続きです。
グラウンドに出ると、各クラス毎に集まっていた。式典の直後で満足な自己紹介も終わってない。
「こういうのって自己紹介終わってからじゃないのか?」
「『魔法』が使えないから後回しにするのは苦しみを先伸ばしにしてるだけだぜ」
紲の尤もそうな呟きに、幼馴染みだけあって思惑を見抜いた健司に突っ込まれる。
「自己紹介してないのはこれからだからだろ?」
別クラスでは担任が点呼を取りながら順に前に出るようにしていた。
自己紹介というよりは名前と顔を一致させる為の行為みたいだ。
式典からの目まぐるしさを考えると自己紹介する手間すら惜しい程にスケジュールが押してるのか……紲には預かり知らぬ事だ。
ややあって、担任の福富が紙の束を何枚か持って訪れた。
「では、点呼を取るぞ。クラスメイトの名前と顔を一致させるように」
健司の言うように点呼で自己紹介の手間を省く魂胆らしい。黙ってそれに従って順に呼ばれる。一塊になっていたのは運命だったようで健司、央佳、紲の順番に並ぶ。
「紲君、向こうを見て欲しいのです」
央佳が指差した先には校舎――正確には1人の生徒が歩み寄ってきた。
この学校の生徒であれば見覚えのある顔。名前さえも世間ではメジャーになりつつある。
そして、紲と健司には見慣れた顔――天宮紗香がこちらのクラスに迷いなく進んできた。
周囲のざわつきが大きくなる。生徒会長が直々に降臨なさった事に驚きは一潮だろう。
「福富先生。こちらのクラスを見ていても宜しいですか?」
「ああ、それは構わない。約束だからな」
生徒会長と教師のやり取りを見てクラスの面々はやる気を増していく。だが、紲は直感的にこの場から逃げ出したくなった。
「なあ健司。今回、自己紹介が省かれた理由が分かってきた」
「まあ、頑張ってくれ。草葉の陰からオイラも応援してる」
「どういう事なのです?」
幼馴染み同士のやり取りに疑問符を浮かべた央佳は問う。
「多分、このテストを早めたのは紗香……生徒会長だ」
「そうなのです? でも何の為にしたのです?」
小さい子特有の純真無垢な可愛さを無意識に引き出す必殺技「首傾げ」を発動しながら央佳は訊ねる。
「俺を顎で使う為じゃないか? 少なくとも俺に被害は飛んでくるだろうな」
もはや天を仰ぎ、悟りの境地すら開きかねない紲に央佳も掛ける言葉が見付からない。
「こらそこ、人の話を聞いているのか?」
福富先生の渋い声が紲達に向けられた。
反射的に頭を下げて黙り込む。
恐る恐る紗香の方を見てみると……青筋が浮かんでる気がした。
「念のために確認だ。『魔法』を扱う際の方法を天宮健司、言ってみろ」
どうやらお喋りをしていたこちらに矛先は突き付けられた。健司はなに食わぬ顔で答える。
「『魔法』を発動させるには『魔力』が必要です。『魔道具』と呼ばれる物を扱う際にも同様です」
「次は『魔法』の発動プロセスを紀藤央佳。言ってみろ」
健司の回答には十分なものを得られたのか、次なる刃は央佳を狙う。
「例えるなら携帯ゲーム機みたいなものです。
『携帯ゲーム機(魔法)』を扱うにはまず『電気(魔力)』を消費しますです。さらに『携帯ゲーム機(魔法)』を扱う為には『使う人(魔法使い)』が必要なのです。『携帯ゲーム機』にあるボタンはここでは『どんな魔法を扱うか指令を飛ばす装置』と言えるのです。
実際に『魔法』を扱う際には脳で『考えた自分の使える魔法を発動させる信号を身体に伝える』といったプロセスが行われるのです。その際に『魔法』の名前を言うとより強く『魔法』を発動できるのです」
『魔法』には名前が付けられており、その名前を口に出せばより強固に『魔法』が発動する。無論ながら言わずにも発動する事は可能だが、口に出す事の有無で質の高さは雲泥の差が如実に出る事もしばしばある。
「うむ、では新原紲には『魔法』について補足をしてもらおうか」
最後に紲への問題出題タイムに移り変わる。
「人によって扱える『魔法』は変わります。
例えば『炎を出す』や『物を産み出す』なんてキリがない程です。学校で習う『魔法』は『基礎魔法』と呼ばれ、今みたいに個人的にしか扱えないものを『魔法』と定義する事が多いです」
尤も、『基礎魔法』すらも『魔法』という大まかな括りになってはいるのだが。
「その通りだ。小学校の高学年から習う『基礎魔法』は誰もが使える。《ランプ》と《アーマー》を習ったはずだ」
小学校では前者を、中学生では後者の使い方を学ぶ。
《ランプ》は野球ボールサイズの光の球を出して辺りを照らす『魔法』だ。
