新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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大変お待たせしました。

仕事やら何やらで忙しく、ようやく時間ができたので投稿します。

続きです。


救出劇の背景

「よし、紲達には伝えられた」

 

 メイアは安堵していた。

 学園に侵入してくる位だから外部への連絡を途絶えさせる事も甘味していたが杞憂に終わる。

 

「生徒会長さんにも伝えられましたから大丈夫な筈なのです」

 

 央佳も紲と生徒会長に伝達が出来てホッとしていた。

 しかしながら、脅威の真っ只中に居るのは変わらない。

 

「生徒会長と話ができたのか?」

 

 メイアと央佳を含めてこの場には6人の生徒が居る。

 その内の1人の男子生徒が訊ねる。

 

「はいです。もう安心ですよ」

 

 央佳の花の咲いた笑顔に男子生徒も顔を綻ばせる。

 頼りになる生徒会長への連絡が取れた事も一役買ってくれている。

 

 これでも最初は全員が取り乱していた。

 しかし、メイア達が生徒会長と知人だと知るや落ち着きを取り戻し始める。

 

 脱出が不可能なら救助の要請は必須事項だ。

 メイアは「生徒会長に連絡するよ」と宣いながら紲へ電話をした。

 

 一刻を争う時ではあるが、メイアには紲に伝達する事が解決への近道だと思ったからだ。

 彼は生徒会長の紗香と幼馴染みでもある。

 紲への連絡は、そのまま紗香への伝達に繋がると信じた。

 

 信じた甲斐はあった。

 紗香もその場に居り、紲から「何とかする」との言葉も貰った。

 彼から貰える言葉程、メイアには心強いものはなかった。

 

「けれど、おんぶに抱っこって訳にもいかない」

 

 難しい話なのは分かっているが……やはり、脱出を試みたい。

 今のメイア達は龍宮コウジとやらに命を握られている状況に近い。

 要は人質としての役割が悲しい事にしっくり来る。

 

 もし人質を盾にされたら紲の事だ、手を出せないに違いない。

 1人でも多く、人質としてのリスクを減らせれば紲の助けになる。

 

 しかしながら……脱出の途中で捕まればアウトだ。

 気遣いが水泡となる可能性だって残されている。

 

「そうは言っても、どうしようも出来ないのです」

 

「分かってるさ。アタイだって無闇に飛び出す程に馬鹿じゃない」

 

 央佳の不安はメイアにだって承知の事なのだ。

 当然、闇雲に逃げ出しても先程も考えたように捕まってゲームオーバーになりかねない。

 紲達の足を掬う結果を伴う事だけは避けたかった。

 

「皆、聞いて欲しい 」

 

 メイアは今後にどうしようか提案をしようとした。

 上級生とか下級生の間柄等は頭の隅にも置いておく。

 状況を好転させる為に意見を引っ張り出しておきたい。

 

 メイアも央佳もすぐには分からなかった事だが、この場には幸いな事に同級生しか居なかったりする。

 

「これからきず……生徒会長が助けに来てくれると思ってる」

 

 メイアの言葉を受け、自身と央佳を除くメンバーの顔が晴れやかになる。

 しかしながら、ここで話は区切れない。

 

「けど、ここを乗っ取っただろう奴等は用意周到な筈だよ」

 

「学校から出られないように……なってるから?」

 

 恐る恐ると言った口調で1人の男子生徒が答えを求める。

 その内容はメイアと同じものであった。

 渋い顔を作りながらも男子生徒の回答に頷いた。

 

 他のメンバーもことの次第を把握したらしい。

 不安が感染する。

 

 結局のところ、内側からの脱出は実質不可能と見て良い。

 外側も同じかどうかは定かではないが同様と見て差し支えあるまい。

 

 ただ、紲がこの学校の窓を破壊できた事を思い出す。

 単純な戦闘力で言うなら紗香が真似できないとは思っていない。

 

 本人の口からは聞かされていないので、希望的観測に過ぎないので黙っておく。

 それに、すんなりと学校に足を運べるのかも怪しいところだ。

 

 これだけ用意周到ならば、当然ながら対応策だってあっても不思議がない。

 

 一番効果的で、思い付くのは――待ち伏せ。

 メイアの把握してる中だと、紲と紗香、栄華しか居ない。

 更に人数で負けていたらもっと厳しい状況になる。

 

(けど、何でかな)

 

 それでも“何とかしてくれるとメイアは思う。”

 何せ、紲が「何とかする」と言ったのだから。

 

「今話してるのは状況を理解してもらう為さ」

 

 たった1人を助ける為だけに少人数でテロ組織に乗り込み、挙げ句には親玉を潰して勝利をもぎ取った。

 無論、彼1人の力ではない。

 幾重もの手を借り、掴み取った。

 

「さっきも言ったけど、こんな八方塞がりな状況でだって何かできるかもしれないんだ」

 

 けれど、けれど――――彼が動かなければ、今のメイアは居ない。

 

 幼馴染みと登校し、友達と他愛もない話をし、授業を受け、ご飯を食べ、放課後に寄り道したり、そして想い人ができる――――そんな当たり前を彼が取り戻してくれた。

 

「それにさ、足手まといはアタイだって嫌だからね」

 

 メイアの想いは、この場に居る全員の共通でもあった。

 だからこそか、顔を上げる者が後を絶たなかった。

 

「メイアちゃんの言う通りなのです。このまま、指を加えてるだけは真っ平です」

 

 幼馴染みの気持ちを理解する央佳もまた皆を奮い立たせる。

 それを皮切りに、頷く者が出始める。

 

 自分等に何ができるのかは分からない。

 だけども、勇気を奮わせて眼前に聳え立つ壁を打ち壊す。

 

 一介の学生に何ができると言うのか?

