流星の配信者   作:メテオG

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ちょっと文字数少ないです。長くても読みにくかったら元も子もないですからね。

今回は少し羽休め回みたいな感じであんまりお話は動きません。申し訳ない。


第八話

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの戦いが終わった後。ノイズが現れた商店街では、二課職員たちによる事後処理が始まっていた。職員たちのほかにも、二課に保護された一般人たちも手当てを受けて、各々が自分の家などに帰っていく。そして、一般人に紛れて、立花響と小日向未来の姿もあった。二人とも土や埃まみれで、お世辞にも綺麗とは言えないくらいには汚れていた。

 

その二人の前には風鳴弦十郎と、二課所属のエージェントであり、トップアーティスト風鳴翼のマネージャーでもある男、緒川慎次の姿もあった。そして緒川の手には小日向の鞄が。

 

どうやら小日向は、星河と別れた後に避難所に行かず、無茶を行ったらしかった。全身が汚れているのもきっとその時に何かあったのだろう。

 

 

「はい。落ちていたのを回収しておきました」

「あ、ありがとうございます…!」

「どういたしまして」

 

 

因みに小日向が鞄を落としたのは廃ビルの中、彼女が行きつけのお好み焼き屋の店主を助ける際に落としたのだが、彼女はそれに気付かず他のとこで落としたのだと思っていた。半ば諦めていたのだが、この緒川は小日向が鞄を落としたことを伝えることもなかったというのに、鞄を探し出して本人に渡した。…一体何者なのだろうか。小日向は少し不思議に思った。

 

 

「あの…師匠」

「ん?」

 

 

師匠、というのは風鳴弦十郎のことである。立花響は人類最強と名高い風鳴弦十郎に師事していたりする。おかげで立花の戦闘能力は、シンフォギア装者になってから未だ半年も経っていないというのに高まっていた。具体的にはもう一人のシンフォギア装者である風鳴翼と同等くらいには。

 

 

「この子に、また戦ってるところをじっくりばっちり目の当たりにされてしまって…」

「違うんです! 私が首を突っ込んでしまったから…!」

 

 

本来シンフォギアは国家秘密である。なのでシンフォギアの存在を確認してしまった一般人は分厚い誓約書を書かされ、一般人向けの事情を説明してシンフォギアの存在が世にバレることを防いでいるのだ。小日向も少し前に立花がシンフォギアを纏って戦う所を見てしまい、誓約書を書かされている。そんな彼女がまたシンフォギアと関わるのは色々と不味かったりするのだが…

 

 

「ふむ。詳細は後で報告書の形で聞こう、まあ不可抗力という奴だろう。それに、人命救助の立役者にうるさい小言は言えないだろうよ」

 

 

そこをとやかく、野暮なことを言わないのが風鳴弦十郎である。人が出来ている、と言えばいいのだろうか。二人が元々仲良しだと知っていることから、一種の労いの意味もあるのだろう。

 

 

「やたっ!」

「うん!」

 

 

仲良くハイタッチする二人。昨日や今日の今朝がたは、今語った立花がシンフォギア装者であったことが小日向にバレたせいで長年の友情が危ぶまれるくらいの喧嘩をしていたのだが、どうやら仲直り出来たらしい。どちらも自分の思いを余すことなく伝えられたようだ。

 

さてそんなところで、空気を読んでか読まずかのタイミングで荒い運転の車が商店街に到着した。フィーネこと、櫻井了子がやってきたのだ。

 

 

「さて!主役は遅れて登場よ!」

 

 

改めてその姿を見れば、フィーネの面影は一切ない。本当にフィーネは櫻井了子なのか?そう疑ってしまうほどだ。まるで何事も無かったかのように、少し前まで戦ってなどいなかったというばかりに櫻井了子は落ち着いていた。二課の職員と連携をとりながら事後処理を進めていく、きっと彼がここに居たら絶句していただろう。

 

彼、といえば。小日向が、立花と話している最中ちらちらとスマホを確認している。なにやら先程から彼にメッセージを送っているようなのだが、一切反応が無いので不安を覚えているようだ。

 

 

「どしたの未来?」

「う、ううん!なんでもないの」

 

 

彼には二年前に何も言わず音信不通になった前科があるため、それが余計に小日向の不安を煽る。しかしそれを立花に言ってもどうにかなるわけでもなく、それを聞いた立花がどんな反応をするかも分からない。立花と彼の間には何かしらの軋轢がある、それがどんなものなのかは知らないが、きっと触れない方がいいのだろう。

