新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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気付けば3ヶ月放置……大変申し訳ありません。

続きです。


足音はすぐ側で

 紲達が今後の話し合いをしていた頃、放課後の学園でメイアは幼馴染みの央佳と共に図書室に居た。

 

「わ、分からない……」

 

「もう~。しっかりしてくれないと困るのです~」

 

 テーブル席で、一番入口から離れた位置を陣取っていた。 離れた席だからと言って、うるさくしないようにエチケットは守る。

 できるだけ声を絞ってはいるが……メイアが時たま聞こえるのではないかという声量を出すものだから、央佳は嗜める目的で告げるという理由も含んでいた。

 

「だってさ~」

 

 央佳の声量に釣られ、メイアも小声になる。

 しかし、彼女の文句の垂れ具合は反対に大きくなっていく。

 

「メイアちゃんが勉強を教えてくれるように言ったのですから、頑張ってくださいなのです」

 

 そう。央佳はメイアから教師役を頼まれた。

 厳密には勉強を見て欲しいと頼まれたのもあるが、そこに大した差はない……筈である。

 

「確かに頼んだのはアタイなんだけどさ……」

 

 まさか、ここまで疎かになっているとは思わなかった。

 別にメイアの成績は悪い訳ではない。

 無論、得意科目や不得手とする科目は存在する。

 央佳はどんな科目もオールマイティーにこなす事ができる。

 

 ここまでメイアが頭を悩ませるという事は、つまりは彼女にとっての苦手な分野を勉強中な訳だ。

 自ら挑んで飛び込んだ訳なのだが……選んだ場所が底の見える池ではなく、底の見えない沼であった。

 

 足掻けば足掻く程に自身にまとわりつく泥水が吸い付き、底へ底へと引っ張られて行く。

 自分の進んだ先が、こんなにも闇が深かったのかと……後悔している気分だ。

 

「メイアちゃんは決して理解力がない訳ではないのですから、もっと頑張りましょう」

 

 幼馴染みからの嬉しくもあり、涙の出そうな励ましの弁を頂く。

 もちろん、メイアもへこたれてはいるが投げ出すつもりは毛頭ない。

 

「でも……これは基礎がどうのこうのとか関係ないじゃないのさ」

 

 メイアが今取り組んでいる教科は――歴史である。

 ほとんど記憶力の勝負と言っても過言ではあるまい。

 何故かメイアはそういった事が得意ではない。

 

「確かに記憶力の問題ですが、語呂合わせなんかで覚えられるのですよ」

 

 確かに「いい国作ろう鎌倉幕府」などの語呂合わせがある。

 覚えやすくする為の先人の努力といった事だ。

 

「いや、でも……さすがに限界はあるでしょ」

 

 降参だとばかりに、机の上に「ぐでー」と両腕を乗せる。

 体で「アタイ、疲れてるんだけど」とアピールする。

 

「そうやって、サボっていたらダメなんですよ~」

 

「うう~」

 

 央佳に嗜められ、メイアは仕方なくといった様相で机にかじりつく。

 

「数学の公式だって暗記ではないですか~」

 

「いや、あれは何かやってる内に身に付いて――」

 

「だったら、書き取りをいっぱいすれば良いのです!!」

 

 まさに薮蛇――央佳は瞳をキラキラとさせる。

 

「央佳こそ、勉強しなくて大丈夫なの?」

 

 別に逃げる為ではない。

 ええ、決して目の前の敵と相対したい訳ではない。

 央佳は自身の勉強はせずにメイアに教えてばかりだ。

 

「教えるのも復習になるのですよ」

 

 えっへんと胸を張る姿は微笑ましい。

 見た目幼いものの、彼女も成績は悪くない。

 特に暗記系である歴史などは大得意だったり。

 

「それにメイアちゃんには苦手な数学などを教えて貰っていますから」

 

 ギブアンドテイクなのです――と、続けて言ってくれる。

 その事には嬉しさを覚え、目頭が知らずに熱くなる。

 でも央佳は基本的に勉強できるのよね――その言葉は呑み込んだ。

 

「それにしても、どうして歴史の勉強を?」

 

 央佳の問い掛けには「苦手な分野の勉強を?」との意味合いが込められている。

 さすがは幼馴染みとでも言うべきか、メイアは彼女の言葉の裏まで理解できた。

 

 普段のメイアであれば、なあなあで勉強を済ませていただろう。

 赤点は取らない程度の勉強をし、そこで終わらせる。

 そういうスタンスであった彼女が今回は央佳に頼んで教えて貰っている。

 

「何となくだよ。ちょっと、良い成績を取ってみたくなったんだ」

 

「紲君の影響です?」

 

 ガターンッ!!

