けど、この人を助けるには、こうするしか方法を見つけられなかったんです。
低い想像力と文章力でごめんなさい
最終選別から十五日が経った頃。
「冨岡義勇殿と鱗滝錆兎殿ですね。」
一人のひょっとこの面を着けた男性が家を訪ねてきた。
ちなみに、最終選別を終えてから錆兎と、それから真菰は正式に鱗滝さんの養子となり、彼から苗字を貰っている。
「初めまして。鉄穴森鋼蔵と申します。」
刀鍛冶の里から日輪刀を届けにやって来てくれた刀匠。温厚そうな男性だ。
彼は一礼した後、礼儀正しく家の中へと入る。
背負っていた細長い二つの木箱を床へと下ろし、蓋を開ける。そして、二つの日輪刀をそれぞれ義勇と錆兎に手渡した。
「ささ。刀を抜いてみてください。」
錆兎が抜いた刀。それは淡く美しい海のような青に移り変わった。綺麗な水の色だ。
「おお!これは素晴らしいですね。綺麗な青色だ。水の呼吸に適しています。」
「ありがとうございます。義勇は…」
義勇も刀を抜く。
「これは…」
「なんと…」
「むう…」
移り変わったその色に錆兎、鉄穴森、鱗滝、三者三様、なんとも言えぬ表情を浮かべた。
それも当然といったところか。
義勇の刀の色は見事半分ずつ色が分かれていた。
一方は、深海の海のごとき澄んだ美しい純真の蒼。もう一方は、黒曜石のような美しき漆黒。
「いやはや。まさか日輪刀が二色に染まるとは。こんなことは初めてで一体いかがしたものか…。」
「二つの呼吸に適性があるということか?一つは『水』だろうが、この黒い方は…」
「おそらく『日の呼吸』だろうな。しかれば、黒い刃になる者の数が少なすぎるのも頷ける。なにせ『日の呼吸』は始まりの呼吸。一番初めに生まれた最強の御業。受け継げる者などそうは出ぬ。」
義勇はそれぞれの言葉を聞きながら、ジッと自身の日輪刀を見つめた。
刀身の黒い部分を撫でる。その黒はどこか温かい。
(縁壱……。)
彼がいてくれる。刀を通して彼の心が伝わってくるような気がした。
――…凪は日輪と共にある。
**
刀を受け取り、鬼殺隊として義勇が任務に明け暮れ、早一週間が経過した。
義勇は現在、とある町からやや離れた位置にある山奥の寺へと赴いていた。
「ここか…。」
今は夕刻。周りは暗く、空もほぼ闇色に染まり、早くも星がきらめき始めている。じきに完全な闇へと染まるだろう。そして、それは鬼の蔓延る夜となる。
寺の前へと着いた義勇は門を叩いた。
しばしして、ギィイと門の開く音と共に一人の男が出てきた。
「おや。君は…」
この男こそ悲鳴嶼行冥。後の鬼殺隊最強と謳われる岩柱となる男である。
その姿は義勇が夢に見た記憶である極限まで練り上げられた肉体とはまるで異なる。痩せ細り弱弱しい。
けれども、義勇の見ることができる〝透き通る世界〟では、細い内に力が漲っているのを見た。
この人は強い。さすがは後の鬼殺隊最強と謳われるだけのことはある、か。
「夜分、すまない。所用で来た。一晩泊めてくれないか。」
「ああ。勿論。君のような子供が夜遅くに出歩くものではない。夜は鬼が出る。」
やはりここでは鬼の伝承が根強く残っているのだろう。縁側には藤の花の焚かれた香炉が置かれている。慣れ親しんだ香りだ。
案内の下、中へと上がる。
そこには八人の子供達がいた。その中に首元に勾玉を身に着けた少年の姿はない。
「だぁれ?」
「冨岡義勇。一晩厄介になる。」
「よろしくね~!」
「ああ。」
そこはとても温かく、優しい空間だった。
余所者で、話をするのが苦手な俺にも皆、親切にしてくれた。
子供達は皆、悲鳴嶼さんを慕い「先生」と呼んでいた。彼らと悲鳴嶼さんに血の繋がりはない。けれども、そこには『家族』としての姿があった。
その姿に狭霧山での思い出が頭に浮かんだ。
鱗滝さんや真菰はどうしているだろうか。選別へ向けての修行に励んでいることだ。選別を突破し、隊服に身を包んだときは我が事のように喜んでくれた。
錆兎も鬼殺隊の隊士として日々励んでいるだろう。きっとたくさんの人を救っている。あいつは強い。
鱗滝さんや真菰、錆兎とは変わらず文通を続けている。
やれこんなことがあっただの、鮭大根ばかり食べて栄養バランスを傾けさせるなだの、口下手の無表情で周りとちゃんとやっていけてるのかだの、近況3割、心配7割といった具合だ。
手紙は嬉しいが、内容の割合がやや心外である。俺は子供じゃない。
フッと自然に懐かしさで笑みが零れていた。
「あ!義勇が笑った~!!」
「ホントだ!義勇ってば、全然、表情変わんないんだもん!」
「すまない?」
その言葉に皆がワッと笑った。たしかにそこには温かな空間があった。
けれども、その幸せがじきに壊れてしまうことを義勇は知っている。幸せは薄い硝子の上に乗っているものだということを。
一人の少年が、悲鳴嶼さんと八人の子供を鬼に売り、悲鳴嶼さんと彼が守った一番年下の女の子を除いて皆、殺される。
命を懸けて守ったその少女の発言で悲鳴嶼さんは殺人の罪で投獄され、疑い深い人となってしまう。
それがこれから始まる悲劇であり、『記憶』。
幾度となく『夢』で見た。絶対にそのような悲劇は起こさせない。
ギュッと隊服に隠した日輪刀を静かに握り締めた。
夜も大分深まった頃。
ふいにフッと香炉の火が消えたのを感じた。
義勇はその時、外にいる首元に勾玉をつけた黒髪の少年と目が合った気がした。彼の瞳は嫌悪に満ちていた。
バキッ。ミシミシ。
戸の破れ崩れる音がする。
(来る……!!)
