私は…誰…?
ここは、どこ…今は、いつ…?

私は、全てを忘れてしまった。
ナニモカモ。
私は、私で有り続ける。
私は決して、ワタシじゃないから。


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いやっはぁー!!
今日は何の日だぁ!!?
そう、417の日だぁー!!!

すみませんでした。以後このような発狂を起こさないよう、努力していきます。

というわけで、今回は予告通り…記憶喪失モノでーす。
結構話がごちゃごちゃして、ガクガクなんで…分かりにくいっていうか、曖昧な感じなんですけど。
記憶喪失になっても、めがほむにはならなかった理由については聞かないでくらさい。
だってぇ…ほとんど書き終わってから気づいたんですから…。
あれ…記憶ないんなら、めがほむになるんじゃね…?
あっ…。

って。

さーて!
そんなごちゃごちゃ話…頑張って読んでください!
どうぞ!


ある日喪ったもの、取り戻すために

「ほむらちゃーん!帰ろー!」

「あら、まどか。少し待っていて。直ぐに支度してしまうから。」

このときの私は…浮かれていた。

久々の、まどかとの二人きりに。

だから、だろうか。

 

私は、魔女に敗北したーー

 

 

「あれ…私、こんなところでなにしてるの…?」

「わぁっ…血…!?じ、銃…!?」

私は訳が分からなくて、怖くて、真っ白になって、銃を投げ捨てる。

手には真っ赤な血。

殺人でもしてしまったのか。

どうしようと考えるばかりで何もできない私は、訳の分からない格好をしていることに気がついた。

「な、なにこれ…。なんなの、これ…?」

本当に何もかもが分からなくなって、漠然とした不安に駆られる。

そんな気持ちに呼応するように、冷たい雨が一つ、二つ。

いつしかその雨は、恐ろしいくらいに痛みという感覚を私に伝えてくる。

そんな雨にさえ、私の気持ちは負けることはなかった。

恐怖、不安、そんなものばかり。

自分がなんなのか?この血は?あの銃は?

ここは何処?今は何時?

私は…誰…?

その場に崩れ込んで、ただ泣くしかできない私に声を掛けたものがいた。

 

「あれ、ほむらじゃん。どうしたの、こんなところで…傘もささないで…風邪、ひくよ?」

青い髪の少女。

どことなくボーイッシュで、フォルテッシモを象った髪飾りが嫌に既視感を覚えさせる。

差し出された手を、困惑しながらも掴む。

そして…私の名前は…ほむ、ら…?

ほむら。

ほむら。

ほむら。

…。

「あ、ありがとう…。」

私はそんなことで頭をフル稼働させていて、そんな言葉しか紡ぐ事はできなかった。

「ふむ、素直でよろしい。ごめんね、まどかじゃなくてさ。狭いかもしれないけど、あたしとの相合い傘で我慢してねー?」

青い髪の少女は、どこかおどけたように…いや、からかったように私に言う。

しかし、そんなことはどうでもいい…。

まどか…。

聞き覚えがある響き…。

私の頭で、何かが音を立てる。

重くて、大きな歯車が…。

「ほむらー?どうしたの?」

「あ、いえ…なん、でも…。」

「…なら、いいけどさ。」

「ほむらは、よく悩みを自分の中に閉じ込めちゃうからさ。誰にも頼らないって、自分勝手だよ、ホントさ。」

少女は私に優しく微笑んでみせる。

どこか不思議な魅力と、魔力。

「ほむら…ホントに大丈夫?さっきから、ぼーっとしてるけど…。」

「え?え、ええ…問題、ないわ。」

見つめていた彼女の瞳に映る自分を見つめていた。

そこに映ったのは、どこまでも情けなくて頼りない、一人の少女だった。

青い髪の少女に、心配されながらも私は歩いた。

頭の中で色んな事が浮かんで消えて、浮かんで消えて。

そもそも、一緒に並んで相合い傘をしているこの少女の名前一つ知らない。

当たり前だ、さっきまで自分の名前すら知らなかったのだから。

ただ一つ、輝いているものがある。

まどか。

その響きだけ。

まどか、まどか、まどか。

きっと、誰かの名前だろう。

その人は、どんな人なのか。

どんな姿で、どんな声で。

ただ一つ、わかることがある。

きっと、その人は…素敵な人なんだろう。

私には、そう思えて仕方がない。

なぜだろう、確証もないのに。

ただただ、そう思うしかない。そう思うしか。

「ほら、ついたよ。もー…あんまり無茶してると、まどかが怒るぞー?そんじゃ、また明日!」

青い髪の少女が手を振る。

私もただ機械的に、手を振り返す。

彼女に会えてよかった。

会えなかったら、この酷い雨の中で私は家も、名前も、友人も…何もかもを喪ったまま、この街を彷徨うことになっていただろう。

そうなれば、補導されるだろうし、通報だってされる。

もし、さっきの拳銃について問い詰められたら私はなんと答えればいいのか。

私に呼びかけても、応えはない。

暁美ほむら、そう書かれた表札を一瞥し、ポケットを漁る。

鍵を無事に見つけ、開ける。

しかし、その先に入ることが何だか恐ろしくて、ドアノブを握ってしばらくそのまま。

でも、進むことでなにか分かるかもしれない。

そう思って、進むことにした。

 

扉の先にあったのは、無機質な部屋。

とても、少女のものとは思えない部屋。

言ってしまえば、仕事にしか興味を持てないサラリーマンの部屋。

しかし、キッチンはやけに充実していて、可愛らしい食器もいくつか。

ただ、おかしい点がいくつか。

私の家族はどこなのか。

先程の表札から考えるに、一人暮らしなのか。

…。

だが、それはそれで新しい問題を生む。

ここには、食器が二人分。

箸だけじゃない、お茶碗も、お皿も、マグカップも。

明らかに、他人の痕跡。

冷蔵庫を見てみれば、沢山の食材が詰まっていた。

そのうちのチョコレートに、可愛らしいメモ。

【これはまどかのです!食べないでね、ほむらちゃん!】

まどか。

…まどか?

