新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

続きです。


差し伸べられる手

 紲の宣言がはったりか否かを考えようとしたが、それよりも早くに彼が動いていた。

 圧山との距離を詰めるべく、駆け出していたのだ。

 

 そうして来るのは前回の戦いから読めている。

 紲には遠距離に適した『魔法』がない。

 対し、こちらには遠距離に適しすぎる『魔法』を有している。

 

(だが、問題は――)

 

 圧山の視線は背後の紗香に移る。

 メイアとの戦いで『魔力』を消費してはいるが、それでもまだまだ余力は残っている。

 

 彼女の手には1本の剣が収まっていた。

 両手持ちの剣で、それを携えてこちらに突っ込んでくる。

 紲と板挟みにさせるように走ってくる。

 

「しかし――」

 

 圧山剛毅は両手をそれぞれ紲、紗香に向けた。

 

「紗香!!」

 

「分かってる!!」

 

 それを見た瞬間、悪寒が走った紲が紗香の名を呼ぶ。

 直後、2人とも自分側から左に跳んだ。

 

 ドガァッ!! という音と共に紲達がいた場所に小さな窪みが出来ていた。

 まるで見えない塊がぶつかり、飛来したものが窪みを造ったかのようだ。

 

「《ソード・シュート》」

 

 避けながら紗香が『魔法』を唱えた。

 手に持っていた剣を圧山めがけて投擲した。

 

「こんなもの」

 

 投擲された剣に『魔法』的な措置がされているんだろうが、それよりも先に叩き落としてしまえば無意味だ。

 圧山に届くより先に、剣が下方向へ落下していく。

 床に刃が突き刺さり、投擲された剣は意味を無くし――

 

「そんな甘くないわよ」

 

 紗香が指を鳴らす。

 直後、突き刺さった剣が光の粒子となって消えた。

 ただ剣の維持を止めたからである。

 光の粒子となったのは、『魔力』を消し去った結果に表れたものだ。

 

 しかし、違和感が生じた。

 光の粒子となったが、それらはまだ消えていない。

 いや、それどころか生きているように別の場所へ飛んでいった。

 目で行き先を追った――そこにはこちらへ向かってくる紲の姿があるではないか。

 

「うっ、らぁぁぁあああああっ!!」

 

 紲は右手を真後ろに持っていく。

 その右手に集まるかのように光の粒子が集合していく。

 それらは1つの形と成し、最終的には「剣」となった。

 

 今しがたの紗香の『魔法』はフェイク。

 本当は紲への注意を反らし、剣を送り届ける為。

 今の掛け声も、この一手を産み出す為だけのものやもしれない。

 

「そんな芸当もあるのか!?」

 

 圧山剛毅は己の失態を悟る。

 『魔力』で産み出すのならば、誰かに譲渡させる事も可能だという事を。

 

「おらっ!!」

 

 だが、まだ失態を取り戻せる。

 紲との距離はかなり開いている。これを利用して体勢を立て直す。

 彼はそれを埋める為に、天宮紗香がそうしたように“剣を投げ付けてくる。”

 

「何度も同じ手が通じるか」

 

 今回は読みきっていた。

 紗香の二番煎じなど、通用すると思われているとは心外だ。

 

「同じじゃねえよ」

 

 紲はすかさず、“剣へ向けて自分の手のひらを翳した。”

 

「《ライト》」

 

 紲の手のひらから懐中電灯ほどしかない光が飛び出る。

 それが剣に当たり、刃が光を乱反射させた。

 その内の1つが圧山剛毅の目に当たった訳だ。

「ぐ、うぅっ!?」

 

 光が視界に飛び込んで来るものだから、圧山は条件反射に目を閉じる。

 懐中電灯程の光でも、突然喰らったりすれば人は目を瞑る。

 分かっていたとして、光が目に入るのは気分の良いものじゃない。

 

「剣無刀」

 

 紗香が「剣」の名前らしきものを呟く。

 今回は「刀」だ。

 全体が黒一色となり、刃が“潰れている刀だ。”

 「斬る」ではなくて「叩く」に重点を置いたものだ。

 さながら模造刀。非殺傷を志す者に相応しい。

 それは紗香も含め、紲とて人を殺める覚悟なぞない。

 違うか、殺める覚悟があってもドブに捨てたに違いない。

 

 紲の目眩ましのおかげで紗香は安心して突っ込めた。

 既に圧山剛毅との距離は十二分に詰められている。

 

 あとは――強い一刀を叩き込む。

 

「せ、やっ!!」

 

 紗香の上段からの一撃が振り下ろされる。

 

「ちいっ!!」

 

