エースを探せ!   作:66

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感想が倍になりました。そのおかげで執筆速度も倍になりました。

あと、前回投稿時『実在の人物の名前を出すのは規約違反なのでは?』というもっともな指摘をいただきました。

私の方で運営の方に問い合わせてみたところ、名前だけならセーフらしいです。
つまり、松井稼頭央という固有名詞は使ってオーケー、松井稼頭央本人を登場人物化して作中に出すのはだめということですね。

ただし、描写内容によっては「特定の個人を攻撃するような作品の投稿や書き込み」などの他の禁止事項に該当する場合があるということらしいです。

午前2時というふざけた時間に質問して、15分後に返信ていただいた運営の方には感謝しかございません。


決着

 熱い死体蹴り。そんな風情のあるグランドスラムがセンターへ突き刺さり、珍しく神妙な顔をしながら御幸はダイヤモンドを一周した。

 

「どうした?」

 

「……お前のあとって、こんなに打ちやすいのね」

 

 成宮が死ぬほど打ててた理由がわかったわ。

 

 そうこぼす御幸の脳裏には、球種を潰された投手を打つことの容易さがあった。

 丹波は、球種が少ない。それでも決め球となる縦のカーブを持ち、カウントを取れるカーブを持つ。

 

 投手とは、一個の球種が使えなくなっただけでこれほどまで脆くなるのか。

 迎え撃つ側ではなく攻めの視線から見て、御幸は改めて絶対的な主砲の存在の有り難さを知った。

 

「それはお前の実力だろう。何でもかんでも俺に言われても、困る」

 

 いくらこないとわかっていても、選択肢を消し去るというのは、難しい。

 打撃を追求してきたからこそ、東勇輝にはその難しさがわかる。それを行える果断さも。

 

「来ないとわかって迷いを捨て去れる、自分の心の強さを誇れよ」

 

「なんというか、流石鳴の副官だな」

 

 内心、舌を巻く。自分の実力を見極めつつ、相手の美点、判断の巧みさを的確に褒める。

 王様気質な者には、これはたまらない。ピンチのときにファーストを見ていた成宮の気持ちが、なんとなくわかった。

 

「元、な」

 

「……あのさ。言いたくなかったらいいんだけど、なんでここに来たんだ? 誘われたんだろ?」

 

「いや、誘われていない」

 

 なんでもないことのように言いつつ、少し凹んでいるのがわかる。

 無表情、無感情の歩く災害。そんなイメージが、関わるに連れて変わっていく。

 

「不人気故にフリーだったから、清国に誘われて来たというわけだ」

 

「兄貴?」

 

「従兄弟」

 

 その割には顔がまったく似てねーな。

 ノーデリカシーグラサンキャッチャーはそう言いかけて、なんとなくやめた。

 

「顔似てねぇのな、その割に」

 

「そうなんだよ」

 

 ショート倉持、守ってはファインプレー、攻めてはひっそりとナイスプレーを果たした、本日の影の主役。

 ノーデリカシー神拳の使い手は、ここにも居た。

 

「清国は三重、俺は大阪生まれ。加えて俺は東へ越してきたからな。顔が変わったのだろう」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「諧謔だ」

 

 というか、呼び捨てはいいのか。そんなことを思わないでもなかったが、またも9番で攻撃が終わった。

 

「よーし、余分な備蓄は吐き出すくらいな心持ちで行こう」

 

『おう!!』

 

 バンバンとファーストグラブを叩きながら号令する東に、守備につくナイン以外のベンチメンバーすらも熱く応じる。

 

 まだまだ、試合は長かった。

 2年生ズが結城を軸にして反撃を試みれば意地でもクリーンナップに繋ぐ姿勢を見せる1年生軍団が取り返し、そして迎えた9回の裏。

 

「あ」

 

「い」

 

「う」

 

 疲れた御幸、泥だけの倉持、ズタボロの前園。

 

「おー」

 

 気のない、相変わらず眠たげな東らに見送られて、四番の一撃がライトを襲った。

 

 25-27。朝から初めて夕方に終わる試合は、2ランホームランからはじまって2ランホームランで終わった。

 

 倉持。7の5、4盗塁。内4本が内野安打。

 白州、5の4、2打点。

 東。3の3、3本塁打9打点。全出塁。

 御幸。6の3、2本塁打10打点。

 前園。7の2、1本塁打2打点。

 