何故、ここにまどかの名が?

まさか、二人で暮らしているのではあるまいか。

そう思った私は、家中を駆け回った。

寝室、浴室、お手洗い、ベランダ。

すべてに人らしき影はなかった。

そもそも、誰かがいたとすれば、声の一つ二つくらいかけるものだ。

かけてこなかったということは、そういうこと。

あまりの衝撃に、我を忘れていた私が恥ずかしい。

「はぁー…。なんなのよ、本当に…。」

雨に打たれていた頃と比べると幾分落ち着いた私は、棚にあったインスタントコーヒーを淹れて、ソファに腰掛けていた。

今ある情報を、纏めてみよう。

まどか。

それはきっと、誰かの名。

あの青い髪の少女の発言から察するに、私との交流も深いよう。…冷蔵庫に入ってるくらいには。

そして、その青い髪の少女。

きっと、まどか…ではない。

もし彼女がまどかだと仮定すると、矛盾が生じるから。

そして、私は…暁美ほむら。

手には血がべっとりとついていて、拳銃を握って、不思議な格好で倒れていた。

いつの間にか格好は変わって、制服らしきものになっていたけど。

今わかるのは、これだけ。

私はなにか書くものはないかと、ポケットを漁る。

そうすると、いやに機械的な感触。

手にとってみると、スマートフォンだった。

そうか、スマートフォン。

この中に、私が何者なのか、まどかとは誰なのか、あの青い髪の少女は誰なのか…。

そして、あの拳銃は。衣装は。

分かるかもしれない。

そんな、期待とも言えるし、恐怖とも言える、不安定な感情を胸に、スマートフォンの電源を入れる。

あれだけの雨に打たれたというのに、特に問題なく稼働するスマートフォンに感激しつつ、ロックを開こうとする。

しかし、パスワードが掛かっていた。

…パスワードなんて、覚えてない。

そう悩んでいると、スマートフォンが震えた。

なにかと見れば、顔認識の三文字。

そうか、中々できるじゃない、暁美ほむらは。

そんなふうに、今度は暁美ほむらに感激しつつ、ロックを開く。

ロック画面はなんてことない画像だったが、開いても無機質な画面。

私は何から手をつけたものかと、指先をアプリのアイコンの前でクルクルと回す。

とりあえず、写真を見ることにした。

フォルダを開けば、かなりの画像が入っていた。

何故か一昨日の写真はあの青い髪の少女と、私のツーショットばかり。

私はそれをスクロールし、別の画像を探す。

食べ物、猫、風景…。

そんな写真ばかりを流していき、ふと見た、ある画像に目が留まる。

それは、ツーショットの写真。

私と…ピンクの髪の、可憐な少女。

私らしき人物が、ピンクの髪の少女に抱きつかれて、赤面しているところ。

きっと、誰かに撮られたのだろう、次の写真は私が抗議をしている写真だ。

そんな私を笑顔で見つめる、少女。

なんてことない、日常。

きっと、これが私。

そう、あんな物騒なものなんて存在しない…ただの、少女。

そうであってほしい、いや、そうでなければいけないのだ。

それが、当たり前なのだから。

そして…私は確信する。

彼女…この、ピンクの髪の少女こそが、まどかなのだと。

なぜ、と聞かれれば答えることはできないし、どうして、と聞かれたって答えられない。

ただ、あえて言うならば…勘、ってやつかしらね。

そう、私よりも私をよく知っている私の中の何かがそう言っている。

なんとなく、分かる。

この魅力的な少女は、まどかであると。

まどかという響きだけが、一致する。

ただ、一致しただけで、彼女がどのような人かは分からないのだが。

もう要はない、写真のアプリを閉じ、SNSのメールアプリを開く。

そこには、友達、と表示された人が何人か。

まどか…さやか…マミさん…仁美…中沢君…。

片手で数えられるくらいの量。

そして、グループにも所属していた。

まず、22HRと書かれたグループ。

そして、さやかと愉快な仲間たちという、訳の分からないグループ。

だが、それ以上に笑ってしまいそうなグループが。

魔法少女。

なんだ、私はそんな、マジカルでコミカルでアホらしい人物だったのか。

22HRというのだから、もう中学か高校だろう。

いい歳をして、アニメで盛り上がっているなど、恥ずかしい。

どんな顔で明日学校に…。

学校…?

学校って、どこにあるの…?

そもそも、どこに通ってるの…?

…。

万事休す、ね…。

ここでこの友達に、私ってどこの学校に通ってた?その学校ってどこ?なんて聞くわけにもいかない。

そんな事をすれば、怪しまれるだろう。

…いや…私が記憶喪失である事を、隠す必要はあるのか?

