ではでは、続きをどうぞ!!
あの天宮紗香が「会いたくない」と弟に言って聞かせる円山財賀とは何者なのかに紲は多大なる興味を寄せていた。
―――どんな奴なんだ?
色々とタイプを予想してみる。彼女が嫌うのは基本的に他人を平気で陥れたりする輩だ。
円山とやらが同じタイプなのだとしたら……紲も紗香の意見に同調する。
「このクラスだ」
1年生が2人で3年の居る教室に来るのは気の引ける部分があるものだが、紲と健司には御構い無しだ。
目的の教室に着くと、紲が教室の扉を開いた。何事かと教室の全員からの注目を集める紲。
「すいません。円山財賀先輩は居ますか?」
その注目を一身に受けながら、紲は気にした様子も無い。目的遂行を優先した。
「はい。僕が円山です」
名乗り出た円山とやらと紲は対面を果たす事になる――のだが、
「あれ? 君は昨日生徒会室の前に居た……」
「あっ、あの時のイケメン先輩」
女性受けしそうな整った顔立ち。髪型も首を隠すか隠さないかの絶妙な長さだが、彼には実にマッチしている眼鏡の男子生徒。何処か見覚えがあるかと思えば、昨日生徒会室の前で出会したイケメンな先輩ではないか。
「イケメンと呼んでくれるなんて嬉しい限りだ」
これは皮肉なのか……多分、悪意の無い発言なのだろう。イラッとしたので殴りたくなったが、それでは話が進まないので我慢我慢。
「実は生徒会長から円山先輩を呼ぶように頼まれたもので。今、生徒会長は生徒会室で手が離せないらしいので代わりに我々が来ました」
「なるほど」
後ろから健司が助け船を出してくれた。その話に耳を傾ける円山。
「分かった。生徒会長直々の呼び出しとあれば行くとしましょう」
「では、行きますか」
円山を引き連れ、男3人で生徒会室に向かうのだった。
生徒会室に到着し、紲が代表して扉を開いた。
「お待たせ」
「来たわね」
生徒会室では紗香が1人、机で資料整理を行っていたらしい。
「お久し振りです生徒会長」
「ええ、久し振りね」
円山と紗香のやり取りが事務的な物に聞こえて来るだけではなく、何処かピリピリとした緊張感が見えた。
健司の言ったように紗香はこの円山という男を快く思っていないのは分かった。
対して紲の評価と言えば「 まだ分からない」である。なんせ、彼と対面したのはまだ2回だけだ。そんな少ない回数でどうやって彼の事が分かろうか。
「とりあえずオイラ達は退散するとしようぜ」
「そうだな」
健司に促されて紲は頷いた。
元々、円山を呼んだ紗香には某かの意図があるのは窺い知れる。
しかしながら、何を理由にして呼んだのかまでは聞かされていない。ここに留まって、話が進まないと踏んでの健司の進言は的確だった。
「悪いけど紲は残って」
「俺? …………別に良いけど」
今の「間」は紗香の口調が“素”に戻っていた事への驚きだ。
学校でも基本的に丁寧な口調を心掛ける紗香にしては珍しい。
尤も、円山が紗香の素の部分を知るのなら猫を被っている意味もない。
「じゃ、オイラは先に戻ってるから。先生には遅れるって伝えとく」
健司はそそくさとこの部屋を後にした。
話の邪魔をしたくないだとかの大層な理由はなく、単純にこの圧迫された空間から逃げ出したいと思ったのだろう。
紲にしたって、健司みたくダッシュでこの場を去りたいのだが……現実は非情で、空気が「逃げんなよ。絶対に逃げんなよ」と語りかけてきた。
諦めて腹を括り、両者の会話に同席をした。
「それで? 元生徒会会計の僕に何か用なのかい?」
開口一番の円山の出だしに紲はギョッとした。
確か今会計の職に就いているのは央佳の筈だ。その前任に当たる。
―――そういや……。
紗香は「人手が足りない」と言っていた。
健司からもその事は聞いている。
「そういえば紲が知らないのも当然ね」
