新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

続きです。


能ある鷹は爪を隠す

 紲の独白に空白が生まれる。

 飛び出した意外な言葉に圧山だけではなく、円山も同様だった。

 

 その間に紲は次にどう動くのかを考える。

 回す。脳を、思考を。

 次の動きを予測する。

 

「倒す」

 

 理不尽に不幸を振り撒こうとする2人を紲は“止めたいのだ。”

 その為の目標を呟く。

 そして、紲は駆け出す。

 

 彼の接近に圧山と円山は違和感を抱く。

 何故、先程の『魔法』を使わない?

 恐らくは遠距離による攻撃の手段――とは到底思えず。

 

 どんなに考え込んだ所で判断材料が少ないので手詰まりだ。

 思考を放棄し、突っ込んでくる紲を睨む。

 

「う、おおおおおおおおおーーーーっ!!」

 

 紲の雄叫びが轟く。

 自棄っぱちで突撃を試みた訳ではあるまい。

 雄叫びと言うにはあまりにも気合いが込められていた。

 彼の瞳には力強い光が灯されていた。

 

 圧山は危機感を覚え、『魔力』を練り上げる。

 

「《グラビ――》」

 

「《フレア》」

 

 しかし、『魔法』を唱える事は叶わなかった。

 横からメイアがかっさらって行った。

 

 『魔法』の発動するのはメイアのが早かった。

 炎が圧山めがけて飛んでくる。

 それに“悲しいかな”条件反射に反応した。

 戦いに慣れたからこその攻撃に反応する“敏感なものだった。”

 

 きっと、メイアからすればそんな事を考えたものじゃないだろう。

 圧山が気付かなければならないし、そもそも反応する事も折り込む必要がある。

 偶然による産物――しかし、その偶然を彼女は“必然足らしめた。”

 しかも、圧山と並び立つ円山の死角になるように真横を陣取っていた。

 そして、メイアの攻撃に過敏になった事実は残る。

 

「チイッ!!」

 

 これは自分で対処せねばならない。

 『魔法』の使用を中断し、意識の方向が変化した。

 

「なら、僕が!!」

 

 圧山に起こった事を瞬時に理解した円山は向かい来る紲と相対する。

 

「円山か!!」

 

 紲はトップスピードを維持したままに走る。

 円山の『魔力』が放出されている。

 大きい『魔法』が数秒と待たずに来るのだと直感する。

 

「《ポイズン》」

 

 やがて、円山の『魔法』が飛んでくる。

 紲の真上へ、紫色の液体が飛び散る。

 それは雨のように床へ落下していく。

 

「くっ!!」

 

 円山が『魔法』を唱えた瞬間には紲は真横へ跳躍していた。

 彼の『魔法』は「水」というシンプルな自然的なものを利用している。

 しかしながら、故に様々な形状を取れる。

 無謀に突っ込めば、只では済まないのは目に見えている。

 

 幸いにも紲の行動は正しかった。

 彼の放った『魔法』が直撃をする事はなかった。

 

 

 

 

 

 だけども、紲が円山の『魔法』の効果範囲から逃れた訳ではない。

 

 

 

 

 

 シュゥゥゥ~ッ!! 何かが溶ける音と共に紲の左肩に蒸気が上がる。

 

「ぐっ、がぁぁぁっ!?」

 

 後半は奥歯を噛み締めて悲鳴は我慢をした。

 左肩に何が降ってきたのかと視線を巡らせてみる。

 制服が地味に溶けていた。

 耐久性が高く、上級生の光線も同然の『魔法』を喰らっても汚れる程度で済んでいたと言うのに。

 

―――何、だ?

 

 激痛を無理矢理に呑み込む。

 のたうち回りたくなり、紲の集中力を削いでいく。

 

 左肩を手で抑え、荒れ始めた呼吸を整える。

 きちんと両足で立って、眼前の敵を睨み付ける。

 

「紲!!」

 

 メイアは紲が苦戦を強いられている事を察した。

 紗香の『魔法』はメイアの為に扱われているので解除は出来ない。

 してしまえば、戦闘慣れしていないメイアは圧山に逆転を許してしまう。

 

「おらっ!! どうした!!」

 

 圧山はメイアの隙を突かない筈がなかった。

 得意の『魔法』を遠慮無く解き放つ。

 

