続きです!!
奇妙な少女との邂逅から一夜明けた。
紲は普段の通りに学ランに身を包み、学校へ向かっていた。
紗香は生徒会の用事があるとかで先に向かっている。
まだ無所属の健司と共に登校していた。
しかし、周囲からは動物園もかくやという目で見られている――健司が。
確かにルックスも高いし、成績も優秀で、おまけに運動神経抜群だ。
性格だって良いし……何この完璧超人は、と紲は睨みたくなる。
こんな平々凡々とした外見の紲が居るものだから、健司の評価は更に上がる。
―――そこは良いんだけどな。
それで暴徒化した女子生徒に突き飛ばされるのだ。
耐久力は上がりそうだが実際問題、勘弁して欲しい。
「おはよう紲、健司」
「紲君、健司君、おはようなのです」
そこへ合流するのは紲達と同様の幼馴染みコンビ――紀藤央佳とメイア・アトリブトだ。
2人の合流は紲にとって嬉しいものとなるが、今度は男子からの視線も集まる。
央佳もメイアも男子の視線を集めやすい容姿をしている。
彼女らと一緒にいる紲達へ嫉妬の視線が突き刺さるのは仕方無い……のか?
―――まあ、結局は俺に矛先は来るんだろうな。
健司をやっかめば女子から軽蔑されるし、メイアや央佳も美少女というだけでなくて世話になった生徒もいる事から手を出して来るまい。
となると、知名度の圧倒的に低い紲に集中砲火が寄せられる仕組みだ。
全く、理不尽な世の中だ。
誰かが「現実はクソゲー」と言ったか。今の紲はそれを身を以て思い知らされる。
「校門が騒がしいのです」
紲を現実に引き戻すように央佳が言った。
彼女の言うように騒がしい――よりは、何かを見ているようだ。
誰か珍しい人物でも立っているのだろうと思い……大当たりだった。
生徒会のメンバーの1人、羽生千鶴先輩がそこに居たのだ。
抜き打ちで持ち物検査をする訳でも無さそうだし、誰かを待っているのだろう。
他の生徒も千鶴の姿を見ては通り過ぎる。
紲達も同様に通り過ぎようとして……
「新原君、あなたを待っていました」
名指しで呼び止められた。
周囲からは「何事!?」かと紲に視線が集まった。
それはそうだ。
千鶴は生徒会の生徒会書記を務める。
クールビューティーな外見の彼女が特定の……新入生の男子生徒を呼び止めたのだ。
話題も注目も集めるには十二分過ぎた。
「ち、千鶴先輩。何か?」
「あなたに会いたいと言っている人が来ています。一緒に来て頂けませんか?」
千鶴の言葉を受け、紲に向けられていた奇異の視線は消えていった。
何だ――と、生徒達は興味を無くしたように校舎へ向かう。
「皆さんは教室で待っていて下さい」
紲を呼び出す人物に興味を惹かれはするが、自分達にできる事はないので断念。
健司は紲の事が純粋に心配であったが、千鶴も一緒なので問題は無かろう。
「では、あたし達も行きましょう」
「は、はい」
千鶴の後に急ぎ足で続く。
「着きました」
千鶴に案内されたのは職員室の隣にある応接室。
来客があった場合に用いられる事が多い。
紗香が有名になりつつあるのも要因だが、この学校自体の知名度も高いのだ。
なので、来客の頻度も高い事から応接室が別に用意されている。
しかし、紲が如何なる理由で呼び出されたのか分からない。
―――ま、まさか!?
思い至ったのは「退学」の二文字。
紲は仮入学の身らしい。
もしも呼び出しが入学に相応しくない事からの退学処分になるかもしれない。
―――こうなりゃ、手段は1つだ。
自分の為となれば紲はプライドも何も溝に捨てる。
覚悟を決めると同時、千鶴が扉を開く。
瞬間、紲は部屋に飛び込んだ。
そして、両手と両膝を床に着けて深々と頭を下げた。
というか、額を床に擦り付ける。
日本特有の文化と名高い行為――土下座だ。
「すんません!! 退学だけは!! 退学だけはご勘弁を!!」
退学なんてしようものなら紗香や師匠、両親に何とどやされるか分かったものではない。
それを避ける為なら、紲は土下座の1つや2つは安いものだ。
「何をしてるのよ紲?」
「え?」
紗香の声がしたものだから顔を上げる。
向かい合う形で置かれたソファ。その間にテーブルが置かれている。
紲から見て右側に紗香、左側には――
「またお会いしましたね。新原紲様」
先日に出会った凛とした印象を抱かせる金髪の少女だ。
今回は白を基調とした、紺色のラインが襟元にある紺で無地のスカートを採用したセーラー服を着用している。
平たく言えば、この学校の制服だ。
「あっ、あの時の!?」
何故彼女がこんな所に?