このまま一人で抱え込んでしまうより、誰かに話してしまえばいいのではないか。

それに、学校すら覚えていないのだ、いつかバレる。

誰に話したものか…。

まどか…は、頼りになりそうだが…。

いや、先程の青い髪の少女…ここから示しだされる名前は…さやか。

さやかと思われる少女に相談するのがベストかもしれない。

幸い、彼女との面識はある。

どんな人物かくらいは掴んだつもり。

勘よりも、経験を宛にしなければ。

 

メールでは、ふざけていると思われるかもしれない。

だから、電話をすることにした。

三回、コール音。

コール音が止まり、声が聞こえる。

『もしもしー?どしたの、ほむらー?』

間違いない、先程の青い髪の少女だ。

さやか、それが彼女の名。

「あ、あの…さ、さやか、さん?」

『さ、さやか…さん?さん付けなんて、珍しい…なんかあったの?』

「あ、いえ…その…。笑わないで、聞いてほしいの。」

『はぁ…。』

「…私、記憶喪失…みたいなの…。」

『ふーん…きおくそ…はぁ!?記憶喪失!?な、何言ってんの、今日はエイプリルフールじゃないよ!?』

「そんなこと知ってるわよ…。」

『あっはは…ジョークが上手くなったねぇ、ほむらはさ…はは、は…。』

「…。」

『…マジか…。じゃ、じゃあ!あたしの名前は覚えてるじゃん!なんで!?』

「さっき、スマホで確認したのよ…。あなたと…まどかっていう人と、マミさん、杏子…仁美、中沢君…だったかしら…。」

『その言い方だと、ホントに忘れちゃったんだね…。』

「残念だけど…。ところで!この、魔法少女?ってグループは何なのよ!?私、そんな馬鹿げた人だったの!?」

『…あちゃー…。そっからかぁ…。』

「はぁ…?」

『あー…とりあえず、話すよ。魔法少女っていうのは…』

 

 

 

「そ、そんな…嘘よ、私、え?」

私は、その場から動くことができなかった。

ショックで、スマートフォンを落としそうになる。

『…信じられないかもしれないけど、これが真実。』

さやかは、全ての真実を話した。…魔法少女の。

「じゃ、じゃあ…私は…いつか、化け物になって…誰かを、殺すってこと…?」

『…うん。』

「わけわかんないわよ…そんなこといきなり言われたって…。」

『ごめん、いきなりこんなこと言って…。でも、記憶が無くてもほむらはほむらだから…。こういう事は知っておかないといけないって思ったから…。』

『そうだ、ソウルジェムは大丈夫?』

私は、人差し指にはめている指輪に念じる。

そこから現れた綺麗な宝石は、輝いていた。

「大丈夫…みたいだけど…。」

『それならよかった…。…それで、これからどうするつもり?』

「どうするって…なにも考えてないけど…。」

『はぁ…?あんたね、記憶失ったまま生きてけるわけないでしょ。なんとかしないと。』

「そんなこと言ったって…私、どこの学校に通ってるかもわからないし、どこにあるのかすら分からないのよ?というか、ここはなんていう街なの?」

『…そこまで忘れてるなんて…なんでこの街にいるかすらも忘れてるのか…。』

『分かった、とりあえず話すよ。この街にいる理由とか、学校とか。明日は、あたしが迎えに行くから、ね?』

「ありがとう、さやかさん…あなたがいなければ、私は…」

『あーもう!さん付けはやめて!なんか背中がムズムズするから!』

「ご、ごめんなさい…。じゃあ、さやか…でいいの?」

『うんうん!それがいいよ。ていうか、それ以外は無理。それに、元の呼び方に戻すことで、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないからね。』

「そうね…。ところで…聞きたいことがあるんだけど。」

『何でもどうぞ?』

「まどか…って、どんな人なの?あなたが口に出したときから気になっていて…。」

『あっちゃー…そういえば、全部忘れてるんだっけ…。やばい…明日まどかになんて言ったら…。』

さやかは頭を抱えてどうしたものか、そんなふうに話す。

「まどかにこの事が知られるとなにか問題でも?」

『大アリだよ!』

スマートフォンから響く怒鳴り声に、顔をしかめる。

「どうして?」

『…驚いたり、ショックを受けるかもしれないけど…とにかく聞いて。』

『まどかはね…あんたの、恋人だよ。』

「…は?」

『…。』

「はぁぁぁぁ!!?」

『うるさい!』

「だ、な、はぁ!?ま、まどかって…女の子…よね…!?男の娘…的な…?」

『ううん、間違いなく女だね、まどかは。おち○ち○ついてないし。』

「なっ…。ごほん!それならますますおかしいじゃない!」

『なんで?』

「だって…私もまどかも、女の子なのよ!?それって…それって…!」

『…まぁ、そういうことだね。』

「嘘…。嘘よぉ…。」

まさか、自分が…そ、その…レズ…だとは思わなかった…。

魔法少女っていうだけでもかなりのショックだったのに。

『おーい?ほーむらー?ダイジョーブですかー?』

「…はっ!?え、ええ!もちろんよ、ええ!」

『…ショック、だよね。』

「へっ…?」

さやかの予想外の返答に、素っ頓狂な声が出る。

『自分がレズビアンだってこと。まどかの親友のあたしだって、まどかがそういう趣味の人って分かってショックだったもん。本人なら尚更ね。』

『…でもね、あたしがそのことを詰め寄ったら…まどかは、泣いちゃったんだ。』

「泣いた…?」

『うん…。さやかちゃんが否定したって、誰が否定したって、私はほむらちゃんのことが大好きなの、その想いを捨てることなんてできないー、ってね。』

『あたしは分かったんだ、その時。この子は、本気なんだって。』

『どんなに辛いことがあっても負けたりなんかしない、そんな眼だった…。』

「…。」

『…だから、ほむらも。レズだからー、とかは気にしないでほしいんだ。まどかのことが好き、それだけだっただけだから。』

「…ええ、そうね。」

 

「ふぅー…。」

彼女と話すことで、殆どを理解することができた。

私が何者であって、私を取り巻く環境がどのようなものか。

拳銃の謎、それも掴むことができた。

何故記憶を失ったのかは分からないが。

ともかく、明日を待とう。

一人ではなにもできない。

 

 

 

 

 

 