「ぐあっ、しま――」

 

 紲に気を取られた自分を叱咤したくなる。

 圧山が『魔法』でメイアの周囲の重力を引き上げた。

 

「紲!! 援護するわ!!」

 

「分かった!!」

 

 メイアが窮地に陥ったのを目にするや、紗香は叫んだ。

 それに応える紲は紗香の言葉を信じ、“円山を無視して駆ける。”

 

「僕を無視するなんて無理な話――」

 

「《ソード・ウォール》」

 

 円山が動くよりも先に紗香が『魔法』を唱えた。

 丁度、紲と円山を隔てるように巨大な剣が音もなく、予兆も無しに出現した。

 身の丈を軽く越える剣脊が視界に飛び込んできた。

 左右の幅も大きい。

 

 メイアの手には既に赤兎は失われていた。

 全神経を紲の援護に回すつもりだから。

 しかし、“最初からメイアをこうやって助けない事に光を見出だした。”

 

 紗香には“ほとんど『魔力』が残されていないのだ。”

 ならば、彼女は無視を決め込んでいれば勝手に自滅する。

 まずはメイアと、チョロチョロと動き回る紲を叩く算段を円山は弾く。

 

「らあっ!!」

 

 既に紲は圧山を捉えたようで、巨大な剣が消えると同時にタックルを彼に当てていた。

 

「いつの間に!?」

 

 メイアに集中していた圧山から驚きの声が漏れる。

 紲のタックルは不意を突かれたのもあり、多少の痛みと共に尻餅をつく。

 

「こっちに!!」

 

 メイアの腕を握って、短く告げると圧山達からの距離を取る。

 紗香からの救援は望めないと分かっていながら、彼女の手を煩わせた事とメイアに気を配れなかった自分を恥じる。

 

「悪いね。ちょっと気になる事があったから助けられなかった」

 

 余裕綽々といった態度で円山は圧山にゆったりと歩み寄る。

 心に余裕が生まれているとでも言いたげだ。

 

「何か、分かった事でも?」

 

「もちろん」

 

 自信の理由は何なのか紲には不明だ。

 だけれど、円山が次に紡いだ事柄から判明した。

 

「新原紲……君には驚かされてばかりだが、どうにも天宮紗香の『魔力』を扱う上では“色々と問題があるようだね”」

 

「……」

 

 引っ付いた汚れのように粘着に紲の中にこべりつく言い回しだ。

 彼の様相から“気付いたようにも見受けられる。”

 

「君は天宮紗香から『魔力』を“受け取っているんだな?”」

 

「…………」

 

 沈黙を保つ紲。

 だけども、一瞬だけ表情を動かしてしまったのを円山は見逃してはくれなかった。

 女子であるならばコロッと惚れてしまいそうな微笑を浮かべる。

 生憎とここには円山の本性を知る女子しか居ないので有り得ない出来事ではあるのだが。

 

 何にしても紲が紗香の『魔力』を扱う際の裏事情がバレてしまった。

 もっと正確に言うならば、今「紲の『魔力』」は使えずに「天宮紗香の『魔力』と一時的に繋がっている」状態にある。

 

 空になったバケツの隣に水の入ったバケツがあったとして、空になったバケツに隣のバケツから水を汲んでいるようなものだ。

 紗香から『魔力』を間借りしているという事となる。

 水を移すという事は即ち、本来水の入ったバケツの水が減っている事となる……ここでは水は『魔力』と置き換えられる訳だ。

 しかも、ホースのように繋がっている状態は続いているので、随時に水――この場で言う『魔力』が減るなり空になった紲の方へと少しずつ移っていく。

 

 ここまで言えば分かってしまうだろう。

 紗香は自分だけではなく、紲が『魔力』を消費する度に自らの『魔力』を減らしていくのだ。

 

 だから、紲は最初から紗香の『魔力』を使わなかった。

 彼女が本当の意味で戦闘不能になる未来を怖れていたから。

 だと言うのに紗香の『魔力』を“使わざるを得ない状況にまで追い込まれた。”

 

―――でも気付かれた。

 

 避けるべき事柄なのに気付かれた。

 ならばこそ、頭を回す。

 今度は気付かれてしまった対処をせねばならぬ。

 

―――ならよ。

 

 頭の中の算盤を弾いていく。

 

