新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

ちょっと早いですが続きです。


追い掛けて

「行っちゃった……」

 

薬で苦しむ演技は既に終幕していた。

紲とメイアの様子は横目で見ており、食堂を出た辺りで苦しむ演技を止めたのだ。

何でもないと笑顔を振り撒きながら野次馬を遠ざける。

 

「ふう……何とかなったみたいだけど」

 

「どうかしたのですか?」

 

紲とメイアの一部始終を知らない央佳は紗香の呟きに反応した。

その時には失敗したと紗香は感じた。央佳にはメイアの事を明確に話していない。

 

「紲が遅いなと思ってね」

 

後の事は紲に任せるはめになるのは分かっていた。

紗香も行けるなら飛んでいくつもりだが、タイミングというのはいやはや、簡単には掴めないものだ。

 

「紲君が遅いのは……メイアちゃんと関係があるのではないですか?」

 

央佳の声音、そして雰囲気が急変した。きっと、紗香の些細な異変を敏感に察知したのだ。

その微細な変化を気取られた時点で紗香の負けだ。

何せ、幼馴染みを助けたいと瞳に強い光を宿した央佳に嘘は吐けない。紗香自身にも経験のある事柄だからだ。

 

「分かったわ。本当は内密に終わらせるつもりだったけど、教えてあげる」

 

今、何をしようとしているのかを――天宮紗香はそう続けた。

それを聞き終えた央佳は唾を呑み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、メイアを追い掛ける紲は彼女を“見失わないよう追っていた。”

と言うのも、メイアの走力は紲のものと遜色無かったからだ。

素の部分では紲に軍配が上がるものの、『魔力』で脚力を強化したメイアには追い付くのは困難。紲も同じ事をしているが、如何せん燃料(まりょく)の量に差がある。ガンガン使える向こうに対し、紲は少量で遣り繰りする必要がある。

『魔力』が多ければ多いほどに身体能力の向上も飛躍的にアップし、走力も相対的に上がる。

エンジンが同じでも、持っている燃料の量が違えば差はすぐに現れる。

 

―――くそ、このままだと……

 

メイアは廊下で生徒を避けながら走っているので、まだ追い付ける余地はある。

だが、他に人の居ない直線距離で追い付くには“骨が折れる。”

 

 

―――考えろ。メイアがこの後に何をするのかを。

 

こうなれば先回りするのが一番だ。

その為にはこの先がどうなっているのかを読む。

 

―――幸いにも1階だ。階段も当分先にある。

 

そこで左側の窓の外へ目を向けてみた。

丁度、この先の廊下は左に曲がる構造になっている。

 

「あそこだ!!」

 

窓を開けて、曲がり角めがけて一直線に駆ける。

メイアは紲の意図には気付いたようだが、そこからでは無理だと確信した。

何故なら学園の窓は鍵が掛けてあり、窓を割ろうにも金属バットで何度叩こうが割れない程に頑丈。『魔法』で割れないようにとの配慮だ。外からの侵入は無理だ。

 

「すみません!!」

 

外で紲が謝りながら左手を前に差し出しながら右の拳の矢を引いた。

そんな簡単に壊れるものか――逆に紲の拳が粉々になるのが目に見える。

 

「うっ、りゃあっ!!」

 

気合いと共に放たれる右拳が窓を叩いた。

メイアは右手を抑えながら(うずくま)る紲の姿を想像し――

 

 

 

 

 

窓の方が粉々に砕け散った意味が全く理解できなかった。

 

 

 

 

 

「えっ!? そんな!?」

 

有り得ない光景を目の当たりにした。

いくら強化したとして、たかだか拳1つで割れるような柔な構造をしたガラスな訳がない。

 

「規格外にも程があるっての」

 

紲は『基礎魔法』が使えないだけで弱くないとは思っていた。

だけども、まさか“メイアが何度か試みた頑丈な窓ガラスの破壊を容易に達成するとは予想外すぎる。”

悠長に彼を観察している場合ではない。

どんな手品を用いたのかは分からないが、彼は窓ガラスを割った事でショートカットに成功した。

 

「追い付いたぞ!!」

 

曲がり角の直前に紲がメイアの進路の真正面に立ち塞がる。

 

「アタイはこんなところで……終われない!!」

 

メイアは方向を変換した。向かうは紲の真似をして窓ガラスである。鍵を律儀に開けて外へ出た。

 

「あっ、しまった!?」

 

紲の行動が狭まっていた逃走経路に新たな選択肢を与えてしまった。

その事に後悔はしたところで意味はなし。考える前に行動していた。

紲も彼女に続いて外へ躍り出る。

お互いに上履きのままで。上履きは紐付きであればともかく、そうでないなら走るには適したものではない。加えて、外出との相性も悪い。

だから、双方共に先程よりも遅くなっている。

 

―――埒が空かない!!

 

先に痺れを切らしたのは紲。と言うより、グラウンドを直線上に突っ切るとなると、ハンデはあってもメイアの方が逃げ切る可能性の方が高い。校門も数十秒と掛からずに辿り着く。

上履きは成長に合わせるが故にワンサイズ近く上のものを履いていて、尚且つ紐付きではないので走るのには向かない。

 

「邪魔、だ!!」

 

紲は乱雑に上履きを脱ぎ捨てて、靴下になって駆け出した。

地面をしっかりと踏みつけて加速できる代わりに小石を踏みつけているので地味に痛い。

 

「待てって!!」

 

段々とメイアの背中が近付いていく。

このまま一気に――紲が手を伸ばした瞬間だった。

 

 

 

 

 

メイアの走る先――校門の付近で圧山剛毅が見えたのは。

 

 

 

 

 

「――――っ!?」

 

