鮎川に車を走らせてもらい、紲と紗香、健司そして央佳が乗り込んでいた。
他の取材陣の人達は車に乗り切れず、紲達に譲るべきだと言って学校で待機している。
「それにしてもこの辺にそんな如何わしい臭いのするホテルなんてあったのか」
鮎川が運転する隣――助手席にて紲は難しい顔をする。
ここは少し遠いとは言え、歩いて来れなくもない距離だ。そんな場所に桃色ハリケーン漂うホテルがあったなどとは初耳だ。
「仕方無いさ。表向きはビジネスホテルって事になってるからね」
運転しながら鮎川が紲が口にした疑問に答える。
「ビジネスホテルと言うのは建前で、約1年ほど前に建てられたホテルなんだ」
「1年……ね」
鮎川が教えてくれた事を紗香は反芻していく。
何かしら引っ掛かりを覚えたのかもしれないが、鮎川は気付かずに続きを話す。
「もちろんこれは受付時に言えば良い。ホームページにも堂々と書かれているよ」
「本当だ」
気になっていたのだろう健司がスマフォの画面を見せてくれる。
案内の欄にそのような記述がある。
「父と娘とは考えづらい。失礼かもしれないが援助交際かと思ったんだ」
「そう思っても仕方ありません」
鮎川が申し訳なさそうにしているのを紗香は責めはしなかった。
自分だって、きっとこの件に関わってなければその線を疑った。
「でも、どうして教えてくれたのです?」
「僕だって、そういった事の分別はあるつもりだよ。学生さんのプライベートをどうこうするつもりはないさ」
それにメイアは有名人でもない。なのに取り上げたとしても見向きもされないのは当然だ。
そして、これは鮎川自身の拘りでもあった。
「出来るだけ困らせる記事を作るのは僕の主義に反する」
やるなら嘘偽りのない真実を――鮎川は流したいと思っている。
嘘を塗りたくり、憶測ばかりを書いた記事で一番の迷惑を被るのは“書かれた人自身だ。”
それは鮎川とて人間である以上、全ての記事が否とは言えない。それでも真に迫った事を伝えたいのだ。
「見えてきた」
鮎川の言葉に一同の表情は固くなる。
外装など、特別に凝った造りでもないホテル。
ホームページにも載せる位にオープンな事に紲達は多少なりと違和感は覚えていた。
「さあ、入るよ」
ホテルの地下駐車場に堂々と入っていく。
別段、紲達が気になるような変わった外装なども無し。
駐車場をウロウロしても意味はないので、駐車場に車を停めた。
「ありがとうございます。あとは俺達で何とかしますんで」
シートベルトを外しながら紲は鮎川に告げた。
元々、彼をここまで連れてきた事にも多少の後悔はあったのだ。
紲達は顔を知られている。だからこそ、敵地の可能性のあるこの場所に無関係の鮎川を連れてくるのは些か抵抗があった。
「しかしだな……」
さすがの鮎川もそこまでは知らない。
純粋に学生だけで危険地帯まで乗り込ませるのは大人として止めたい。
「ここからは危険かもしれないんです。これ以上は鮎川さんを踏み込ませる訳には――」
「いや、僕も行こう。どのみち用事はあったんだ」
紲が最後まで言い切る前に鮎川が割り込んできた。
紲達はホテルの内装をほとんど知らない。
だからこそ、内装を知る鮎川が来てくれる事がどんなに心強いか。
―――だけど……。
これはこちらの問題だ。
なのに、部外者の鮎川をこれ以上踏み込ませて良いものかと判断に困る。
「大丈夫よ紲」
助け船――しかし、それは鮎川に対してのもので、言ったのは他でもない紗香だった。
「鮎川さんは私達が思ってる以上の実力者よ」
紗香の言う事は虚偽ではない。
近年、『魔法使い』へのインタビューで攻撃を受けるだなんて言うのは少なくない。
それを行うのは第三者であったり、インタビューをした本人であったり。
なので、少なからず護身用の力が必要となってくる。
昨今のマスコミでも、自衛する手段を持たない人がインタビュアーになるのは難しいのだ。
その事を思い出した紲は、紗香を信じて了承した。
問答をしているだけの時間が勿体無いというのも理由の1つではあった。
「では、行きましょうか」
紗香の言葉と共に一同は出撃をする。
結局のところ、鮎川の力無しには紲達はホテルの概要を詳しく知る事は出来なかった。
彼が言うには特別な部屋と言うのは地下にあるらしい。
そこへ行くには高校生である紲達には不可能な話であったが……
「なるほど、取材の一巻ですか」
「はい」
鮎川がホテルの支配人と応接室にてテーブルを1つ挟んで座って話をしていた。
紲達は彼の後ろで控えている。
交渉は学生が行うより、働いていて支配人と面識のある鮎川がするのが良い。
「鮎川さんにはお世話になっていますが……やはり、許可は出来ません」
「それは何故ですか?」
「学生を連れていくのは頂けない……ですから」
実に尤もらしい言葉で返された。
言い分は良く分かるし、普通なら切り上げていたっておかしくはない。
