カナヲ拾いました。   作:エミュー

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お久しぶりです。
しばらく砂糖はお預けです。


お前は殺す。

一閃。

金色の鉄扇が薄暗い闇の中で迸る。

肉を断つ生々しい不快音。飛び散る血霞。一拍遅れて訪れる激痛は灼熱の業火の如く脳裏を焼き焦がす。

 

大きく後ろに飛び退いたカナエは視線を自身の右腕があった箇所に向ける。

肩から先にあるべきはずの右腕は、遥か後方でぐちゃりと音を立てて落下した。

 

「………ッッ!!??」

「んんん?おかしいなぁ。首と胴を真っ二つにしたと思ったんだけど」

 

ばたばたと音を立てて垂れ流される鮮血が、カナエの足下に血溜まりを作り上げる。患部に触れた左手に感じる生暖かい温度。

右腕が斬り落とされた。

そう理解するのに時間は要さなかった。

 

無くした右腕に構っている余裕は無い。

即座に止血の呼吸で流れ出る血をせき止める。柱ともなれば自身の身体のほぼ全てを理解し支配することができるため、血管の収縮など容易い。止血を終えたら、痛み止めの呼吸を行いながらこの屋敷を離脱せねばならない。

 

果たして上弦の鬼を相手にそんな芸当ができるのか。

答えは否。不可能。

 

(……まさか、最初の接触でバレるなんて思いもしなかったわ)

 

生命の危機だと言うのに、ことの他冷静な頭で状況を分析する。

 

上弦の弐は屈託の無い笑みを浮かべながらカナエの一挙手一投足に注視しているようだ。見た目に反して頭脳明晰なのかもしれない。

それもそうか。盲目的な教徒を体のいい方弁で纏めあげる教祖なのだから、馬鹿では務まらないだろう。

 

「やっぱりそうか〜。君、鬼狩りなんだねぇ」

「…………」

「どうしてわかったのか不思議そうな顔してるねぇ」

 

ケラケラと満面の笑みを浮かべているくせに、その瞳はまるで笑っていない。貼り付けたかのような、薄氷のように薄い笑みで鉄扇をカナエに向ける。

 

「わかるよ。俺は教祖だからね。俺の元に救いを求めてやってくる人間ってのはね、カナエちゃん。君みたいに希望に満ち溢れた眼をしていないものなんだ」

 

人間という下等な生き物を憐れむかのような眼差しを向けられ、カナエは自身の血液が沸騰してくる感覚を覚えた。

 

「さてカナエちゃん。君は鬼狩りで俺は倒すべき鬼。上弦の鬼と合間見えた意味をちゃんと理解しているのかな」

「当然です。私はあなたを倒しに来たのですから」

 

凛として童磨と相対するカナエに、童磨は驚いたように目を丸め、しばらくカナエを凝視した後に扇子を開き口元を隠しながら笑う。

 

「あはは!面白い冗談だね。片腕を失い、日輪刀も持ってない。そんな君に何ができるのかな」

 

まな板の上の鯉を見るかのような、死に追いやられた獲物を狙う獰猛な肉食獣のような眼。

今のカナエは丸腰。このままでは童磨に為す術なく殺されてしまうだろう。

 

「ああ、安心してよ。カナエちゃんは可愛いし、肉質的に見ても上玉だし、俺が喰うに相応しい人間だ」

「そうですか。生憎、易々と喰われる訳にはいきませんので」

「まあまあ。そう睨まないでおくれよ」

 

言うや、カナエの視界から童磨が掻き消えた。

え、と背後に気配を感じて振り返れば、吹き飛んだカナエの右腕を掴み上げ、断面を舌で舐める。

今はない右腕があった箇所に怖気と寒気が迸り、カナエは身体を震わせた。

 

いや、それ以上に。

 

(移動速度が……はやすぎる………!)

 

目で追いきれぬ程の高速移動。

カナエは悟る。童磨の匙加減で自身の命など容易く葬られてしまうということを。

 

「ん〜〜。若くて健康的な女の子の肉は美味しいね」

「……気持ち悪い………ッ」

 

自身の身体の一部が目の前で咀嚼されている。異常な光景を目の当たりにしたカナエは吐き気をぐっと堪え、童磨に背を向けて走り出す。

 

「あっ、逃げちゃダメだよ」

 

観音開きの引き戸を蹴破り、廊下を疾走する。

 

「──────しのぶッ!!!」

 

カナエが叫ぶと、童磨の居た部屋の窓硝子を突き破り、小柄な鬼殺隊士────胡蝶しのぶが童磨の眼前に躍り出る。

 

