新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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大変お待たせしました。

続きです。


びっくり箱な少年

 中学に上がる頃、師匠から紲への通達があった。

 

「さて、お前の『魔法』についてはこんなもんだ」

 

「そうだったのか……」

 

 自分の『魔法』についての詳しい事を聞いていた。

 簡単な概要に関しては先に聞いていたが、詳細までは耳にしていなかった。

 

 なるほど、紲に「人助け」の任を与えた理由も判明した。

 納得の理由だった。

 ちなみにこの事を紗香や健司は聞いていたとの事で。

 

「因果なもんだな。お前の“名前がそんな力を生んだのかもな”」

 

 くくっ、と面白いものを見るように笑う。

 

「そして、その上でお前は絶対に直面するだろう事がある。それを確認させて貰う」

 

 師からの問い掛け――新原紲は決して忘れる事が出来ない。

 それだけの衝撃を孕んでいたのだから――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「《グラビティート・アンチ》」

 

 紲の手にある小さなフェザーライトは重力を和らげる事しか出来ない。

 前の戦闘でそれを察した圧山は重力を軽減しに掛かる。

 

「うおっ!?」

 

 身体がフワリと宙に浮かぶ。

 天井には届かず、辺りの棚に足を着かせる真似もさせない。

 

「《アシッド》」

 

 続いて円山が黄色い液体を砲丸の形にして放ってくる。

 《アシッド》という『魔法』から酸を放ったのが分かる。

 当たる訳にはいかない。

 

「紗香!!」

 

「分かってる!!」

 

 紲の背後に剣が1本出現した。

 紗香の用意したものだと考えるまでもない。

 身体を無理矢理に前へと体重移動させ、地面を見る姿勢となる。

 しかし、足下に剣が来る位置となる。

 

「せ、い……やっ!!」

 

 足に『魔力』を込めて脚力を強化。

 すかさずに剣を足場の代わりとして蹴った。

 身体が前へと飛んでいき、円山の『魔法』を回避する。

 

 だが、紗香に『魔法』を使わせるのも難しいようだ。

 彼女の『魔力』も大いに関係してはいるが、一番は紗香の『魔法』の“効果範囲もある。”

 

 彼女が刃物を創造する際に「何処に出現させるのか」と言うのが「視界に移る範囲内」だけである。

 障害物に刃物を埋め込む状態で産み出す事はできない。

 それ故に空間把握能力も必要となる。

 

 今、紲は紗香の空間把握能力から離れた位置にいる可能性が高い。

 証拠に紗香は渋面を作っていた。

 頼れないのだと、勝手に解釈する。

 その答えに間違いはないだろう。

 

 下に戻る為には圧山に『魔法』の解除をさせねばならない。

 その為には今こちらへ駆けているメイアの協力も不可欠だ。

 

 メイアの突進に関しては圧山と円山も気付いている。

 彼女の手に赤い刀が握られている事を紲は見逃さない。

 同時、それが何であるのかを悟る。

 

「メイア!!」

 

 赤兎の能力は紲も知っている。

 名前だけを告げたのも理由の1つ。

 

 赤兎の能力――それは持ち主へ名前を呼び掛ける際に「何をして欲しいのか伝えられる」事だ。

 紲と紗香は付き合いの長さからアイコンタクトで分かるレベルなので無意味となる。

 しかしながら、即興的コンビなどで戦う際にはこれ程適した武器はない。

 

 そして現在――メイアは紲に名前を呼ばれて“どうすべきなのかを察した。”

 

「《アイシクル》」

 

 駆け抜けながら彼女は『魔法』を唱える。

 紲の背後、天井の側。そこに氷の塊が浮上したのだ。

 それは紲の指示通り。

 

 紲はと言えば、身体を丸めて足が天井に向く。

 足場の代わりとばかりに紲は氷の塊を蹴った。

 

「うっ、おおおおおおーーーーっ!!」

 

 紲が雄叫びをあげながらも圧山と円山へ突っ込んでいく。

 その際に拳は ギュッ!! と強く握り込む。

 

「馬鹿だな」

 

 圧山は紲の突進に呆れる。

 何せ隣には攻撃に移れる円山が居るのだから。

 

「メイア!!」

 

 今度、メイアの名前を叫んだのは紗香だった。

 赤兎の能力でメイアの脳裏にどうすべきなのかの指示が送られる。

 

