作者の都合で遅くなって大変申し訳ございません。
続きです。
キリヤと別れた後、紲は紗香と栄華と合流した。
彼女達は然程離れた所には居なかった。
歩いて数分程のファミレスで2人でソファー型のテーブル席でウーロン茶の入ったグラスを前に向かい合って座っていた。
紲は到着するなり、紗香の隣に腰を下ろす。
「何か話は聞けた?」
「さすがに踏み込みすぎるのは不味いと思ったから栄華を狙ってそうな言質だけは……って形だ」
紗香の問いへ紲はそう切り返す。
下手に踏み込んだが故に龍宮コウジに伝わり、栄華との繋がりを気取られる方が危ない。
とは言え、本当に上手く誤魔化せたかどうかも紲の中では不安要素としてしか残っていない。
「踏み込まないのが正解だと思うわ。狙いが栄華の可能性が高いと取れたのなら万々歳じゃないかしら?」
彼女も同様の意見を持っていた。
栄華の方に視線を向けてみれば彼女にも頷かれる。
「ところで紲様。何故そちらに座られているのですか?」
途端、話の腰をへし折って栄華が問い掛けてくる。
彼女の目が「何故ですか?」とひたすらに問うている気がしてならない。
「う~ん、幼馴染みだから気兼ねせずに済むからかな」
紲が座ったのは本当に自然な動作であった。
迷いらしい迷いすら見せなかった。
「当然よね。私と紲は堅い絆で結ばれてるんだから」
紗香が勝ち誇ったかのような発言をする。
それが何故なのか紲には頭上にクエスチョンマークを生むしか無かった。
一方の栄華は何処と無く不機嫌なようにも映った。
「聞いていませんでしたか? あなたは紲様に『幼馴染みだから』と言われたのですよ?
つまり、幼馴染みでなければあなたの隣には座らなかった訳です」
剣呑な雰囲気を言の葉に乗せ、栄華は返す刀で言ってきた。
直後、両者の視線が火花を散らし合う。
紲はこの奇妙な空気をどうにかしたかったが……触らぬ神に祟りなし。
首を突っ込んで、そのまま巻き込まれてはたまったものじゃない。
しかし、こんな空気のままでも居られない。
主に周囲へ重い空気が流れていってしまう。
「て、店員さ~ん」
丁度近くを通りかかった店員を引き留める。
引き留められた方はとんだ事に巻き込まれたものだ。
紲は内心で謝罪し、とりあえず注文をする事に。
自分だけ何も頼まずに座り続けると言うのは本当に居心地が悪い。
「か、かしこまりました」
このテーブル席から発せられる尋常ではない空気に店員は声を震わせる。
笑顔の仮面を外さずに対応できていたのはプロとしての意地か。
再度、紲は申し訳ない気持ちを持つ。
本格的に何とかせねば、このファミレスのブラックリストに載せられてしまいそうだ。
「これからどうする? 龍宮コウジの居場所は割れてるんだ」
一見有利に駒を進められそうな現状ではある。
しかし、言葉を並べても実情を考えると実行に移すにはリスクも覚悟しなくてなならない。
紲は当然の事ながら、栄華達がどこまで龍宮コウジの情報を握っているか?
もしも、こちらが攻め込んだ際に終始有利に取れる戦況を作れるのであれば強行手段に出るのも1つの手だ。
しかしながら逆に――龍宮コウジの情報が少なく、返り討ちに遭うケースであるならば、今仕掛けるのは愚策としか言いようがない。
「刺激をしたくはありません。何より、戦闘を今するとなれば街中が舞台になってしまいます」
そうなれば被害が出るのは必然だ。
紲は龍宮コウジの人と為りを知らない。
この目で確かめた訳ではなく、全てが他人を伝って聞いたものばかりだ。
栄華が彼をそう評価するのであれば、ほぼほぼ間違いではあるまいと分かる。
「そうなるならこっちから攻めるのは間違いね。だけど、好機である事も間違いないわよ? それで取り逃がしても良いの?」
「分かっています」
紗香が念のために「攻めないのか?」と言外に訊ねてくる。
栄華も承知はしているようだ。
捉え方によっては紗香の言い方に熱くもなろう(紗香がわざとそのように言っているようにも思えるのだが)。
だが、栄華はそんな事にならずに紗香の話を落ち着いて切り返していた。
「一先ず、監視を付けるのがベターかと思われます。彼らの協力者が他に居ないとも限りませんから」
「なるほど、確かに無難な選択ね」
仕掛けないのであれば、向こうの出方を窺うのがベストだ。
しかし、それも龍宮コウジが短期的な性格であるならば無駄に終わる可能性も高い。
「問題はキリヤじゃないか? 下手に監視を付けてもあいつにバレると思うんだが?」
紲と話していた感じ、何処か抜けたようで警戒の必要もない風に思えてしまう。
けれど、あれで龍宮コウジに無理矢理に“連れて来られる程に”優秀な存在と言えなくもない。