 圧山は近付く足音で攻撃をしようとしているのを察知した。

 目眩ましによる怯みは終わったが、光が当たったせいで目がチカチカする。

 それでも抵抗をしようと『魔法』を発動させた。

 

 位置の把握が難しく、聞こえた足音の方向――床に『魔法』を解き放った。

 ズゴンッ!! 再び訪れる破壊音は丁度紗香の足下に発生した。

 これは単なる偶然だ。

 しかしながら、その偶然は圧山にとって好転させる切っ掛けとなる。

 

「えっ!? ちょっと!?」

 

 紗香が狼狽する程のタイミングだった。

 彼女が一歩を踏み出した場所にできた窪みへ足が入っていく。

 

 それでバランスを崩してしまい、体制が前のめりになる。

 おまけに圧山に持ち直す時間を与えてしまった。

 

「全く、思っていたよりもやるじゃんか」

 

 獲物を見つけた獰猛な瞳でこちらを睨んでくる。

 

「させるか!!」

 

 いち早く、紲も側まで駆けてきていた。

 元より、最悪のケースを想定して接近を試みていた。

 それが項を制す。

 一番の武器(こぶし)を用意し、そのまま圧山に殴り掛かる。

 

「おまえは一辺倒過ぎるんだよ」

 

 紲の行動を見透かしていた圧山は直後に身を翻して彼と相対する。

 視線が先に交錯し、火花を散らした。

 

「っ!?」

 

 しかし、紲は次に“向かってくるのを止めた。”

 車が停止するのに距離を必要とするように、それは走る人も同じだ。

 10の速度で走っていたのに急に“0に減速するだなんて通常なら起こり得ない。”

 人は直角に曲がる事も出来やしない。

 そんな有り得ない事を目の前の少年はやってのけた。

 

 完全にタイミングをずらされ、圧山の行動は空回りに終わる。

 それだけで済めば良かった。

 背後には紲に気を取られて仕留めていない紗香が居るのだから。

 

(せっかくの好機だったのに!?)

 

 紲の茶番に付き合わされ、圧山は酷く歯噛みした。

 転がってきた幸運をものの見事に放り捨ててしまった。

 

「せい……やぁぁぁあああああ!!」

 

 紗香の掛け声と共に刀による刺突が行われる。

 こちらの切っ先も潰されていて、手に負えない傷は負わない。

 しかし、殴打にも似た感触が腹部に起こった。

 

「ごおっ、はあっ!?」

 

 腹の底から酸素が抜けていく。

 声にならない悲鳴を漏らしながら圧山の身体は「く」の字に折れ曲がる。

 今度は胃の中のものが逆流する感覚がしたが、それを飲み込む事で押さえ付けた。

 

「ふっ――」

 

 押さえ付けた事に喜ぶ暇はない。

 紗香が下から掬い上げるように刀を振るっていた。

 顎にクリーンヒットは免れない攻撃。

 何とか身体を後ろに動かして紙一重で回避した。

 

「うらあっ!!」

 

 それも束の間、後頭部にヘルメットの上から叩かれた感覚に支配された事で怯む。

 紲の蹴りが圧山の後頭部に直撃した。

 

 しかしながら、残念な事に紲の攻撃は『基礎魔法』の《アーマー》によって阻まれる。

 鎧の意味を冠する『魔法』を蹴りが当たると同時に思い出す。

 

「い、ってぇっ!?」

 

 思わず呟いただろう紲の小さな悲鳴が聞こえた。

 しかし、《アーマー》をしている。

 しかも自分は実戦に身を置く事から銃弾からの衝撃も起こらせない程の強度を産み出していた。

 もし、“ただ生身だけで怯ませられた”のだとしたらとんでもない。

 

(頭がグラグラする……)

 

 フラフラとした足取りで何とか距離を開こうとした。

 だけども、2対1ではそれも叶わない。

 

 舐めきっていたのもこの際認めよう。

 自分が思うよりも“戦いに慣れ切っていた2人”の実力を見切れなかった判断ミスだ。

 

(だがな――)

 

 圧山剛毅の手駒も1つ残されている。

 未だに迷っており蚊帳の外の彼女を引っ張り込む。

 

「仕方無いな」

 

 その為の手段は選ばない。

 

「手加減は、終わりだ」

 

 如何にも言いそうな――ではなくて、圧山剛毅の不適な宣言はすぐに判明した。

 紲、紗香の真上から見えない“何か”が降り掛かる。

 これは「見えない何か」ではなくて「元から不可視のもの」なのだ。

 

「ぐ、うっ!?」

 

「これは――っ!?」

 

