新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

続きです。


助け、助け合って

 新原紲が自分の『魔法』の詳細を知れたのは(無理矢理に)師となった神坂幹太と出会ってからだ。

 それでも師からは「『魔法使い』のセンス無し」の欲しくもない太鼓判を貰っていた。

 しかし、「『魔法』を発動させるタイミングや応用に関しては素質あり」と好評価は嫌々ながらに言っていた。

 ひねくれた師に気に入られたものだとも当時は思ったが、紲を見捨てなかった事実は残る。

 

 さて、紲が強くなるにあたって師に言い渡された課題があった。

 その課題は――人助け。

 困っていて助けたいと感じたなら迷わずに助けろとの達しを受けていた。

 紲は師の言い付けを愚直にも守った。

 自らの内から沸き上がる感情に従い、迷える子羊を助けようと奔走した。

 

 しかし、“上手く行くわけはないのだ。”

 紲が感じてしまう案件は実に大きすぎた。

 基本的に“人と人との関係が歪さを見せたり、なってしまった時だ。”

 

 紲が介入すれば拗れる。

 仲を取り持とうだなんて無理な話ではあったのは最初に関わった案件で判明していた。

 だが、紲はほとんどを解決してきた。

 その手法は大半が“紲自身の手を汚していた。”

 彼が憎まれ役を担う事で、その人達にあった蟠りを取っ払ってみせた。

 

 結果、関わられる事はほとんどなくなった。

 元々、ろくな『魔法』を使えぬ『魔法使い』の少年が相談事を受け始めたのも反感を買った。

 師からも厳しい訓練を受けていたので、いじめを受けてという事はなくなった。

 

「はあ……何とかなった」

 

 小学生の頃の紲は廊下で深い溜め息を吐いていた。

 

「紲……“またやったの?”」

 

 そんな彼へ、天宮紗香は声を掛けた。

 紲のしている事は紗香も聞いてはいた。

 手法に関しては学園に居れば自ずと耳に入る。

 

「うん。“これしか出来ないからさ”」

 

「…………」

 

 乾いた笑いと共に紲は達観したように言う。

 だけど、紗香はそんな紲へどんな声を掛けて良いのか分からなかった。

 

 彼の在り方を否定する事は師たる神坂幹太から禁じられていた。

 けれど、伝えたい事は伝えるようにとも言われてはいる。

 

「あのね紲……自分を大切にして」

 

「えと、どういう意味だ?」

 

 本気で分からないと言った表情の紲に紗香は続ける。

 

「私を守りたい……そう言ったわよね?」

 

「あ、ああ……」

 

「なら、紲自身も“守りなさい。”私の世界には紲、あなたが必要なのよ」

 

 強くなりたい――そう思い、願うが故の弊害。

 新原紲の願望が先走り、周囲への気配りが足りなかった。

 まさしく目から鱗が落ちる。

 ああ、そうなのだ。自分ばかりの事を考えていて周りが見えていなかった。

 

「私も手伝う。健司にも手伝わせる――だから、1人で抱え込まないで」

 

 紗香の手が伸ばされる。

 その手を紲は取った。

 こう付け加えて――

 

「ありがとう。さや姉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘の開幕、紲は迷わずに圧山の方に走り出す。

 今、彼は圧山と円山に挟まれている。

 非常に不利な上に、まともに動けない状態の紗香とメイア。

 彼女達から引き離す為の選択でもある。

 

「その心意気に敬意を評してやるよ!!」

 

 紲の取った行動を圧山は看破していた。

 だが、彼はあえて紲との戦闘に集中する。

 何故かと言えば、紲がこれまでにも何度か圧山の予想を越えた行動をしてきたからだ。

 彼1人に狙いを絞れば負ける気は毛頭ない。

 しかも2対1という圧倒的な優勢な立場だ。

 攻勢ムードで行くのに申し分無い。

 

「《グラビティート》」

 

 回復した『魔力』を惜し気もなく使っていく。

 これは指定した範囲の重力を引き上げる。

 使用する『魔力』の量によって、受けさせられる重力の大きさと持続時間に違いが出る。

 

「そう何度も喰らう訳がないだろ」

 

 不可視の『魔法』へ対しての紲の大胆不敵な発言。

 内容が「当たるものか」と来たものだ。

 

「《ライト》」

 

 紲は真正面から突っ込んでいき、右手をかざしながら『魔法』を発動させた。

 使ったのは「懐中電灯程の光を放つ『魔法』」である。

 既に種は割れている。

 前以て心構えをしておけば、眩しがる事もない。

 そうこうしてる間に、紲に重力がのし掛かる。

 