紲の疑問が解ける前に紗香が説明に入る。
「彼女は
「正確には長の娘ですが」
紗香の説明に補足を入れてから栄華は未だに土下座の体勢でいる紲に手を差し出す。
紲もその手を取って立ち上がる。
「えと、そんな人の娘さんが何で此処に?」
「この天王寺学園に入学する為です」
紲の問いにコンマ数秒の間も置かずに答えた。
「そして、わたくしはあなたに学園を案内して頂きたくて呼んだのです」
「俺に? そいつは何でまた?」
「これです」
栄華は1枚の紙――「新原紲の魔法相談室 新原紲」の文字の入ったものを見せてきた。
所々汚れてはいるが、これは間違いなく紲の持っている名刺だ。
「これ……どうして?」
「昨日、一緒に回っている際に落としていました」
「いや、そうじゃなくて……」
紲は疑問を抱く。
何故なら、この名刺はまだ――
「さっきから気になってたんだけど……栄華さんは紲と知り合いなの?」
紲が考えている間に紗香が割り込んできた。
栄華はニヤリと笑う。
何かを言い出しそうな雰囲気を醸し出す。
「この前、偶然に街で会ったんだ」
「ふ~ん。名刺を渡しちゃう位に?」
「いやいや、それは違くてさ」
「違うとか言うけど、実際に名刺があるじゃない」
膨れっ面の紗香。
助けを求めて千鶴を見るも、彼女は首を左右に振るだけ。
どうしようか思案していた。
「そろそろ話を進めてもよろしいですかな?」
スーツに身を包む30代程の男性がいた。
紲からは栄華の身体に隠れる位置にあった為に気付けなかった。
こちらに伺いの声を立てると同時に進行が滞っていた事を指摘する。
まあ、確かに彼の言う通りだ。
彼に従って、紗香は抜きそうになっていた刃を渋々引っ提げる。
しかし、紗香の機嫌がそう簡単に治る筈もなかった。
「今、紲様が仰ったように街で偶然にお会いしたのは事実です。その時は少しだけ街を案内して貰いました」
案内したのは1ヶ所だけだけど――という言葉は呑み込んだ。
せっかく、こちらに話を合わせてくれているのに変に引っ掻き回す意味もない。
「そ、それだけ?」
「ええ、“今はまだ”それだけです」
何やら後半部分を強調していたが構わない。
妙な圧迫感から解放された事に安堵する。
「龍崎さんは俺で本当に良いんですか?」
「栄華で構いません。わたくしはむしろあなただと好ましいのです」
栄華は紲に真っ直ぐに視線を向ける。
昨日もそうだが、彼女がこちらを無条件に拒否しない理由を知りたい。
「あの……」
「お嬢様が決めたというのもありますが、私自身もあなたにお頼みしたいです」
意外にも栄華との背後に控える男性まで好意的に言ってくれる。
紲が困惑していると、紗香が耳打ちしてきた。
「ちょっと紲、何かやけに向こうに信じられてるけど……何か事件でも起きて解決したの?」
「いや、そんな筈はないんだけど」
事件らしい事件なんて起きていない。
紲はそう断言できるだけの判断材料は持ち合わせていた。
それ以前からこちらの事を調べていた事になる。
「もしかして『エクリプス』を壊滅させた事を知った――とか?」
「あり得そう……」
高い位に居るらしいし、漏れる所には漏れるもので、紲の事を知ったと考えられなくもない。
「とにかく、紲が案内するしかない……って事だけは確かね」
「ですよね~。でも良いのか? 授業は?」
「そこはこちらから先生方にお伝えしますので、生徒会長と共に案内をお願いします」
紗香も一緒なら何とかなるだろう。
正直、紲1人だと分からない事も多い。
「では紲様。参りましょう」
紗香の事を無視し、紲の腕に自分の両腕を絡ませて部屋を出ていく。
「ま、待ちなさい!!」
それを慌てて追い掛ける紗香と付き人の男性。
「新原君も大変ですね」
最後に残った千鶴の呟きは誰にも届かなかった。
如何でしたでしょうか?
紲にとっては意外な場所での再会。
果たしてどうなっていくのやら。
次回の更新は3週間後位の予定です。