 条件反射とも言うべきなのか、メイアは即座に行動に移した。

 彼女は正面の円山を抑える事を考える。

 現状、紲の着地の妨げとなるのは円山だからだ。

 

 幸いにも彼の注意力は半々といったところだ。

 ならば、その中途半端さを利用させて貰おう。

 

「《ウインド・サークル》」

 

 先程に紲が教えてくれた敵を抑える方法。

 効果的なのは特に“視界を奪う事にある。”

 

 メイアの『魔法』なら手段はいくらでもある。

 その中でも最善手だと思えたのは「風」を利用したものだと直感した。

 風は触れる事は叶うが、それを払ったりする事はまず難しいからだ。

 その選択はまさしく正解だった。

 

「ぐっ!!」

 

「何っ!?」

 

 結果的には圧山をも巻き込む形となった。

 予期せぬ展開だが、好転という意味では正しい。

 紲に掛かっていた無重力の状態は解除されて重力に逆らう事なく落下していった。

 

「しま――」

 

「遅い!!」

 

 落下の勢いに紲の蹴りによる勢いがプラスしての拳が圧山の頬に炸裂する。

 悲鳴を上げる暇もなく、地面に身体を打ち付けながら床を転がる。

 

「新原……っ!?」

 

 床に ドカッ!! と膝を着いて着地した紲に矛先を向けるのは当然だった。

 

「アタイも居るんだよ!!」

 

 意識を紲1人に向けていても背後から迫るメイアがいる。

 彼女の手にある赤兎が如何なるものかを円山は知らない。

 故に警戒心を解く事は叶わない。

 

「《フレア》」

 

 メイアは炎を刀身に“纏わせる。”

 それを迷う事なく横から振り回した。

 ただ、こういった武器の心得がない事が災いする。

 彼女の攻撃は腰の力の入っていない攻撃と大差無い。

 

「そんなもの」

 

 円山は手のひらに水を纏わせてメイアの一刀を受け止める。

 白羽取りなんてものはせず、片手で掴んでみせたのだ。

 

「水を操る僕にこんな手を――」

 

 使うなんて――と、円山が続けようとしたところで言葉が止まる。

 背後で紲が殴り掛かるモーションを作っていたのを横目で見たからだ。

 

 ドゴンッ!! 紲の拳が円山の脳天を捉える。

 身体がぐらついてしまうものの、一瞬で体勢を立て直す。

 

 そんな円山を紲は鷹のように見逃さずにいた。

 彼に追い討ちを掛けるべく、一歩踏み込んでいく。

 

「だりゃぁぁぁあああああっ!!」

 

 体勢を立て直したばかりの円山には紲の正拳突きをかわす術はない。

 

「がぁっ!?」

 

 悲鳴が漏れる……けれども、それは円山のものではなかった。

 紲の方から漏れたのである。 

 何故か、それは紲へ向けて圧山が攻撃の『魔法』を唱えていたからだ。

 紲の腰部に重力の塊をぶつける。

 それをまともに受けた紲は吹き飛ばされたという訳だ。

 

 紲の身体が吹き飛ぶと同時に床を転がる。

 圧山とは立場が逆転する運びとなった。

 

「新原!!」

 

「余所見をしていて良いのかい?」

 

 注意が紲に移ったメイアに声を掛けたのは既に『魔法』の発動を完了したからだ。

 メイアの隙だらけの腹への放水が直撃した。

 円山の手のひらからの放水は洪水顔負けの威力を有し、まともに喰らえば骨の1本も逝かれていよう。

 

「ぐっ!! 赤兎!!」

 

 いち早く察知していた紗香が自分が産み出した剣に新たな指示を飛ばす。

 

 赤兎は紗香の産み出した『魔法』の中でも特殊なものである。

 さっきは何事もなく行っていたが、特殊な能力を持つ刀剣の類いを造ると他の剣を産み出せない。

 しかし、赤兎だけは1つの例外を有している。

 それは、赤兎を通じて“1本だけ剣を産み出せる能力だ。”

 他人からの指示を簡単に受け取れる能力に別な使い方を新たに持ち出せないかと苦心した末の発見だ。

 “赤兎自身が受け取って、独自に動ける能力を産み出せば良い。”

 

 ついさっき、紗香が紲の背後に剣を出せたのはこういう理由がある。

 そして、今紗香の指示を受け取った赤兎は“その通りに動く。”