 そんなの分からない。

 けれど、別に戦いに赴くのではなくて逃亡を選択するならば自分等にだって出来る。

 尻尾を巻いて逃げるのではなくて、戦略的な撤退を意味するならやらない手はない。

 この行為が助けになるのならば、喜んで逃げ出そう。

 

 全員の想いが――――――決まった。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それはまた大変な事が起きてるみたいだね」

 

 学園へ向かう道中の車内で鮎川に栄華の紹介も込みで事態の説明を行っていた。

 

「巻き込んでしまって申し訳ありません」

 

「いや、龍崎さんが気にする必要は無いさ。遅かれ早かれ君達の学校に到着していたのだから」

 

 事態を知ることができるか否かの違いだ。

 場合を考えるならば、最悪の事から逃れられた事に感謝する。

 

「そう言って頂けると安心します」

 

 これは元を辿れば栄華が引き金となって起きた事件だ。

 彼女の問題に鮎川までも巻き込んでしまった事に負い目を感じていた。

 鮎川自身が「気にしないで欲しい」とのニュアンスで言ってくれた事で心が和らぐ。

 

「とは言え、このメンバーだけでどうにか出来る問題だとは思えない」

 

 鮎川の言葉は的確で、暗に警察への協力を要請した方が良いと告げている。

 

「そうしてるんだけど……」

 

 紲は栄華の方を見る。

 アイコンタクトを受けた彼女は1つ頷いて説明を変わる。

 

「学園全体が人質に取られています。龍宮コウジが癇癪を起こさないとも限らないので、今は近くで待機して貰っています。下手に行っても実力もあり、返り討ちに遇わないとも限りません」

 

 ただ事実のみを栄華は伝える。

 どうやら龍人――栄華だからかもしれないが――は警察にも顔が利くらしい。

 警察にはそのような指示が出ているのは本当の事のようだ。

 

「膠着状態と言う訳か」

 

 学園全体が人質となれば、迂闊に攻め行ってもこちらの弱味を踏まれる。

 ミイラ取りがミイラになってしまうだけだ。

 

「既に対策をこちら側で用意してあります」

 

「対策? それはどういう?」

 

 紲も紗香も初出の情報が飛び出てくる。

 学園の生徒を巻き込んでしまい、挙げ句には後手を取らされている。

 その事での対策と言う意味合いなのか、それとも龍宮コウジへの対策なのか――抱いた疑問はすぐに答えに変わった。

 

「わたくしを狙う勢力があるのは存じていました。本来ならば個人的な問題ならば解決してしまうところなのですが……」

 

 一拍を置いて、栄華は続きを紡ぐ。

 

「一般の方を巻き込むと言うならば話は別です。既に一族にはこの事を報告しております」

 

 龍宮コウジが学園を占拠した報を受けた時には既に栄華は動いていた。

 事前に練り、打合せしていた計画を引っ張り出した。

 

「なるほど……警察の他にあなたの一族も動いていると?」

 

「はい」

 

 

 龍人が動きを見せている点に関しては心強い。

 

「ですが、やはりすぐには動けません。何とか龍宮コウジの意識をこちらに集中させねば」

 

「つまり、こっちで囮役が必要な訳?」

 

 導き出された結論はそういうものだ。

 答えを引っ張り出した紗香は頭を痛そうにして、額に手を当てていた。

 

 結局のところ、こちらはこちらで手を打たねばならない事実に変わりない。

 否――――結果的に紲達へ掛かる負担を考えれば、プレッシャーは大きくなった。

 

「いえ、“そちらに関してはこちらで用意してあります”」

 

 あっけらかんと、栄華は囮を別で用意したと告げる。

 

「紲様」

 

 栄華に名を呼ばれ、紲は身を捩って後部座席に振り返る。

 呼んだ彼女は深く、深く頭を下げていた。

 

「誠に勝手なのは承知しております。紲様には無関係である事も重々に理解しております」

 

 それでも、それでも彼女は“愚直に彼を頼る。”

 

「どうか。わたくし“達を”助けて下さい。お礼は何でも致します」

 

 深々と頭を下げる。

 確かにこれは栄華達一族の問題だ。

 学園の皆は巻き込まれたに過ぎない。

 

「なあ、栄華」

 

 紲はやや間を置いて、言葉を捻り出す。

 それを全員が押し黙って聞いている。

 

