もしもラインハルトがラインハルトちゃんだったら   作:龍仁

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逃げよう

 

 

「スバル……? 急に、どうしたの?」

 

 ラインハルトの手を引いて雑踏を掻き分けて進む。

 

「いつもと、様子が……」

 

 繰り返すこと三度。ナツキ・スバルは、運命から目を背ける事を決めた。

 

 ▼△▼△▼△

 

 無意識の内に、過信していた。

 死に戻り自体に直接の困難を打ち倒す力はない。だが、一度失敗した事をやり直す事が出来る。

 右の道を進んだら行き止まりだった。だから戻って左の道に進んだ。これが本当に文字通りの道であったなら、誰でも戻って左の道に進めば良い。だが、それが取り返しのつかない選択であったならば。

 他の人間は前にしか進めないが、スバルは後ろに戻る事が出来る。死に戻りは、そういう力だ。

 普通なら右の道を選んだ時点でゲームオーバーとなるところを、スバルは戻って違う選択肢を選び直す事が出来る。

 

 事実として、最初のループからしてスバルは当初何も分からずに死亡した。死に戻りがなければあの時点で終わっていた。

 選択肢を選び直す力があるとはいえ、自分だけで問題が解決出来た訳ではない。格好をつけた言い方をすれば、やり直し、選択し直して盤面を整える力。死に戻りは、そういう力だ。

 

 だから、適切に盤面を配置すれば乗り切れる問題は乗り切れる。

 逆に言えば、いくら盤面を整えたところで盤外から殴り掛かられるとなす術がない。

 

 白鯨。

 ラインハルトの祖父を含む討伐隊だけでは力不足。しかし、ティルをその場に同行させる事が出来れば倒せる。

 

『暴食』の大罪司教。

 具体的にどれぐらい強いのかは分からない。だが、不調でもティルがいれば問題なく倒せる。

 

『強欲』の大罪司教。

 不調のティルでは太刀打ち出来ない。しかし、戦闘特化だと思われるあのタイプであれば、ラインハルトがその場にいればどうにか出来るはずだ。

 

 これらは、スバルが動けば解決出来るはずだ。

 

 だが、『怠惰』の大罪司教。

 相手がラインハルトだったからかもしれないが、戦闘能力自体は大した事がないように見えた。しかし、悪辣なのが憑依能力とでも呼ぶべき力。

 たとえ本人を倒したとしても、こちらに憑依されてしまえば新たな器を与える事になるだけ。こういう乗っ取る系の能力は、憑依先の人間の力も好きに使うようになるというのがお約束だ。あの場では憑依されたのがスバルだったから良かったものの、ラインハルトが乗っ取られてその力を悪用されたらと考えると悪夢でしかない。

 こういうタイプは意思の力で抗えば、というのもある種のお約束ではあるが、経験した感覚として、抗うのは時間稼ぎにはなっても完全に押し返すのは不可能だろう。

 

 どうやって倒せばいい? 

 いや、倒すだけなら簡単だ。憑依能力を、どうやって攻略する? 

 憑依能力の限界を考える。例えば、対象と離れ過ぎていたら発動出来ない、というような。さすがに距離無制限という事はないだろう。有効射程距離が分かれば、その範囲外から狙撃するような形を取る事が出来るのではないかと思い付く。

 だが、現実的ではない。ラインハルトと討伐して回った魔女教のグループ――スバルは後ろで見ていただけだが――は、それぞれがキロ単位で離れた場所に潜んでいた。それぞれのグループに憑依して回っていたとすれば、憑依の射程距離は最低でも数キロ単位。

 仮に、その距離外から狙撃が可能だとして。結局一人潰しただけでは憑依で逃げられるし、グループのいくつかは人がいる集落からかなり近い位置に潜んでいたものもあった。スバルやラインハルトに憑依されなくても、村人などに憑依されてもアウト。

 

 無理だ。倒せない。

 そして倒せなければエミリアが死ぬ。その結果、あの極寒の獣が顕現する。

 スバルが何をしたところで、未来は変わらない。

 

