もし氷川姉妹に兄ちゃんがいたら   作:富岡生死場

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1話あたりの文字数が減ってきているのは文章力と構成の下手さの現れ。次回は多分文字数増えそうなので今回は短めです。もっと上手く構成できるようになりたい。


肆章:『わがままの行方』

「Afterglowです、よろしく」

 

黒髪に赤のメッシュの少女が短く挨拶をする。他のメンバーは楽器の調子を確かめながら「おー!」や「いえー!」などの短い掛け声で観客を煽る。機材を触りながら片手間にマイクに向かって声を出している仕草が 大人びたかっこよさを感じさせた。

 

「ギターボーカルの美竹蘭」

「ギターの青葉モカ」

「リーダーでベースの上原ひまり」

「キーボードの羽沢つぐみ」

「ドラムの宇田川巴」

 

MCをしている黒髪のボーカルが早口に紹介する。紹介されたメンバーたちは手をあげ 観客の声援に応える。多分 時間が限られているから、なるべく早く紹介を済ませたいのだろう。かなり大雑把な、最低限の自己紹介を済ませ 演奏の準備を進めていく。

 

「今から歌う曲は、みんな聴いたことあるわけじゃないと思う。でもあえて歌わせてください」

 

ボーカルがマイクを通した力強い声で演奏する曲について説明を始める。その後ろでドラムの激しい音と、キーボード担当の手元にある機械が出す 電子音がなり始める。まるでDJのように 「ladies and gentlemen」の言葉をリズムに合わせて鳴らしていく。

 

聞き覚えのある声な気がする「ladies and gentlemen」の音と ドラムが激しくなり始め ギターやベースの音も入り始める

 

「もし、この曲を知らない人も、この曲を知ってる人も みんなで盛り上がってください」

 

だんだんと大きくなり始めた音たちが MCが終わるまで同じフレーズを繰り返す。今にも暴れだしそうな そんな空気を客席全体に拡げる。やっとこの曲がなんなのか思い出した。

 

『ladies and gentlemen』

 

電子音が流れた後、ボーカルの少女が身体をくの字に折り曲げ 精一杯の声で叫ぶ

 

「叫べ!!!」

 

 

 

 

「It's Flash!!!」

 

ボーカルの合図の後、他のバンドメンバーがいっせいに叫ぶ。その声に、圧倒された。観客全員も、多分そうだったんじゃないか。一瞬間を置いた後客席が続いて叫ぶ

 

「It's Flash!!!」

 

ボーカルと、観客も加わってより大きくなった叫びが、ライブハウス中に響く。

 

「It's it's Flash!!!」

 

 

ボーカルがさらに身体を折り曲げ 振り絞るように叫ぶ。女性だからこそ出る 高音の「Flash」のフレーズが 心地いい。観客全員を巻き込んで、バンド全員のボルテージも上がっていく。

 

神田も、満面の笑みで 叫んでいる

 

「It's Flash!!!」

 

はっきり言って1組目のバンドも凄かったが『Afterglow』は段違いだった。このわずか10秒ほどでこの盛り上がりだ、持ち時間20分を全て消化しきる頃には、どうなってしまうのだろう。

 

────やるじゃん

 

間奏の合間にボーカルの黒髪が、折り曲げてた身体を起こしながら、満足気な笑みで零す。その声でさらに観客は湧き上がる。

 

『全ては冗談だって、ホンモンかニセモンかなんて くだらねぇぜ真実なんて、ただ下り坂を猛スピードで』

 

さっきまでの荒々しさを持った、耳に残る激しさのある叫び声とはうって変わって、少し低めの 安定感のある歌声が 会場に響く。ずるいだろ、そんなエグい緩急見せられたら好きになる。

 

元々この曲は好きだった。この歌を作った「KingGnu」のボーカル 常田さんと井口さんの歌い上げるこの曲が最高にかっこよくて ロックってこんなにすげぇんだって知った曲だった。その歌を今、こんなに完璧に歌うバンドを見て 目を奪われないはずが無い。

 

『駆け抜けるんだ、振り払えんだ 思いのままに、ブレーキは折れちまってんだ』

 

 

「It's Flash!!!」

 

観客がまた一段と盛り上がる この場にいる全員の声がのった「Flash!!!」の叫び声は 俺が今までに聞いたどんな音よりも熱く、どんな声よりも美しいものに感じた。

 

「It's Flash!!!」

 

ボーカルがマイクをこちらに向け 観客だけの声の「Flash!!!」が会場を駆け回る。それを聞いたAfterglowの表情は、とても満足そうに見えた。

 

 

『密かに期待しちゃいないかい?思い通りに行きやしないぜ?やるせないね、それでも主役は誰だ?お前だろ』

 

黒髪のボーカルが 観客達を指さしながら 歌う

 

『輝けるんだ!!』

 

照明がその声に合わせて暴れ回る。

ライトを浴びて明滅するボーカルの姿が美しかった。折り曲げた体を起こしながら髪をかき分ける姿が この世の物と思えないほど綺麗だった。

 