「うまそうだなァ。ガキはうまいんだ。」
「ヒッ!」
それは頭に角を生やし、人とは異なる肌、鋭い爪を持った異形。鬼の姿。
鬼はまず戸の近くにいた四人の子供に襲い掛かろうとした。
(させない…!)
――【水の呼吸 弐ノ型 水車】
すぐさま刀を抜き、鬼の身体に傷を入れる。
「無事か。」
「義勇。君は…」
悲鳴嶼さんが呆然と声を漏らす。他の子供達も鬼に怯えながらも悲鳴嶼さんと似たような面持ちだ。
よかった。怪我人はいないようだ。
「てめえ、鬼狩りだなぁぁああ?」
「ああ。」
「ハッ。こんなガキが鬼狩りとはなぁぁああ?」
――【血鬼術―『覇剛波』】
迫りくる鬼の攻撃を全ていなす。なるほど。肉体強化の血鬼術、加えて衝撃波を飛ばす類のものか。
この程度の攻撃などどうということはない。この鬼の強さもそこまでではない。普通に倒せる強さだ。だが…
「テメエには俺は倒せねえよなァ?ガキ共を庇いながら戦ってるテメエじゃよう!」
再びの衝撃波が迫る。怒涛の広範囲に渡る連続攻撃。それらを全て【凪】でいなす。
そうだ。この程度の攻撃をいなすことなどわけない。
だが、飛んでくる鬼の血鬼術による衝撃波を子供達に飛ばさせるわけにはいかない。
このままではよくない。ロクな攻撃を与えることができない。
だが、目の前の鬼も悉く攻撃がいなされるのに苛立ちが見えている。それを突ければ…。
「お前達…!駄目だ。いけない…!」
気の弱い悲鳴嶼さんの声。
三人の子供がすり抜け動くのが見える。
ニヤリと鬼が嗤うのが見えた。咄嗟に身を挺して彼らを庇う。
「ぐっ…」
義勇の肩から血が滴り落ちた。
「ヒャッハァ!その傷じゃ満足に動けねえだろ。残念だったな。鬼狩り。」
「問題ない。お前程度の雑魚には良い枷だ。」
「ハッ!強がってられるのも最初の内だけだぜ。なんなら命乞いでもしてみたらどうだ?あのガキみてえによぉ!そうしたら命ぐれえは助けてやる。俺は約束は守るんだ。あのガキだって『この寺の奴は皆喰っていいから俺だけは助けてくれ!』そう言ったんだ。だから、見逃してやった。優しいだろ?」
『――!!』
悲鳴嶼さん達の息を呑む音が聞こえた。
その中で、義勇は自分から燃え滾るような激しい怒りが沸き上がるのを感じた。
「――ふざけるな。」
たった一言。
その一言に空気がシィンと静まり返る。
息をするのもやっとなほどの重圧が義勇から発せられる。
「馬鹿にするのも大概にしろ。鬼を滅する鬼殺隊ともあろう者が鬼に命乞いをする?笑止千万!そのような惨めったらしく生き恥を晒すくらいなら死んだ方がマシだ!」
「ハッ。馬鹿だなァ。テメエ。折角の俺の親切心を溝に捨てるなんてなァ。だったらお望みどおり殺してやるよ!」
鬼の攻撃が迫る。
バキィッと骨の砕ける音がした。
見れば、鬼は悲鳴嶼さんによって殴り飛ばされていた。
幾度も力の限り拳が振るわれ、鬼の血肉で床板が真っ赤に染まる。鬼も反撃しようとしたのか悲鳴嶼さんの額に傷が走ったが、それを気にも留めずに殴り続けた。
その姿に『記憶』の中にあった岩柱 悲鳴嶼行冥の姿と重なる。「南無阿弥陀仏」の文字が染め抜かれた羽織が見えたような気がした。
鬼の身体はもうぐちゃぐちゃだった。
義勇は未だに殴り続けている悲鳴嶼の手を止める。
「悲鳴嶼さん。もういい。もう充分だ。」
そして、日輪刀でスパンと頸を斬った。
鬼が灰となって消えていく。
「「「先生ッ!!」」」
突如として声が響く。
声の方を振り向けば、そこには先ほど走り去った三人の子供達がいた。