そして《アーマー》は身体を魔力で覆ってダメージを軽減するというまさに鎧(アーマー)の名にふさわしい『魔法』である。
「では『基礎魔法』以外はどのようにして新たな『魔法』を修得できる?」
「人が精神的に成長した時に新しい『魔法』を修得できます。あとは練習をしたり、特定の条件を満たすと覚えられる『魔法』も存在します」
まさにRPGを彷彿とさせる。練習したとしても身に付く人はほとんどいない。練習をこなしてポンポンと『魔法』を覚えられるのはマンガの世界だけだ。
「そうだ。では、今のを思い出して貰った上で《アーマー》がどれだけ使えるのかをテストする。並んでいる順に行くぞ」
《アーマー》は丈夫さと維持できる時間で扱える『魔力』の質と量とが分かる。
基礎と同時に練達度を理解しやすい『魔法』の代表格と呼ばれ、現に大人になっても《アーマー》は身を守る為に使われ続ける事の多い『魔法』だ。チョイスとしては悪くないと言えた。
しばらくして遂に順序は回る。健司、央佳共に好評価を貰い、とうとう紲の番になる。
―――はあ、諦めて笑われますか。
自身の身の丈を悪い意味でと言おうか、分かっている紲は諦めムードながらも「ひょっとしたら」という淡い期待を胸に抱く。
全身を覆うように『魔力』をコントロールしていき、それを『魔法』へ変えようとする。
「《アーマー》!!」
紲は右手を前に突き出しながら叫ぶ。『魔法』の名前を叫ぶ。腹の底からありったけの力を注ぎ込むように吐き出した……けども、
「やっぱ、無理か……」
何も起こらなかった。この『魔法』を扱うと身体の周りを銀色の光が包み込む。
なのに紲にはそんなものは一切ない。
その後も何度も試すが……自分でも分かりきっていた事でもあるが、発動はしなかった。
「新原……お前はふざけているのか?」
「そ、そんな事はありません」
とは言え、教師からすれば信じられないだろう。ましてや“普通の魔法が扱えないなどとは夢にも思うまい。”
「まあ良い。新原、お前は超スペシャルなイベントを用意しておこう」
うげぇ……口に出す事は何とか留まった。変わりに紲の精神を著しく削る素敵な言葉が贈られた。
「お、終わった……色々と」
紲の後に数人がテストを受け終えた時点で教室に戻る。紲への特別補習は明日以降に発表されるようだ。
紗香も訪れていたみたいだが、何の口添えも無しに去った。紲の『魔法』の事は健司と師匠の神坂幹太の2人並みに詳しい筈なのに。
―――何か裏でもあるんかね。
とにかく、補習を行ったとしても紲にはクリアする方法は皆無だ。
「大丈夫です?」
央佳が机に顎を乗せた紲を心底心配そうに見詰めた。そんな彼女の行動が癒しを与えてくれる。
「大丈夫大丈夫。退学も停学もない。あるのは紲がこき使われる未来だけさ」
健司が横からしゃしゃり出て、癒しの波動を遮ろうとした。
「うっせ!! つか、お前も知ってんだから助けろよ!!」
『魔法』を発動できなかった紲へ笑いの嵐が吹き荒れた。
ウンとも寸とも言わずに『魔法』の発動の気配が無いのは傍目からは異常と思われる。
学生には「落ちこぼれ」の称号を与えるに相応しい存在の登場に笑いが溢れ出たのだろう。なんせ『基礎魔法』を高校生なのに使えないのだから。
小学校も中学校でも紲は同様の目で見られたので構わない。
「最初にも話してたけど紲君は『基礎魔法』が使えないのですか?」
「そうなんだ。全部使えない」
何度も聞かれる程までに奇特な状況だと理解して欲しい。本当にこれは異例な事だ。義務教育期間に教師からも指摘された事で耳タコだ。
「それじゃあ、帰りのホームルームを始める」
教室に戻ってきた福富先生が明日の連絡事項を告げる。本格的な自己紹介も明日に後回しだ。本日の学校は終了し――
「新原、お前に話があると生徒会長が呼んでいるぞ」
――なかった。紲を呼び出した生徒会長様=天宮紗香な訳だ。今回も1年の『魔法』のテストを早めたのは彼女らしいし、こちらに様子を伺いに来た時点での察しはある程度出来ていた。
大きな溜め息を吐きたくなりつつ、今後に起こるイベントが紲にとって有害でない事を祈るばかりだ。
さて、いかがでしたでしょうか?
説明する部分が特に苦手ですので、分からなかった場合は指摘やアドバイスをお願いします。
これからは他の書いている作品も含めて次回投稿の時期も書いておきます。
次の木曜日に投稿の予定です。遅れたりしていたら「ああ、忙しいか忘れてるんだな~」とでも思っていて下さい。
Rewriteの方は日曜までに更新する予定です。
それではまたよろしくお願いします。