「スバル……」

 

「ああ、悪い……何も言わずに、連れてきて」

 

「ううん。それは、いいけど……」

 

 ラインハルトの手を引いて訪れたのは、この世界に来て初めて案内してもらった高台。

 これから行うのは、一世一代の告白だ。たとえラインハルトが覚えていなくても、スバルにとっては思い出の場所。相応しい場所を、と考えた時に思い浮かんだのがここだった。

 

「急に、顔色が悪くなったから……」

 

「心配させて悪い。でも、緊張してるからって事で、そこは見逃してくれると助かる」

 

 周囲には誰もいない。

 高い場所にあるからか、下では感じられなかった風が燃え上がるような赤い髪を揺らすのを見ながら、少し戸惑っているような碧眼を見据える。

 

「決めたんだ。ラインハルト」

 

「えっと……うん……」

 

「俺と一緒に逃げてくれ。どこまでも」

 

 そうして、ナツキ・スバルは告げた。

 

「一緒に、逃げよう」

 

 運命への敗北を。

 

 ▼△▼△▼△

 

 考えてみれば簡単な話だった。

 どうやっても敵わない敵がいる。だから逃げる。至極当然の考えだ。一連の流れだ。単純に敵と一言で言い表して良いものか迷うものの、大枠として間違ってはいないはずだ。

 

 そう、逃げる。

 ずっと、そうしてきたのだ。この世界に来るまで。

 

「ぇ――?」

 

「戸惑うのは分かる。でも、このままここにいたら駄目なんだ。だから、まずは竜車を手に入れて王都を離れるんだ。そのままずっと北か西……寒いのは苦手だから、西が良い。西に行こう」

 

「まって……」

 

「ずっと西に行って、カララギまで。一緒に、来てほしい」

 

 運命もまさか別の国に行ってまで、スバルを殺そうとはしないはずだ。

 世界を滅ぼすなどと、あの獣はかつて言っていたが、そんな事が簡単に出来るはずもない。

 

「急にこんな事言って、悪いと思ってる。でも、選んでくれ」

 

「スバル……」

 

「俺を、選んでくれ……ッ!」

 

 手を差し出して、懇願する。

 顔を見る事は出来ない。彼女が今、どんな顔をしているか、想像する事すら怖い。

 

 一瞬の静寂。

 スバルの手は、取られない。

 

「聞いても、いい……?」

 

「ああ、そうだよな。こっちだけ一方的に言われても困るよな」

 

「何から、逃げるの?」

 

「全部、何もかもだ。これから起こる事、全部全部から」

 

 拒絶された訳ではない。顔を上げる。

 まだ、失敗した訳ではない。

 

「何か嫌な事が、起こるの……? もし、私に出来る事があったら……」

 

「その気持ちは嬉しいけど駄目なんだ。『腸狩り』の時とは、違う」

 

「……どうして、私なの?」

 

「お前が、好きだからだ」

 

 すべて本心だ。隠し事なんてしない。

 

「初めての土地だから戸惑う事も多いと思う。でも、頑張って仕事も探して、生活も安定させる。俺の全部使って、幸せにする。だから……」

 

 一緒に逃げてくれたなら、自分のすべてを捧げる覚悟がある。

 まともな仕事なんてした事はない。この世界に来て初めて、屋敷での使用人という名の見習い仕事をしたのが精々。それも、自分で勝ち取ったものではない。

 一からまともな職を探すのはきっと困難な道のりになるだろう。だが、ラインハルトが隣にいてくれるなら、頑張れる。

 

「そんなに想ってくれて、嬉しい……そんな風に想ってくれる男の子はいなかったから。私も、スバルの事が好き」

 

「なら……!」

 

「でも、どうして……そんなに苦しそうなの……?」

 

「――――」

 

 とっさに、言葉が出なかった。

 これは、スバルにとって一世一代の告白だ。未来を切り開くための、大きな賭けだ。

 