「本当に……それだけが理由ですか?」
鮎川は支配人の返答に“虚偽が含んでいるのではないかと睨む。”
きっと、紲達からしたら何故そこまで足を突っ込むのかと疑問に思ってしまう。
しかしながら、鮎川はそんな一同の疑問などお構い無しに話を進めていく。
「実は、とある組織がこのホテルを拠点にしているのではないかという噂が流れておりましてね……」
ここに来るまでに紗香からは説明があったのだ。
まさか、それをここで口に出していくとは。
「なるほど……鮎川さんはそう思っているのですね?」
「いえ、そうではないのですがね」
「嘘は良くないですな」
支配人が指を鳴らす。
彼らを取り囲むようにホテルには似つかわしくない……重火器で武装した6人の集団が現れた。
『魔法』が発達していたとして、重火器が存在しない訳ではない。
重火器には弾さえあれば誰にでも等しく、手軽に使える利点があるから。
「あなた達……天宮紗香が来た時点で察してはいました。それに、捕らえるようにも達しを受けていました」
「それで武力行使って訳かよ」
紲は周りを取り囲む集団を観察していた。
銃を構える姿は様になっている。
残念な事に素人の集団では無さそうだ。
「ホテルには他の客が居るんじゃないのかい? こんなところでドンパチしてしまってさ」
「大丈夫。今、お客様には避難して貰ったからね」
そして、支配人もまた拳銃を取り出した。
「これには『魔力』を込めた弾丸が入っている。効果は……身を以て体験してみると良い」
カチャリ――安全装置を取り外し、今まさに引き金を引かんとした時だった。
「悪いけど、もうあんたに構ってる意味はないから話は良いや」
テーブルを飛び越え、飛び蹴りを顔面に炸裂させる紲の姿があった。
この場に居合わせた武装集団は唖然としてしまう。
普通、こんなにも張り積めた空気で大胆な動きをするなんてやらない……やりたくても実行なんて難しい。
しかし、高校生になったばかりの少年はいとも簡単に行動を起こした。
「全く、フォローをする身にもなってよね」
「とか言いつつ、準備してるからな~」
そんな少年の行動を予測していたのは幼馴染み2人だ。
「《
頭上から重火器を狙って剣――サイズとしてはコンバットナイフと言うのが正しい――が突き刺さる。
それは見事に銃口に突き刺さり、弾の発射を防ぐ。
それを見た紲と健司が動く。
敵の懐に飛び込み、何が起こったのかを把握できていない敵を殴り倒す。
どうやらこういった紲達がこのような行動を起こした事、不測の事態にはそこまで慣れていないらしい。
こちらの反撃に成す術なく、制圧されるのだった。
「案外大したことなかったな」
紲が倒れ伏している形ばかりの武装集団をそう評した。
未だに何が起きたのを分かっていない央佳と鮎川。
「すいません鮎川さん。あとは頼めますか?」
紲と健司は倒れている本人達の服を破って両手を後ろ手にして縛り付ける。勿論ながら武器も没収だ。
「あっ、君は……」
「話は後です。今はこの事態を収集します。鮎川さんは警察に事情の説明を」
学生の伝達でも冗談だと蹴飛ばされかねないが、鮎川という記者の話なら安易に無視はできまい。
「それにここからは……どうやら、俺達だけで動いた方が良さそうなんで」
それに――と、紲は鋭い目付き、声音で告げた。
「少々、気になる事があるんでね」
「言っても効かないぞ。こうなった紲は」
隣から健司が付け足す。
言う通り、紲はどうあってもこのホテルの地下へ行くつもりだ。
「だが、君達を放って帰れるものか」
「ああ、大丈夫大丈夫。こういった組織を潰すだの潰さないだのは“結構慣れてるもんだから”」
「は……!?」
紲が何を言ったのか一瞬分からず……思考が追い付いた時には呆気に取られた声を出した。
「まっ、いつもの事よね」
紗香もまるで日常的な事のように言うではないか。
「多分大丈夫なのです。紲君は強いのです」
そう、それは鮎川も同じ意見のものだった。
学生だけにやらせるだなんて鮎川だってそんなのは否定する。
だけど……だけども、鮎川の独断で迷惑を被るのは会社の方だ。
「えと、それならこれで心配は消えますよ」
鮎川の葛藤に紗香が耳打ちする。
それを聞いた瞬間、驚きの表情を紲に向けて頷いた。
「にわかには信じがたいが……だとしたら納得だ」
「なら、良かったです。あとは私達に任せてください」
「ああ、分かった」
あれだけ渋っていたのを、何をどうしたら納得させられるのか?
疑問に思ったが、紗香が「行きましょうか」と全員を促したのでうやむやに。
だが、言う通りでもあったので一同はこのホテルの秘密が盛り沢山の地下へ突撃を試みる。
如何でしたでしょうか?
さあ、いよいよ紲達が大暴れ(予定)
次回は再来週の日曜日の予定です。
メール投稿の調子次第ではまた遅れるかもしれませんが。