「メイア。聞きたいんだけど――」

 

「ふっ!!」

 

 紲がメイアに問うよりも早くに円山が接近していた。

 彼の手には水で造られた剣の形状をしたものを両手で構える。

 それが迷い無く紲の首を狙う。

 

「《ウインド》」

 

 円山の行動にはいち早く目を向けていたメイアが『魔法』を唱える。

 真正面から全身に一瞬だけながら吹いた突風を受ける。

 眼鏡を掛けているから目には直接当たらないので視界は奪えなかった。

 それでも身体に直撃した事から、身動きが止まる。

 

「ナイス!!」

 

 紲は円山の懐に飛び込む。

 直後に剣を持つ両手を左右に力付くで動かす。

 右手に剣を持っていたので、腕に『魔力』を流し込んで筋力を底上げする。

 

「うらあっ!!」

 

 円山の足を踏んづけるなんて原始的な攻撃。だけども怯ませるには十分でもあった。

 

「せい、やっ!!」

 

 紲はそのまま胸元を掴んで、身体を左に回転させる。

 背負い投げ――円山の身体はそうやって床に背中から叩き付けられる。

 そこへ間髪いれず、足に今度は『魔力』を流す。

 

「砕けろ!!」

 

 水の剣を踏みつけ、剣先を真っ二つに砕いた。

 砕けた事により、合わせて剣も消滅した。

 

 それを済ますと紲は円山から離れる。

 横目で圧山が『魔力』を練り込んでいるのを見た。

 

「《グラビティート・カノン》」

 

 一歩、紲が行動が遅かった。

 逃げる前に右の腕に見えない“何か”が衝突してきた。

 強い痺れが余韻として残るものの、動かせない程じゃない事にホッとする。

 

―――だけども、《グラビティート・リベンジ》は封じれているだけマシか。

 

 先程に紗香を苦しめた《グラビティート・リベンジ》は『魔法』を介さない限りは効力を発揮しない。

 多少は重力が強くなるが気にはならない。

 どちらにせよ、紲の攻撃手段は基本的に物理だ。

 『魔力』を利用しての筋力強化もあるだろうが分かってさえいれば特段の問題もありはしない。

 

「大丈夫なの新原?」

 

「大丈夫だ。それよかメイアの『魔法』でもう1度俺を飛ばしてくれないか?」

 

 紲の提案にメイアはぎょっとする。

 彼の言った事は風の『魔法』で紲を飛ばせとの指示だ。

 今さっきは上手くいった。だけども、今度も何の問題もなく済むとは思えない。

 

「そんなの、同じ手が2度も通用するとは限らないじゃないか!!」

 

「良いんだ。“それはそれで構わない”」

 

 紲の返しにメイアは首を傾げる。

 一体、彼は何をしたいのだろう?

 

「まあ、見てなって。目にもの見せてやるからさ」

 

 紲はしゃがみこむ。その際にメイアへ目配せする。

 

「ああ、もう!! どうなっても知らないよ!!」

 

 メイアは直後に紲の足下に風を起こした。

 これまでと同様に《ウインド》と言う『魔法』を発動させた。

 

 真下から持ち上げられる形で紲は上昇していく。

 それを見た円山はメイアと紲のどちらかを選択しようとして――

 

「うらぁっ!!」

 

 紲が何かをこちらに投げ付けてきた。

 手に「チクリ」と刺し痛みが走る。

 何を投げてきたのかと思えば――小さくなったフェザーライトだ。

 天宮紗香が戦闘前に託したものである。

 それをあろうことか彼は“放り投げてきた。”

 

 攻撃のつもりだったのやもしれないが、とんだ期待はずれだ。

 むしろ、これで圧山の重力操作が紲にも刺さる事が分かる。

 フェザーライトはすぐに塵芥となって消え去った。

 だけども、紲は厄介な重力による操作を受けるはめとなる。

 

「おらぁっ!!」

 

 天井に当たるのではないかと錯覚する高さまで届く。

 このままでは重力を軽くする《グラビティート・アンチ》は無意味に終わる。

 ここは重力を重くし、床に落下させながら円山の『魔法』を確実に当てる。

 

「《グラビティート》」

 

 圧山も戦い慣れはしている。

 即座に紲の行動に反応して見せた。

 

 数秒と掛からずに彼は重力に逆らう事無く落下してきた――圧山の真上から。

 

