凪は日輪と共に   作:蜜柑凪

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第漆話の改訂版です。
前半は以前と変わりありませんが、後半を書き直しました。そのため後半は別内容です。
おそらく、これで原作と同じままだという事態は防げたと思います。

ついでに、修正したら、サブタイトルも変えなければおかしなことになったので、そちらも変更させていただきました。

ご意見がございましたら、コメントください。その時はまた、修正致しますので。


第漆話 覚悟

場所は東京府京橋區。街から少し外れた村。

そこに義勇と真菰は来ていた。

 

「―…で。ここなの?義勇の『記憶』に出てきた場所って。」

「ああ。付き合わせてしまってすまないな、真菰。」

「もう!むしろ逆だよ!」

 

 …?。逆とは…?

 

「もっと頼れってこと。義勇はなんでもかんでも一人で背負い込みすぎだよ。もっと私達を頼ってよ。そんなに私達は頼りない…?」

「それは違う!」

 

即座に否定する。ただ巻き込みたくない。ずっと笑っていてほしいだけだった。

 

「なら良し!嬉しいんだ。私。こうやって義勇が頼ってくれて。本当は錆兎も一緒に行きたかったみたいだけど…」

「緊急の指令が入ったからな。仕方がない。」

 

不満げな顔を隠せてはいなかったが、錆兎は任務に行く前、散々真菰に「義勇を頼むぞ」と言い募っていた。

お前にとって俺は大きな子供か。

 

 

 

「―…ありがとう。真菰。」

「どういたしまして!」

 

ふいに気配を感じた。それは鬼のもの。

先ほどまでの朗らかな雰囲気は一瞬で消え失せ、二人の表情はすぐさま真剣なものへと変わる。

 

「急ぐぞ。真菰。」

「うん!」

 

 

 

 

 

ドンドンと戸を強く叩きつける音がする。

そこには一人の女性の鬼の姿。

戸が蹴破られる。扉の前には幼い子供達の姿。女性の牙が子供達へと迫る。

それだけはさせない…!!

 

――【水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き】

 

女性の身体を突き、彼女が怯んだ隙に義勇は彼女の身体ごと外へと引っ張る。

ここでは戦えない。

 

「真菰!家族を頼む!」

「わかった!任せて!」

 

真菰の声を背に、義勇は夜の道を駆け抜けた。

 

 

 

 

誰かが着いてくる気配がする。

感じからいって一人。おそらく子供。

 

人気のない鬱蒼とした森林。ここは茂る葉によって日の光は届かない。

ここなら大丈夫か。

義勇は女性の両手首を片手で背中側に拘束し、追い掛けてきた相手へと向き直る。

月の光が三人の姿を照らした。

 

「お前は…。」

 

鉈を手に持ち、鋭く目を血走らせた白髪の少年。

追い掛けてきたその少年の姿に義勇は覚えがあった。

『不死川実弥』。

後の鬼殺隊 風柱。『記憶』の中で彼は消え逝く弟に縋りつき泣いていた。

 

 

 

「ガァァアアアッ!!」

 

咆哮が空気を切り裂く。

 

「お袋…。なんで…。」

 

ただ茫然と実弥は呟く。

それは顔に幾筋もの血管を浮き上がらせ、鋭く尖った牙を持ち、瞳孔が猫のように縦に割れ、まるで獣のように叫ぶ母の変わり果てた姿。

そこに、いつものように優しく微笑む母の姿はない。

 

 

――時は数刻前。

実弥は帰りの遅い母を心配し、玄弥に弟妹達を任せ、探し回っていた。

けれども、一向に見つからなくて、もしや家に戻ってきているかもしれないと思い、家へと戻った。

そこには一体の獣が家族を襲い、それを守る二人の男女の姿があった。

 

けれど、獣を外に連れ出した男を思わず追い掛け、月の光の照らす森の中でその姿を目にした時、ようやく理解した。

獣だと思っていたものは、変わり果てたお袋だったのだと。

 

 

 

義勇はガッと母親に手刀を落とし、強制的に意識を刈り取る。

 

「お袋ッ…!!テメエ…!!」

「案ずるな。気を失わせただけだ。命に別状はない。」

 

倒れ込む母親を抱き留め、優しく木へと凭れかけさせた。

 

「お前の母は体内に鬼の始祖 鬼舞辻無惨の血が入り、人を喰らう鬼となった。」

「――…なッ!!」

「だが、この人はまだ誰も殺してはいない。加えて、鬼となってしまった人を人に戻す方法が完全に無いわけではない。」

「――…ッ!!本当だろうなァ…!!」

「ああ。だが、それはまだ不完全だ。今の時点では、鬼を人に戻すことはできない。」

 

その言葉にグッと拳を握る。

 

「お前に何を賭しても母を人に戻すという覚悟はあるか。」

 

実弥の脳裏を過るのは、かつて玄弥と共に誓い合った約束。

――『これからは俺とお前でお袋と弟たちを守るんだ。』。

それが今、鮮明に思い起こされる。

 

…覚悟だァ?そんなもの…

 

「巫山戯んじゃねェ!!たりめェだろうがァ!!」

 

 

フッと義勇は微笑んだ。

ギラギラと決意宿る強い眼差し。いい覚悟だ。

 

「…そうか。俺は冨岡義勇。」

「…俺は不死川実弥だ。」

 

 

冨岡は懐から紙を取り出すとサラサラとなにやら書き記していく。

 

「―…茶々丸。」

「ニャー―。」

 

その鳴き声と共に首輪におかしな模様の描かれた呪符を提げた三毛猫が急に現れた。

一体いつの間に…。どこから現れたんだァ…?