 

…目前の親友との問題の解決を果たしたからこそ、改めて色々と考えてしまう。雪音クリスは果たして無事なのか?彼とは会えたのか?最悪ノイズに襲われて、ということもある。

 

 

「後は頼りがいのある大人たちの出番だ、響くんたちは安心して帰って休んでくれ」

「「はい!」」

 

 

二課の職員の一人、友里あおいが暖かいものということで、飲み物を持ってきてくれる。それを受け取って飲みながら改めてなんとかなったな、と立花は一息ついた。立花は上機嫌である。最初は不仲であった風鳴翼ともついに和解を果たし、一時はどうなるかと思った小日向とも今語ったように仲直りできた。今ならなんでも出来そう!と冗談半分ではあるが思ってしまうほどだ。

 

 

「あ、あの!私、避難の途中で友達とはぐれてしまって…星河スバルと、雪音クリスと言うんですけど…」

 

 

風鳴弦十郎が現場に指示を出すためにこの場を離れようとする、それを見た小日向は条件反射で声をかけた。風鳴弦十郎は挙げられた名前に少し反応を示したが、小日向はそれに気付かない。

 

 

「被害者が出たとの報せも受けていない。その友達とも連絡が取れるようになるだろう」

「よかった…」

 

 

小日向もホッと一息ついた。それならば彼のことだ、スマホを見てないか、そもそも存在を忘れたりでもしたのかもしれない。もしかしたら避難所の方に居る可能性だってある。少し心の落ち着きを取り戻した小日向だった。そして風鳴弦十郎は小日向に答えたあと職員に呼ばれ、今度こそこの場を離れる。

 

 

「み、未来ってばスバルくんに会ったの!?」

 

 

立花が小日向のした質問に釣られる。しかし星河スバル、という部分に気をとられたせいで立花は雪音クリスの名前は聞き逃していた。小日向の口からその名前が出てくるとは思わなかったらしい。

 

 

「うん、今朝偶然会ったんだよ」

「そ、そうなんだ…」

 

 

何か言いたげな顔の立花。

 

 

「気になるんだ?」

「あ、う、うん…」

「そっか」

 

 

少しからかった口調で小日向は問いかける。立花は彼のこととなると妙に奥手になる。二年前もそうだったな、と小日向は思い出した。

 

確かに彼が転校してしまった時期は小日向と立花にとって最も大変な時期ではあったのだが、それにしても立花は彼の事を話題に挙げるのを避けていたりした。当時は聞ける雰囲気になく、結局何も聞けなかったのだが。ただ、立花自体がまた彼と話したいのは確かなようで、それが小日向には少し嬉しかった。

 

そして二人は寮への帰路につく。立花が彼について何か聞いてくると思っていたのだが、結局彼女がその話題に触れたのは最初だけだった。ただ、他の話をしている最中悩んだような顔をしていたので、敢えて話題にしていないようである。

 

小日向も時折会話の節々で、何か手伝えることがあるのなら手伝うといったことを伝えるものの、当の本人である立花がそれを自分の問題だから、と拒否する。

 

 

「あ」

 

 

そんなところで、小日向が彼に送ったメッセージに既読が付いた。本当に無事だったようだ。そして既読がついてから二分ほどで返信も返ってくる。無事だから心配すんな、と彼の文章にしては何処か荒っぽい気はしないでもないが、とりあえずは無事な事に喜んだ。その後の返信で雪音が無事なのも伝えられる。久方ぶりになる彼とのやり取りは小日向が思っているよりも小日向の心を満たしていた。

 

小日向は彼のメッセージに返信を返す。無事で良かったことと、メッセージを大量に送ったことへの謝罪、あとは今度暇があったらまた会えないかな、といった感じだ。今度は直ぐに返事が返ってくる。考えとく、その一言だけだったが。

 

 

また三人で仲良く出来るようになればいいな、と小日向は思う。そうして、夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は移り、彼の家。

 

 

「この事は誰にも言わないでください…っっ!」

 

 

───それは見事な土下座だった。綺麗に揃えられた指先、見事に真っ直ぐのびた背中。土下座をし続けるその身体は一切のぶれも許さず、平伏された頭はもはや芸術。そんな半ばふざけた様にも見える土下座をされている雪音クリスは、非常に困った顔をしていた。何がなんだか分からない、そう言いたげである。