「援護が足りなかった」

 

 とある巨人の名監督が優勝を逃した原因を問われたとき、得失点差ぶっちぎり1位を果たしたチームを指してこう言った。

 

『戦力が足りなかった』

 

 もちろん、笑われた。お前のところのチームが一番強かったじゃん。つまり、采配が悪いんじゃんと。

 だが、そうだろうか? つまり采配とは結果論に過ぎない。その結果論を覆せる程の、極論を言えば監督が寝てても勝てる戦力を集めなかったフロントさんサイドに問題があるのではないか?

 

 そういう面から見て、東の一言はこのチームの課題を表していた。

 失点力に比べて、圧倒的に得点力が足りないのである。投手陣が漏らすよりも早く、敵の投手陣を漏らさせなければならない。

 

「そういうことだ。俺たちが悪い」

 

「絶対にそれはおかしいと思うんだ」

 

「言い訳になるが、たぶん後攻だったら勝ってたと思う」

 

 5回4失点で降板した川上に謝って、打撃陣は整列した。ちなみに、全員出ている。理由はもちろん、守備が長くて疲れたからである。

 特に、ショートとセカンドとキャッチャーは死にかけだった。それでも倉持は最後まで守備の冴えを見せたし、打ってもいたりしたのだが。

 

「……」

 

 そして、整列を命じた片岡監督としてはものすごく複雑な心境だった。

 2年生ズが躍動した。特に努力し続けた末に光るものを見せてくれた結城が今回で完全に覚醒したのは嬉しい。

 1年生軍団も頑張った。先輩と戦うという圧倒的に不利な中、勝手に団結して食い下がり過ぎなほどに食い下がり、あと一歩のところまで追い詰めてみせた。

 

 だが、片岡鉄心は高校時代は投手だったのである。甲子園を沸かし大学でも活躍し、その傍ら教職課程を修めて母校に尽くそうと心を決めてプロからの誘いを断り、監督してやってきた。

 彼は、エースが欲しかった。絶対的なエースを、探していた。

 

(めちゃめちゃな試合だ)

 

 野球は投手のスポーツだという前提を破壊している、山賊同士の殴り合いのような世紀末的試合。

 

 斥候倉持が撹乱し、山賊の親玉東が四球で出れば敏腕参謀御幸が一掃。この繰り返しの20なんたら失点。

 だが、自分の好みではないからと言って責める気にはならない。素晴らしい顔をしてプレーしていた。学年の差など関係なく全力を出し切った野手たちを責めることなどできようもない。

 

「いい試合だった」

 

 そう。本当にいい試合だったのだ。監督としてはチームの弱点をこれでも叩きつけられて胃が痛くなるが、インファイター同士の殴り合いのような白熱の試合だった。

 

 何よりも、エラーが少ない。1年生軍団は2個、2年生ズは1個。あの長時間の間集中力を持続させることの至難さを、片岡鉄心は知っている。

 

「グラウンドの整備を終え、ストレッチを済ませたら休め。このあと検討と練習をするつもりだったが、中止する」

 

 というか、せざるを得ない。ナイター設備はあるがなんでもない時に使っていいわけではないし、なにより1年生軍団と2年生ズは疲れ切ってしまっている。

 

 解散を命じて、片岡鉄心は小走りで第一グラウンドへ向かう。

 3年生たちは部長が練習を見ている。思いの外長くなったが、すぐさま自分が見てやらねばならない。

 

 そんな熱心な監督を見送って、結城哲也は口を開いた。

 

「グラウンド整備は俺たちがやっておこう」

 

 疲れただろう。明日に備えて休むといい。

 そう言って自らトンボを持つ姿には、キャプテンシーがある。

 

「俺もやりますよ。あんまり走ってないんで」

 

 徒歩、散歩、散歩、徒歩、散歩、徒歩、散歩。まるで走っていないが、それなりに守備はしていたこの男。

 無論、体力に余裕はかなりある。

 

「俺も……」

 

「お前死ぬ程走ってくれただろ。下手しなくても明日死ぬぞ?」

 

 手を上げて参加しようとした倉持を押し止め、ちらりと御幸へと視線をやる。

 お言葉に甘えるぞーと引率していく捕手を見送ってトンボを手に取り、東はペコリと頭を下げた。

 