 だが、後ろめたい事はある。

 このまま逃げたら、まずエミリアが死ぬ。ラインハルトの祖父を含めた白鯨討伐隊も、きっとやられてしまう。例の獣が顕現して、フェルトやフラム、グラシス、爺やに婆や、ロム爺だって、他の人々も極寒に晒されて死んでしまうかもしれない。

 そんなすべてから、目を逸らした。

 

「スバルには、感謝してる。初めて会った時のこと……どんな事があっても、離れたりしないって。ずっと覚えてる。お店の事も……ラインハルト印って、私の評判を良くしようとしてくれて……本当に、感謝してる」

 

 碧眼と、目が合った。

 

「だから……苦しそうに、してほしくない。スバルが苦しい思いをするなら……一緒には、行けない」

 

「今は……笑えてないかもしれない。でも、いざ行ってみたら……苦しい思いなんて」

 

「――本当に?」

 

「――――」

 

 嘘は吐けない。

 賭けには、負けたのだ。

 

 正直に言うと、分の悪い賭けだと思っていた。

 ラインハルトはただの村娘ではない。『剣聖』という肩書きに、王選候補者であるフェルトの一の騎士という立場。出自も不明などこの馬の骨とも知れないスバルと一緒になるなど、そう簡単に許される訳はないと。

 だが、違った。

 立場も家柄も、そんなものは関係なく。

 

「逃げるしか出来ない、私と違って……スバルには、力があるから」

 

「そんなの、買いかぶりだ」

 

「買いかぶりじゃない。だって、美味しかったとか、次を楽しみにしてるとか、そんな事言われたのは初めてだったから」

 

「それは、ラインハルトの作るお菓子が美味かっただけで」

 

「でも……スバルがいなかったら、お菓子屋さんなんて始めなかった」

 

「店を出すのだって、ロム爺が主導して進めてた」

 

 ラインハルトは、スバルを過大評価している。

 製菓店を出すにあたって、確かにスバルも口を出した部分もある。だが、逆に言えばそれだけだ。みんながその気になれば、スバルがいなくても成り立った。

 

 そして、そんなスバルの目を碧い瞳がしっかりと見据える。

 

「スバルには、力がある。人を動かす力が」

 

「俺の事を、良く見過ぎだ」

 

「スバルが動けば、きっとみんな力を貸してくれる。ティルも、爺やも婆やも、フラムもグラシスも、フェルトもロム爺も……もちろん、私も」

 

「やったさ……それでも、駄目だった」

 

「みんなに相談して、それでも……駄目だった?」

 

「だから、それでも――」

 

 ラインハルトの手も、ティルの手も借りた。強さが必要になる場面だったから、それ以外には声を掛けなかったが、力は貸してもらった。その上で、駄目だったのだ。

 

 相談。相談など、出来るはずもない。

 だって、死に戻りの事は明かせない。詳しくは話せないけど手伝ってくれと、そう言うしかない。

 

「何も、話せないんだよ。何で分かるって言われても、説明出来ない。ただ、こうなるっていうのを知ってるだけだ。そんなんで、どうやって相談しろっていうんだよ……」

 

 これから起こる事が分かっても、なぜ分かるのかと聞かれると答えられない。

 だから、現れる脅威に向けて、何かと理由をつけて。あるいは無理やりにでも。そこへ連れて行くしか出来ない。

 

 二周目が良い例だ。

 ティルに対して、白鯨が出現するのを知っている理由を説明出来なかった。結果として、討伐隊が動いたからこそティルも動いてくれたが、スバルの言葉だけでは何も出来なかった。メイザース領へ向かう時には白鯨出現を言い当てたという実績があったからこそ動いてくれたが、今はそんな実績というようなものもない。

 

「説明出来なくても、私は信じる。スバルが、こうなるって言うなら、どうすれば良いか一緒に考える」

 

「なんで、そんなに俺の事が信じられるんだ……俺は、お前が思ってるほど大した人間じゃない」

 