『いつだって思いのままに!!』

 

少し曲のテンポが遅くなる。サビに向けて力を溜めているような、そんな失速だった。ドラムの音が力強く響く、黒髪のボーカルと 白髪のギターがお互いを見合い 少し笑いあっていた。

 

『間違いだらけの人生が 光を見失わせる tonight 一瞬でいい、今だけでいい 逆らって』

 

落ち着きながら激しさを持つような 高い声が鼓膜を打つ。元々この歌は2人で歌っている曲で、その2人の声のコントラストが魅力の一つなのだが。このボーカルは1人でそのコントラストを表現している。このギャップというか、緩急というか、その良い裏切りが 心を掴んで離さない。

 

『全てを求めないで 時の流れを許して この身を焦がしてでも 光放って』

 

 

 

「It's Flash!!!」

 

ただデカい声で叫ぶだけで、こんなに楽しい気分になれる。そんな会場を作りあげたこのバンドは一体なんなんだ。俺とタメか、年下ばかりが集まってこんなに凄いことをやってのけるだなんて 信じられない。

 

隣を見ると 神田と江戸川が目を見開いて ステージに釘付けになっている。このバンドが作り出す空気と一体になって バカみてぇにテンションあげて叫んでいる。本当に楽しそうだ。

 

「It's Flash!!!」

 

一生このまま時間が進まなければいいのに。そう思ってしまうほど今この瞬間が楽しい。多分、この場にいる全員が同じ気持ちで繋がっている。

 

『誰もが矛盾を抱えてんだ、翻弄され踊り踊らされ、それでも何度でも立ち上がれ。いつだって主役はお前だろ、輝けるんだ思いのままで』

 

ボーカルが 目を見開いて 観客一人一人の顔を見るように視線を観客に這わせる。まるでこの場にいる全員に問いかけるように、歌う。

 

『輝けるんだ変わらない思いのままで』

 

『歯止めは最早効かないんだ』

 

Afterglowの1曲目が終わった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

その後の2曲は俺が知らないものだったが。Afterglowのパフォーマンスは最高のものだった。会場はずっと盛り上がりっぱなし。かくいう俺もずっと手を突き上げて叫んでいた。だが、『Flash!!!』には勝るものでは無かったと思う。両方とも最高だったけど。

 

「次の曲で最後です」

 

バンドのメンバーが準備をする間、MCで次の曲を紹介する。メンバー全員がマイクの位置を調整しているさまが観客全員に期待を与えた。また『Flash!!!』の時のような。全員の叫び声が聞こえるんじゃないか。そんな期待が漂う。

 

ボーカルが持っていたギターを地面に置いた

 

「最後だけど、まだまだ行けるでしょ?」

 

ボーカルの煽りに声援で応える。

当たり前だ、と言わんばかりの 馬鹿みたいにでかい声が 客席から湧き出す

 

「ありがとう、じゃあいくよ」

『Teenager Forever』

 

曲名を聞いただけで 心臓が思いっきり締め付けられたような感覚が体を走る。決して苦しいものでは無い、身体中の血液が一瞬で血管を流れて、体温が一気に上がったような。そういう感覚が身体中に起きた。

 

『他の誰かになんてなれやしないよ、そんなのわかってるんだ』

 

ボーカルの声とギターの音だけが響く。静かな熱が 会場を覆っていくような。そんな感覚がした。

 

『明日を信じてみたいの、微かな自分を愛せなかったとしても』

 

一気に音が重なる。今までボーカルとギターだけだった音が何倍にも膨れ上がって。顔面をひっぱたかれたみたいに、目が覚める。

 

『T-t-t-t teenager forever』

 

ボーカル以外のメンバーが一斉に歌う。『Flash!!!』の時みたいな叫ぶ声じゃない、足並みを揃えた 歌声が響く。その間に、ボーカルは客席に向かって掛け声を出し 煽っていく。

 

曲名の通りの10代ならではの青い熱で会場をどんどん煽っていく。

 

『望んだ事全てが叶う訳はないよ そんなのわかってるんだ。深い傷もいずれは瘡蓋に変わって 剥がれ落ちるだろうか』

 

ステージの端から端へ歩きながら。俺たちに問いかけるみたいに落ち着いた声で歌い上げる。マイクを持っていない左手で観客を指さしながら歩くその姿がまた綺麗だった。

 

『いつまでも相変わらずつまらない話を つまらない中にどこまでも 幸せを探すよ』

 

メンバー全員で歌う、その歌詞はまるでAfterglowを表しているかのような歌詞だった。歌いながらお互いの顔を見合う姿が 10代の思い描く「青春」をそのまま映したような そんな晴れやかな表情だった。

 

『伝えたい思いは溢れているのに、伝え方がわからなくて今でも言葉を探してるんだ。遠く散っていった夢の欠片にめくるめくあなたの煌めきに気づけたらいいんだ。』

 

