凪は日輪と共に   作:蜜柑凪

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前回、後書きで予告した通り、今回は難産でした。短いです。
しかも、出来もイマイチな上に場面もコロコロ変わり、結構省かれた部分も多いです。
閑話といって差し支えない内容です。これ、投稿しても大丈夫なのかなぁ…?


第拾伍話 未来への希望

蝶屋敷の前。

義勇が通ると、そこにはニコニコとドス黒い笑みを浮かべたしのぶとカナエがいた。

微笑むカナエの目は笑っていないし、しのぶは笑顔のまま顔に青筋を浮かべ、シュッシュッと拳を前に振るっている。

その傍では、蝶屋敷の娘達が涙目になって怯えていた。

 

…………。なぜだろう。もの凄い既視感を覚えるんだが。

 

「…一体、何があった…。」

 

彼女達曰く。

それはちょうど、しのぶとカナエが蝶屋敷を留守にしていた時のことだった。音柱の宇随天元が強引に蝶屋敷の少女達を攫おうとしたらしい。それは、炭治郎達によって事なきを得たようだが。

けれども、ぶつけようのない冷めやらない怒りからか。しのぶ達は額に浮かぶ青筋を隠すことなく、とてもキレイな笑顔を浮かべていた。

 

「全く。あの派手柱は。なんてことをするんでしょう。私達の許可なく強引に押し入っただけでなく、アオイ達を無理矢理連れて行こうとするなんて。任務で女性隊士が必要なのは分かりますけど!本当にもう。この怒りをどこにぶつければいいのやら。あの派手柱は任務に行ってしまいましたし。まぁ、今後一切、あの男は蝶屋敷の出入りは禁止させていただきますけど。」

 

ぶつぶつと呪詛を吐き続けるしのぶの声をどこか遠くで聞いた気がした。

ドクンと心臓が脈打つ。嫌な汗が頬を伝った。

 

義勇はしのぶの肩を掴んだ。

 

「しのぶ…。」

「義、勇さん…?」

 

その手は震え、美しい蒼い瞳はどこか虚ろだ。

初めて見た。いつも落ち着き払ったこの人のこんなカオ…。

 

「それは…いつのことだ…?」

「三日前のことですけど…。」

 

フッと義勇の手がしのぶから離れた。義勇さんの様子はどこか呆然と、けれども何かを考え込んでいる気がした。

ふいに義勇は脇目も振らずに走り去る。

 

「義勇さん…!」

 

しのぶの視界にもう彼の姿はない。

ここには、ポツンと残されたしのぶ達の姿があるだけだった。

 

 

 

 

 

**

 

宇随は鬼の情報を探る。

けれども、異常もなく、嫌ぁな感じはするものの鬼の気配は全く感じない。

 

「カ…カア…。」

 

ふいにヨボヨボの鴉が宇随の目の前に止まった。その足には文が括りつけてある。

この年寄り鴉…。たしか冨岡の鴉だったか…?あいつがわざわざ連絡を寄越すなんて一体…

文を広げ、目を通す。

そこに書かれていた内容に目を見開く。

 

 

それは善逸が鬼と相対していた頃と同時刻のことだった。

 

 

 

 

 

――遊郭の建物の屋根の上。

炭治郎は情報のすり合わせのため、伊之助と落ち合っていた。

伊之助によれば、荻本屋に鬼がいるらしいのだが…。

ごめん、伊之助。わざわざ身体の動きを使って鬼の特徴を教えてくれてるみたいだけど、俺には分からない…。

 

スッと声がした。

そこには宇随さんの姿があった。この人…。まったく音がしなかった。

 

「お前らはもう〝花街〟から出ろ。階級が低すぎる。冨岡が急遽寄越した情報によれば、ここに巣食うのは『上弦の陸』だ。お前達では対処できない。近場にいた伊黒と冨岡がこちらに向かって来ている。後は俺達で動く。」

「いいえ。宇随さん。俺達は…!!」

「恥じるな。生きてる奴が勝ちなんだ。機会を見誤るんじゃない。」

 

その言葉を最後に宇随さんは姿を消した。

これじゃ前と一緒だ。

何もできず、見ているしかできなかった上弦の参と相対した時と。

あの時、俺は煉獄さん、義勇さんが戦っているのを見ていることしかできなかった。

自分の力不足が悔しかった。もっと強かったなら、力になれていたのなら、煉獄さんは左目も内臓も傷つくことなく、今も柱を続けられていたことだろう。

けれども、どれだけ己の弱さや不甲斐なさに打ちのめされようと俺達は前を向くしかない。

 

『強くなれ。心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け。』

 

煉獄さんの言葉を胸に必死に鍛錬を続けた。

俺達はあの時と違う。守られてばかりじゃなく、今度こそ力に―…!