「俺は栄華の依頼を受けて、ここに居る」

 

 告げられた内容は事務的なもので、それは『魔法相談室』なんて役割を与えられた前提での話になっている。

 当然だ。誰だって他人事に巻き込まれたくない。

 避けようとするのは必然、紲にはこの件から手を引くには正統な理由が既に用意されていた。

 

 だから、断られても仕方無――――

 

 

 

 

 

「けど、それ以上に俺が助けたいと思ってる」

 

 

 

 

 

 理屈など持たず、ただ握っているのは栄華を助けたい気持ちのみ。

 それだけを胸に秘め、手に握り、前に進む。

 随分と簡潔で、誰にも真似のできない事だ。

 

「良いの、ですか?」

 

 栄華は思わずといった顔付きで紲に質問をしてしまう。

 

「ちゃんと伝わらなかったのか? 打算とか、そういうの抜きにして俺は栄華を助けたいんだ 」

 

 再度、彼は思いの明けをぶつける。

 

 それは偽らざる紲の本心。

 

「相変わらず……ズルいお方ですね」

 

 ボソリ、と栄華は呟く。

 それは他の誰にも届かない声量であった。

 

 彼が本心で栄華を助けようとしてくれている想いが届く。

 言ったように打算など微塵も無かろう。

 それを嬉しく思うと同時に栄華の為だと――――

 

(いえ、これはわたくしの我が儘でしかありませんね)

 

 “欲を言えば”別の言葉が欲しかった……が、それは栄華の我が儘でしかない。

 それに絆を大事にする事こそが新原紲らしさを明確にしている。

 

「全く、仕方無いわね。私も手伝うわ」

 

 隣で静観していた紗香までもがそう切り出した。

 言い方にしても、まるで親の買い物を手伝おうとするかようなものに聞こえた。

 

 実際、そう言うだけの理由があるのだ。

 生徒会長としての責任も付きまとっていそうだが……何よりも紲が協力を申し出たのが決定打と言えた。

 

「学園の事もあるし、紲が協力するって言うのもあるけど……」

 

 栄華が考えた内容以外にも理由が存在したようだ。

 如何なる物なのか、栄華には聞く義務がある。

 間を置き、紗香は“栄華の方を見ずに”返した。

 

「クラスメイトで――――」

 

 最後の部分で声が小さくなる。

 狭い車内なのに誰の耳にも届かなかった。

 

「今、何と?」

 

「2度は言わないわ」

 

 訊ねた栄華ではあったが、紗香は窓の外を眺めたままで返答する。

 

 彼女の顔はこちらから見ても分かる位に赤かった。

 何だろうか? こそばゆさ? 嫌悪感? 言葉にしがたいものを抱いた。

 そこで感じ取れた。

 天宮紗香は龍崎栄華と同じで、新原紲の事を――――――

 

「君達が構わないと言うなら、こちらから言うことは何もない」

 

 このタイミングで運転をする鮎川の声が割り込む。

 

 

 

「ごめん。鮎川さんを巻き込んで」

 

「構わないさ。スクープを間近で取れるチャンスだからね」

 

 鮎川のジャーナリスト魂が籠った一言に救われる。

 現場に向かってくれてる事と言い、彼には頭が上がらない。

 

「皆様ありがとうございます」

 

「お礼は龍宮コウジを何とかしてからにしよう」

 

 助力を求め、応じてくれる一同に感謝の念を述べる。

 ただ、それも龍宮コウジを退けてからの話だ。

 

「大まかな段取りは決まっているだろうけど、具体的にはどうするつもりなんだい?」

 

 決起付く彼等には申し訳無いが、策となる部分が不足している。

 水の泡と消えるのを恐れての鮎川の発言だ。

 

「学園に気付かれずに入る方法ならあるわよ」

 

 そう切り出したのは他ならぬ紗香だ。

 

「気配やら『魔力』やらを悟られないようにする必要はあるけどね」

 

 向こうにはキリヤという隠し玉もいる。

 彼が『魔力』探知に長けていた場合の保険である。

 

「私や紲はそこは大丈夫だとして、栄華は?」

 

「問題ありません」

 

「よし」

 

 鮎川にあえて聞かなかったのは、彼をこれ以上関わらせたくない意思表示でもあった。

 それに、他に頼みたい事もあるからだ。

 

「なら、目的地は変更よ」

 

 栄華の返答に満足し、紗香は唐突に目的地を変更すると言い出した。

 

「何処へ向かうんだい?」

 

「ちょっと使うのは嫌な手段だったのだけれどね」

 

 運転する鮎川が目的地を訊ねる。

 紗香は聞いている側には分からないだろう言葉を残して――――

 

 

 

 

 

「そこはテロ組織『エクリプス』が使ってた学園とを繋ぐ地下通路のある――――今は閉店したホームセンターよ」

 

 

 




如何でしたでしょうか?

更新が遅くなって重ね重ね申し訳ありません。

仕事がまた忙しくなってきてしまったので、次回も更新が遅くなるかも知れませんが、暖かい眼差しで見ていただけたらと思います。
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