凪は日輪と共に   作:蜜柑凪

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実は極度のスランプの中、今回の話を書き上げたので、上手いこと書けたとは自分でも思えません。イマイチの出来です。

ああ。スランプで思ったように話が書けない~~~!!!!
それでも読んでやるよ、というお心の広い方がいらっしゃられたのなら嬉しい限りです。


第玖話 有と無

義勇はただ必死に山道を駆ける。

 

――…すまない。すまない。すまない…。

 

幾度、この言葉を繰り返しただろう。

どれだけ心の痛みに蝕まれ、謝罪の言葉を述べ立てたところで結果は変わりはしないのに。

 

どうしてこんなことになってしまったのか。

 

たとえ、知り得ようとも全てを為せるわけではない。

人の力など所詮は知れているのだから。どれだけ請い願おうとも時を巻いて戻す術はない。

 

 

義勇は駆ける。

彼の背にはひどく似通った外見を持つ兄弟が抱えられていた。

義勇が通った道の跡には、血が点々と滴り落ちていた。

 

 

 

 

 

**

 

――…時は少し前へと遡る

 

 

 

『死』を見た。

それは幾度となく繰り返され、日に日に鮮明となっていく。

 

ドクンと音がした。

―…ああ。()()()

 

 

『無一郎の…無は……〝無限〟の〝無〟なんだ。』

 

双子の兄弟が身体中から血を流し、手を繋ぎ倒れている。

 

 

フッと義勇の意識が戻る。

今日になってから何度この光景を見ただろう。

必死に身体が警告してくる。これが起こるのは今日だと。急がなければ手遅れになると。

 

任務を終え、双子の兄弟の住む景信山へと向かう。

だいぶ夜も深くなった。

目に焼き付いた『記憶』にかぶりを振る。

予定外に少し遅くなってしまったが、まだ間に合う。きっと大丈夫だ。

 

ふいにニヤリと何かが嗤った気がした。

 

 

 

 

**

 

「クソッ…。」

 

悪態をつく。

 

突如とした鬼の襲撃。

鬼を斬る。

特に力は大したことはない。なんてことは無い相手だった。

けれど、こちらの感覚をひどく鈍らせる厄介な血鬼術を使ってきた。

どれだけ俺はここに留まっていたのか。気付けば夜は過ぎ、朝が明けようとしていた。

 

 

ただ必死に駆ける。

頼む。間に合ってくれ…!

 

道すがら、とある一点がひどく目に付いた。

それは、鎌や鍬といった農具の類や、丸太や岩などが一枚の着物に突き刺さった異様な光景だった。

おそらくそこにいたであろう鬼は朝となって消えた。

 

ドクンと心臓が嫌な音を立てた。

それが起こった理由を俺は知っていたから。

 

 

やっとのことで兄弟の家へと着いた時、義勇の目に映ったものは、血だらけで布団に手を繋いで横たわる双子の兄弟の姿だった。

ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。あのおぞましい『記憶』と重なる。

 

『無一郎の…無は……〝無限〟の〝無〟なんだ。』

 

やめろ…。やめてくれ…。

兄は虚ろな瞳で、それでもただ弟の無事と安寧を祈っていた。

あの光景が今も頭に焼き付いている。

 

俺があと半日早く辿り着いていたら。

あんな鬼などに足止めを喰らっている間にこんなことに…。

苦しかっただろう。痛かっただろう。

まだ幼い。生身で鬼を相手にするなど、まだ知らなくてもよかった。ただ優しい世界で生きていてほしかった。

けれど、鬼は理不尽に何もかもを奪っていってしまうから。

 

彼らの繋がれた手に触れる。

まだ二人とも温もりがある。生きている…!

 

ともかく身体を縦に切り裂かれ出血の酷い兄の方を布を当て止血し、弟も簡易的な処置を施す。

それから二人を背に背負う。

その間も繋がれた手は決して離れようとはしなかった。

 

大丈夫だ。必ず助ける。二人とも。

 

駆ける義勇の髪が風に揺れる。

出血の中、意識が朦朧としながらも弟 無一郎はその横顔を眺めていた。

その瞳の蒼はとても澄んでいて美しくて、ああ、水神様が助けに来てくれたんだと朧げな意識の中で漠然とそう思った。

 

 

 

 

 

**

 

パチリと無一郎の瞳が開く。

 

「ここは…。」

 

知らない天井。知らない場所。

僕は一体…。

 

ふいに脳裏を巡るのは、怒涛の記憶だった。

そうだ。僕は…――

 

 

 

 

暑い夜だった。

蝉も鳴いてて、戸を開けっ放しで寝ていたら鬼が入って来た。

 

「無一郎!」

 

兄さんは僕を庇うように、鬼の鋭い爪で身体を引き裂かれた。血がボタボタと流れ落ちていた。

 