 紲の動きが鈍る。

 しかしながら、彼はさっき重力下で立ち上がって見せた。

 その様子を思い返すのと、彼が行動で以て同様の状況を造った。

 

「《ヒール》」

 

 即座に紲は次の『魔法』を発動させる。

 《ライト》を解除して、反対の手を翳して《ヒール》を行う。

 圧山の匙加減1つで紲に掛かる重力の負担は変わる。

 今現在、紲に降り掛かる重力の大きさは通常の倍程だ。

 そんな中で闘志を消さずに『魔法』を放ちながらも駆けてくる紲に脱帽するばかりだ。

 

(だが……)

 

 紲の行動は実に不可解である。

 《ヒール》は名前から察するに回復系統の『魔法』だ。

 情報によれば、回復後に某かの攻撃を受ければ回復はリセットされて回復した分のダメージがフィードバックされるとか。

 学園の裏まで知る円山が居るからこそ知れるものだ。

 

「ほれ!! 重力を強くしてやるよ!!」

 

 圧山の宣言通り。紲に掛かってくる重力が更に強さを増した。

 歯噛みしながらも紲は足を止めてしまう。

 

「無駄な足掻も終わりかな?」

 

 円山がゆったりと近付いてくる。

 距離はあるものの、紲の元に辿り着くのには1分は掛かるまい。

 メイアはそれを眺めるしか出来ずに「最早これまでか」と諦めそうになる。

 

「そいつは……どうかな?」

 

 紲は円山を向いておらず、依然として圧山の方を見ていた。

 直後、彼は《ヒール》で向けていた腕を下ろす。

 代わりに右手を再び圧山に向ける。

 

「《ライト》」

 

 紲は再度、『魔法』を唱えると同様の行為を圧山に行った。

 光の量に関しては、申し分無い程に弱い。

 だからといって、速さまでが失われる訳じゃない。

 文字通りの光の速さで圧山の目に当たる。

 

 

 

 

 

 すると、彼は“眩しさのあまりに目を閉じてしまう。”

 

 

 

 

 

 何が起きた?――混乱を起こしたのは圧山であった。

 その混乱もすぐに引いて頭の中で整理される。

 これは紲の2つの『魔法』が原因なのだと思い知らされる。

 開けていられない程でもない光の強さを“同じ方向から一辺に受けたのだ。”

 最初の《ライト》を1度当てて《ヒール》で回復させる。

 その後に《ライト》を当てたのは――“1回目に当てたものと合わせる為か。”

 脳が「眩しい」と無意識に認識してしまう。

 それで問題はない。

 2度目の《ライト》を当てて、1度目の「眩しい」と合わせた光の量が眼に当たる。

 《ヒール》の効力で懐中電灯2つ分と“合わせてとなる。”

 

「圧山!! 『魔法』が切れてるぞ!!」

 

「遅い!!」

 

 円山の指摘は既に遅かった。

 紲の『魔法』にて圧山剛毅は怯んで、自身の『魔法』を解除してしまった。

 

 視力が回復し始めた頃に、紲はそんな彼の懐に飛び込む。

 

「おま……っ!?」

 

「遅いって言っただろ!!」

 

 紲の言う通りだった。

 圧山の胸ぐらを掴み、すかさずに足払い。

 そして、そのまま紲は身体を反転させながら圧山を背負い投げまで持っていく。

 

「うっ、りゃぁぁぁあああああっ!!」

 

 気合いと共に圧山の背中を堅い床に叩き付ける。

 

「ぐ、があっ!?」

 

 不意討ちもあるが、紲の綺麗な背負い投げに圧山は呻き声を上げる。

 意識を手放しそうになるのを、必死になって手繰り寄せ――

 

「悪いが厄介だから気絶して貰うぜ」

 

 紲は迷わずに拳を振り上げる。

 彼の重力の『魔法』は厄介極まりない。

 ともなれば、先に潰すのは2対1という状況下ならば必然だ。

 

「そうはいかない」

 

 しかし、それを阻む者が居た。

 言わずとも分かろう――円山だ。

 彼が紲へ向けて青い水の塊を飛ばしてくる。

 さながら大砲の弾かと思える大きさの水は寸分違わずに紲に直撃をする。

 

 紲は舌打ちしながらも、避けた方が良いとの判断から圧山への攻撃をキャンセルした。

 横っ飛びですんでのところで回避に成功する。

 

 紲が退いた事で圧山も立ち上がる時間を与えてしまった。

 

「くそ。面倒だな」

 

 紲が面倒と示すのは圧山の『魔法』がズバリである。

 師から鍛えられてはおり、動けない事もないが……重力を上げられては動きづらい。

 どうすべきか――逡巡をしていた時だった。

 