 紲と紗香は揃って床に膝を着いた。

 圧山の『魔法』を諸に喰らった。

 肌でもう1度、彼の『魔法』を受けたからこそ“分かった”。

 

「お前の『魔法』は――やっぱ『重力』か」

 

「へえ、気付いていたとは……驚きだな」

 

「ヒントを出し過ぎた、からな」

 

 何とか膝立ちで、手を片膝に押さえ付けて姿勢を保つ。

 紲はそれで圧山を睨み付ける。

 

「最初、俺はお前の目に見えない『魔法』を喰らった。

 この時点で考えられる可能性は幾分もない。『不可視の魔法』か『目にも止まらぬ速さの魔法』ってところだ」

 

 片手を何とか持ち上げて指を2本立てる。

 中指を折って人差し指だけを立てて言う。

 

「まず『目にも止まらぬ速さの魔法』って点は濃厚だったんだ。でも、それは消えた」

 

「それは、何故だ?」

 

「お前が散々、紗香の『魔法』の方向を捻じ曲げたりしていたのがきっかけだよ。それにこうやって上から掛かってくる圧力は……“重力に間違いない”」

 

 いやに断言をする紲。

 それに気付いた風もなく、圧山剛毅は未だに膝を着く紲と睨む紗香を見下ろした。

 

「口では何とでも言えるな。分かったところで人は重力には逆らえない」

 

 地球上にいるのならば逃げる事はできない。

 それこそ宇宙にでも逃げるか、地球の何倍もの重力に慣れるしかない。

 例外は圧山剛毅。彼自身の『魔法』は自身を対象には含まないようにしている。

 違ったか。彼は意図的に1人を除外していた。

 

「見てるなメイア? そこでボサッとしてないでオレに手を貸せ」

 

「えっ……」

 

 呆然としていたメイアに「手を貸せ」との命を降した。

 

「な、何でアタイが……」

 

 メイアの幼馴染みを遠回しに殺すと言った。

 その元凶が目の前に立っていて、あまつさえ「手を貸せ」と言ってくる。

 怒りを抱くのは自然な事の筈だ。

 

「これまでオレ達に手を貸していたんだ。今更、退けると思うのか?」

 

「それだって、約束を反故にしてるじゃないか!!」

 

「じゃあ、おまえの幼馴染みは助けると言ったら?」

 

 瞬間、メイアの反論が止まる。

 反論の余地のないのが当たりだ。

 今、目の前で手も足も出ない状況に置かれている紲と紗香。

 勝てるとは思ってはいない。

 今のを見ても明らかだ。

 

「見ても明らかだろ? こいつらにオレは倒せない」

 

 圧山剛毅の言う通りだ。

 今も重力に逆らえず、膝を着いた状態のままだ。

 紗香も何とか剣を突き立てて這いつくばるのだけは阻止している。

 

「さあ、オレの手を取れ。こいつらを殺るのを手伝――」

 

 

 

 

 

「ごちゃごちゃと、うっせえんだよ」

 

 

 

 

 

 声のする方向――そこには新原紲が“立っていた。”

 通常の何倍もの重力をその身に受けているにも関わらずに。

 まだ猫背は引き気味で、膝も小さいながらも折っている。

 重力の負荷は確かに紲には掛かっている。

 それでも新原紲は一身に受けた上で立ち上がる。

 

「なっ、何故だ!? 何故立ち上がれる!?」

 

 こればかりは圧山剛毅も驚愕をせざるを得ない。

 身体は鉛と思う程に重い筈だ。

 普通、身動きを取る事すら難しい。

 

「対した事なんてねえよ。“これ位なら俺は何度も味わってきた”」

 

 今度こそ……今度こそ圧山剛毅は唖然となった。

 これまで虚構だとばかり思っていた紲の態度、紲の圧力――それらは“決して贋作ではない。”

 

「お前よりもすげえ重力使いの奴が居てさ、その人に比べりゃこんなもの屁でもない」

 

 どんな冗談だ――圧山剛毅の吐き出しそうになった軽口はあっさりと消される。

 

「ふふ、言った、じゃないの」

 

 気付けば、天宮紗香も立っていた。

 彼女は紲とは違い、重力を何も感じないように立っている。

 紗香の手には羽の装飾が鍔に施された剣に付いていた。

 

「あなたの評価は間違っていないけど、間違っているって」

 

 今なら紗香の言いたい事が伝わってくる。

 “評価とは違った結果をもたらす敵がこれ程までに度しがたいと思えたのは初めてだ。”

 強いのに強さが分からない。

 しかも、新原紲の持つ『魔法』の使いにくさが強さを上手く隠している。

 

「さて、紲の強さの一部を垣間見た所で……終わらせても良いかしらね?」

 