 きっと、ラインハルトだって失望する。

 この世界に来る前の、時間なんてあり余っていたはずなのに何もせず、ただただ時間を無駄にし、努力のどの字もない怠惰な日々を送るスバルを見れば。

 そんな穀潰しとも言える息子に愛情を注いでくれる両親を鬱陶しがり、いってらっしゃいと出かけるスバルを送り出してくれる母親の言葉すら無視するような薄情者。

 

「本当の俺を知らないから、そんな事が言えるんだよ……」

 

「なら、私が見てるスバルは……本当のスバルじゃない?」

 

「ああ」

 

「嘘。そんなの……嘘だって、分かってる」

 

 手が取られる。

 小さい手だ。傷一つない、どこにあんな力が隠されているのか分からない綺麗な手だ。

 

「嫌なところだけが、その人じゃないって……私は信じてるから」

 

 眩しいと、そう思った。

 それほどまでに信じてくれる人がいるのに、自分は何をやっているのだろうと、惨めな気持ちになった。

 

「俺を、信じてくれるのか……?」

 

「うん」

 

 スバルは、自分が嫌いだ。

 何も為す事の出来ない惨めな自分。

 アストレア家でお世話になっているが、そこにいる誰もがすごい人たちで、自分一人だけが不相応。

 

 だから、今しかないと思った。

 

「今日の夜中……白鯨が出る」

 

「うん」

 

「それから最低でも2、3日はいる。その近くに魔女教の大罪司教の『強欲』と『暴食』がいる。メイザース領の、エミリアちゃんのいる近くに『怠惰』がいる」

 

「うん」

 

 心の中で、安堵する。

 ティルに死に戻りを打ち明けようとした時にあったペナルティーが起こらなかった。

 

 相談したかと、そう聞かれた。

 たとえ出どころ不明であったとしても、正直に相談する。それぐらいはしなければ、裏切りになると、そう思った。

 何もかも投げ出して逃げようとしていたのにどの口がという話だが、そう思ったのだ。

 

「私は、どうすれば……ううん、違う。一緒に、どうすればいいか、考える。でも、その前に……」

 

 ラインハルトが両腕を広げた。

 急にどうしたのかと戸惑っていると、その両腕に身体が包まれた。目の前で赤い髪が揺れ、花のような匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「ラインハルト……?」

 

「信じてくれて、嬉しい。私も、スバルの事を信じてる。大丈夫。スバルならきっと出来る」

 

 こんなにも信じてくれる人がいる。なんて幸せな事だろうか。

 

 それに、気付いてさえいれば。

 前の世界にも、いたのだ。スバルの事を何よりも信じてくれる二人が。その幸せに気付いてさえいれば、きっと。

 

 同じ失敗は繰り返さない。

 もう二度と裏切りたくはないと、そう思った。

 

「ああ。もう逃げない。だから、隣で見ててくれ」

 

「うん。隣で」

 

 細い身体に腕を回し、抱擁し返す。

 そして、宣言するのだ。

 

「戦ってやるさ――――運命様、上等だ」

 

 ▼△▼△▼△

 

「ねえ、スバル」

 

「どうした?」

 

「結婚は、いつにする?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 ▼△▼△▼△

 

「はあ……白鯨に『怠惰』、『強欲』、『暴食』ですか。作り話にしても欲張り過ぎでは」

 

 戦うと決めた以上は、出し惜しみはなしだ。

 ラインハルトと屋敷に戻ってすぐにみんなを集めた。

 

「作り話なら良かったけどな。残念ながら事実だ。みんなにはその対応のために手伝ってほしい」

 

「仮にそれが事実だとして、スバルさんはどうやってその情報を?」

 

「それは説明出来ない。でも分かるんだ」

 

 その場にはティルをはじめとして、フラムとグラシス、爺やと婆や、フェルトとロム爺という屋敷の人間が総出で集まっていた。

 

「特に、『怠惰』の対策について一緒に考えてほしい。『怠惰』は他人の身体を乗っ取る。普通に倒すだけだとこっちが乗っ取られて終わる」

 

「ただの妄想にしては随分と具体的ですね。事実なら知り過ぎて何者だという話になりますが。ヴォラキアでいうところの『星詠み』だったりしますか?」

 