「ありがとうございます。気を遣っていただいて」

 

「いや、当然のことだ。負けかけたとはいえ、先輩だからな」

 

 体力も、経験も勝る。ならば、苦労も勝って出るべきだ。そんな結城哲也に――――ポジションもろかぶりの競争相手に敬意を表してもう一度頭を下げ、グラウンドを駆けて際へ行く。

 

「あんまり走ってない、か」

 

 トンボをかけはじめると、隣から油断ならなそうな声がした。

 最近、そういう声に接する機会が多い。第一号が誰かと言えば、得点圏の鬼こと御幸である。

 

「飛ばしてたもんねぇ、丹波と大沼から」

 

 目の覚めるようなホームラン。いずれも内外野全員が一歩も動かない完璧なあたり。

 

「それしか能がないもので」

 

「ふふっ」

 

 蛇の微笑みを見せながら、するりと小湊亮介は進んでいく。

 彼もまた、今日全出塁。川上が5回で降りざるを得なかったのは、彼が球数を稼いだことによる。

 

 もう少し川上が粘っていたら、2・3失点はなくなっていただろう。

 

「先輩がもう少し簡単に打ち取られてくれれば、勝ててたんですけどね」

 

「それしか能がないからね」

 

 底が見えない暗黒の笑み。よくもやってくれたなというより、投手へのストレスを打撃で発散した感じのあるダークネスな雰囲気に曖昧に頷き、東は2列目に入った。

 

「あ、投手の人」

 

「……」

 

 丹波光一郎は、無言でささーっと逃げていく。名前を覚えていなかったからか、それとも疲れていたからか。

 

「悪いやつじゃねぇんだぜ、コーハイ」

 

「ここにいる時点でそれはわかりますよ」

 

 特に疲労が溜まっているだろうに、1年の代わりにトンボをかける。誰でもできるかといえば、それは違う。

 伊佐敷純のフォローは、言わでもがななことだった。

 

「まあ、投手だからな。打たれまくった相手とすぐに話すってわけにはいかねぇよ」

 

 投手はプライドの生き物である。自分が犠牲になるとか、そういう思考を彼らは持たない。

 

 自分こそがチームを勝たせるんだ。

 自分が引っ張っていくんだ。

 

 その権化を、東勇輝は知っている。引っ越した先、その隣に蟠居していた白髪青眼のちっこい王様。

 死ぬほどわがままで、死ぬほど厄介な頼れるエース。

 

「わかります」

 

「なんだ、お前も元投手なのか?」

 

「いえ。そういうやつを知っているだけです」

 

 鳴ちゃんは、今どこで何をしているやら。

 王様気質なエースの介護に慣れきっていて気づかなかったが、最近あの無茶ぶりが懐かしく思える。

 

 稲城実業に行くのだとは聴いていた。しかし、誘われなかった。成宮が誘ったのは、瞬足巧打の確実性を重視した――――脇を固める人材ばかり。

 

 堅実に1点をとって守り抜くから、粗いスラッガータイプはいらん。

 

 そういう実質的な戦力外通告を喰らって、従兄弟からクリーンナップ組もうぜと誘われて来たこの青道。腹立たしさと高校野球への適応もあって最近全く携帯を見ていなかったが、そろそろ見てもいいかもしれない。

 

 ただ、なんで誘ってくれなかったのかとは問いたくない。なぜなら、語感からして女々しいから。

 

 いいもーん。

 一言で表すならそんな強がりで、東は黙々とトンボをかける。

 終わる頃には、とっぷりと日が暮れていた。

 

(素振り1000回やって寝よう)

 

 流石に疲れた。そして明日もまた、早い。

 一部の3年を除いた全員が爆睡する中で、空を切るバットのうるささが木霊していた。




次回時間が飛びます。
なぜかというと、私が稲実戦を5回も書けないからです。ただ、絶対に区切りのいいところまでは書くつもりです。最低2年の終わりまでですが、『前作と同じ』『ワンパターン』というツッコミもありそうなので、予定としては3年終わり(御幸世代の卒業)までやろうと思っています。

そのための時間スキップなので、許してください。なんでもはしませんが、このSSを完結させることは約束します。
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