 確認を取るように、紗香は剣を携える。

 彼女の手に持つ剣の名前はフェザーライト。

 簡単な重力操作――通常時ならば身体を身軽にしてくれる剣である。

 

「紲、ちゃっちゃと終わらせるわよ」

 

「あい、よ」

 

 紗香とは違い、重力そのものを身に受ける紲に何とも厳しい指示だ。

 しかしながら、紲は気にした風もない。

 むしろ、当たり前の事のように受け入れている。

 

「行くぞ」

 

 紗香は一気に、対して紲は亀のように鈍足だ。

 それでも、一歩をきちんと踏み出して前へと突き進もうとする。

 

(どう、して?)

 

 その姿を目の当たりにしたメイアは疑問で押し潰されそうになった。

 何故、彼らはこんなにも強いのか?

 何故、彼らはこんなにも強くあって立ち向かえるのか?

 

 経験があるのは分かる。

 そうだとして、何故そうまでして圧山剛毅と張り合おうとする?

 

 高校に入学するのだって、命あっての事だ。

 圧倒してはいるが、テロリスト相手にムキになって突っ込む程か?

 それに今、紲は重力のせいで立ち上がりこそしたが満足に動けてはいない。

 

「はあっ!!」

 

 紲達から引き離す形で、紗香が剣を振るって圧山剛毅と対峙している。

 彼女の攻撃は単調だが、1つ1つの動作にむらがない。

 素早く、次なる一手を繰り出していく。

 

「ん、ぎぎっ!!」

 

 紲は歯を食い縛りながら紗香の元へと馳せ参じようと足を動かす。

 だが、現実は無情にも紲の進撃を圧山の重力が阻む。

 

「何で……そんな向かっていくの?」

 

 優勢にしか見えない紗香の元に駆け寄る意味が理解できない。

 メイアはほぼ無意識の内に紲に尋ねていた。

 一方、紲の方は悩む事などほとんどせずに答えていた。

 

「このままだと、紗香は負けるかもしれないから」

 

 紲の口から出たのは今優勢な紗香の敗北の予言。

 正確には「かもしれない」との可能性の示唆ではあるが、そんな細かい事はどうでも良い。

 

「あんなに押してるのに負けるの?」

 

「圧山の『魔法』が『重力』だと判明した時点で遠距離からの攻撃はほとんど意味を成さなくなった」

 

 圧山側が周囲の重力を上げるだけで、彼に『魔法』が到達するよりも前に地面へと『魔法』が落ちていく。

 紗香の『魔法』は『剣』を中心とする。

 まず目視に容易い武器を圧山に届かせるには困難だ。

 

「でも、やりようならいくらでもあるじゃないか」

 

 メイアの発言通り、『剣』を想像する場所に自由度があるなら正面を囮にして頭上に産み出せば良い。

 

「そういう訳にもいかねえんだな」

 

 紲は苦面を作って前を見やる。

 紗香の振るう剣を圧山は紙一重で回避した。

 さすがはテロリストの創設者だけの事はある。圧山の反射神経と経験が紗香の剣技を避けさせている。

 圧山は回避に専念をするが故に、紗香と圧山は互角にやり合っている。

 そう“互角という状態でしかない。”

 

 紲は今も圧山の『魔法』で通常の倍の重力をその身に受けている。

 この『魔法』は紗香本人にも効果が“未だに持続している。”

 だから、彼女の手には重力を操作できるフェザーライトが握られている。

 その事を説明してやる。

 だが、それでもメイアは納得は出来ない。

 

「なら、もう1本の剣を作れば――」

 

「それが出来たら慌てやしない」

 

 圧山は紗香の回避に専念をしてはいたが“口元を引き上げた。”

 不適に作る笑みは、紲に嫌な予感しかしなかった。

 焦る紲だが、圧山の様子に気付いた紗香は渋面を作って、距離を取った。

 

 それを見た紲はホッとし、彼女がこちらを見てきた事を把握した。

 顎をメイアの方に一度向けてから圧山と対面する。

 彼女に早く説明してしまえとの紗香からの指示だ。

 

「紗香の『魔法』で造る剣は『魔力』の消費が激しいし、それを維持する為に剣の『魔力』を操ってなくちゃいけないんだ」

 

「でも、それだけなら今の作った剣の『魔力』を抑えれば? 結局は『魔力』の操作が難しいから剣を造れないんじゃ?」

 

「残念ながらそう単純じゃないんだよ」

 

 ここまで言ったなら隠す意味もほとんど持たない。

 紗香からの許可もあるし、腹を割って教える。

 