「星詠み……? 星占い的なやつか? 一応言っとくが、俺のこれは星占いなんかよりも信憑性があると思ってくれていい」

 

「ですか」

 

 やはりと言うべきか、ラインハルトのように無条件で信じてくれるほど甘くはなかった。ティルも話半分でとりあえず話を合わせているような印象だった。

 だが、構うものか。隣には信じてくれる人がいるのだ。まずはそれで十分だ。

 

「乗っ取りから身を守る魔法とか、何か知らないか? みんなも」

 

「身体を乗っ取るねえ……何か知ってるか? ロム爺」

 

「いや、そういう魔法の類いは知らんな。しかし、なるほど身体の乗っ取りか。魔女教の『怠惰』といえば世界各地に現れると聞くが、世界各地の器を転々としているなら、目撃もされずに現れるのにも辻褄が合う」

 

 ここでロム爺から新情報。

 

「『怠惰』って有名なの?」

 

「魔女教でいえば『怠惰』と『強欲』が有名じゃな。『怠惰』による被害は数が多い。逆に『強欲』はそう頻繁に現れはせんが、一回の被害が桁違いじゃ」

 

「『強欲』は昔ヴォラキアの都市一つを壊滅させたらしいですね。どうせその時はあの阿呆のような奴もいない、雑魚しかいなかったんでしょうけど」

 

「あのアホ?」

 

「いえ、こちらの話です」

 

 何やらティルにはヴォラキア帝国の知り合いがいるようだが、今は関係ないので置いておく。ここルグニカ王国とヴォラキア帝国は仲が悪いはずなので、どうやって知り合ったのかは気になるが。もしかして手紙のやり取りでもしているのだろうか。

 

 ともかく、ロム爺からの新たな情報はよりスバルの頭を悩ませる事になった。

 

「それにしても、世界中か。仮に憑依……って便宜上呼ぶけど、憑依の射程が世界中なら周りに誰もいない状態で狙撃って作戦も無理っぽいな……」

 

「つーか、その憑依ってのが鬱陶しいなら何かさせる前に殺せばいいんじゃねーの?」

 

「いや、こっちを認識される前に殺しても憑依は使えるらしい」

 

 事実、魔女教のグループのいくつかはこちらを認識される前にラインハルトが殲滅したものがあった。しかし、憑依は起こった。

 

「ならば封印はどうじゃ? いかに身体を乗り移れるとはいえ、その意識ごと封印してしまえばそれで終いじゃろう」

 

「封印か……盲点だった。いや、確かに考えてみれば当たり前の発想だ……ラインハルトの物理に頼り過ぎてたか……」

 

 倒せないから封印というのはファンタジーでありがちな路線だ。異世界知識のあるスバルが真っ先に思い付くべきであるのに、今の今までまったく思い付かなかった。

 これもラインハルトに頼り切っていた弊害だろう。

 

「ロム爺は封印系の魔法とか使えるのか?」

 

「儂には使えん。魔法ならティルの方が詳しいじゃろう」

 

「いえ。そういう意味のない魔法には興味がないので」

 

「意味がない事はなかろう。嫉妬の魔女を封じているのも封印じゃぞ」

 

「なら、そんなものがお嬢様に通用するとでも?」

 

「それは、うーむ……」

 

 スバルからしても、恐らくこの屋敷の中で一番魔法に詳しそうなティルでも知らないなら、封印という手は現実的ではないのかもしれない。

 

 とはいえ。

 

「お前、下剋上狙ってるのか?」

 

「この国で私よりも強いのはお嬢様ぐらいですし、それを倒そうとするのは当然でしょう」

 

「へぇ……それで、実際いけそうな感じ?」

 

「指先が掛かったぐらいですが」

 

 どうやらティルはラインハルトに勝ちたいらしい。

 スバルからすればどちらもヤバすぎて頂上が見えないぐらいの実力者なのだが、やはりラインハルトの方が上なのだろう。心情的にはずっとラインハルトには一番でいてほしいが、頑張って一位を目指そうとしているティルも応援はしたいところだ。

