続きです。
「はあ~、せっかく順調に行ってたのに……最後の最後にこれッスか」
放送機材、それに4人テーブルと教室の端にパイプ椅子が折り畳んで立て掛けられている。
放送室をキリヤは占拠していた。
と言うのも龍宮コウジの指示である。
この場所を占拠しておけば不意の出来事に対処できる。
例えば“異変が起これば即座に伝えられるからだ。”
キリヤは己の『魔法』の欠点も知り尽くしている。
今回、彼自身の『魔法』の穴を突かれて辿り着かれた事になる。
変化には気付けた。
しかし、そこから龍宮コウジに連絡を付けるには至らなかった。
「さて、大人しくしてなさいよ」
「捕まっていただきます」
天宮紗香、龍崎栄華――――両名が扉を突き破って現れたからだ。
さすがのキリヤも想定外の事態だ。
どちらかは必ず龍宮コウジの下を訪れると踏んでいたからだ。
まさか、そのどちらもが此所へ足を運ぶ結果になろうとは誰が予測できたか。
少しでも動けば容赦はしないと、紗香の周囲に浮かぶ数多の剣が無言の圧力を掛けていた。
「龍宮さんのところには行かなくて良いんスか?」
「心配しなくても頼りになる人物が向かってるわ」
紗香は堂々と言い切る。
まさか、彼女にそんな事を言わせる人物が他に居ようとは。
想定外にも程がある。
「ここに来た事についてまで追求するつもりはないッス」
彼女等が想定を遥かに上回るものを持っているのは分かりきっている。
「でも、自分も譲る訳にはいかないんで…………止めさせて貰うッス」
「言うじゃない。やれるものならやってみなさい」
両者の間で火花が散る。
それこそが戦いの合図であった。
屋上――――新原紲と龍宮コウジのにらみ合いは即座に終了を告げる。
開始のゴングと同時に紲は地面を強く蹴って駆ける。
「無鉄砲に突っ込んでくるだけか」
紲が勢いよく駆け出したのを見て龍宮コウジは呆れ返った。
天宮紗香に龍崎栄華という強者を差し置いてしゃしゃり出たのだ、相当な実力者に違いないと胸を躍らせた。
だが、実際にはどうだ?
ただ突撃を雁行してくる不良と同様の行為ではないか。
見れば《アーマー》さえしていない。
戦闘慣れどころかルールに縛られた試合の経験さえない証拠だ。
そんな彼への龍宮コウジの評価は至ってシンプルだ。
「失せろ」
瞬間、彼は右腕を大きく上げ――――一息に振り下ろす。
「っ!?」
龍宮コウジが腕を振り上げた瞬間に何かあると直感するのは当然だった。
身体は即座に反応をし、自身視点で左へ横っ飛びする。
ドンッ!! 重い音と振動が紲が避けた直後に発生した。
先程まで居た場所に手を象った穴が出来上がっていた。
「へえ、上手く避けたもんだな」
龍宮コウジの右手を青い半透明の光が覆っていた。
それが『魔力』で造り上げられたものだと分かる。
「雑魚だと侮っていたが、どうやら少しは楽しめそうだな」
「俺は楽しくないけど、な!!」
馬鹿の一つ覚えと言われようとも紲には突撃する以外の手立てがない。
それでも勝利を手繰り寄せる為に手は尽くす。
「《サンド》」
手を前へ突き出し、砂を飛び散らせる。
「妙な『魔法』を使う」
紲が唱えた『魔法』により、一握り程の砂が龍宮コウジに襲い掛かる。
とは言え、行動だけ見れば子供染みた真似な上に見苦しい。
ただ、今さっきに見せた紲の反射神経を思うと笑い飛ばせる内容でもない。
「面白いな。次はどうするか見せてみろよ」
ここからどう繋げるのか期待に胸を膨らませる。
自身に投げられた砂は腕を振るって吹き飛ばす。
「っ!!」
龍宮コウジの行動は実に分かりやすいものだった。
この結果に紲の方も何の疑いも持っておらず、むしろ当然だと言わんばかりに――――突貫していた。
それでは《アーマー》で自らの身を守れない紲には自殺行為だ。
しかし、遠距離の攻撃手段を持たない以上は近接戦闘は避けられない。
だから小細工を労して近付かなければならないのだ。
「《サンド》」
もう一度、右手を突き出して同様の『魔法』を叩き付ける。
狙うは龍宮コウジの眼だ。
「ちっ!!」
さすがに眼を潰されるのは痛い。
視界を確保できなくてはどうしようもない。
咄嗟に紲との距離を取ろうと後退を選択した。
タッ!! 軽やかなステップでバックステップを踏む。
「っ!!」
その直後だ。
龍宮コウジのその行動を「待ってました」とばかりに紲は足に『魔力』を循環させる。
部分的に『魔力』を流し、一瞬だけ爆発的な疾走を発揮する。
まるで矢のように飛び出した紲は瞬く間に懐に飛び込んだ。
「らあっ!!」
既に攻撃の準備は整っていた。
右拳という弾丸を龍宮コウジの腹部に叩き込む。
腰に捻りを加えた勢いのある正拳突き。
更には『魔力』を拳に収束させる事で、ただの正拳突きも大ハンマーで叩くような威力に早変わりする。