 赤兎の『魔力』が分散され、円山に握られていた筈の赤兎がメイアと放水の間に立ち塞がる。

 

 しかし、防御力や耐久性はほとんどない。

 少し和らげただけで赤兎は折れてメイアの腹部に当たろうとした。

 

「《アーマー》」

 

 だが、赤兎の犠牲も無駄ではない。

 『基礎魔法』の防御手段を発動させた。

 身体に『魔力』の鎧を纏うと腕を交差させて放水を防ぐ。

 

 紗香が赤兎の能力を間一髪のところで引き出した賜物とも言える。

 直撃を避け、威力も多少は落ちている。

 それでもメイアが吹き飛ぶ結果に繋がってしまう。

 尻餅を突き、紲の所まで押されてしまった。

 

「助かったよ圧山」

 

「おまえが倒されると麻薬の製造も出来ないからな」

 

 礼を述べる円山に圧山は「気にするな」と返した。

 一方で紲の方は微笑を浮かべた。

 

 今の会話から薬を造れるのは円山だけだと判明する。

 となると、円山さえ倒せば全部が丸く収まる訳だ。

 今まで朧気だった解決策が一気に浮き彫りになる。

 簡単な話だ。圧山剛毅と円山財賀をここで倒せば解決なのだから。

 

「そういう……事か」

 

 力で出来る解決ならば紲が担当しよう。

 後の事は“大人に任せる。”

 幸いにも鮎川という大人が介入してくれている。真実を伝えさせるのに信憑性を与えるにはもってこいの人選だ。

 

「結構良い感じに直撃したと思ったんだが?」

 

「知ってるだろ? 俺は頑丈なもんでね」

 

 圧山と円山を交互に見比べる。

 互いの長所短所は分かり合っている風にも見えた。

 そうすると、紲としても戦い方を変える必要がありそうだ。

 

「仕方無いか」

 

 紲は「ふう」と小さく溜め息を吐く。

 この2人に勝つ為の手を引っ張り出す。

 

「借りるぜ紗香」

 

 次に大きく深呼吸をし、両手で頬を叩く。

 

「チェンジ」

 

 チェンジ――そう呟いた紲に変化は何ら見られない。

 

「虚仮脅しなら目に見えるようにするんだったな」

 

 瞬時に嘘だと解釈をし、紲を睨む。

 当の紲は気にした風もない。

 

「終わりだ」

 

「万策は尽きているようだしな」

 

 圧山はこの戦いの終わりを確信した。

 円山の方も紲にこの状況を覆す術はないのだと判断した。

 

 圧山と円山も共に動き出す。

 紲を助けようとメイアも立ち上がろうとする。

 それよりも早くに紲は右手で左腕を抑えながら左手を突き出す。

 照準は圧山に絞られている。

 

「《ヒール・アンチ》」

 

 これまでに聞いた事のない『魔法』の名が唱えられる。

 

「ふん、苦し紛れか――」

 

 圧山の言葉は途中で途切れた。

 しかも“身体中に刺すような痛みが走った状態でだ。”

 

「な、なにが……っ!?」

 

 突然の出来事に圧山は膝を着いた。

 円山も何が起きたのかを判断できない。

 これが紲によるものだとすれば、下手に動いて圧山もろとも共倒れになる事を避けたい。

 乱暴だが圧山の襟首を掴み、紲の腕の軌道から逃げる。

 

「かっ、ぐう……助かった」

 

 圧山は苦悶の声を漏らしながらも立ち上がる。

 突如として起こった刺す痛みの原因を探る。

 その最初の部分で引っ掛かるものを紲から感じ取った。

 

「おまえ……何だ? その『魔力』は!?」

 

 圧山の驚愕に満ちた声音と共に紲を見た。

 何の事なのかとメイアが紲を見る。

 見た目には変化はない。だとしたら内側……『魔力』と思って、紲の『魔力』を探ってみた。

 

「嘘……」

 

 メイアも思わず呟いてしまう。

 手を向けていたのを諦め、紲は腕を下ろす。

 

 そんな行為にも圧山にはどうでも良かった。

 遂に、言葉にして問い掛ける。

 

 

 

 

 

「その剣のように鋭利に感じられる『魔力』は……“天宮紗香のものじゃないか!?”」

 