 

思いを胸に炭治郎と伊之助は動き出す。

 

 

 

 

 

**

 

炭治郎は上弦の陸 妓夫太郎と相対する。

もの凄い殺気。先ほど相手にした上弦の陸の片割れ 堕姫とは比べ物にならない。

身が竦む。鳥肌が止まらない。

しっかりしろ。宇随さんは毒を喰らっている。俺が守らなきゃ…。

 

ふいに炭治郎の喉笛に鬼の鎌が迫る。

見えている。分かっている。早くのけ反らなければ。早く…。速く…!

 

ドンッと炭治郎の身体が抱えられた。

白黒の縦縞模様の羽織が見える。

 

「足手纏いの厄介者。お前はもう引っ込んでいろ。」

「伊黒さん!」

 

 

「キャアアアアア!」

 

上からの鬼の悲鳴と斬撃の音、そして、もう一つの匂い。

温かく水のように澄んだ優しい匂い。

これは義勇さんの…!

伊黒さんだけじゃなく義勇さんまで……!!

 

 

「ハッ。随分と遅かったじゃねえか、てめえら。」

「フン。こっちは夜通し早駆けしてきたんだ。感謝しろ。貴様の方こそ何だ、その体たらくは。冨岡からこの鬼の特徴については既に教えられていただろう。にもかかわらず、毒を喰らうとは。実に情けない。柱が聞いて呆れる。」

「そりゃあ悪かった、な!」

 

――【音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々】

――【蛇の呼吸 伍ノ型 蜿蜿長蛇】

――【水の呼吸 肆ノ型 打ち潮】

 

「ぬぅん。柱の増援かあ?だが、意味ねぇなあ。俺達には敵わねぇからなあ。」

 

帯と血の鎌。そして、音と蛇と水、そして雷に獣。

戦いはさらなる混沌へと突き進んでいく。

 

 

 

 

 

**

 

炭治郎は妓夫太郎の身体を地に固定させ、刀を頸へと振るう。

俺達は必ず勝つ…!

斬れろ…!!

 

 

水柱が女の帯を全て斬ってくれた。

その帯は再生することがない。作ってもらった最大の好機。決して無駄にはしない。今やらないでいつやるってんだっ…!

なるんだろう!誰よりも強く、皆を助けられる男に…!!

 

「「「アアアアアアア!!」」」

炭治郎の、善逸の、伊之助の刃が鬼の頸を掻き切っていく。

それは強き思いが結んだ確かな力。

スパンッと二つの頸が飛んでいく。

 

今まで100年以上為すことができなかった上弦の鬼の討伐。

そして、鬼の害悪だけを燃やす人を食べることのない鬼の血鬼術。

 

宇随達は未来への希望を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

**

 

夜空に星が瞬いてる。

鬼の身体が塵となって消えていく。

 

「仲直りできたかな?」

 

たった二人きりの兄妹。仲違いしたままじゃ哀しいから。

 

「――ああ。」

 

後ろから優しい義勇さんの声がした。

 

「妹を背負って共に行く兄の姿が見える。ずっと一緒だと。元の兄妹の姿だ。」

「そっかぁ。よかった…。」

「そうだな。」

 

フッと力が抜ける。

全てが終わって安心したからか、なんだか急に疲れがドッと出たような気がした。

 

「お疲れ様。よく頑張ったな。炭治郎。禰豆子も。」

「はい…!」

「ム!」

 

義勇さんが俺と禰豆子の頭を優しく撫でてくれた。

久々に義勇さんに頭を撫でられて嬉しいのか、禰豆子もご満悦の表情だ。

 

よかった…。

修行の日々は無駄じゃなかった。ちゃんと俺達も上弦との戦いで力になれた。

まだまだだけど、それでも…。

ギュッと拳を握る。もっともっと頑張ろう。

悲しみを断ち切るために。鬼舞辻無惨を倒すためにも。

 

たしかな覚悟と想いを身に宿して。

 

…帰ろう。俺達も。大切な人達の待つ場所へ。

皆で帰路へと着く。

 

 

 

余談であるが、この後、蝶屋敷にてニコニコと黒い笑みを浮かべたカナエさんとしのぶさん達、蝶屋敷の女の子達に土下座で謝り倒す宇随さんと、しのぶさんのあまりの剣幕にたじろぐ義勇さんの姿が目撃されたとか。

 

「全く!焦った様子で出て行って、本当に心配したんですよ!!なのに、何の連絡もないですし!」

「…それは、すまない。」

 

 




ちなみに、宇随さんの左目と左手は伊黒さんが加勢に駆け付けたこともあり無事です。今も柱を継続してます!
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