 央佳が答えを聞いた後の回答にド派手な音が響く。

 全員の注目の的になるのは避けられなかった。

 

 それもその筈、答えを聞いたメイアが椅子から転げ落ちた。

 央佳は彼女の反応に目を丸くしながらも周囲へ迷惑を掛けた事を理解し、軽く頭を下げる。

 

「そ、そこまで驚かなくても……」

 

「ご、ごめん」

 

 さすがにオーバーな反応だったかとメイアは反省するが、赤く染まった頬を見たらツッコミをするのは野暮ったいとしか言えなかった。

 

 まさしく乙女の反応。

 少女マンガにありそうな事に立ち会うとは央佳も思わなかったろう。

 ましてや、その人物が幼馴染みとも来れば――だ。

 

「紲君のことが好きなんですね?」

 

「べ、別に……」

 

 目線を逸らし、明後日の方向を見やる。

 何とも分かりやすい反応であろうか。

 これに気付かない紲も紲である。

 

「むむ~。こんなにメイアちゃんが想ってくれてるのに反応しない紲君はどうかしてるのです」

 

「それは、仕方無いんじゃないかな」

 

 央佳の吐き出した不満を、しかしメイアは「仕方無い」と擁護した。

 

「あいつ、どうにも恋愛関連には興味が薄いみたいだからね。それどころか、恋愛もできないんじゃないかな?」

 

 この件は円山財賀の一件を終決させた際に聞かされたものだ。

 新原紲は恋愛方面に疎いのではなく、その手の感情が薄いのだと。

 これは央佳には寝耳に水らしく、驚いた顔を作っていた。

 

「それはないと思うのです」

 

 しかし、央佳はメイアの談を否定した。

 その部分とな言わずもがな、紲の恋愛価値観についてだ。

 

「何で、そんな事が言えるの?」

 

 メイアは首を傾げる。

 央佳は人差し指を ビシッ!! と立てる。

 

「紲君は恋愛感情が“薄いだけであって、興味がない訳ではないと思うのです”」

 

 冷静に考えれば央佳の意見は至極全うなものである。

 

「ひょっとして、“だからなのかな?”」

 

 メイアは紲の幼馴染みである天宮紗香を思い出す。

 彼女はことあるごとにアピールをしていた気がする。

 

 メイアの方は勝手に可能性の芽が薄いと判断を下していたが紗香は違った。

 今央佳も言ったように“薄い”のであって、“皆無ではない。”

 

 思い返すと、紗香の弟の天宮健司も紲に姉を推すような態度は多かった。

 と、なると――

 

「どうやって、紲には恋愛感情が薄いだなんて気付いたんだろう?」

 

 そもそも、そういうのは恋愛漫画で言うところの「鈍感」が当てはまろう。

 紲の様子を見るに「鈍感」と称される方が的確ではないかとメイアは思った。

 

「紲君のお師匠さんが絡んでいるのではないでしょうか?」

 

「ああ、あのハチャメチャそうな人ね」

 

 紲の師――名を神坂幹太。

 ジーパン、それに白のポロシャツを着た無精髭を生やした男だ。

 この前の『エクリプス』の件を片付けた際に『魔法相談室』を訪れた。

 

 そもそも『エクリプス』壊滅の話を何処から聞き付けたのかは不明のままだ。

 紲達曰く、「考えるだけ無駄」だとの事で。

 メイアも首を突っ込むだなんて野暮な真似は慎んでいる。

 ただ、彼の情報網は侮れない。

 全てを見透かしたような発言や態度を彼はあの場で披露していた。

 

「でも、あの人なら何でも見透かしてそうね」

 

 メイアも央佳の評価に賛同した。

 実際、彼に出会ったからそう感じてしまう。

 その時に紲は稽古を付ける為に連行されていたが……翌日にはげっそりとした顔付きで帰ってきていたのは余談である。

 

「あの人の手助けがあれば紲も入学できると思うんだけどね……」

 

 メイアは彼の師匠の顔を思い出しながら告げた。

 紲は今は入学してはいるものの、仮入学の扱いにも等しいらしい。

 一応は、学園の面子から仮入学とするのもひた隠しにされている。

 実績を作れずにいれば退学。問題を起こしても退学。

 紲は八方塞がりのままである。

 

 紲同様に「何か裏道を見付けて押し通す」と言った感じに見えたあの師が手を貸せば不思議と何とかなるのではと思えてくる。

 

 その直感は、この場に紲達の誰かしらが居たら「大正解」と拍手喝采していたと言うのは余談である。

 

「でも紲君達の様子から厳しそうな人でしたら、多分手は貸してはくれないと思うのです」

 

 央佳は同時に彼の師の性質を見抜いていた。

 自分に厳しく、他人に優しく――ではなく、自分に優しく、他人に厳しくを地で行きそうな性格の持ち主だ。

 紲達からの話も耳に挟んでいる。

 

「紲がどうこうって話なのに……当の本人は竜崎栄華だっけ? 転校生が来た上にそいつに気に入られてるし」

 

 胸の辺りがモヤモヤとする。

 紲に絡んでいる栄華を見て、メイアは奇妙な感情を抱く。

 

 彼の一大事とも呼べる現状に転校生が来るのは如何なものかとメイアは呟く。

 それに絡んでいそうな生徒会長に行き場のない怒りの矛先が向けられようとしていた。

 

 

 

 

 

「多分、“紲君の為に龍崎栄華さんを入学させたのだと思います”」

 

 

 

 

 

 途端、央佳はとんでもない推理を披露した。

 目が点となり、ペンを走らせていた手がピタリと止まる。

 