 

 

「いや、あの本っ当に、僕がロックマンであることは秘密にしてくれると…」

「わ、分かったから頭上げろよ…」

 

 

家に運んでから直ぐ様起きた彼だったのだが、パッと傍にいた雪音の顔を見て急に土下座をし始めたのだ。なにやら意識を失う寸前のことを覚えていたようで、目が覚めた瞬間に状況をなんとなくで理解したらしい。彼からすればロックマンの正体がバレるのは一番避けていた事柄、これがトッキブツの面々でなくて良かったと思うものの、それはそれとして口止めは必要だと思ったのだろう。

 

ウォーロックはそれを見てゲラゲラと下品に笑っていた。因みにまだ彼のスマホの中に入ったままなのでその笑い声は雪音にも聞こえている。

 

 

「っ本当!?」

「あ、あぁ」

 

 

彼は求めていた言葉に咄嗟に起き上がり距離を詰める。彼の異様なまでに必死な剣幕に思わず圧されてしまう雪音。そして距離を詰めすぎたことに気付いた彼の顔の血の気がサッと引いて、謝りながら少し離れる。

 

 

「…」

「…」

 

 

彼としてはどうにかロックマンの正体を黙っていて欲しいとしか思っていなかったので、その後どうするかは一切考えてなかった。雪音も雪音で、彼が目覚める前にさっさと出ていくつもりだったのに、こんなことになってしまいそのタイミングを失ってしまっている。気まずい空気が少し続く。

 

 

「そ、そうだ。熱とかはもう大丈夫?」

 

 

雪音が無言で頷く、会話は続かない。

 

 

「雪音さん、は。こんな時間だけど、ご両親とかは心配してないの?」

「…居ねぇよ。パパとママはガキの頃に地球の裏側で殺されちまった」

「ご、ごめん」

 

 

完全に地雷を踏み抜いた。気まずい空気に重さが加わった、気がした。やってしまったと後悔する彼、どうにか出来ないかと辺りをつい見回すと、彼が玄関前に置いたまましていた買い物袋があった。どうやら雪音が部屋に入れてくれていたようだ。駄目元だがこれしかあるまいと思い立った彼。

 

 

「えと、お腹減ってない?まだ何も食べてない、よね。なにか作るから待ってて」

「いらねぇよ、別に」

 

 

雪音の言葉を聞いていながらも彼が立ち上がる。これくらいはしておかないと、助けてもらった恩は返せないと思ったのもあるが、このままだと気まずさが続くだけだからでもある。買い物袋からささっと食材を取り出して調理を始める。

 

そして調理を始めてから暫くして、無言を貫いていた雪音が口を開いた。

 

 

「…パパとママが死んでから、アタシはずっと一人だった。友達も、いなかった」

 

 

彼の調理を進める手が止まる。何か答えた方がいいのか悩んだが、きっと此方がとやかく言うのは求められていないだろう、と判断する。雪音の言葉が少し止まったのは、小日向の事が少し過ったからだった。

 

 

「たった一人理解してくれると思った人も、アタシを道具のように扱うばかりだった」

 

 

雪音は思い出す、フィーネに役立たずと言われたことを。元々フィーネの考えに賛同し、フィーネと共にこの世から戦争の火種を無くすという目的のために戦っていたのが雪音だ。その筈だったのに、雪音はフィーネに裏切られた。用はないと言われ、急に切り捨てられた。

 

 

「誰もまともに相手をしてくれなかったのさ。大人はどいつもこいつも、クズ揃いだ」

 

 

信頼していた人間に裏切られるのは、どれほど辛いだろうか。人生の大半を信じていた筈の大人や信じたかった大人の存在に苦しめられ続けて、彼女は何を思ったのだろうか。

 

「痛いと言っても聞いてくれなかった。やめてと言っても聞いてくれなかった」

 

フィーネはかつて雪音に、痛みこそが人と人の心を繋いで絆と結ぶと語った。一種の正解ではあるのだろう、しかしそれは常人にとっては呪いだ。痛みは人を縛り付ける、離れたくとも離れられない呪いになる。事実、雪音に残った痛みは雪音の心を今も縛り付けている。誰かを信じたくとも痛みがそれを拒否させる、歪んだ教訓として。

 

 

「アタシの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった…ッ!」

 

 