「おっ、と」
危ない危ない――実際に龍宮コウジの口から飛び出てきた感想だった。
口調とは裏腹に紲の拳を片手で受け止められたのは筆舌にし難い驚愕があった。
「らっ!!」
しかし、そんな事で怯んでもいられない。
受け止められた事も接近しているチャンスだと言わんばかりに紲は蹴りを入れ込む。
「ぐっ!?」
意識の外から加えられた蹴り。
それは龍宮コウジの顔に苦悶の色を塗り付ける。
だが、それでも致命的なダメージとは言えない。
そんな事は紲とて分かりきっている。
受け止められた拳を手放していない。
それだけで龍宮コウジに蓄積されたダメージが如何程しかないのかが見て取れる。
「せやっ!!」
1度で駄目なら何度でも何度でも…………相手が倒れるまで徹底的に叩き続ける。
次に狙うのは男性の一番の急所――――金的だ。
「うおっ!?」
紲の狙いが分かるや、龍宮コウジは掴んでいた手を放して後ろに下がる。
如何な龍人と言えども生態系は人間と酷似している。
男女の区別もあるように弱点もまた似てくる。
男性特有の弱点を龍宮コウジも持っているのだ。
その証拠が慌てて逃げた事にある。
紲も避けられた事は予想していた。
そして何よりそれでも構わないと踏んでいた。
何故ならここは自由に動き回るには限界のある屋上というリングなのだから。
ガシャッ!! 金網が音をさせ、背中に冷たい感触があったのは直後だ。
「らあっ!!」
紲の拳が容赦なく解き放たれる。
しかしながら、それを無言で眺めていてくれる程に生易しい相手ではない。
咄嗟の事に身体を横へ投げ出させ、紲の攻撃から逃れる。
当人の拳は金網を殴り付けるだけの結果に終わる。
「見くびっていた。まさか、これほどできる奴だったとは」
龍宮コウジは理解する。
眼前の少年を甘く見過ぎていた事を。
その結果が要らぬ苦戦を強いられる結果へと結んでいる事に。
「良いだろう。新原紲」
再び紲の名前を口にする。
最初はただの意趣返しとして。
しかし、今は違う。
新原紲を改めて敵と認識しての呼び掛けだ。
「全力で以て潰すに相応しい奴として認識を改めさせてくれ」
「できるなら勘弁願いたいところなんだけどな」
油断をしてくれている方が突け込みやすい。
この上で隙を一切見せてくれないとなると骨が折れる。
泣き言は後回しだ。
どういう過程にせよ、新原紲は龍崎栄華の依頼を……否、彼女との約束を果たす。
「ふぅ…………」
大きく呼吸をし、真っ直ぐに龍宮コウジを見る。
やることは変わらない。
全力で彼を倒す――――それだけだ。
「いやさ、確かに壊すつもりではやってみたけど…………」
「ウンとも寸とも言わないとは思わなかったのです」
メイア、続けて央佳が目前にあるドアに向かって怨めしげな声を挙げる。
この場の生徒と協力してもドアが開かれる様子は全く以て無かった。
「そもそも、どうしてドアが開かないんだ?」
「妙だよな。鍵が掛かってる訳でもあるまいし」
既に諦めにも似た空気は何処かへと消え去り、前向きに部屋からの脱出法を探る。
その為にもこうして意見を交換し合ってる次第だ。
「確かにおかしいね。何だってドアは開かない?」
開かずの扉でもあるまいし、職務放棄をしているドアを忌々しげに睨み付ける。
鍵は掛かっておらず、それでもドアの開閉が不可能。
ともなると、考えられる可能性は――――
「何らかの『魔法』で開かないようになってるとか?」
そう結論に至るのは難しくない。
代表して閉じ込められた内の1人の女生徒が呟く。
「それしかないです」
もし公舎全体のドアを同様にしているのだとしたら笑えない話になってくる。
学校の構図を把握しており、尚且つ十や二十では済まない全ての扉を封殺している。
「なら、正攻法は難しいって話だね」
メイアはそう言うとドアから離れ、窓の方へと向かう。
そちらも無論ながら試したがドアと同様である。
「メイアちゃん?」
「外には誰も居ない。つまりは少人数でドアの開閉を無効にしてる」
監禁するには何てもってこいの『魔法』であろうか。
「それは窓も同じ」
窓をコンコンと叩く。
それで割れるのは紲や紗香のように熟練した技を持つ者だけだ。
「けど、この『魔法』には抜け道があると思う」
「抜け道だって?」
「そういう事ですね」
メイアの発言を聞いた瞬間にこの場の全員の注目が集まる。
自信満々に頷き、答えを導き出す。
納得したのは長い付き合いの央佳のみ。
答えを求める生徒達に次にメイアが指差したのは下、そこにあるのは…………床である。
「ちょっと、穴堀りしてみないかい?」
と、とんでもない事を言い出した。
如何でしたでしょうか?
次回は何とか早くとか思いながらも忙しくて……
気長に待って頂けると幸いです。