 

「これを珠世さんと兪史郎に届けてくれ。」

「ニャーオ。」

 

三毛猫はスリスリと冨岡の手に頬ずりした後、サッと姿を消した。

もうどこにもその姿は見えない。

なんだァ…?あの猫は…。瞬間移動でも使えるのかァ…?んな馬鹿な。

 

冨岡は木に凭れかけさせてあったお袋を背に担ぐ。

 

「付いて来い。」

 

そう言って、さっさと冨岡は歩き出した。

 

 

お袋を日除けの大きな籠に入れ担ぐ冨岡は、道すがらいろいろと話してくれた。

人喰い鬼の始祖である鬼舞辻無惨の血が体内へと入り、人喰い鬼となったお袋。

 

『鬼』。

人間を殺して喰らう化け物。

人間の体内に鬼の始祖の血が入ることで人喰い鬼となる。

人を喰らった数の多いものほど強い。

鬼は藤の花を厭い、日の光か、日光が蓄えられた鋼で造られた刀である日輪刀で頸を斬り落とさない限り死ぬことは無い。

鬼によって幸せを壊された人は数知れない。

 

そして、鬼を狩るための組織、それが『鬼殺隊』だと。

冨岡はそこに属している。

 

『鬼舞辻無惨』。

全ての鬼の始祖。

人喰い鬼を増やし、たくさんの人を苦しめ続ける全ての悲しみと苦しみの元凶。

お袋を鬼に変え、家族の幸せを壊した憎き仇…!

 

 

幾度となくその名を繰り返した。

その度に憎しみが燃え滾るのを感じた。

 

俺達が今、向かっているのは、無惨の支配から逃れ、人を喰らうことなく生きている鬼の元だという。

その鬼が鬼を人に戻す薬の研究をしているらしい。そして、冨岡もより無惨に近い強い鬼の血を提供することで、それに協力している、と。

 

はっきり言えば、お袋を元に戻すために鬼の力を借りねばならないなど冗談ではなかった。

冨岡の話を聞く内に鬼への憎悪がより高まった。

お袋を鬼にされた。共に笑い合った幸せな日々を壊された。

俺達だけじゃない。鬼に幸せを壊された人は大勢いる。

鬼は醜い化け物だ。なぜ、そんな奴らの力を借りねばならない。巫山戯んじゃねェ。

 

けど、鬼となってしまったお袋を元に戻したい。

それが実弥の中の根底にある願いだった。

何を賭してもお袋を、弟妹達を、家族を守る。そう誓った。

 

そのためならば…。

決して憎しみが無くなったわけではない。今も燻り続けている。

けれど、どんなことにも耐え抜いてみせる。お袋を人に戻すため。再び家族で笑い合える幸せだった日々を取り戻すために。

 

 

 

 

 

 

**

 

――浅草の町。

そのとある一角の壁。

 

「ここだ。」

「おい。なんのつもりだァ。そこは行き止まりだろうがァ。」

 

実弥の声を全く気にするそぶりも見せず、義勇はスタスタと壁へと進む。

瞬間、義勇の身体が壁へと溶け込んだ。

 

「なッ……!!」

 

驚く実弥を他所に義勇は再び顔だけを出す。

 

「何をしている。早く来い。」

 

スッと義勇に続くように実弥も進む。

進んだ先には一つの屋敷が存在していた。

屋敷の中へと入り、とある一室の扉を叩く。

 

「どうぞ。」

 

そこには、女と少年の鬼が二体。

少年の方はこちらをギッと鋭く睨みつけている。といっても実弥も鬼である彼女らを睨んでいる分、他人のことは言えぬかもしれないが。

 

「この方が不死川志津さん。そちらの少年が息子さんである不死川実弥さんですね。お話は聞いております。」

 

冨岡は背負っていたお袋を寝台へと預ける。

 

「珠世さん。兪史郎。この度は手前勝手な頼みを聞いてもらい済まない。」

「全くだ。」

「兪史郎…。」

 

「義勇。お前に十二鬼月の血を提供してもらっていることには一応、礼は言うが、何故厄介事を持ち込む。珠世様のお手を煩わせるな。しかもその鬼、醜女じゃないか。」

「お袋が醜女だァ…?ハッ。さすが鬼だなァ。目ェ腐ってんじゃねェのかァ。お袋よりその女の鬼の方がよっぽど醜女だろうがァ。」

「貴様!!この世で最も美しい珠世様をよりにもよって醜女だと…?…万死に値するッ!!」

 