きっと彼女はそれを吐き出さずにはいられなかったのかもしれない。親の様に慕っていたフィーネに捨てられ、もう一度会ったときには毛ほども興味を持たれていなかった。その辛さが雪音に望まぬ感情の発露を行わせる。言いたくもなかったであろう事を言わせてしまった事を彼は悔いる。必死に言葉を探す。

 

 

 

「…雪音さんは、強いんだね」

 

 

 

止まっていた調理を進める。ポツリと呟かれた彼の言葉を聞いた雪音が、怪訝そうな顔をした。どうして今の話から強いという結論が出るのだろうか。

 

 

「僕の両親、二年前に亡くなったんだ。だから、ほんの少しだけだけど、君の孤独がわかる」

 

 

未だに彼の手には、炭になってしまった父の背中の感覚が残っている。繋いでいた母の手の温もりが消えてなくなる瞬間を忘れられない。一人になった後の、親友に化け物を見るような目で見られたこと、謂れのない罪で消えた絆の脆さも覚えている。孤独の恐ろしさを知っている。

 

 

「僕はそれだけで誰かを信じるのが怖くなった。けど君は孤独になっても信じることを諦めなかった」

 

 

彼は人を信じることを諦めてしまった。人と関われないわけではない、だが関わっていく上で信じることが出来ない。悪夢でベルセルクが語った通り、彼は人を疑い裏切りに怯えている。だからこそ、孤独になっても、裏切られても人を信じることを諦めない雪音を彼は『強い』と評する。

 

 

「それはきっと、誇っていいことなんだと、思う。君の勇気は何よりも強いんだって」

「そう、かよ」

 

 

今まで雪音はそんなこと言われたことはなかった、心の中によく分からない感情が湧き出る。ほぼ初対面の男のほんの短い言葉で、雪音はほんの少しだけ救われた気持ちになってしまっていた。劇的に彼女の何かを変えるわけではない、それでも。

 

 

「…ありがとう。なんかすっきりしたよ」

 

 

変わるきっかけくらいにはなるのかもしれない、雪音は何かを決意したような顔で立ち上がる。そのままじゃあな、と告げて彼の部屋から出てってしまった。

 

 

『作ってる意味なくなっちまったな』

「あはは…まあいいよ。明日の夕飯にでもしよう」

 

 

ウォーロックがスマホから出てくる、ウォーロックにしては珍しく静かだった。実は今の今まで小日向のメッセージに既読をつけたりメッセージを返信していたのである。

 

 

『スバル、身体は大丈夫か?』

「正直やばいかも。立ってるのも厳しい」

『だろうな、あんなダメージくらっちまったんだ』

 

 

へたり、とその場に座り込んでしまう彼。どうやら無理をしながら調理をしていたらしい。ウォーロックもウォーロックで大きなため息をつきながら、彼に大事なことを告げる。

 

 

『スバル、暫く電波変換は出来ねぇと思え。今のお前じゃ戦闘に耐えられねーだろ』

「分かった、まあこの身体じゃ仕方ないかも。…配信どうしよ」

『知るかよ。つーか、結局あのフィーネとかいう女はどうすんだ?』

 

 

別にウォーロックは彼が復讐に走ろうと止めるようなことはしないだろうが、またあのような暴走をされるのは一心同体の身としては困るものがある。ウォーロックとしては聞いておかない訳にはいかなかった。

 

 

「…どう、しようね。でも何か不味いことをしようとしてるのは確かなんだと思うし」

 

 

あの時彼に流れてきたベルセルクの記憶の中で、フィーネは大きな目的があると語っていたことを思い出す。最低でもベルセルクの時代から現代まで存在している奴の大きな目的なんて確実にヤバイものに決まっている。

 

 

「…まぁ、そこはおいおい」

『急に雑だな』

「やっぱ疲れちゃってるのかも」

 

 

復讐を行うべきなのか、彼は迷っていた。確かに恨みはある、殺してやりたいと思う、しかし彼の心はそれが本当に正しいのかどうかを考えてしまう。あのライブの被害者の気持ちを勝手に語る気はないが両親が死んだ原因は許しがたい。

 

 

 

今はただ美味しいご飯でも食べたいな、と思う。少しだけ現実から目を反らしたくなった彼だった。

 

 

 






因みに投稿がいつもより遅いのは流星のロックマン2を改めてやってたからです、すまんかった。

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