続きです。
「っで? 呼ばれたのは俺だけなのに何で付いてくるんだ?」
紲は生徒会室の前で横へ問い掛けた。というのも、一緒に付いてきた健司と央佳が居たからだ。福富先生は生徒会室に案内した後に去った。
「だって面白そうだし」
「生徒会長さんに呼ばれたから心配なのです」
前者は健司、後者は央佳だ。純粋に紲の安否を気遣うのは央佳のみ。なんとも出来た子なのだろうか。
「取って食われる事はない……と思いたい」
紲とて生徒会長である紗香が呼び出した用件は分からない。
「これが体育館裏とかなら分かりやすいんだけどな」
「物騒な物言いはやめい!!」
自身の姉がドア1枚の向こうにいるのに何て度胸のある発言を為さるやら。
「とにかく、俺は1人で大丈夫だから先に帰ってろ」
これからは帰宅するだけなので一応は鞄を全員が持ってきている。紲は2人に帰るよう促して生徒会室の扉を開いた。
「失礼します」
入室してまず目についたのは「ロ」の形に揃えられた長テーブル。
入って真正面の席に紗香が座っていた。
左にノートパソコンを弄くっていた茶色ショートの髪に右側に赤い髪止めを付けた黒い淵の眼鏡を掛けたクールと呼べそうな少女。
それと右側にはボウズ頭にした少年が座っていた。
紗香の背後には窓があり、右側の壁には本棚とロッカーがある。一通り見渡して紗香に声を掛けるのがベストだと感じ、それを行動に移そうとして――
「遅ぉぉぉぉぉーーーーーーっい!!!!!!」
それよりも早くに第一声が紲の遅刻を糾弾する声が彼の鼓膜を揺さぶった。その声の主を紲はよ〜く知っていた。
「わ、悪かったよ……生徒会長」
「紗香で構わないわ。幼馴染みでしょ」
校内で名前を呼んで良いか躊躇って止めてみたところ、紗香のお気に召さなかったので名前で呼ぶ御許しを貰った。いやはや嬉しい配慮である。
「ここが生徒会室なんですね」
「はは、怒られてる怒られてる」
「って、お前ら!!」
紲が振り返ると帰るよう念を押した健司と央佳まで付いてきた。
「あら? お友達?」
健司と央佳――正しくは新顔の央佳の方に興味は向いていた。
「ああ、こっちは紀藤央佳。んでこっちは天宮健司とか言う紗香の弟を自称する残念な人だ」
「初めまして紀藤さん。それと健司とかいう自称弟」
「おい!! 何を言いなさるか!! 姉ちゃんも悪のりが過ぎるぞ!!」
紲の冗談に紗香は乗っかる。健司は2人にツッコミを入れる。そんなコントのやり取りを見た央佳は面喰らう。
「こちらも自己紹介をしておきましょう」
左側の席に座る眼鏡をかけたクールビューティーと呼ばれそうな少女が提案し、続けざまに自分の自己紹介を始める。
「あたしは
羽生千鶴と名乗った少女の学年が生徒会長の紗香と一緒と言う事は2年生。しかも生徒会書記と来ている。
そして今、話に上がった『鳥人』というのは読んで字のごとくだ。鳥の能力を持った人間の事である。
特徴としては背中に羽が生えている事だが、羽は自分の意志で出し入れ可能なのだ。
続いて右側の席に座っていたスポーツ刈りの少年。「野球しようぜ」と友人に言って遊びに誘いそうな雰囲気を纏う彼も気だるそうに名乗る。
「オレは
フルネームを名乗らない蒲倉に紲は疑念を抱いた。何か特殊な家柄なのかと勝手に納得しようとして――
「ちなみに彼の下の名前は
「言うんじゃねえええええええええええええええええっ!!」
千鶴に下の名前を暴露された事に蒲倉は悲鳴を上げる。
耳を塞ぎ、しゃがみこんで自らの汚点から目を背けようとしていた。
紲も彼がフルネームで名乗らなかった理由を悟る。
インパクトは強いが、音だけ見れば「鎌倉幕府」と捉えられるので恥ずかしい。彼の傷を広げないように苗字で呼ぼうと後輩達は決意した。
「紲の事は話してあるから自己紹介の必要はないわ」
紗香がそう言ってくれるが、紲としてはどう教えていたのかは聞かないでおこう。
「生徒会長。そろそろ本題に入るのが良いかと」
「千鶴の言う通りね」
紗香が話の本題に移ろうかという時、おずおずと央佳が手を挙げて訊ねた。
「わたし達は席を外した方が良いですか?」
「ん〜、遅かれ早かれ知る事になるんだから構わないわ」
壇上で話していたものとはまさに正反対な口調だ。かなりフランクなので央佳の方も話しやすいだろう。驚いてはいるだろうが。
「おい……何をやらせるつもりなんだ?」
嫌な汗が止まらない。何をどう考えてもマイナスな面の答えしか出せない。
「あなたには『魔法使い相談室』をやってもらうわ」
「は、はい?」
『魔法相談室』とは何ぞや?――そんな意味も含めてのリアクションをする。