「っ!?」

 

 円山が気付いた時には遅かった。

 最初からこれが狙いだったのだ。

 

 重力を軽くする『魔法』は天井に近い紲以上はかわされやすい。

 仮に円山の『魔法』を乗せたとしても紗香やメイアのサポートもある。

 そちらに目を向けても各々からの反撃は容易に予想ができる。

 

 だからこそ、考える隙も与えずに“紲は己の優位を捨てて跳んだのだ。”

 最初からメイア達の方に目を向けさせない為に。

 

「《ウインド》」

 

 更に紲の真上から風が吹く。

 彼を押して、重力の強さも加えて――一直線に突き進む。

 

 気付き、圧山は慌てて《グラビティート・アンチ》を発動させようとする。

 反応は悪くないが……今一歩遅かった。

 

「喰らえええええええええええーーーーーーっ!!」

 

 紲の両足の蹴りが圧山を捉えた。

 

 

 

 

 

 ドンッ!! と鈍い音が一瞬だけ世界を支配した。

 

 

 

 

 

 これは例えようのない激痛、衝撃だったろう。

 何がどうなったのかは分からない。

 真上から勢いを付けた蹴りを真に受けた圧山の身体は床を打って吹き飛び、未だに倒れていなかった棚に激突した。

 

 

 咄嗟に《アーマー》を発動させて防御に徹したのはさすがとも言えた。

 致命傷は避けたようだ。

 しかし、意識を手放してしまいそうになるのを何とか繋ぎ留めていた。

 

「これで終わりだ。《ヒール》」

 

 一瞬にして圧山の体力も気力も回復した。

 だけども“今しがたに受けた衝撃や痛みは記憶に新しい。”

 

「《ヒール・アンチ》」

 

 再度、彼の『魔法』が圧山へ向けて放たれた。

 音はない、光も、予兆すら――それでも起こった出来事は凄まじかった。

 

「ぐ、あああああああああああああああああーーーーーーっ!?」

 

 今起こったものとは比べ物にならない痛みや衝撃が身体を駆け巡る。

 回復直前のものが“更に激しさを増して襲い掛かって来た。”

 耐え切れず、圧山は白目を向いて倒れるのだった。

 

 

「ぐっ、圧山がやられたか」

 

 腕を抑えながら円山が立ち上がる。

 しかし、彼の表情は何処か清々しさがあるように見えた。

 

「どうやら今の《ヒール・アンチ》は一度《ヒール》を使った相手かつ、天宮紗香の『魔力』を必要とするみたいだな」

 

「…………へえ」

 

 紲の返答は実に簡素だ。

 だけども間合いがあったのに円山は気付いた。

 

「それを知ったところでもう圧山はダウンしてる。お前だけでどうにか出来ると思ってるのか?」

 

「奥の手と言うのはね、最後まで取っておくものさ」

 

 円山の発言に紲は首を傾げる。

 しかし、次に起こった出来事で全てを理解した。

 

 

 

 

 

 圧山の身体から白銀に発光した水が出てきたからだ。

 

 

 

 

 

 突然の出来事に紲すら唖然とした。

 我に返った頃には……これは言い訳だ。

 仮に早く動けたとして、最初から気付いて行動しなければ無理な程の一瞬の事だった。

 

 白銀に発光した水は円山の身体を包む。

 彼に吸収されていく。

 

「来た……来たよ」

 

 円山が何を言いたいのか理解してしまった。

 彼の『魔力』に“圧山剛毅のものが混じっていた。”

 

「僕もね。似たような『魔法』が使えたんだ。ただし制限時間は限られているし、意識のない者にしか使えない、しかも見知った人物じゃないといけないから中々に使うには難しい」

 

 だが、圧山剛毅の『魔力』を有している事が不気味だ。

 紲は自分の『魔力』は感じさせないのに、向こうは“他人のを足してしまった。”

 

 他から水と言う『魔力』を奪い取るように――

 

「さあ、第二ラウンドと行こうか」

 




如何でしたでしょうか?

サブタイ回収は最後の最後であるwww

はてさて、紲の『魔法』についても段々と掘り下げております。

そして長い……戦闘長いね。でも次で何とか……何とか。

ではこの辺で。

次回の更新は再来週か……その次の週辺りに!!
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