよ。根源を二度と立ち上がれないまでに粉々にする」
「生徒会長とも思えない乱暴な提案な事で……」
しかし、紲とて同じ方法論に至っている辺りは紗香の弁をとやかく言えない。
提案した本人にも読心術を使われたばりに中身が的中していると来た。
紗香と紲の間柄ではもはや“当たり前”なので疑問は何も出てこない。
「おい……まさか一介の学生を危険な目に遭わせないよな?」
ここまでの話で「壊滅させる事」を前提とした話が浮上している。
紲は嫌な予感を脳裏に過らせながら紗香の方を見た。
紗香はとても笑っていた。
それはそれは“正解を見付けた生徒の成長を垣間見るようだった。”
「そうよ。紲には“ついでに”薬の事も調べて貰おうかしら」
「こらこら!! 俺はそこまで便利屋でもないし、能力がある訳でもねえぞ!!」
紗香が過大評価を課してくれるのは嬉しいが……そんな手合いと紲は進んでやりたくない。
「そうは言うけど紲。あんたはこういう問題には知らず知らずに首を突っ込んでるじゃないの」
「そこを突かれると何も言えねえ……」
幼馴染みの天宮紗香はそう告げた。
一番近い位置で、長い時間を過ごした間柄だからこそ分かる。
紲の体質の都合上、常に厄介事に関わらざるを得ないのは必然。
その度に“大きな問題があった事も少なくない。”
とは言え、基本的に大人の介入(主に師匠の神原)も多かった事から大事はまだない。
「にしても珍しいよな。さや姉がこんな風に誰かに固執するなんてよ」
別に紗香が冷血な人だという意味ではない。
いつも「誰かの為に」の心構えではいる紗香ではあるが、紲の体質を知るからと言ってここまで調べてくれるとは思わなかった。
「だって……“似てるのよ。私とメイアさんは”」
作業の手を止めて紗香は告げた。
それを聞いた紲は押し黙る。
紗香とメイアが似ている――残念な事に紲には分からなかった。
「さて、早く終わらせて下校しましょう。時間は待ってはくれないわ」
「ああ、分かった」
紗香=メイアの図式の理由は紲には分からないだろう。
しかし、この図式の意味を深く理解している紗香の顔に迷いは見えない。
メイアを助けたい――その言葉、気持ちは紛れもない本物だ。
今一度、言い方を変えよう。
この図式の意味を紲は知る必要はない。
何故なら、一番に知っておくべき人物が理由を理解しているのだから――。
「どんなに感傷に浸ってても仕事は終わらないわよ」
「畜生!! 分かってるよ!!」
この後、生徒会でもないのに自宅で仕事を行うはめになったのだった。
次回の更新予定は来週の日曜日です。