彼らは一様に農具を手に持ち、彼らの後ろには大人達の姿もあった。
「もう大丈夫だよ。先生。義勇。俺達が守るから!」
「何故…。お前たちは逃げたはずでは…」
「先生は目が見えないし、義勇は俺達を庇って怪我しちゃった…。だから、俺達が守らなきゃって。武器を取りに行ってたんだ。外に農具があったから。」
「私は人を呼びに行ってたの。」
「ああ…。そう…だったのか……。」
悲鳴嶼さんの瞳から次から次へと涙が零れ落ちた。
「もう大丈夫だ。あとは俺達に任せてくれ。」
「アイツはどこ!?俺達が…」
駆け付けてくれた大人達が前に出る。それに伴い、農具を持った子供達も前へと出た。
「あの人は化け物。みんなあの人がみんな襲った。」
悲鳴嶼さんを見ながら紗代は震える声でそう告げた。
今はもうない鬼の身体。肩から血が出た義勇。返り血を浴びた悲鳴嶼の姿。
駆け付けた大人は紗代を抱き締め守り、ギッと鋭い眼差しを悲鳴嶼に向けた。誤解するのもやむを得ないことだったのかもしれない。
「何言ってるんだ!紗代!!先生は…!!」
「―…待て。」
寺に残っていた子供が叫ぶように言ったのを義勇は遮る。
次いで大人達から庇われている紗代に目線を合わせた。
「化け物とは、あの人とは誰のことだ。」
「あの人はあの人。もういない。」
「―そうか。悲鳴嶼さんのことではないんだな?」
「うん。先生は守ってくれた。」
『!』
その言葉に悲鳴嶼さん、子供達、駆け付けた大人達の顔は驚きから次第に安堵へと変わる。
気が抜けたのか誰もが床にへたり込んだ。
「先生。」
子供達が悲鳴嶼さんを取り囲む。
「お前たち…。」
「無事でよかった。守ってくれてありがとう。」
「ああ…。」
涙を流しながら皆、抱き合っていた。
「義勇。」
ふいに名を呼ばれた。
近くに行けば、ギュッと皆から抱き締められた。
『ありがとう。』
朝日が昇る。皆を照らす。長い夜は明けた。
**
長い夜から一夜明け現在。
義勇は『隠』達に事後処理を任せた後、皆を藤の家紋の家へと送った。
ちなみに義勇はたいした怪我でもないので、早々に任務に発とうとしたが、それは寺の皆に押し留められ叶わなかった。
たいした怪我ではないと思っているのは義勇だけで、呼ばれた医師は渋い顔をしていたし、悲鳴嶼も子供達もわんわん泣いていた。
おかげで二日ほど滞在するハメとなってしまった。
「義勇。この度は本当にありがとう。お前がいなければ、皆死んでいた。感謝してもし足りない。そして、すまない。君のような子供に戦わせ、傷を負わせてしまった。」
「謝るのはこちらの方だ。俺は鬼殺隊の者でありながら、民間人に守られた挙句に傷を負わせてしまった。すまない。」
傷はまだまだ未熟な証。情けない。
「義勇。また会おう。次は同じ鬼殺隊の隊士として。」
あれから悲鳴嶼さんは鬼殺隊の隊士となることを決めたらしい。
生き物を殴る感触は地獄だった。それでも、自分が戦うことで守れる命があるなら。もう小さな子供が戦わなくて済むように。まだ破壊されていない誰かの幸福を守れるように、と。
「またね!義勇!」
「ちゃんと手紙書けよな!」
「ああ。」
義勇は踵を返す。
たしかな未来への約束を胸に抱いて―――…。
鬼の血鬼術のネーミングセンスが皆無?分かってます。
私はそういうのを考えるのが壊滅的に苦手です。皆さん、すごいですね。ネーミングセンスがあって…。
今回はどうしても悲鳴嶼さんの誤解を解きたかったので義勇さんにはピンチになってもらいました。