「えっ、君誰────」

「よくも……姉さんをッッッ!!!」

 

刹那の合間に放たれる猛毒を含んだ刺突の連打が、咄嗟の出来事に反応出来なかった童磨を突き穿つ。

しのぶが持ちうる最強の毒、その全てを童磨へと叩き込んだ。

 

「あ〜残念。突きじゃ鬼は殺せないよ」

「……それなら、毒はどうかしら」

「え……?」

 

直後、童磨は膝から崩れ落ち、苦悶の表情を浮かべる。

即効性の猛毒が童磨を蝕み、皮膚が爛れ身体の穴という穴から血が吹き出る。

 

「グッ………ゲホッ………これはっ、藤の花の……ゴホッ………、毒、だね………!」

 

喀血する童磨をありったけの侮蔑を込めた眼で睨みつけ、しのぶもカナエを追って部屋を飛び出る。

 

しばらく走ると、カナエの背中に追いついた。

 

「姉さん……!腕が………ッ!」

「しのぶ……よく来てくれたわね。もうダメかと思った」

「ごめんね姉さん……もっと私が来るのが速かったら……!」

「しのぶのせいじゃないわよ。それよりもはやく屋敷を出ましょう」

 

気丈に振る舞うカナエだったが、額には脂汗が滲んでおり、痛みや苦痛を感じている。血を流しすぎていて、いつ倒れてもおかしくない状況だ。

このままカナエを抱き抱えてやりたかったが、しのぶにはそんな力が無い。

 

「上弦の弐は?」

「一応、持ってきた毒全部は叩き込んだ。けど多分死んでない。時間稼ぎにはなってる筈だろうから、しばらくは追ってこないと思う」

 

屋敷を飛び出した二人は、深い森の中を必死に駆ける。

未だに童磨は追ってこない。

まさかあの程度の毒で死んだ訳ではあるまいが、もしかしたら、という期待がしのぶの頭の中でぐるぐると巡る。

それはカナエも同じだったようで、先程よりは少しだけ緊張感が解けたようにも見える。

 

上弦の弐を巻いたかもしれない。

 

「いやー、毒を喰らうのなんて初めてだよ。クセになっちゃいそう」

 

そんな淡い希望は、即座に潰えた。

 

森を抜けたその先に、上弦の弐は屈託の無い笑みを浮かべながら立っていた。

 

「惜しいねぇ。せっかく毒を作ってくれたのに。なんか分解できちゃったみたいでさ」

 

ケラケラと笑い、童磨は金色の鉄扇を開いた。

 

「屋敷の信者が皆居なくなってたのは君たちの仕業だね?街の信者も全然屋敷に戻って来ないし」

 

まあ、どうでもいっか。と一蹴した童磨は、にこやかな表情のままカナエとしのぶを交互に見遣る。

驚愕に身体が硬直した二人に童磨の容赦ない血鬼術が放たれる────その刹那。

二人と童磨の間に桜が吹き荒れた。

 

「会いたかったよ。教祖様」

「……あれ?あれれ?君、もしかして!!」

 

薄桜色の長髪と、腰丈の漆黒に桜の刺繍を散らした外套が夜風で靡く。

桜色の瞳には尋常では無い程の殺意と憎悪が煮え滾るように渦巻いている。

 

「…………真桜くん」

 

愛しの人の名を呼べば、申し訳なさそうに桜色の瞳を伏せた。

 

「カナエさん……。すいません。僕が付いていながら……」

 

謝る真桜に首を振る。あなたのせいではないと。

それ以上に、怒りと殺意を剥き出しにしている真桜のことが心配で仕方なかった。

 

「いやー、真桜くん久しぶり!随分大人びたねぇ。うんうん、凛々しくなった。見違えたね!」

「………」

「きっと莉桜ちゃんも俺の中で喜んで────」

 

童磨の言葉の途中で、真桜が爆ぜるように動いた。

疾風迅雷の躍動。空間跳躍と言っても差し違いない高速移動からの強烈な斬撃が、童磨の両腕を夜空へと斬り飛ばした。

 

「おい、童磨」

 

底冷えするかのような、冷酷な声音。

普段の穏やかな真桜からは想像できないほどの。

 

「これから先喋る時は一言一言よく考え、よく噛み締めて喋れ。どれがお前の遺言になるかわからないからな」

「あはっ、面白いこと言うね」

 

対峙する真桜と童磨。

数年に渡る因縁の戦いが幕を上げる。




はやく真桜くんとカナエさんをいちゃつかせたいです
次回どうして3人が童磨の元に向かったのか書けたらなーとか思ってます
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