続きです。
偶然に出会った人物――名をキリヤと言う――をコンビニまでエスコートする事になった紲。
この辺りの地理に疎くとも、コンビニを見付ける事は難しくない。
だが、それでも彼は心配症なのだろうと当たりを付けた。
紲も別に断る気がなかった事もあり、快く承諾した。
「キリヤさんはここへ何をしに?」
「観光みたいなものッス。とは言っても自分ではなくて連れに無理矢理に連れてこられたって形ッスけど」
恐らくキリヤの方が年上だろうに、どうにも畏まった態度だ。
まあ、これが彼のスタンスなのだろうと踏み込まないでおく。
「その連れは何処に?」
「今、そこの漫画喫茶でゴロゴロしてるッス」
大きなため息と共に回答してくれる。
つまり、その連れに振り回されっぱなしと言う訳だ。
何とも不憫な――初めての出会いで合掌する。
「ここだ。ここ」
談笑している間に目的地に辿り着いた。
「ありがとうッス!! お礼に何か奢るッスよ!!」
紲の手を両手でがっちりホールドする。
彼なりの最大限の感謝の仕方なのだろう。
紲からしてみると、何とオーバーなリアクションかと苦笑いしてしまう。
「いや、別にそういうつもりは……」
「こういう時は素直に人の厚意を受けるものッス」
紲へ「ここで待ってて欲しいッス」とだけ告げてコンビニへと消えていく。
その様子に思わず頬を掻く。
とりあえずは動かない事にしておこうと心に決める。
暇潰しに現代っ子よろしく、スマフォで 適当にSNSでも眺めてようと思った。
画面を着けると同時、着信が来たのだ。
相手は紗香である。
「もしもし?」
『紲、落ち着いて聞きなさい』
前置き無しに告げてくる。
声音も何処か焦ったようなものが入り交じってるようにも見受けられる。
こういう時、本当に面倒な事柄が舞い降りる。
紲は紗香が言うように1つ深呼吸する。
「どうかしたのか?」
『今、あんたが一緒に居る相手の事よ』
コンビニで未だに物色しているのだろう。
飲み物のコーナーで探偵みたく、顎に手を当てて考え事をしているキリヤの姿を眺める。
何処からか見ているのか気になるところだが、何事なのかと問いたい。
すぐに彼女の方から解答を頂いた。
『彼、龍宮コウジの仲間よ』
「っ!?」
えっ!?――驚きを含んだ声を出しそうになるも、何とか踏み留まる。
完全な不意打ちであった。
まさか、目と鼻の先に敵のお仲間が居るのだから。
運が良いのか悪いのか、判断は微妙なところだ。
「どうすりゃ良いんだ?」
『無茶はしなくて良いわ。でも、何かを聞けるなら聞いて』
「それは随分と難しい注文だな」
紗香の依頼に苦笑しか漏らせない。
下手な質問が紲の状況を危ういものにするかもしれないのだ。
向こうも分かってはいるだろう。
だから、無茶はするなという注文に一文を付け加える。
『頼んだわよ』
「分かった」
通話を切る。
何処から見ているかは分からないが、そう遠くない筈だ。
バックに彼女達が居ると分かるだけで随分と楽だ。
とにもかくにも、まずは対話だ。
人間は幸いにも話す事が可能な存在。
向こうは日本語も話せた事もあり、何とかなると思われる。
「お待たせしたッス」
キリヤは袋をぶら下げて来た。
その中から紙包みにくるまれた餡まんを渡される。
「どうも」
本心からの行動で餡まんを受け取りながら礼を述べる。
気さくな笑みと共に「いえいえ」と返してくれる。
「あの……ちょっと話をしても良いですか?」
「良いッスよ!! それからそんなよそよそしいも喋り方じゃなくて、もっとフレンドリーに来て欲しいッス!! 呼ぶ時も『さん』は付けなくて良いッスから!!」
キリヤのテンションは随分と高い。
紲はそれに押された事もあり、「じゃあ」と普段通りの口調へ切り換える。
「ここじゃ邪魔になるし……移動しよう」
紲の提案にキリヤは二つ返事でOKをくれた。
紲とキリヤは公園まで足を運んだ。
喫茶店などに入ったらキリヤに金を使わせてしまうのは悪いと思ったからだ。
本人は「気にしなくて良いッス」と言ってくれそうではあるが、紲自身が嫌なので公園を提案した。
ベンチに隣り合わせに座り、あんまんを頬張る。
食べきり、そこから紲は切り出す。
「観光って言ってたけど、ここには何にもないだろ?」
「そう思ったッスけどね。連れの方がどうしても来たかったらしくって。目当てのものを探したかったらしいんスよ」
「それは見付かったのか?」
「運良く見付かったようッス。この辺にあるって言うんで、自分まで駆り出される始末なんスから……」
どうやら龍宮コウジは既に栄華に関する情報は有しているようだ。
襲撃の件から考えるに、居場所が割れていても不思議はない。
あの学園は悪者を引き寄せる力でもあるのかと思ってしまう。
「探し物って何だったんだ?」
「人ッスね。その人物からどうしても欲しいものがあるみたいで」
「プレミア商品でも奪われたのか?」
「似たようなものッス。替えの利かない代物ッスから」
「地位とかか?」
「ビンゴッス」
探りを入れるつもりで投げた言葉を軽々しく「正解」だとキリヤは頷いた。
あまりにも軽すぎて、真実か疑ってしまう。
だが、言質は取れた。
「お、おお……当たっちまったのか」
あくまで偶然を装う。
意外とこういう演技を紲はやってのけてしまうようだ。
「でも、何だって欲しいんだ? 地位だってその人の物なんじゃないのか?」
「それはそうなんスけどね。その人にとっては大事なものらしいんスよ」
詳細はキリヤにも不明らしい。
結局、ここへ来たのは龍宮コウジが情報を得たから。
「おっ、と。すまないッス」
キリヤはスマフォの画面を見ながら言った。
「連れからの連絡で戻ってこいって言われてしまったッス」
「いや、俺も引き止めて悪かった。機会があったらまた会おう」
「はいッス!!」
それじゃあ――と別れの言葉を残してキリヤは去っていった。
後に残された紲はコウジの狙いが栄華の言う通りだと悟り、どうしたものかと頭を悩ませるのだった。
如何でしたでしょうか?
なかなかに時間が取れず、亀のような更新で申し訳ございません。
次回は来月の予定です。