それは本能からの警報だった。

紲はすぐに横っ飛びをする。

端から見れば「何をしているのか」と言われてしまいそうだが、結果的に紲の行動は正解だった。

 

 

 

 

 

ズドォォォンッ!! と爆発音に匹敵する轟音と共に紲が立っていた場所にクレーターが出来ていた。

 

 

 

 

 

「勘の良い奴め」

 

紲にわざと聞こえるように圧山は告げてきた。

 

「はっ、高校生にも避けられるヘボな『魔法』で攻撃するのが悪い」

 

紲は圧山剛毅を睨み付ける。

“丁度良い。”これは願ってもないチャンスだ。

圧山剛毅の根城を探り出すつもりだったからだ。

 

「探す手間が省けたってもんだ」

 

紲はヤル気満々だとばかりに指を鳴らす。

戦闘態勢は万全だとアピールしていた。

 

「この前は不覚を取ったが……今度はどうかな?」

 

圧山剛毅の方も紲を標的と捉えている。

この前にお見舞いしたパンチが忘れられないのだろう。

 

「近接戦闘を主体にしていても……それだけではオレには勝てない」

 

自信満々――そこに慢心の文字があるのかと思えば、完全に違った。

油断なく、獲物を狩るがごとくに紲の動向を窺っていた。

 

―――まあ、どっちでも良いけどさ。

 

圧山剛毅を拘束する目的なのだから“簡単か難しいかの差でしかない。”

こんな絶好の機会を舌舐めずりしただけで終わらせるつもりなんて毛頭ない。

 

「ギャラリーが寄ってくる前に終わらせてやる!!」

 

圧山は手のひらを前に出し、『魔力』を練って『魔法』の発動を試みる。

それを見ているにも関わらず、紲は臆する事なく突っ走る。

 

(馬鹿が!! 思う壺だ)

 

圧山の『魔法』は不可視だ。避けるにしても“元々見えないなら避けようがない。”

だからこそ、紲の行動には軽薄ささえ覚えた。

容赦なく、紲に不可視の『魔法』を叩き込むべく解き放った。

他の誰にも見えずとも、放った本人には不可視の『魔法』の軌道は手に取るように分かる。

 

 

 

 

 

「まさか、これ位で俺がやられるとでも思ってるのか?」

 

 

 

 

 

かなり声のトーンの低いものが紲から発せられた。

ゾワリ――と、圧山剛毅の背筋に悪寒が走る。

テロ組織『エクリプス』の旗を掲げてから、恐らく初めて“本能から警報が鳴っていた。”

 

「っ!?」

 

長年に培われた経験則による警報……それを圧山剛毅は信じた。

バックステップを踏んだ。

直後、彼の鼻先を紲の横から振るわれた拳が掠めた。

 

「くっ!!」

 

紲との距離は2メートル程しかない。

今のは何の変哲もない拳だった。何を警戒していたのかと、自分を鼻で笑いたくなる。

 

「はっ、多少警戒心が強すぎたみたいだな」

 

自重げに笑い、この得体の知れない少年を叩き潰す決心をする。

『魔力』の大半を用い、この少年を潰そうと動き出し――

 

 

 

 

 

圧山剛毅の足下の地面に水の塊が飛んできたかと思えば、地面に穴を開けながら溶かしたではないか。

 

 

 

 

 

「何だ!?」

 

半身を横に向けて飛んできた方向――紲から見て背後の方を見た。

しかし、そこには状況を知った生徒が疎らに集まり始めたので犯人の特定には至らない。

犯人探しは諦め、件の圧山に集中する事にした。

しかし、圧山からは先程までの好戦的な態度は消えていた。むしろ、戦う気は失せたとばかりに紲に背を向けていた。

 

「てめっ!! 待てや!!」

 

ここで圧山剛毅を捕り逃しては、何の為に紗香が命を張ったのか分からない。

“わざと隙を見せた”彼女はメイアを炙り出してみせた。

元々、メイアは紗香の隙を窺っていたので丁度良い区切りになると言っていた。でも危険な事に変わりないので紲は止めたかった――だが、現実に彼女の策に乗った。

紲の《ヒール》があったとは言っても100%の成功は皆無だ。

でも、天宮紗香は他でもない……新原紲を信用して策を労した。

なのに、ここで逃がしてその策を足蹴にさせたくなんてない!!

 

―――こうなりゃ。

 

“やってやる。”

紲は自分の内側にある心のスイッチを切り換え……

 

 

 

 

 

「新原。窓ガラスを割ったのはお前だな?」

 

 

 

 

 

襟首を掴まれ、宙にブラブラとしている感覚がした。

 

「あ、あれ!?」

 

嫌な予感で冷や汗がダラダラと流れてくる。

それはそれはロボットをリスペクトした緩慢な動きで背後を見た。

そこにはヒットマ……もとい、福富先生が立っておられた。

おやおやー? と紲の脳の処理が追い付かない。

そうこうしてる間に圧山剛毅達はこの場を立ち去った。

 

「待て――」

 

「待つのはお前だ。新原」

厳格なオーラと共に紲を拘束する。

 

「さて、どうしてこんな事になったのか説明させて貰おうか」

 

「ちょっ、今はそれどころじゃ……待て待て待って!! 手掛かりが!! 手掛かりがぁぁぁあああああーーーー!!」

 

紲の訴えなど何のその、憐れにも主人公は生徒指導室へ連行されるのだった。

彼を反面教師にして良い子の皆も悪い子の皆も、決して素手でガラスを割っちゃいけないぞ。




如何でしたでしょうか?

敵を倒すかと思いきや、止められてしまう紲さんwww

世の中、そう上手くはいかないって事よ

次回は再来週の月曜日の予定です。
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