「兄さんッ…!!」

「うるせぇ。うるせぇ。騒ぐな。どうせお前らみたいな貧乏な木こりは何の役にも立たねぇだろ。いてもいなくても変わらないようなつまらねぇ命なんだからよ。」

 

それからのことを僕はよく覚えていない。

ただ怒りで目の前が真っ赤に染まった。

許せなかった。最愛の兄を傷つけたことも。その侮辱した発言も。

 

気付いた時には鬼は死にかけで、朝になってその身体は塵と消えた。

どうでもいい。ただ兄さんの元へと急ぎたかった。けれども、身体は言うことを聞かず、鉛のように重かった。

 

ようやく辿り着いた時には、僕も兄さんも満身創痍だった。

ただ、互いに握った手を決して離したくはなくて、ずっと握っていた。

その時、僕達の手に重なるように誰かの温もりも重なった気がした。その温もりは唯々優しくて。まるで懐かしい家族四人で仲良く過ごしていた頃の幸せな思い出にくるまれているような気がした。

 

風が揺れる。

うっすらと朧げな意識で目を開けたとき、風になびく黒髪と深海のごとき美しい蒼い瞳が見えた。

ああ。水神様だ。

神様って本当にいたんだね。

お願いします。水神様。兄さんを助けてください。たった一人の最愛の兄なんです。お願いします。もう僕から大切な家族を奪っていかないで。

 

――大丈夫だ。必ず助ける。二人とも。

 

そう穏やかで心に染み入るような優しい声で応えてくれたような気がした。

自然と涙が零れた。

 

それを最後に僕の意識は深い闇へと沈んだ。

 

 

 

 

 

**

 

あれからどうなった…?

そうだ。兄さんは…。兄さんは一体どうなって…。

 

なぜか腕が強い力で拘束されて動けなかった。

不思議とその力に嫌悪感は抱かなかった。むしろ、このままでもいいとすら感じた。

顔を横に向けると、そこには兄さんがいた。

兄さんも僕と同じように目を覚ましていてくれた。生きてる…。

 

「兄…さん…。」

「無…一郎。よか…った…。無事だった…んだ…な…。」

「うん…。兄さん…も無事…でよかった…。」

 

二人してボロボロと涙を零した。

 

 

 

ひとしきり泣いた後、ふいに腕の拘束が気になった。

腕の先を目で辿ると、そこには背もたれに腰かけて、一人の男の人が寝ていた。

僕の右腕と兄さんの左腕がたしかにこの人に握られていた。

あれ…?この人、どこかで…。

 

パチリとこの人の目が開く。

 

「起きたか。」

 

この声…。それにその蒼い瞳…。

 

「あなたは水神様…?」

「「「「は」」」」

 

兄さんと水神様、それから二人の蝶飾りの女の人の声が見事に重なった。

 

 

 

 

 

**

 

パチリと義勇は目を覚ます。

見れば、双子の兄弟も目を覚ましていた。

よかった…。

 

「あなたは水神様…?」

「「「「は」」」」

 

その声には、俺と有一郎、それから回診のため、ちょうど病室へと入って来ていたカナエとしのぶの声が重なった。

 

 

「俺は水神じゃない。人間だ。」

「ふふっ。まさか神様に間違えられるなんて。たしかに、義勇さんはいつも何考えてるか分からない所がありますけど。」

「笑うな。しのぶ。」

「あら。いいじゃない、冨岡くん。とっても素敵だと思うわ。」

「…カナエ。」

 

未だに肩を震わせ笑い続けるしのぶと一点の曇りもない無垢な瞳で朗らかに笑うカナエ。

軽い頭痛がして、ジッと二人に無言の圧力をかける。

さしも、あまり効いていないようだが。

 

 

 

それから一段落した後。

互いに自己紹介し合い、ここは負傷した鬼殺隊の隊士の治療所である蝶屋敷であること、ここに運んだのは義勇であること、また発見が早かったことから後遺症もなく、経過は順調であることがカナエとしのぶの口から語られた。

 

「そうですか…。えっと、冨岡さん、助けていただいてありがとうございました…!」

「礼を言われるようなことはしていない。」

 

そうだ。もっと早く駆け付けることができていたのなら。こんな怪我だって負わせずに済んだ筈だ。

全てを助けられるわけではない。そんなことは分かっている。けれど、自分の無力を呪わずにはいられない。

 

 

「一応、俺も助けてくれたことには礼を言う。けど、アンタらはどうせ恩を売った上でこのまま俺達を鬼殺隊に入れようっていう魂胆なんだろ。ハッ。汚い連中だな。アンタらも、家に何度も鬼殺隊に勧誘しにやって来たあまねとかいう女と同じだ。何考えてるか分かりはしない。俺も無一郎もそんな奴らのいる鬼殺隊なんかに絶対入らないからな!」

 

有一郎はギッと義勇を睨みつける。

 