 

 

 

 

 圧山の問い掛けの通り。

 『魔力』の質は千差万別。人によって『魔力』の“性質は違う。” 

 もっと分かりやすく言い替えるなら色彩が違うのだ。

 赤、青、黄色、黒、白など……『魔力』もそれぞれ固有の色がある。

 ただ、色のように混ざりあって変化を起こさないのも『魔力』の特徴だ。

 

 だというのに紲からは色で言うなら銀色――紗香と同質の『魔力』を感じるのだ。

 『魔力』の質が変わるならまだしも――いや、実際にはそれも有り得ないのだが――他人の『魔力』と同じ色になるなんて事は有り得ない。

 

「ビックリ箱かよ……おまえは!!」

 

「まあ、バレちまうのは仕方無いか」

 元より紲も隠し通せるとは思ってはない。

 “これ”を使っても勝てる確率を上げるだけだ。

 

「まあ、教えてやる義理は無いけどな。あとは自分で考えな」

 

 答え合わせをしてやる義務はない。

 知りたくば自分で探り当てろという訳だ。

 

「まさかそういう事、か!? 新原紲、君の『魔法』は……」

 

 勘づいたのは円山。

 紲に攻撃を仕掛けるのも忘れ、口をワナワナとさせる。

 戸惑いが前面に表れている。

 

 

 

 

「絆――それが君の『魔法』の根源か!?」

 

 

 

 

 

 そんな『魔法』があるのかとメイアは疑問に思った。

 だけども、円山だけではなくて圧山も狼狽していた。

 

「その『魔法』を得るのはまさしく“きずな”に関した名前の『魔法使い』の1人だけと聞いていたが……こんな有り得ない現象を起こすなら納得だ」

 

「そこまで知ってたのか……本人の俺が知らんかったのに」

 

 紲は頬を掻きながら恥ずかしそうに言った。

 無自覚であった事はこの際置いておく。

 

「でも、その『魔法』は色んなリスクがある筈だ。『魔法』関連、放っておけない事柄、そして感情に纏わる何かしら」

 

 円山の指摘は正解だ。

 『基礎魔法』の使用不可、他人の絆の崩壊を放ってはおけないなどがある。そして、もう1つ――

 

「新原紲。君の表情は実に豊かだ……だとしたら、自ずと絞れる」

 

 一番の有力候補。学校生活で紲を見た円山は告げる。

 

「恋愛感情……天宮紗香がそれらしいアピールをしているのに何も感じないのなら、それしかない」

 

 「悲しい」も候補には上がったが、学校生活で紗香が紲に想いを寄せている姿を見たからだ。

 それで何も動じない紲はよっぽどの鈍感な少年と言える。

 

「「……っ!?」」

 

 紲と紗香が同時に息を呑む。

 その反応から図星なのが窺えた。

 

 恋愛感情――無くても大丈夫だと思われる感情だが、誰もが当たり前に持っているものを“紲は持ち合わせていない。”

 だからなのか、手の届かない感情を紲は無意識に求める。

 

「わりと辛くはあるさ。恋愛ができないってのはよ」

 

 紲は独白する。

 皆が当たり前の事を出来ないでいる事の辛さを。

 

「でもよ、だからどうしたってんだ? そんなの今は関係ないだろ。お前らを倒す事には……な」

 

 紲の発言に胸を痛める紗香。

 今この場には恋愛感情は不要だ。

 だけども、今後には不要にはならない。

 そんな風に恋愛を蔑ろにしないで欲しい。

 

 かつて彼の師は恋愛感情が皆無である事への疑問を投げた。

 今は良くとも将来に必要となるものを。

 その時の紲は「分からない」と返した。

 答えは今の紲を見る限り変わっていないようだ。

 

 途端、一抹の寂しさと共に変わらない紲に安堵するという矛盾を抱える紗香だった。

 




如何でしたでしょうか?

今回は主人公の『魔法』について触れました。

以前に紲の『魔力』の質が違うと触れた部分がありましたが、その伏線の回収です。

もちろん、これだけではありません。

今回に使った《ヒール・アンチ》の説明もしていませんしね。

さて、いよいよ大詰め。

無駄に長引かせてしまっていますがもうすぐ終わる予定ですので。

地味に書き始めてから1年経ってしまった。何だか感慨深い

次回は再来週の土曜日の予定です。
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