 

「加護なしなら、かなり良い勝負になる」

 

「ある程度あっても良い勝負になりますが?」

 

「あ……うん」

 

「最近は後天的に加護を授かれる魔法ができないかと試行錯誤しています」

 

「お前、めちゃくちゃな事言ってる自覚ねーの?」

 

 たまらずといった様子でフェルトからツッコミが入った。

 

「まあ、ともかくですが。お祖父様もお祖母様も魔法には明るくありませんし、フラムもグラシスも全然勉強しないので魔法の知識はありません」

 

「剣の修行だけで精一杯です……」「姉様、頭でっかち」

 

「後でお話」

 

「お説教はグラシスだけに……」「フラムの、裏切り者」

 

「ともかく。私たちだけで話していても埒が明かないというか、面倒なので魔法に詳しい人間を連れて来ます。あと、ここまで話して後で嘘だとなったら伸すので」

 

 そう言って、ティルはどこかへ向かった。

 魔法に詳しい人間を連れて来るとは言うが、一体誰を連れて来るつもりなのだろうか。

 

 どれぐらい時間がかかるのかも分からないと少し場が微妙な空気になりかけたが、体感2、3分後にティルは戻ってきた。

 脇に緑色の髪の少年を抱えて。

 

「ティル嬢、相変わらず君は私の扱いが雑だな!?」

 

「これはエッゾ。魔法に詳しい男です」

 

「ラインハルト嬢は久しいな! 他ははじめましてか。エッゾ・カドナーだ、よろしく頼む」

 

「へー、アンタが魔法に詳しいってヤツ? アタシと同じぐらいなのにスゲーんだな」

 

「言っておくが、私は小人族なので見かけ通りの年齢ではないぞ。なにせ、ティル嬢が子どもの頃から私は大人だからな!」

 

 少年ではなかったらしい。

 この世界に来てから異世界ファンタジーらしく獣人も見る事があった。小人族という種族もいたというのは初耳だが、さすがは異世界といったところだろう。

 

「さて、そろそろ私をここに連れて来た理由を聞かせてくれるかね? 私は加護を授かる原理の究明のために忙しいのだが」

 

「試行錯誤って、人にやらせてんのかよ!」

 

「術式ができれば私が実験台になって試しますし」

 

 相変わらずフェルトのツッコミが冴え渡っている。

 フェルトがいなければスバルがツッコミ担当にならなければならないので、助かるやら助からないやらといったところだ。

 

「じゃあ、改めて説明するよ。これから起こる事と、その対策について――」

 

「その前に自己紹介をしてくれると個人的に助かるのだが」

 

「悪かったよ! ナツキ・スバルだよ、よろしく!」

 

 締まらない感じになってしまったが、ここからようやく動き出す。

 エッゾというフェルト陣営最後のピースが揃い、運命へ抗う戦いへと。

 

 

 

 

 

 






という感じで進んでいきます。
スバルはやると決めたらやる男なので、ヴィルヘルム関係もなんとかしてくれるはず。

最後に登場したエッゾ・カドナーは原作でもフェルト陣営として出てくる小人族の男です。原作最新章でも活躍し、短編集ではフェルト陣営に入る事になった経緯も描かれているので、気になった方はぜひ。
拙作ではとある事情で幼い頃のティルと出会って以来、ラインハルトちゃんを倒す用の魔法開発に付き合わされている苦労人です。

原作でも厳密な基準に関してはふわっとしていますが、拙作においては死に戻りを口にした際のペナルティーについて、直接死に戻りというワードを出したり、死に戻りによって知った事象について、〇〇だった・〇〇したというように過去形の言い方をしなければ引っかからないという設定で進めていきます。
例)俺は死に戻りをしている/俺は『怠惰』に憑依された→アウト
  俺には未来が分かる/俺は『怠惰』に憑依される→セーフ

ちなみにですが、死に戻りの事を話せなくてもフェルト陣営の面々は未来の出来事について話を聞くだけは聞いてくれます。そこからどう動くかはスバル次第。

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