真姫ちゃんハッピーバースデー!

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西木野真姫生誕祭2020

 朝。少しだけ遅めの時間。

「…………ん」

 窓から差し込む太陽の光を受けて、真姫はゆっくり目を開けた。今日は日曜日。学校も無いし、μ'sの練習も休みだ。──夕方から、一つ楽しみな予定はあるのだが。

 目覚ましに頼らない悠々自適な起床も悪くない。少しだけ上機嫌の真姫は、身体を起こす。

「あ、真姫ちゃん起きたにゃ〜。おはよう!」

 すぐ横から聞こえてくる元気な声。

「ええ、おはよ、凛」

 つい反射的に返してから、

「……ん?」

 真姫は違和感に気付く。

「⁉︎」

 人生最速とも思える速さで横を向くと、床に座ってニコニコ顔でこちらを眺める同級生の姿が。

「り、凛⁉︎ 何でここに⁉︎ どうやって入ったのよ!」

「真姫ちゃんのお母さんが、まだ寝てると思うから部屋で待っててあげて、って」

「ママ……!」

 身近な犯人に届かぬ苦情を飛ばす真姫。

「それにしても、真姫ちゃんの寝顔、可愛かったにゃ〜。こんな時間までスヤスヤ寝ちゃうなんて、今日のお誕生日会が楽しみで夜更かししちゃった?」

「あなたじゃないんだから、そんな訳ないじゃない!」

 笑顔に向かってチョップを繰り出すが、

「よっ」

 華麗に回避されてしまう。

「へへーん、寝起きだから攻撃にキレが無いにゃ! そんなの当たらないよ〜」

「り〜ん〜!」

 つい追いかけたくなったが、そもそも何故凛はここにいるのだろうか。今日の予定──もとい、μ'sのメンバーが企画してくれた誕生日パーティーは夕方なのだ。だからこそ、真姫は自然に起きるに任せたのだから。

「……なんであなたはここにいるのよ。勝手に部屋まで来て、私を起こすでもなく」

 追いかけてこないと分かったのか、凛は立ち止まりこちらに向き直る。

「一番にお祝いしたかったから!」

「……それだけ?」

「あー真姫ちゃんそういう事言うんだにゃ! せっかく凛が早起きして駆けつけたのに!」

「頼んでないわよ」

「真姫ちゃん酷いにゃー! こうなったら……さっき撮った幸せそうな寝顔、μ'sのグループメッセに投稿しちゃうにゃ!」

「ちょ……⁉︎」

 慌ててベッドから飛び降りた真姫は、阻止しようと凛に駆け寄る。のだが、掛け布団が脚に絡まりバランスを崩してしまう。

「わ、わっ……」

「! 真姫ちゃん危ないっ!」

 流石の反射神経と言うべきか、真姫が倒れる寸前に凛がその下に滑り込んだ。

「──ムギュ」

 潰されて変な声を上げた凛だったが、

「だ、大丈夫? 怪我は?」

「平気にゃ!」

 問題はないようで、元気に立ち上がった。

「真姫ちゃんは?」

「私も大丈夫……。その、ありがとね」

「どういたしましてにゃ!」

 凛は笑顔で答える。

 ふと、真姫は床に落ちた小さな紙袋を見つけた。平べったく掌に乗るほどのそれは、何かの包装紙。真姫に見覚えはなく、先ほどまでは無かった。

「凛、これ落とした?」

 ならばと持ち主と思われる人物に訊いてみるが、

「あっ……! そ、それは……」

 何やら返事はハッキリしない。

「? 凛のじゃないの?」

「え、えーっと……元はと言えば凛のなんだけど、予定ではそうじゃなくなるっていうか……。確かに買ったのは凛だけど、目的は違くて……」

「さっきから何言ってるのよ。これは凛の? 違うの?」

 どっちつかずの言葉で口ごもる凛に、真姫は首を傾げる。

「──あーっ!」

 すると、突然大声を上げる凛。思わず肩を縮こませた真姫が抗議の声を出す前に、

「今日のパーティーで、海未ちゃんから頼まれてたおつかいがあったんだにゃ! 凛、もう行かなくちゃ!」

 凛はバタバタと部屋から出て行こうとする。

「え、ちょっと凛⁉︎」

「それ、真姫ちゃんにあげるにゃ! 凛は使わないから、特別!」

 ビシッ、と真姫の手の中の紙袋を指差し、凛は部屋から飛び出していく。

「真姫ちゃん、お誕生日おめでとうにゃ!」

 それだけを言い残して。

「何なのよ一体……」

 自室にいながら取り残された真姫は、ひとまず手元の紙袋を開けてみる。そこには、

「……ヘアゴム?」

 シンプルな黒いヘアゴムが、一つだけ入っていた。

「凛、ヘアゴムなんて使ってたかしら。──ん?」

 よく見ると、ヘアゴムには赤いラメが散りばめられていた。上品なワインレッドの輝き。

 ──真姫は、全てを悟った。

 ふと窓の外を見やると、

「にゃぁぁぁぁ──っ!」

 全速力で突っ走る巨大猫の姿が。

「りーん! ありがとねー!」

 窓から礼を送ってみるが、返事はなかった。

「──ふふっ」

 小さくなる後ろ姿を眺めながら、

「楽しみね」

 真姫は小さく微笑んだ。


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