メンバーの演奏する音に背中を預けて歌うボーカルの少女の表情は憂いの色がひとつもない。澄み切った表情だった。神田や江戸川が揃っておすすめする訳だ。こんなに凄いやつがこの世にいるだなんて。思いもしなかった。

 

「氷川さん」

 

唐突に、神田が俺を呼んだ

神田の方を見る。こちらの目を見る神田の顔はさっきまで叫んでいたせいで全体的に赤くなっており カフェで見た時の顔とは違って興奮しているように見える

 

だが、少し様子がおかしい。

 

直感的にそう思った。それと同時に何を言いたいかも、なんのために俺の名前を呼んだのかも理解出来た。あの時日菜が俺の行動を理解出来たように、はっきりと神田の気持ちがわかったような気がした。

 

「わがまま言うのは、やめました」

 

演奏に、歌声に湧く会場の中。神田だけがこの空間から切り離されているみたいに場違いな、落ち着いた表情を浮かべていた、そして

 

 

「私、バンド辞めます」

 

神田が笑いながらそう言った

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

自転車を漕いで 家に向かう。

時刻は17時過ぎ。ライブが終わって帰り道、思い出すのはあの激しい演奏

 

ではなくて、神田のあの言葉だ。

 

───私、バンド辞めます

 

別に俺が誘導するまでもなく、日菜の約束事を果たしてしまっていた。正直時間の問題だとは思っていた。紗夜の性格だしきっとそのうち意識の差で仲違いはするだろうとは思っていたが、まさか神田から辞めると言い出すとは“実際に会ってみるまでは”思わなかった。

 

きっと、紗夜のことが嫌いになったから、バンドが嫌になったから辞めるって言い出した訳じゃないと思う。あの時俺が感じたのは、そういういい加減な理由じゃなかった。

 

多分、その逆だ。

 

神田はバンドを始めるきっかけを『紗夜の演奏を見てかっこよかったから』と言っていた。でも多分本当はちょっと違う。きっと神田は『紗夜のことが好きだった』んだろう。

 

紗夜の事を知ったのは江戸川が言ってたように高校生になった時から、そんときの印象はきっと真面目な奴みたいな感じだろう。そして去年の夏、あの場所で紗夜の演奏を聞いた。Afterglowの演奏を聞いた俺みたいに、もっと知りたいって思ったはずだ。

 

そこできっと、神田は紗夜を好きになった。

だから、『Reeves Rose』を結成した。

 

なぜそこまで言いきれるのか、だけど。

これは俺が感じた直感だけじゃない理由がある。ライブが終わったあと神田たちにバンド名の由来を聞いてみたら、「月見草」と「コデマリ」の花から来ているらしい。

 

花言葉には詳しくなかったのでその場ではあまり意味がわからなかったが、神田達と別れたあと携帯で調べてみたら すぐに出てきた。

 

月見草は「Evening primerose」

コデマリは「Reeves spirea」

これを組み合わせて『Reeves Rose』

 

紗夜の事を見て組んだバンドだから「月見草」で神田の好きな花のコデマリを合わせたっていう理由らしい。

 

月見草の花言葉は「無言の愛情」コデマリは「優雅」、「上品」そしてRose、単数形の薔薇の花言葉は「一目惚れ」多分俺の推理は間違ってないだろう

 

じゃあなんでそんなに好きだった紗夜とのバンドを辞めてしまうのか。それはきっと『Afterglow』の演奏を聞いたせいだ。

 

紗夜と一緒に『Afterglow』みたいなバンドになりたいと思ったはずだ。誰でも多分『Afterglow』のような仲のいいバンドに憧れる。神田もその例には漏れなかった。

 

だが、紗夜は違う。

あいつが求めているのは、そういう生易しいものじゃないはずだ。

 

だから、神田はバンドを辞めた

投げ出したわけじゃない

諦めたわけじゃない

 

紗夜の為を思って 身を引いたのだろう

 

───わがまま言うのは、やめました

 

『紗夜が好きだから』一緒のバンドを組みたい。でも『紗夜が好きだから』わがままを言うのをやめて、身を引く。自分が求めているものと紗夜が求めているものが違うのにいつまでもわがままに付き合わせたくないんだろう。

 

ほんとすげぇ奴ばっかりだな

 

今日はそう思ってばっかりだ。あのライブに出演してた奴らも全員凄いし、そいつらに負けないぐらい神田は勇気ある奴だし、しかもそんな神田が憧れるような紗夜は、もっとすごい。

 

 

ほんと俺はなんも出来ない奴なんだな

 

改めてそう思う。俺がした事はすげぇ奴らが頑張ってるのを見ているだけだ。日菜のおねがいも結局神田が勇気をだして決断してくれなかったら叶えてやれなかった。

 

あの日から何も変わってない。

 

 

────ほんと

 

 

 

 

「バカみたいだな、俺って」




次回予告


眩しかった


耐えきれなかった


末恐ろしく感じる


同じくらい感謝もしている


俺はあいつらの兄であり続ける





この歪な兄妹の関係のフィクサーだ


伍章︰『フィクサー』






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