次の日。

私が支度を済ませ、待っていると。

チャイムが鳴る。

きっと、彼女だろう。

ドアを開ければ、案の定の青髪。

「やっほー、ほむら!」

「…おはよう、さやか。」

「テンションひっくいなー…。」

「朝からテンション高いほうがおかしいの。」

「あ、さいですか…。…んじゃ、行きますか!」

「ええ…。」

 

「あ、そうだ…。あたし今日、日直だ…やっべぇ…。」

「ごめん、ほむら!このまま真っ直ぐ行けば、まどかがいるはずだから!後はまどかに聞いて!ヨロシク!」

さやかは駆けて行ってしまう。

「あ、ちょっと!」

…自分勝手ね…。

 

 

私はさやかに言われたとおり、真っ直ぐ歩いていく。

緑が生い茂りつつも、どこか都会らしさを残す、絶妙な道にやや感激しつつ。

そんな中、携帯を見てソワソワしている桃色の髪の少女を発見する。

「あなたが…まどか、ね?」

「…え?」

「私のクラスメイトで、隣の席で…恋人の、鹿目まどか?」

「う、うん…?」

「これからよろしくね、まどか。」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「え?」

「どうしちゃったの、ほむらちゃん!?そんな、初めましての人と喋るみたいだよ!?」

「え?だって、この私とは初めましてじゃ…」

「え?」

「…もしかして…さやかから、話は聞いてない?」

「さ、さやかちゃん?ううん、なにも…。」

「…あのバカ…。」

「えー…と…?」

「ふぅー…。あのね、まどか。私ね、実は…。」

「記憶喪失…みたいなの。」

「…へ?」

「私は私が誰か知らなかったし、あなたが誰かも分からなかった。昨日までね。ここがどこだか、いつなのか、どんな場所なのかも。」

「もちろん、あなたが恋人だってことも…ね。」

「…!!」

その瞬間、私は見逃さなかった。

まどかの瞳の奥に、失望の光が浮かんだこと。

私は悟った。

彼女は、私を見ていない。

私ではない私を見ているのだと。

恋人である、私を。

そして、重ねたのだ。私と。

その結果彼女は、失望した。それだけ。

ただ、それだけのはずなのに私の胸は締め付けられる。

どうにもならない悔しさと、哀しさが浮かぶ。

まどかは優しさから、直ぐに表情を繕った。

偽りの、笑顔。

あくまで私を拒む、その表情。

私には笑顔に見えなかった。

「…そっか、そうなんだ。」

「じゃあ、私も手伝うよ。」

「え…?」

「記憶。取りもさないと、いけないでしょ?」

私は、揺れた。

否定されたから。

私を取り戻すために、私を消す。

彼女は、笑顔でそう言ったのだ。

「…そ、そうね。」

私は、まどかに否定された。

私が存在することを。

私ではない、私が存在することを。

 

 

私は…存在してはいけない…?

ソウ、ワタシハソンザイシテハイケナイ。

彼女の隣にいるべきではない…?

ソウ、ワタシニハソノシカクハナイ。

 

 

「…。」

まどかとはひとまず別れ、校内を歩いてみる。

なにか掴めるのではないか、そう思って。

でも、それは無意味だ、そう分かる。

なぜなら、私はなにも考えていないからだ。

いや、考えることを放棄している。

考えることが、いつしか彼女に繋がる。

そこまで繋がってしまえば、私の存在意義に直結する。

 

考えたくない、私を。

考えたくない、私の本当の私。

考えたくない。

考えたくないと思えば思うほど、考える。

それが人間なのだ。

 

私は、走り出していた。

先生の呼び止める声すら無視して、ひたすらに。

なにも考えてない、だから走る。

走ることで、考えることを放棄する。

できるわけはないのに。

瞼には雨が降る。

いつしか決壊して、溢れ出す。

私も限界で、その場に倒れ込む。

辺りには生徒が集まって私を取り囲む。

その声はどれも私を心配する声ばかりで。

その中に、確かに聞こえた。

彼女、鹿目まどかの声。

人混みを必死に掻き分けてこちらに来る、そう、彼女が。

「大丈夫!?もう、何してるの、ほむらちゃん!」

大声で言われ、私は差し出された手を素直に掴む。

「ごめんなさい、通してください…。」

彼女は私の手を強く握り、進んでいく。

少し人混みから離れたところで、私はまどかに問い詰められる。

「もう!心配したんだよ、ほむらちゃんが倒れてるって聞いて!」

ずい、と指さしながら私を叱る。

「ごめんなさい、まどか。」

「…はぁ。どうしたの、走るなんてことして…。」

「…なにか、思い出せる気がしたから。」

私は白々しくそう言う。

しかし、鹿目まどかは信じたようで。

「…そっか。それで、なにか思い出せた?」

「いいえ、なにも。」

当たり前だ、思い出す気なんてこれっぽっちも持ち合わせてないのだから。

「…うん、仕方ないね。時間を掛けて、ゆっくり思い出せばいいと思うよ、うん。」

期待の言葉とは裏腹に、焦り、失望の声。

顔は私の胸に埋めていて見えないが、想像できる。

彼女は、笑っていない。

私という存在によって、笑えていない。

私はそれが悔しくて、憎くて、嫌で嫌で。

まどかを突き飛ばす。

「わっ…!?ほ、ほむらちゃん…?」

「…馴れ馴れしくしないで。私とあなたは…恋人じゃないのよ?」

そう、私は恋人ではないのだ。

彼女の恋人は、暁美ほむら。

たった一人なのだ。

「なっ…う…それは…。」

鹿目まどかは何かを言いかけ、俯いてしまった。

「当たり前よね、私は…暁美ほむら、じゃないんだから。」

「…ちが…」

「いいの、気を使わなくて。あなたは…私のことを見てない。私じゃない私を見てる。」

「恋人だった、私を見てる。私をその私に重ねてる。重ねて、勝手に失望してる。恋人じゃない私に。」

「…。」

鹿目まどかは、私を見つめる。

何故?