「普通の剣ならいくらでも出せる。だけど、特殊な能力を持たせた剣は1度に複数は出すのは困難だ」

 

 以前、紗香は興味本意で試してみたところ2本目は造れずに最初の1本目も消失した。

 これを見ていた紲の師、神坂幹太は「その内に複数出せるようにはなるが、それにはかなりの訓練が必要だな」と述べていた。

 

 これは紗香の抱いた“イメージが強すぎた事が起因する。”

 強力な『魔法』を扱うのには膨大な『魔力』と集中力を必要とする。

 RPGゲームで大技を使用するのに消費するポイントが大きいのと、ものによっては時間が掛かるのと一緒だ。

 

 紗香が作り出す剣は彼女のイメージ力の高さ故に『魔力』と集中力の消耗が多い。

 しかも生み出す際の『魔力』の多さもほとんど固定してしまっている。

 数値にするなら、集中力が最大で10しかない。

 そんな中で集中力を8も必要とする剣を複数出すのは不可能と言える。

 

「そん、な……」

 

 紲の説明を受けて、メイアは驚く。

 万能とも思えた紗香の『魔法』にはそんな弱点もあった。

 

「あとは視界に映る場所にしか剣をだせないとかはあるけど、そこはまた後でだ」

 

 紲はメイアへ向けて手を差し伸べる。

 

「さあ、どうする? この手を取ってあいつに一泡吹かせてやるか――もしくは、ここで(うずくま)るのか? お前が手を貸しさえしてくれれば、俺達の勝ちの芽は大きくなる」

 

「アタイ、は――」

 

 迷う。これだけ自分の為に立ち向かってくれる彼らを、自分が必要だと暗に言ってくれるのを無視はできない。

 こちらの要望が通らないのに圧山剛毅に肩入れする意味がないのは頭では理解している。

 それでもあのテロリストに勝てる算段は本当にあるのか?

 もし失敗すれば、今度こそ幼馴染みの命は――

 

「まだ、まだよ!!」

 

「もう種は割れている。いい加減に諦めろ」

 

 紗香の「諦めない」意志が伝わってくる。

 彼女は剣が複数出せないのを悟られ、圧山からの重力を利用した『魔法』を何とか回避してはいた。

 だが、捕まるのも時間の問題だ。

 厳しい状況だというのに――

 

「どうして戦えるの?」

 

「どっちみち戦わなきゃ、あいつの好き勝手にされるだけだ。

 ここで俺達を退ければ、世界中の『魔法使い』を消し去るか、奴隷のように扱うに違いないんだからよ」

 

 紲の言葉にハッとした。

 そうだ。どうしたって圧山剛毅は手始めにメイアの通う学校に手を掛ける。

 

「不安なのはしょうがない。勇気が起きないのも分かる。俺だって最初はそうだった」

 

 こんな状況なのに紲は“笑っていた。”

 安心させるように、それは自分に言い聞かせるのではなく、メイアに“伝えている。”

 

「なら、俺も一緒に戦ってやる」

 

「え……っ?」

 

「そう惚けた顔をすんなよ」

 

 メイアが紲の言葉を勘違いだと思ったのか、妙な顔付きになる。

 

「言っただろ。お前を助けてやりたいって」

 

 それは嘘でも何でもない。

 ここまでやって来ているのだ。

 それを今更嘘ではないかと疑う余地すらない。

 

 たった1人の為にテロリストに立ち向かう紲や紗香に応えてやらなくて何だと言うのだ?

 

「分かった……どうせダメなら、やるだけやる」

 

 メイアの目に強い光が戻ってきた。

 しかしながら、紲はそんな彼女を不満そうに見ている。

 

「おいおい、そんな後ろ向きに構えてんじゃない」

 

 大胆不敵――その四文字が似合う笑みを紲は生んでいた。

 重力の枷は未だに消えていない。

 それでも、紲は諦めない。

 触発されたメイアも、決して諦めないだろう。

 だからこそなのか、次に紲の発した言葉を不思議と素直に受け入れていた。

 

「あいつは絶対に、ここでぶっ倒そうぜ」




如何でしたでしょうか?

前回にも楔はあったので、メイアが心を開くのも意外と早かった。

でも殻を少し破っただけで、 まだまだメイアには苦悩がある筈です。

それを全て消し去るのは無理な話なので、このあともまだまだ迷い続けます。

紲の方は思ってたより超人染みてますね。
でも『魔法』のせいで苦悩をしてきたのは彼が一番で。
前回の冒頭から繋がるかなと。

紗香は紲の事で苦悩してきました。

この3人は似てないようで何処か似ていたりします。

では次回は再来週の月曜日の予定です
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