「兄さん…!!なんてことを…!!」

「ちょっと!何も知らないくせに、よくもそんな勝手なことを…!!義勇さんが一体ッ…!!」

「―…しのぶ。やめろ。無一郎も落ち着け。」

「ですが、義勇さん…!!」

 

今にも突っかかっていきそうな、しのぶ達を止める。

いかにも不満たらたらな様子だが。

 

「冨岡くん。しのぶ。一旦、席を外してくれないかしら。」

「姉さん!?」

「カナエ。」

 

新たに上がったカナエの発言に義勇はもちろん、しのぶも驚きをあらわにする。

 

「ね。おねがい!!」

「――…分かったわ。」

 

カナエは両手を前に可愛らしくお願いの姿勢を崩さない。

その様にしのぶは渋々ながら、義勇は割と素直に部屋を出ていく。

誰しも、特に弟妹ならば、姉のお願いには逆らえないものだ。義勇とて蔦子姉さんのお願いに逆らえた試しは一度たりとも無い。

 

 

 

突然のことに有一郎はどこか呆気に取られながらも、カナエを睨みつけるのはやめない。

 

「有一郎くんは本当に無一郎くんのこと大切に思っているのね。」

「は。」

 

のほほんと言うカナエに思わず毒気が抜けそうになる。

てっきり、先ほどのしのぶと同様に文句の一つでも垂れるのだと思っていたから、尚更に。

 

「きっと有一郎くんは無一郎くんが鬼殺隊に入ることで危険な目に合ってほしくないのね。」

「…………。」

 

その労わるような優しい微笑みに何も言えなくなった。

 

「私もね、妹が鬼殺隊にいるけれど、本当は鬼殺隊を辞めて、普通の女の子としての幸せを手に入れてほしい。おめかしをして、好きな人と恋をして、子供を産んで、お婆さんになるまで生きて欲しい。ずっとそう思っているのよ。それはきっとあなたも同じでしょ?有一郎くん。」

「…………。」

 

答えられなかった。

ただ真っ直ぐな視線に耐えられなくて、目を逸らした。

図星だったから。

 

「それとね。冨岡くんのことなんだけどね。あなた達をここに送り届けてからずっと、任務を終えると休みもしないであなた達の介抱をしていたのよ。魘されるあなた達の汗を拭って、手を握って、声をかけ続けて。最後は疲れが出ちゃったみたいで眠っちゃたけど。それでもあなた達の手を離さなかったのよ。どうか、彼の優しさを否定しないであげて。」

 

そう言い終わるとカナエは病室から出ていった。

無一郎も有一郎もどちらも言葉を発しなかった。

場を沈黙が支配する。

ふいにしばしして、意を決したように無一郎が口を開いた。

 

「兄さん。僕、鬼殺隊に入るよ。」

「…そうか。」

「…止めないの……?」

 

あまね様を追い返した時、あれだけ強く否定していたのに。

 

「…ああ。お前は強い奴だから。言っただろ。無一郎の〝無〟は〝無限〟の無だって。お前は自分ではない誰かのために無限の力を出せる。強くて優しい選ばれた人間だ。」

「兄さん…。」

「俺も鬼殺隊に入るよ。お前はすぐ無茶をしそうだから、俺がお前を守る。二人で剣士になろう。そして、鬼に苦しめられている人を助けよう。」

「…うん!」

 

自然と涙が零れてきた。

けれども、僕も兄さんも穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

**

 

――…それから二ヶ月後のこと。

 

「義勇さん!」

 

笑顔で無一郎が駆け寄って来る。

その後ろには、やれやれといった表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうな有一郎の姿があった。

 

 

二人が目を覚ましてから、しばらくして。

カナエや兄弟の間でどのような話し合いが行われたのかは分からないが、二人とも鬼殺隊に入ることを決めたらしい。

それから見事才覚を伸ばし、たった二ヶ月で二人とも霞柱への就任を果たした。

 

ちなみに、有一郎はあの後、義勇へ暴言を吐いたことを丁寧に謝ってくれた。

義勇は別にたいして気にも留めてなかったので、謝罪されることでもないと思っていたのだが。

対して、逆にしのぶの方が怒りも冷めやらぬ様子でプリプリと怒っていた。それはカナエに強制的に除け者にされたこともあるだろう。こちらを宥め賺す方に苦労した。

 

 

 

あれから懐いてくれた時透兄弟の頭を撫でる。

無一郎は嬉しそうに、有一郎は照れながらも受け入れてくれた。

 

 

願わくば、もう二度と彼らの命が脅かされることがないようにと。

 

 

 




実は、今回の話は童磨との話の後にしようと思っていたのですが、しのぶの性格の関係上、こちらを先にしました。
加えて、スランプの中でもこちらの方がある程度、話が固まっていたのもあります。
こんな拙い中で書き上げる小説ですが、読んでいただけたら幸いです。
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