何故、わかるの?

と、私に問いかける。

「なんだってわかるわ、あなたの目は正直ですもの。誰よりも、何よりも。」

「…ほむらちゃ…。」

手を伸ばす。

私はそれを…避ける。

鹿目まどかの瞳は悲しみに歪み、涙を溢れさせる。

私は、止めたいとは思わなかった。その涙を。

止める必要がない、そんなふう。

「…さようなら、鹿目まどか。次に会える私が、私であるといいわね?」

私はそんな皮肉を吐き捨て、まどかの前を去る。

彼女を見ないように、聞かないように。

私は、怖かった。

 

あれだけの事をしておいて、私は…恐怖していたのだ。

彼女が、私を私としてみていないことが。

その事実は、私によって証明された。

そして、それを再認識したくなかった。

彼女の涙が、声が、目が。

全て、証拠なのだ。

私はそんな証拠を認識することを放棄した。

放棄せざるを得なかった。

そう、その時は。あくまで。

それ以外の選択肢なんてないし、あってはいけない。少なくとも、私にとっては。

そう、あれはベストなのだ。

 

 

 

「ほむら、入るよ。」

私が家で寛いでいると、さやかが問答無用、といったふうに駆け込んでくる。

私を見つけるやいなや、胸倉を掴み、私を壁に叩きつける。

「あんたねぇ、記憶がないからって、まどかにあったんだって!?」

「…あたった?勘違いじゃないかしら。私は、事実を告げたまでよ、彼女にね。」

そう、事実をね。

「あんた…最低だよ、ホントにさ!」

「何が?私は、正しいことをしたの。彼女が傷つかないように、私が傷つかないように。」

そうよ、正しいことなのよ。

記憶がない私にとっては、少なくとも。

「…自覚ないわけ?」

「自覚もなにも…。」

「恋人に!記憶がないとはいえ、振られたんだよ!?突き飛ばされて、手を触れることも許されなくて!」

「あんたに、どれだけの苦痛かわかるの!?」

「わかるわけないじゃない、何を言ってるの?」

「開き直って…!」

「当たり前よね、だって私には記憶がないんだもの。恋人がいたなんて記憶は。」

そう、記憶がないから。

そんな苦痛を感じる記憶なんて、存在しないから。

「…!」

「私は何も知らない。昔の私も知らないし、本当の私も知らない。ましてや、恋人のことなんてもっと知らない。あなたのこともね。」

そう、私は知らない。

ナニモカモ。

「…っ。」

「…そうね、記憶を失ったことのないあなた達には分からない。私の苦しみなんて。」

理解されてたまるものか、私の苦しみを。

ナニモシラナイクセニ。

「は…?」

「あなたに分かる?全てを忘れて、自分が誰かすら分からない、そんな恐怖が?何も知らない恐怖が?」

呑まれていく、恐怖に。

ワカルワケガナイ。

「…それは。」

「まだまだあるわ。そう、鹿目まどかのこと。彼女は、私を見ていないのよ。」

見ているのは、私じゃない。

ワタシヲミテイルノヨ。

「何言って…」

「正確には…私ではない私を見てるの、あの子はね。」

「記憶があって、彼女の事を愛してる私を。」

「…!」

「たまらなく悔しくなるわよ。なんで、私を見てくれないのかって。」

「あの子にとっての暁美ほむらっていうのは、記憶を持った私であって、彼女の前に確かに存在する私じゃない。」

「それが、どれだけ悲しいか、あなたにわかる?」

否定された悲しみが分かる?

ワカッテタマルモノカ。

「あなたは言ったわよね、記憶を取り戻せって。鹿目まどかもそう言ったわ。」

「でもそれって、私を否定してることだって思わない?」

私の存在意義って、なんなのかしらね。

ワタシハ、ココニイテハイケナイ。

「…!!」

「確かに、過去の私を取り戻せば、皆幸せかもしれない。でもね。」

 

「そこに、私は…いない。私という、暁美ほむらは。」

 

「それが、どれだけ辛くて、恐ろしくて、怖いのか…あなたにわかるかしら?」

「あなたは…あなた達は何もわかってない。本当の辛さを、苦しみを。」

苦しみは、広がっていく。

ワカルハズモナイ、クルシミナンテ。

「…ああ、あたしは何もわからないよ。全部ね。」

「でもね!あたしが知ってるほむらは…そんなやつじゃない…。」

「…なんとでも言えばいい。私は…私として生きるわ。あの暁美ほむらとは違う、私になってね。」

「当たり前じゃない、私だって一人の人間だもの。」

「…はぁ…殴り込んできたはいいけど、こう言い負かされると…。辛いね…。」

さやかはそう言って、私の胸から手を離す。

「あら…随分と簡単に離すのね…。」

「うん…。悔しいし、まだ怒りはおさまらないけどさ。」

「あたし、まどかのこととか、昔のあんたのことばっか考えててさ、今のほむらのこと…なんにも考えてないなって、情けなくなって。」

「今、目の前にいるほむらだって、一人の人間で、あたしの知ってるほむらとは考え方だって違うことすら考えなかった。」

「そんなあたしに、ほむらを責める権利なんてないって、そう思っただけだよ。」

「…そう。」

「でも、諦めたわけじゃないから。あんたの記憶、元に戻すこと。」

「…勝手にすればいいわ。」

「そうさせてもらうよ。…あたしは、失くしたものは取り戻さないと落ち着かない質だからね。」

さやかは私を一瞥し、出ていった。

その眼は、強かった。

決意と覚悟に満ち溢れていて、勇敢だった。

私とは、真逆ね。

彼女はこの現状を、打破しようとしている。

私は、この現状を、維持しようとしている。

いつか激突することくらい、目に見えてわかる。

しかし、この決定権は私にあるはずなのだ。

私にもあるし、ワタシにもある。

彼女たちには、関係がないはずなのだ、私のことなど。

 