「紲!! 受け取りなさい!!」

 

 横合いから紗香の呼び掛けと共に放物線を描いて投げられるものが。

 それを紲は慌てながらもキャッチした。

 

「こいつは――」

 

 親指程のサイズの小さな剣――鍔に羽の装飾がされた剣だ。

 フェザーライト。重力を制御できる剣のミニマムサイズである。

 

「重力を和らげる事だけに特化させた小さい剣――というよりはナイフよ」

 

「ありがてえ!!」

 

 残り少ない『魔力』を捻り出して用意してくれたものだ。

 これでネックとなる圧山の重力操作を警戒せずに済む。

 

 

 

 

 

 

 紗香の小さなフェザーライトを受け取った紲が勇ましく駆け出す。

 その頃、様子を見ていた紗香はメイアを見た。

 

「な、何さ!?」

 

「あなたに頼みがあるの」

 

 紗香は身体を引き摺りながらメイアの前まで来る。

 膝を着き、肩で息をしながらメイアに告げる。

 

「紲を……助けてあげて」

 

「そんな事――」

 

 するなんて難しい。

 紲は今まさに圧山と円山めがけて距離を詰めようと駆けていく。

 

「アタイだって確かに紲を助けたいけど……割り込む事なんて出来ないよ」

 

 紲に手を引かれて立ち上がれたメイア。

 助けたい――心の底から思ってはいる。

 しかし、今しがたの攻防を目撃しては、素人同然のメイアの手助けは逆に迷惑と言えなくもない。

 

「それでも、よ。『魔法』を上手く扱えるあなたの力が必要なのよ」

 

 言いながら紗香は1本の刀を手渡す。

 刀身から何まで真っ赤な刀だ。

 

赤兔(せきと)――この刀を持っていれば力になってくれるわ」

 

 赤兔をメイアの手に握らせる。

 ズシリとした重味がメイアの手に乗せられる。

 

「紲を助けたいのは私も一緒。だけど、ほとんど魔力も無いからあなたにしか頼めない」

 

 一息置いて続ける。

 

「私とあなたの力があれば間違いなく紲を助けられるわ。もちろん、それは央佳を助ける事にも繋がる」

 

「央佳、紲」

 

 紗香から告げられた名前――彼女を、彼を助けられる。

 自分と、生徒会長の力さえあれば……

 

「紲はね、小学と中学で孤立したの」

 

 唐突に語られる紲の過去。

 しかも本人ではなく紗香からのものだ。

 でも、彼女から感じる「悲しさ」がきっと“紲には分からない事が秘められているのだろう。”

 

「原因は紲の『魔法』と性格。困っている人を助けに向かう性質が裏目に出たわ」

 

 紗香にしては珍しく、概要だけの説明で詳しい事は何も言わなかった。

 もしくは言えないだけなのか? いずれにしても彼と関わってきたメイアは“なんとなく察せた。”

 

「その頃の紲はいじめられていてね。その時に突然に『人助け』なんて始めれば面白い顔をする人なんていないでしょ?」

 

 愚直なまでにお節介な性格の彼は、メイアに事ある毎に接してくれた。

 打算も何もない。純粋に「親しい間柄」を求めて。

 けれど、小学生の頃は別の話か。

 幼い頃にはそういった機微も分かりづらい。

 高校生になった今だってそうなのに「分かれ」というのは酷な話だ。

 

「紲はそれでも諦めなかった。結果、自分を犠牲にする事を“覚えてしまったの”」

 

 今のあなたのようにね――と。

 自分をテロリストの歯車に埋め込んで、親しい者を助けようとする自分自身(メイア)と一緒なのだ。

 

「1人で意固地になって、周りに頼る事を覚えてからは多少はマシになった……でも、目を離せば自分を平気で投げ捨てる癖は変わっていない。そんなあいつを私は放っておけない。それで、あなたはどうかしら?」

 

 知らず、彼女は赤兔を強く握っていた。

 不思議と重さは消えている。

 彼女は答える代わりに立ち上がり、真っ直ぐに“紲の背中を見た。”

 

 これが同属嫌悪というものなのか?

 それでも“紗香と同じで紲を放っておけないと感じてしまったのだ。”

 

「行ってくる」

 

「気を付けて」

 

 赤兔の能力の説明は不要。

 握った瞬間に使い方は頭に流れ込んでくる。

 

 大切な人を助ける為に――白銀の少女は駆け抜ける。

 内に秘めた熱い決意と、“友から渡された”赤き刀を携えて。




はい。こんな半端な形での終了ですいません。

さて、メイアも一歩を踏み出しました。

次回は再来週の木曜日の予定です。
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