ならば、それだけの“何か”がキリヤにはある。
迂闊な行動は自身の首を絞めかねない――という訳になる。
「大丈夫です。しばらくはあそこの漫画喫茶に泊まるのでしょう。わたくしの仲間を働かせます」
従業員として潜り込めば確かにリスクも低く、情報収集に徹しれる。
問題は彼らがそこに居座るのか、鼻をそこまで利かせられるか――等々、問題は浮上してくる。
壁に耳あり障子に目ありだ。
現状か、はたまたこの先か、いずれにしてもこのことわざを馬鹿にできない事になるやもしれぬ。
早速、今しがたに脳裏をよぎったことわざを実践している。
話し合いに集中しつつも、周囲への気配りは忘れていない。
特に店員はこちらへ近付いてくるのだ。
その気配を察知し、話し合いを一時中断する。
「お待たせ致しました。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
ではごゆっくり――マニュアル通りの接客をしてくれたウェイトレスに感謝。
表情に固さが見えたのは気のせいにしておく。
注文したウーロン茶を半分ほど飲み干す。
知らぬ間に喉は乾いていたようで、一口飲み出せば潤そうと自然とイッキ飲みしていた。
「それじゃあ、後は栄華の仲間に任せて俺達は連絡待ち……って事か?」
栄華が先程に言ったように下手に仕掛けて周囲への被害が出るのはまず避けたい。
となると、彼女の出した提案に乗るのが手っ取り早い。
今後の展開の再確認の為に栄華の前の意見に同意を示す。
「はい。決して、大事にはさせません」
栄華からの決意の籠った言の葉が飛んでくる。
「話は此処に居るメンバーだけの秘密よ」
紗香が念押しに言ってくる。
彼女の弁の通りだ。
もし、この話がネットの普及している現代で知れ渡りでもしたら――一瞬でパニックに陥る。
この街にしか起きない事件だと対岸の火事の意識を持つだけならまだ良い。
火の粉から逃げようとするのもまだ分かる。
一番の問題は、変な正義感から問題解決に奔走する者が現れる事だ。
紲は(どういう訳か)栄華に信頼を置かれ、この問題に関わっている。
先日のテロ組織の首領を潰した件を知っている事から大丈夫なのが分かる。
だが、訓練も積んでいない一般の『魔法使い』が関われば……?
よっぽどの奇跡でも起こさなければ、事件解決なんて夢物語に終わる。
これを危惧しての発言であった。
「ええ、話が広まるよりも先に――終わらせます」
一刻も早く解決したい。
しかしながら、急いては事を仕損じる。
言葉とは裏腹に栄華の声音や態度は冷静で、実に落ち着いたものだった。
「おうキリヤ。遅かったじゃねえか」
「親切な人にコンビニの場所を教えて貰ってたんスよ」
先程に紲が居た漫画喫茶――その一室にてキリヤとコウジがやり取りを交わしていた。
「まあ、良い。腹ごなしを終えたら本格的に攻め込むぞ」
「自分もッスか……?」
「勿論だ。サポートしてもらうぞ」
キリヤは恐る恐るに訊ねる。
コウジは「当たり前だ」と言ってくる。
これが頭痛の種なのだなと、彼と言葉を交わした紲が居たら思う事であろう。
「栄華お嬢は助けを求めている筈だ。それに協力してる奴等もな」
天王寺学園へ放った斥候からの連絡は途絶えている。
彼女に与する仲間が居る事は必然と言えた。
栄華の戦闘能力が皆無とは言わないが、それでも1人で倒すには無理がある。
一族で栄華の派閥はある。
そのメンバーだけ――そう考えたいが、世の中には理屈抜きに手を貸す漫画の主人公みたいな人物が居ても不思議はない。
「それにあそこには天宮紗香が居るからな」
龍宮コウジからしても彼女は“実力者だと評価する。”
天王寺学園に通う彼女の事は耳にしている。
『魔法使い』としての実力は精々が学生の枠組みを抜け出さない――最初の評価であった。
だが、それも彼女を調べる内に一変させられた。
はっきり言って、戦い方が学生のものとは大きな隔たりがある。
随分と“戦い慣れていると印象付けられた。”
試合は動画が流れている。
『魔法』だけでなく、科学も発達している現代だ。
そんな機会などいくらでもある。
1対1で勝てる――そう断言しづらい程に天宮紗香は強い。
しかし、そんな彼女にも弱点はある。
それは仲間の存在だ。
本当に漫画の主人公のように仲間を大切にする。
正義という観点からするのであれば、何と眩しい美学だろうか。
しかし、生死を分かつ戦いにおいては――足枷でしかない。
「さ~て、どういう風に出てくるかな」
どうすべきか、頭を巡らせる。
災厄という名の魔手が今――迫ろうとしていた。
如何でしたでしょうか?
遂に動き出す敵さん。
両者の思惑は果たして……?
次回は来月の予定です。