そう、私は…あなた達の知っている暁美ほむらではないのだから。

 

 

次の日。

アラームが耳障りな高音を鳴らす。

私はその音に辟易しつつ、身を起こす。

幸いにも、今日は土曜日。

今日明日は、休むことができる。

学校というのは、疲れるものだ。

周りに自身の事を悟らせないよう、愛想笑い。

無意味とも思える数学の計算を、過去の私のノートを頼りに解くこと。

…彼女と、話すこと。

全てが苦痛でしかなかった。

僅かな間でもそれから解放されると思うと、肩の力を抜くことができるというわけだ。

そんなこんなで、私が朝食の準備をしようとしたときだった。

玄関のチャイムがなる。

来客を告げるその音に、反射的に玄関に。

「はーい…どなたで…」

小窓から、相手が誰かも確認することなくドアを開くと…。

「ほ、ほむらちゃん、おはよう!」

私は硬直した。

目の前の彼女に。

なぜ、ここに?

「…えへへ、来ちゃった。」

私が暫く動けないでいると、彼女は私を押すように中に入っていく。

「ちょ、ちょっと!あなた、なにして…」

「いいから、いいから!」

小柄な身体からは想像できない力で、私は奥へ奥へ。

「ふーん…目玉焼きかぁ…。さってと!」

彼女はまるで、自宅のように部屋と部屋を歩き回る。

いつの間にかエプロンまでつけてしまって、冷蔵庫を漁っている。

「ちょっと!なにしてるの、鹿目まどか!」

彼女は一度ピク、と震えてからこう答えた。

「まどか!」

「へ…?」

「フルネームじゃなくて、名前で呼んでよ!」

「…何故?その必要を感じないのだけど。」

「だって、私がそうしてほしいんだもん。それだけだよ。」

彼女は戸惑う様子一つ見せず、淡々と答えてみせる。

私にはその姿がなんだか不思議に映った。

…何故だろう、惹かれる。

少しだけ、気持ちが軽くなった、そんな気が。

だから、なのかしら。

「…そう。…まどか。」

「…!なぁに、ほむらちゃん?」

「いえ、なんでも…。」

私は、甘いのだろうか。

 

「できましたー!」

まどかは手早く料理を作ってみせた。

それはなんとも言い難い、魅力に満ち溢れていた。

私の中のワタシ…のようなものが、食べたいと言っている。

私は手を伸ばしかけ、見つめられていることに気がつく。

「…あ。…えっと。」

いたたまれない気持ちになり、私はそっと手を引っ込める。

まどかはそんな私を見て、クスリと笑った。

「いただきまーす。」

まどかは私をおいて食べ始めてしまう。

私はどうしたらいいのか分からなくなってしまって、どうにもならない。

「…食べないの?」

まどかの不安そうで、どこか陰のある声に、はっとなる。

「い、いえ!そういうわけじゃ…!」

何故か、彼女の表情が気になる。

笑顔でいてほしい、そう思う。

声も、明るい彼女らしいものであってほしいと。

何故?

問いかけても応えは返ってこない。

相変わらず、喪われたまま。

私にできるのは、目の前の料理を食べること。たったそれだけ。

それ以外は、赦されなかった。

 

「ごちそうさまでした!じゃあ、片付けしちゃうね!」

まどかは私の食器と自分の食器を運んで、机を布巾で拭いて。

忙しなく動き回る彼女が、とても馴染んでいることに今更気がつく。

はっ、となり、追い出さなければと思う。

思うだけで、何もできないのだが。

そんな自分が情けなくて、溜息一つ。

肝心の彼女といえば、鼻歌交じりに食器洗い。

私の憂鬱など露知らず。

そんな彼女に向けて、もう一度、溜息を送った。

 

「さってと…片付け終了ー!何しよっか?」

まどかは私がやるべき家事を全て代わりにやって見せた。

その手慣れた手つきに驚くことしかできなかった。

驚いていただけで、手伝いすらしなかったが。

「…まどか。」

「なぁに?」

「どうして…ここに来たの?」

私は気になっていて、聞けなかった事を問う。

なぜか、今なら聞ける気がしたのだ。

「…恋人…だからかな。」

彼女の口から出たその言葉に、笑いそうにも、泣きそうにも、怒りそうにもなる。

「だからっ…私とあなたは…!」

「それでも、だよ。」

まどかの瞳は、私を映していた。

はっきりと、曇り一つなく。

そのあまりにも勇敢な眼差しに、映る私の顔は強ばる。

なにをしているか、暁美ほむら。

私は、私であり続けなければならないのだ。

ワタシであっては、いけないのだ。

「…っ。あのね、まどか。私は、あなたの愛した暁美ほむらじゃないの。全く別者よ、私は。」

「分かってるよ、そんなことくらい。」

「なら…」

「でもね、おんなじなの。」

「はぁ…?」

まどかの、あまりにも漠然とした言葉に呆れる。

「その私を見てる瞳も、不器用なところも、本当は優しいところとか。違うようで、根っこはおんなじだよ。」

「…根っこ、ね…。私には、その根っこはないの、わかる?」

「そんなわけないよ、あるに決まってるよ。」

「私には、記憶がない。本来、ヒトの根っことなるべき記憶がね。それも…全て。つまり私という人間を突き詰めていけば、無に辿り着くの。」

「…それでも、あるんだよ。根っこは。」

分からない子ね…。

いつもいつも、この子は…。

あの時だって…。

 

あの、時…?