「『魔法相談室』はそのまま。学生のみならず、近所の『魔法使い』の問題を解決する所です」
千鶴が紲の反応を察して、素早く答えてくれた。
「今然り気無く学生以外の人のお悩み相談までするとか言わなかったか?」
「はい。その通りです」
鸚鵡返しした問い掛けに千鶴は頷いた。
「テストを早めたのは俺をその『魔法相談室』の担当にする事か?」
「ええ。テストの結果を参考にして『魔法相談室』を担当する人が1年生の中から決めるつもりだったの」
「だけど、テストを早めるだけで紲君を『魔法相談室』の担当に当てる事はできないと思うのです」
央佳の問いは尤もだ。テストを早めたら、『魔法相談室』の担当者を早くに決めるだけだ。
「こう言ったの。『相談が来たから早くに担当者を決めたい』ってね」
「付け足しますと、担当は生徒会長が1年のテストを直接見て決めると仰っていました」
生徒会長の話に千鶴が補足説明をした。
「で? 俺にやらせようとしている理由は?」
「あなたの為よ紲」
真っ直ぐに、先程までのフランクな口調が一瞬にして身を潜めた。それだけで紲も紗香の気遣いが分かった。
「分かった。詳しい事は後でまた教えてもらうからな」
今までも紗香は紲にとって害となる行動はしてこなかった。だから紲は彼女を信じる。ただまあ、紗香の思惑は問い質すけれども。
「あ〜、ちょいと待ってくれや」
これまで自己紹介以外では黙っていた蒲倉が挙手した。
「蒲倉先輩、何か?」
「オレは彼が『魔法相談室』に見合うか不安だな。聞けば今回のテストでも何1つの『基礎魔法』を使えないと聞いた。それに使える『魔法』も対した事がないじゃないか」
次に蒲倉は千鶴の方を見ると、彼女はノートパソコンを操作した。
「新原紲。『基礎魔法』は使えず、使える『魔法』は《ライト》と《フィーリング》そして《ヒール》です」
「それ俺の個人情報おおおおおおおおおおっ!!」
あまりにも唐突に喋られたので叫んでしまう。蒲倉先輩の気持ちが今なら理解できる。
「紲君の『魔法』がどんなものか気になるのです」
『基礎魔法』は使えないが、自身の『魔法』は扱える事に興味を持つ。どんな内容かは詮索したいだろう。ここまで来たら全部話してしまった方が楽になりそうだ。
諦めて全部話してしまおうと腹を決める。
「《ライト》は手のひらから光を発する事ができるんだ」
「それはどの位の強さなのです?」
「懐中電灯程の強さだ」
「微妙なのです!?」
別に目を開けてられない訳でもない。集中してる頃に扱えば目晦ましに似た効果は得られるだろうが、短い期間しか無理だろう。
「じゃ、じゃあ他のはどうなのです? 《フィーリング》はどうなのです?」
「五感を強化する『魔法』だ」
「ちなみにどこを強化できるのです?」
《ライト》よりは使いやすそうに聞こえる。五感の強化は箇所によっては有利に進められる。
「相手の味覚、嗅覚、痛覚だ」
「それって何の意味があるのです!?」
痛覚は良いけれど、前半2つには何の意味がある?
「いや、これでも頑張ったんだ。最初は痛覚しか使えなかったんだから」
「それで得たのが味覚と嗅覚なのは悲しいのです」
後半から遠い目をし始めたので紲の苦労が窺える。強化できる感覚が増えたけれども微妙だったので糠喜びに終わったのが分かる。
「で、でも《ヒール》がありますです」
「ああ、文字通りに回復を行う『魔法』だ。10秒位は掛かるかな」
「それは使える『魔法』なのです」
「回復最中や回復して30秒以内に攻撃を喰らうと回復した分がなくなった上に、ダメージや疲れが返ってくるって言っても?」
「それはごめんなさいなのです」
思わず謝ってしまう程の使い勝手の悪さ。どれだけ名前や一部抜粋した内容だけを聞けば他に類を見ない強力な『魔法』に聞こえる。
だが、その実は本人を悩ませる程の性能の悪さがあると来たものだ。唯一使えるのは《フィーリング》位で、《ヒール》にしたって微妙過ぎる上に下手をすると味方に迷惑を掛ける。
「こんな微妙な『魔法』しか使えないのに千鶴は良いの?」
「生徒会長が見定めた人物なので心配していません」
蒲倉が千鶴に訊ねるも、推薦した生徒会長の意見を信じているようだ。
「なら、試してみるのが良いわ」
紗香が横から提案する。その後にどんな文章が続くのかを紲は察した。
「蒲倉先輩が紲と戦ってみれば良いのよ」
紲は嵐を呼ぶ生徒会長の行動に頭痛を覚えた。
はてさていかがでしたでしょうか?
次でようやく戦闘描写が書けるかと。
次回の更新は早ければ来週の木曜日、遅くとも来週の土曜日までには更新予定です。