ギリギリと互いに胸倉を掴み、睨み合う。

互いに退く気など見えない。

 

その様に傍にいた二人はハァとため息を吐いた。これでは先が思いやられる。

 

「…兪史郎。」

「はい!珠世様!」

「むやみに人に手をあげてはいけません。」

「はい!」

 

珠世の説得に兪史郎は素直に答える。といっても、珠世の手前のみで全然懲りてはいなさそうだが。

 

 

――一方。義勇に首根っこを掴まれ、強制的に兪史郎と離された実弥はというと…

 

「離せェ!!冨岡ァ!!あの鬼、ブッ殺す!!」

 

全然落ち着いてなどいなかった。むしろ悪化していた。

 

 

 

 

**

 

ようやく一呼吸置き、落ち着いた頃。

 

「それでは、志津さんは私達が責任を持ってお預かりします。」

「よろしくお願いします。」

 

冨岡が頭を下げる。

 

「…頼む。」

 

グッと奥歯を噛み締めながら実弥も頭を下げる。

分かっている。これが最善だということは。俺にはお袋を止める力も助ける力もないということは。

何の力にもなれない自分が、弱い自分がほとほと嫌になる。

 

「はい。必ずや志津さんの自我を取り戻し、人へと戻してみせます。安心してください。」

 

我が子へと向けるような慈愛のこもった眼差し。そこにお袋の姿が重なるように見えてしまった。

言葉が出なかった。

何故だか、この女を鬼だとは思えなくなった。

 

 

眠るお袋の頭を撫でる。

こうしていると、とてもお袋が鬼になったなどと思えない。変わらぬ普通の人間のようだ。

 

 

「…お袋をよろしくお願いします。」

 

再び頭を下げる。

触れられた手はとても温かくて。その温もりに一筋の涙が零れた。

 

 

 

 

 

**

 

再び壁をすり抜け、屋敷をあとにする。

 

「おい。冨岡。鬼殺隊に入るにはどうすりゃいい。」

 

鬼が憎かった。

母を鬼へと変え、家族の幸せを壊し、今ものうのうと生きている鬼が。

 

そして、家族を守れず、弱く無力な自分が悔しくて堪らなかった。

同じ年のこいつは俺の家族を守り、鬼を狩り、お袋が人に戻るための力となっているというのに。

 

 

スッと冨岡は何も言うことなく紙切れを渡してくる。それは地図だった。

 

「そこに住む佐竹風太郎という老人を訪ねろ。お前の力になってくれる筈だ。話は通しておく。それから…」

「カカァアーー!!義勇!!手紙ダ。真菰ヨリ連絡ダ!!」

「…そうか。すまない。」

 

妙な喋る鴉から手紙を受け取ると冨岡はサッと目を通した。

 

「…了解したと真菰に伝えておいてくれ。」

「ワカッター!!カカァアーー!!」

 

そう言ってその鴉は飛び去っていった。

 

「それから…」

 

いや。待て。テメエ。

よく、何事も無かったかのように平然と話が進められるな。まぁ、さっさと進められる方が俺にとっても都合がいいが。

 

「お前は稀血の人間だ。主食が人間である鬼にとって極めて栄養価が高く、一人喰っただけで五十人、百人喰ったのと同じ栄養がある。それが稀血の人間だ。故に鬼は稀血の人間を好む。その稀血の中でもお前はさらに希少な、匂い嗅いだだけで鬼を酩酊させるほどの血を持つ。心得ておけ。」

 

よりにもよって、自分が憎き鬼を強くする者であるなど冗談ではなかった。

厭悪で顔が歪むのが分かる。

 

ふいにヨボヨボの鴉がオエッと何やら袋を吐き出した。

 

「それは鬼の嫌う藤の花の香り袋だ。持っておけ。」

 

鴉は未だにヨボヨボと頼りなく震えている。

…おい。これは本当に大丈夫なんだろうなァ…?何やら別のものの気がしてならないんだが…。

 

「最後に、お前の家族は無事だ。俺の邸で保護してある。安心しろ。」

 

そう言って、冨岡はサッと姿を消した。

 

溢れだす涙を乱雑に拭う。

玄弥。就也。弘。こと。貞子。寿美。皆、無事でよかった。

 

兄ちゃん頑張るからな。

母ちゃんを人間に戻すために。

鬼は全部兄ちゃんが倒して、もう二度と奪わせねェから。

 

 

強くなる。あの野郎よりも。

今度こそ俺が家族を守る。そして、鬼共を一匹残らず殲滅してやる!

 

確かな覚悟を胸に宿し、少年 不死川実弥は鬼殺への道のりを歩み出す。

 

 

 

 

 




言うまでもなくお分かりだと思いますが、真菰ちゃんの手紙の内容は「実弥の家族は無事水柱邸で保護してある」というものでした。

あと一話、実弥の話は続きます。
また原作と同じにならぬよう気を付けます。
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