あの時って、いつのこと…?

なにが、あったとき…?

 

頭が揺さぶられる。

大きな歯車が動き出す。

それに連動するように周りの歯車が動き出す。

しかし、歯車の間には小さな棒が引っかかっている。

あと一歩のところで、歯車は停止する。

 

「…はっ…!?」

「…ほむら…ちゃん…?」

「あ…いえ、なん…でもない…わ。」

いきなり、現実に引き戻された。

彼女の、不安げな瞳。

それは間違いなく、私に向けられたものだった。

それがなんだか嬉しくて。

つい、口元が緩んでしまった。

まどかはそれを見逃さず、首を傾げる。

わかるわけあるまい。

彼女はいつもいつも、ワタシばかりを見ていたのだから。

「…変なほむらちゃん。」

まどかは、もの言いたげな目をしている。

私はそんなまどかをスルー。

これ以上議論を重ねる気もなくなってしまった。

私は降参、といわんばかりに肩をすくめる。

まどかはそんな私をもう一度見つめて、優しく笑った。

 

「えっへへ…。えへ、えへへ…。」

「…ま、まどか…?」

「えへへ…なぁに…?」

「い、いえ…。」

「えへ…へへ…。」

まどかの様子がおかしい。

なぜだろうか。

…いや、一つしか原因はない。

私が、まどかを膝枕しているからだ。

しかし、これにも訳がある。

流石に家事を全てやらせて、何もしないわけにはいかない。

ということで、なにかしてほしいことはないか、と聞いたところ…。

「膝枕!!」

と、叫んだのだ。

その時のまどかは、先程とは違えど、曇一つない、澄み切っていて、勇敢な眼をしていた。

私は恐怖のあまり…。

「…は、はい…。」

とうなずくしかできなかった。

 

「ふわぁ…なんだか眠くなっちゃったよ…。」

膝枕をしてから、かれこれ一時間。

そろそろ私の足も限界、というところでまどかはそんなことを言い出した。

これ以上は御免こうむりたい、そう言いたくなった。

しかし、彼女の、顔があまりにも幸せそうなので…言えなかった。

いいように流されてしまっても、許してしまう自分がいる。

そう自覚したとき、怖くなった。

あれだけ、私は私で有り続ける、私はワタシじゃないって決めたのに。

そんな覚悟が一瞬にして崩れ去っていくことに、恐怖した。

まどかの頭に置いた手が震えだす。

「…んぅ…ほむらちゃ…?」

まどかは目を覚まし、私に呼びかける。

「はっ…!?な、なに…?」

「…なにか…あったのかなって。」

「…なん、でも。」

私は俯くしかできなかった。

「本当に、おんなじだね…。なんにも、変わってないや…。」

まどかは私の頬に手を置いて、優しく微笑む。

「…また、私じゃないワタシの話をしてるのね。」

「んー…そう、思っちゃう?」

「思うから言ってるのよ、ふざけないで。」

「…そうだね、間違ってはないかなぁ…。」

その言葉に、胸がズキリと痛む。

重くなって、苦しい。

それが表情に出ていたのだろうか、まどかの瞳が悲しく歪む。

「そんな顔をしないで…。私はね、あなたも見てるよ…昔のほむらちゃんだけじゃなくてね…。」

まどかは私の頬を撫でる。

優しく、諭すように。

私の気持ちは溶けていく。

悲しみ、悔しさ、喪失感。

彼女の手によって。

その溶け出した気持ちは、涙となって彼女の顔に一滴、二滴。

「…泣いてるの?」

「そんな、の…見ればわかるでしょう…?」

私は、泣いた。

なぜだろうか、分からない。

とにかく泣かずにはいられなかった。

「…私、ね…。この涙を止める方法、知ってるよ…。」

「え…?」

まどかは、起き上がる。

意味深に私を見つめる。

その桃色の瞳は、どこまでも優しくて。

吸い込まれてしまいそうだった。

目を離したくても、離させない。

彼女の奥底の魅力が…いや、魔力がそうさせているのだ。

「…。」

まどかは無言のまま、私の頬を撫で続ける。

そして、少しずつ近づいてくる。

その時、私はわかってしまった。

彼女が何をしたいのか。

ある種の確信が、私の中に響く。

私は止めねば、そう思った。

しかし、身体は動かない。

動かすことを、許してくれない。

「ま、まどっ…待って…!」

そういう間にも、まどかは少しずつ、少しずつ、近づいてくる。

鼻と鼻が、触れ合うそんな距離。

そこでまどかが止まった。

「…えへ、かわいい…。」

私の頭は、ズキンと痛む。

目の前のまどかが揺れて、視界が定まらない。

声が…聞こえる。

重なる。

そして、徐々に思い出す。

私の、本当のワタシの…記憶…。

 

『ほむらちゃん、大好きだよ…。』

 

 

 

私は、目を覚ます。

何もない、真っ白な部屋で。

そこには何もない。

何もないのに、何かがある。

そんな気がするのだ。

扉がある。

前に進めと、扉を開けろということか。

私は、かなり古びたドアノブに手をかける。

その先には、いくつものモニターがあった。

そこに映っているのは、全てワタシの記憶。

私はそれを見回し、更に奥に進む。

そこには、ワタシが腰けけていた。

 

「ようこそ、暁美ほむら。」

 

