もし氷川姉妹に兄ちゃんがいたら   作:富岡生死場

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2部が終わったあとの悠地の回想です。


2部︰君のまぶたがよく見える
序章︰羽化


3月の半ば、明日から長期休みに入る 少し特別な帰り道、感傷的な気分になっている今なら なんにでもネガティブな感情を宛てがえそうな気がした。

 

 

少し、自分の半生を振り返ってみる。

中学に入りたて、同時に思春期に入ってすぐの 心と体がついて行かない複雑な時期に、俺は必要以上に周りの評価を知りたがっていた。客観的なテストの点や 通知表の数字のような 形式的なものじゃない。生モノの、二人称的な評価が 知りたかった。

 

誰かに、必要とされたかった

 

これは持論なのだが『世界は想像と経験とその両方による学習』だ。自分の経験した事や、自分の想像、そしてそこから得た学習しか 体験できない。例えば、健常者からすると先天的に目が見えない人の気持ちは、本質的には理解しようが無い。

 

なぜなら、俺たちは色を知っているからだ。色を知ってしまっているから、色を知らない人の事なんて理解できない、想像と経験に無いから理解しようがない。

 

だから、それに同情して傷つく必要も無い。

 

 

何が言いたいかと言うと

知らなくていい事は知らないままいた方がいい

って事だ。触らぬ神に祟りなし でもいい。

 

その証拠が、俺だ。

 

俺の共感覚は先天的なものじゃない。周りの事が気になって、みんなの本音が知りたくて知りたくて 結果身についたのがこのどうしようもない特技だ。

 

「人と仲良くなる」ためだけに使えれば良かったのだけど。そんなに世界は甘くない。

 

中学の頃、俺たちの学校ではいじめがあった。それも1個だけじゃない、各学年で何個もあった。そしてその全ての情報が全て俺の頭に入ってきた。

 

耐えられるようなものではなかった。

 

漫画やアニメなんかでよく見る、虐められてる人を見捨てて傷ついてる少年を毎日やってるのだ。毎日その、助けを求める声を聞いて 毎日その声を無視しているのだ。

 

そうやって少しづつすり減っていた俺の心情をさらに変えたのが妹が中学に上がって その噂が俺の学校まで届いたことだ。別の中学にまで噂が広がるようなすげぇやつの兄ちゃん、これほど噂話に使いやすい格好の餌は 他に無いだろう。毎日いやでも聞かされた俺とあいつらとの差、ほんと嫌になる。

 

でも、あの時

 

日菜に『逃げないで』って言われた時、初めて誰かに必要とされたと思えた。

 

それがきっかけで、ある程度自分で共感覚を抑える事ができた。ON/OFFを切り替えるなんて器用な事は出来なかったけど、ずっとOFFにするぐらいのコントロールはできるようになっていた。

 

 

それからしばらくは、知らなくていい事も知らなくて済んだ、自分の想像と経験とその学習の外の世界から 傷つくことも無かった。

 

 

高校1年の『彼女』との事件が、あるまでは。

 

 

日菜と紗夜が少しづつ、今までの空白を埋めていくように。俺と『彼女』の再会は、俺の人生をどう変えていくのだろうか。

 

 

これから起きるのは紗夜の新しいバンドの物語

そして、俺と『彼女』の物語だ。

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