「え? 何て!?」

 

「? 紲君の師匠の事です?」

 

「いや、そっちじゃなくて……紲の為に入学させたとかって方よ」

 

「ああ」

 

 メイアに言われて、ようやく気付けたようだ。

 

「どうして、そう思ったの?」

 

「勘と言うのが大部分を占めてはいるのですが……やはり、龍崎さんに生徒会長さんが“付き添っていたと言うのが大きいのです”」

 

 紗香の付き添いがあった――確かに紲に会いに来た栄華を紗香は追い掛けてきた。

 心配になったとの考えもあろう。

 しかしながら、央佳は全くそう考えもしなかった。

 

「生徒会長さんの態度を見ていたら、ライバルを入学させるなんて崖から飛び降りるような行為なのです」

 

「いや、物騒な物言いをしないでよ」

 

 央佳の見た目からは考えづらい発言が飛び出る。

 だが、言わんとしている事は理解できた。

 

「その……紲の事を憎からず想っているのに、同様の相手を入学させる筈ないって事なの?」

 

「その通りです」

 

 こういうのは理屈ではないと言ったものだ。

 確かに、何と無く分かる。

 

 転校の手続きを蹴飛ばす事がまず普通なら一生徒に不可能な話なのだが。

 ここの生徒会長の紗香はそれだけの権限がある。

 より正確に告げるならば、紗香は積んできた実績で教師達の信頼を買っている。

 発言力もそれなりのものを手中に納めている。

 紲の件を知っていれば、その結論に辿り着くのとて難題ではない。

 

 

 

「生徒会長さんからの話は聞いていませんから、全部想像でしかないのですけど」

 

「でも、聞いてると正解な気がしてくるよ」

 

 央佳は自信無さげに言うものの、推理に耳を傾けていたメイアからすれば頷けるものであった。

 的外れな推測ではないものと思われる。

 

「それには福富先生も絡んでいそうな気がしないでも無いのです」

 

 福富――それは紲やメイア、央佳の担任教師の名前だ。

 熱い一面も持っており、生徒を気に掛ける様子も散見される。

 

「どうしてまた? 確かにアタイも気に掛けて貰ってるけど……」

 

 こんな面倒な生徒、普通なら放っておくのが一番だ。

 紲に関しては『魔法』さえろくに扱えないのだから。

 なのに気に止めてくれる――教師の鑑だ。

 

「メイアちゃんは覚えてないですか? 以前に圧山剛毅が学校に来た時の事です」

 

 それは地味にメイアに突き刺さる内容であった。

 ただ、重要な前情報のようでメイアは目を逸らさずに頷く。

 

「あの人が攻めてきて、逃げて去った時に福富先生が応戦していた紲君を襟首を掴んで止めたのです」

 

 紲からしたら仕留められそうなタイミングで茶々を入れられたようにしか思えまい。

 だが、第三者の視点からはそれだけには見えない。

 

 

 

 

 

「福富先生は危険に飛び込ませないように止めたようにも考えられるのです」

 

 

 

 

 

 危険区域に挑む紲を力付くで止めたようにも映る訳だ。

 言われ、メイアは偶然かもしれないと切り返そうとしてやめた。

 

 本当にそうだと断言できない位にはまだ学園の事を知らない。

 教師も手練れが多いとの話は耳にする。

 福富は生徒想いだ。

 それ故の行動とも受け取れる。

 

「話が脱線してしまったのです」

 

 央佳は「反省、反省」と呟く。

 同時にメイアの手元を指差す。

 

「早く勉強を終わらせるに限るのです。さあ、教科書の太字だけでもノートいっぱいに書いて覚えるのです」

 

「…………」

 

 央佳が笑顔で告げた勉強法は実に凄まじかった。

 随分とテンションの高い今の彼女ならノート1ページ分は書くように言ってくる事が間違いなしに思えた。

 

 どのようにしてこの場を回避するかを考え――

 

 

 

 

 

『あー、あー、マイクテス。マイクテス』

 

 

 

 

 

 校内のスピーカーから男の声が漏れ出した。

 図書室を利用している生徒は少ない。

 それでも疎らに居る生徒はスピーカーに目を、耳を向ける。

 それはメイア達も例外では無かった。

 

『初めましての方は初めまして――って言うか、初めましての方が正しいか』

 

 ケラケラと、軽快そうな笑い声が聞こえてくる。

 しかし、圧山剛毅や円山財賀といった“敵”と相対してきたメイアと央佳の感想は真逆だ。

 

 異常――と。

 2人は同時に思った。

 

 本来、放送ではこんな笑い声など上げはしない。

 間違っても、こんな軽薄そうな発言は起こり得ない。

 

 残念なことにその「起こり得ない」が「起こり得ている」のが現状である。

 

『え~、自己紹介とかしなきゃならんのだろうけど……とりあえず先に言いたい事だけ言っておくな』

 

 やたらと長い前置き。

 一言一句聞き逃してはならない――そう、思えた。

 

『これからおまえらは人質にするから。そのつもりで』

 

 軽快な口調とは裏腹。

 とんでもない事を言ってのけた。

 

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