紲の驚いた反応に紗香が説明を付け加えてくれようとしていた。
「彼は去年の頭まで生徒会の会計に居たの。だけど、家の都合で手伝えなくなって、今は止めているわ」
「へえ。そうだったのか……って、でも何で呼んだんだ?」
紲の疑問はもっともだ。
会計をしていた円山を呼ぶ理由が何か分からない。
「実は探している資料が見付からないの」
「資料? 一体何のですか?」
「去年の生徒会の予算が書かれている資料なんだけど……」
「ああ、それなら――」
と話しながら円山は本棚から迷いなく1つのファイルを取り出した。
「これだよ」
「ありがとうございます」
礼を述べながらファイルを受け取り、紗香はパラパラと軽く流し見した。
「では、用事が終わったなら僕は戻るとするかな」
「すいません。御足労してもらって」
「気にしないで。僕が好きで来たんだからね」
それじゃ――そう言い残し、円山は先に生徒会室を出た。
「俺も戻るかな」
「ちょっと待ちなさい。何をナチュラルに帰ろうとしてるのよ」
紲の首根っこを捕まえて引き止める。
本題は此処からだと暗に告げていた。
「何かあるのか?」
「昨日見た資料の事よ」
潰れたホームセンターからくすねてきた資料だというのはすぐに分かった。
その話になり、紲も真剣な顔付きとなる。
「俺達が見付けた“穴”についてか?」
夜通しでホームセンターの資料から見付けた不自然なポイント。
それは『費用』と書かれたファイルに記載されていた。閉店が近くなるにつれ、使用されるお金の量が増えていった。
その事を疑問に思ったが、一番に考えるべきは――
「紲は“この資料が置かれていた事をどう思う?”」
そもそもホームセンター内部だっておかしい。
最初に侵入した際に商品が置き去りにされていたのは本当に頂けない。勘の鋭い人物なら疑いを持ってしまう。まあ、こんな潰れた店に入るだなんて酔狂な真似をする人物は居まい。
「たまたま置き忘れた……もしくは“わざとか”」
「紲はどっちって考えてる?」
紗香に二者択一を迫られ、紲は逡巡した。
いや、逡巡する必要はなかった。紲としては前者であって欲しいが……
「多分わざと。俺達にこれを見せ付けるのが目的だと思う」
詳細までは読めない。何らかの意図があるかも分からない。更に言えば、推測である以上は紲の読みが根本から間違っていると言えもする。
「俺達に色々と教えてデメリットはあっても、メリットは皆無だ」
「そうよね。私達を混乱させるのが目的かしら?」
紗香の弁が確かなら、紲達は現在進行形で混乱の坩堝に填まっている。そういう意味では大成功だと言えよう。
「でもそんなの……この事実に気付いたらじゃないか?」
注意深く読む事でようやくに見付けられる違和感。これを見付ける事で土俵に立つ事が出来る。
「ええ、気付くという“前提が必要なのが気に入らないわ”」
まるで気付けと試すように、まるでこれくらい出来なければ相対せないと告げているように、まるでこんなものは気付いて当然だと言っているようで――紲と紗香は揃って渋面を作る。
「とりあえず分かってる事を取り上げよう」
「そうね」
紗香はノートを取り出して判明した出来事をピックアップしていく。
・敵は『エクリプス』と呼ばれるテロ組織。
・そこにはクラスメイトのメイアが何らかの形で関わっている。
・組織の狙いは薬をばら蒔いて『魔法使い』を堕落させる。
「あれ? 待って……もしかして」
紗香はこうやって1つ1つを抜き出す事で“何か”に気付いたらしい。
「何か分かった?」
「多分根拠はないけどね」
だが、今の紲達は手詰まりも良いところ。ならば、藁にもすがる思いで手掛かりにかじりつく。
その為に、2人は策を巡らせる。
いかがでしたでしょうか?
そろそろ戦闘が行われる臭いがしてきた。
次回の更新は来週の木曜です。