「…ここはどこ?私は何故ここにいるの?」

「ここは、ワタシが生み出した結界…みたいなものよ。詳しく説明するには、情報が足りなすぎるわ。あなたにとっては。」

「…私には情報が足りない…。」

「そんなことはどうでもいいの。私はあなたとお話がしたくてここに呼んだの。それ以外なんてどうでもいい。」

「話?」

「ええ。単刀直入に聞くわ。ワタシの記憶を、元に戻してほしい。」

「…それは無理な相談ね。私は私として生きていくことにしたの。私はワタシじゃない、そうでしょ?」

「そうね、それは否定しない。あくまで否定しないだけだけど。」

「…。」

「そう、元に戻す気がないのね。…このままでいいの?ワタシは、ワタシではなくなってしまうわよ?」

「構わないわ、あなたがどうなろうと。だって私は私であって、それ以外のなんでもないんだから。」

「頑固ね、あなた。」

「…褒め言葉として受け取っておくわ。」

「でも、ワタシだって頑固よ。何が何でも、あなたを説得してみせるわ。」

「…面白いじゃない、どうやって?」

「ワタシには、忘れてはいけない記憶がある。忘れてはいけない、罪と贖罪の記憶よ。」

「…。」

「それはワタシという存在を創り上げているもので、それが欠けてしまえば、暁美ほむらではいられなくなる。」

「…私は暁美ほむらであって、暁美ほむらではないと?」

「その通り。あれは、ワタシのヒトとしての一生を全うし、尽くしたという証拠なの。言ってしまえば、私の宿命みたいなものね。」

「…随分とロマンチックね。」

「なんとでも言えばいいわ。ワタシにとってはそれだけのものなのだから。」

「これだけ?たった、あなた一人の罪の記憶の話をされても、私は変わらないわよ?」

「そんなの、分かってるわよ。だってあなたはワタシなんだから。」

「…。」

「あなたは、まどかを恋人として定義することに疑問を覚え、否定した。一時は。」

「ええ、そうね。否定したわ。」

「でも、その考えはここに来て揺らいでいる。違う?」

「…なんのことかしら。」

「あなたは、鹿目まどかという人に惹かれた。とても強く。それは、必然だったのよ。」

「…必然?」

「当たり前じゃない。あなたは、あくまでワタシ。それはどこまでも変わらないわ。」

「ふざけないで…私は私だって、言ってるじゃないの…。」

「…本当かしらね。とにかく、あなたは鹿目まどかに恋をした。その時、あなたは揺れた。記憶が戻ろうとして。」

「…知らないわ、恋なんてしてないから。」

「あなたは魅了された。鹿目まどかの、全てに。」

「違う!!」

「これは、あなたが暁美ほむらであると…ワタシであることの証明よ。」

「違うってば…!!」

「その時、あなたはこう思った。」

 

「私が、私であるべきではないのではないか。ワタシというものは、存在してはいけないのではないか、と。」

 

「違う…違う…違う違う違う…!!」

「…暁美ほむらは…私。あなたではないわ。でもね…。」

「あなただって、暁美ほむらの一部なのよ…。だから、消えることなんてない。暁美ほむらとして、一生残り続けるのよ。」

「…のこ、る…?」

「ええ。あなたは消えたりなんかしない。私の中に、まどかの中に、一生残り続ける。あなたが怖がる必要なんてないのよ…。」

「本当、なの…?みんな、私のことを忘れたりしない…?」

「ええ…。誰も忘れたりはしないわ…。あなたが確かに暁美ほむらとして存在していたこと…。」

「…私、は…アナタと、一つに…。」

「そうよ…融け合うの。ワタシと、あなたは…。そして一つになる…。」

「それは、とても素晴らしくて幸せなことなの。もう一度、あなたはまどかを愛することができるわ…。」

「…一つに…。」

「私達は…あるべき姿に…。」

「戻る…。」

 

 

 

 

「…はっ…。」

目が覚める。

何度目か、こんなふうに。

頭には柔らかい感触。

「ほむらちゃん…!よかった、よかったよぉ…!」

そう、まどかの膝枕だ。

顔には雨が降りつける。

「…ふふ、まどか…。ごめんなさい。…ただいま。」

「…おかえり、ほむらちゃん。」

「私ね、あなたの涙を止める方法、知ってるわ…。」

「…!」

「…そう、こんなふうに…。」

 

そっと、口づけをするーー

それだけで、雨はやんでしまう。

あなたが、そう教えてくれたから。

 

 

 

 

 

「んじゃあ、結局記憶は戻ったってこと?」

「そうね、そうよ。」

「…これで、良かったんだよね。」

「ええ…彼女も望んでいた。私と一つになることを。」

「それに、消えたりなんかしないわ。いつまでも、私の中に彼女はいる。」

「…そっか。」

「…そうよ、いつまでもね…。」

 

あなたが創り上げた暁美ほむらは…。

絶対に、消えたりなんか…しないから。

いつまでも、守っていくから。

だよね、もう一人の…私…。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、どうでしたか?
まず導入からしてやる気ないですね、コイツ。
五、六行でぱぱっと済ませるとか…マジでねぇわ…。

あ、そうだ。
この話、めちゃくちゃでしたよね?
しょぼくれてた窓化がいきなり元気になったりして。
そこらへんは、後日出せたら補完編を出そうかと思ってます。
今回はあくまで、ほむらとほむらのお話ってことなんで。

さて…内容は…どうでしたか?
自分的には、これを出してもいいのかいけないのかよくわからないラインギリギリっていう。
到底、許されるべき行為じゃないなって。
まぁ、補完編が出る時点でもうダメなんですけど。
それだけ描写が下手くそってことですから…。

ただ、書こうとしたことは書けたような気がします。


それでは。

417の日ですよー!!!?!?!?
皆さん、417の日ですからねぇ!?!?!?(ウザい

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