ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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更新が遅くなり申し訳ございません。
リアルが忙しくなり時間が取れず遅れてしまいました。


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 水柱の青年が受付嬢と会話をして、さて自分たちも準備をしようと受付を離れかけたとき、一人の冒険者が受付嬢へ参加依頼してきた。

 その冒険者のため息にかすかに混ざる酒の匂いが水柱の青年の胸をざわつかせた。

 やや乱れた服装に無精髭、隈の浮いた顔には異様な鋭さの眼つき。剣呑な雰囲気を持ってはいるが、何かの拍子に彼の輪郭が力を失って弛んでしまうような危うさを水柱の青年は感じた。

 その冒険者は、先日岩喰怪虫と初遭遇して仲間を失った、若い戦士だった。

 自分も岩喰怪虫退治に参加すると言って、受付嬢は彼が一党(パーティー)はない単独(ソロ)なことで、難色を示していた。

「なら、俺の臨時一党(パーティー)として出るのはどうだろう?」

「!」

 若い戦士は一瞬唇を噛み締めると、「すまない」とぽつりと言った。いいよ、と水柱の青年は言って、魔女は肩を竦めるだけで否定はしなかった。

 

 ◇◆◇

 

 鉱山の入り口に集った冒険者の数は、四、五〇人を超えていた。単純に数えれば一〇を超える一党(パーティー)がここに集まっている事になる。水柱の青年と魔女は先遣隊を任じられていた。

 徒党(アライアンス)とすればかなりの規模になっていた。その中でも最も高位の冒険者がまとめ役となっていた。

 銅等級の冒険者である。磨かれた鎧、ぴんと鬚を整えて、腰に突剣を提げている貴族風の男である。足捌きや体幹、体つきは達人と言ってもよいだろうというのが、水柱の青年の見立てである。

 銅等級の一党はよい。しかし、他の白磁等級や黒曜等級はまだまだ駆け出しと言った様子である。水柱の青年にしてみれば育手に訓練を受けばかり、藤襲山での試験に入ってもいない様な手合いである。それでも見るところがあるとすれば、彼と同行している魔女、先程からぼやいている槍使い、その相手をしているだんびらを背負った重戦士などがそれだ。

 彼らと雑談をする。兜を被らないのかと問われたが、水柱の青年としては慣れてもいない兜をつけて、視界を狭くなることも考えてやめた。

「剛毅な奴だな。それとも命知らずなのか」

「俺は自然体でいたほうがいいだけさ」

 会話を終わらせて、水柱の青年は若い新人の戦士に声かける。歳は槍使いや重戦士と同じくらいだろうか、十五、六歳くらいに見える。水柱の青年より年下なのは間違いない。

「準備は出来たか?」

「ああ」

 丹念に革鎧や剣の具合を確かめる手並みは、明らかに慣れている。

「何度か冒険しているのか?」

「一応、ゴブリン退治をな」

「そうだったか」

 二人の会話を聞きつけ、重戦士が顔を顰め、彼の一党である女騎士が「引っ掛けるなよ」と野次を飛ばしている。槍使いも交えてわいわいとやり始める。

「そういえば……」

 女騎士の話を聞きながら、水柱の青年が思い出した。

「ゴブリン退治をよく行っている、兜を被ったあの冒険者がいないな」

「ああ……」

 若い戦士は自分の兜を手にとって装着しながら、酷く素っ気ない口振りで呟いた。

「おおかた、ゴブリン退治にでも行っているんだろう」

 

 ◇◆◇

 

「来るぞぉーっ!!」

 ブロブどもが岩喰怪虫(ロックイーター)によって住処を追われたのなら、ブロブのいない方へ行けば良い。銅等級の頭目が下した指示は的確だった。

 斥候(スカウト)の一人が不意の地震に立ち止まり、警告を発した瞬間、その上半身が掻き消えた。

 乾いた破砕音とともに、岩壁から飛び出した顎に食い千切られたのだ。

「CEEEEEENNTT!」

 鉱山の中を大顎で振り抜いた怪物は、ぎちぎちと顎を鳴らす。半身を亡くした斥候がガクガク痙攣しながら、グロテスクな彫像として二本の脚で立っていた。

 死体から間歇泉のように噴き出すのを目撃して、冒険者たちは浮足立って身構える。

「う、うわぁあぁ……ッ」

「で、出やがった……」

 呆然としている、装備に傷ひとつない冒険者たちを押しのけて、水柱の青年が最前列へ陣取った。

 頭と数節でこれなら、全長五〇メートル以上の巨大な蟲。水柱の青年とて、ここまで大きな敵を相手にするのは初めてだった。

 水柱の青年は俵藤太物語の百足退治伝説を思い出した。山を七巻半する百足を俵藤太が強弓をつがえて射掛けたが、一の矢、二の矢は跳ね返されて通用せず、三本目の矢に唾をつけて射ると効を奏し、百足を倒した、という。

「これを倒せば、俺は藤太に並べるかな」

 水柱の青年は珍しく戦場で諧謔が口から洩れた。

「死力を尽くしていこう!」

「ええ! 《サジタ()……サイヌス(湾曲)……オッフェーロ(付与)》!」

 頬に汗を滲ませながら、魔女は艶やかな唇が真に力ある言葉を紡ぎあげる。杖の先から投じられた《 矢避(ディフレクト・ミサイル)》が岩喰怪虫へと降り注ぐ。だが、しかし、

「CEENNTTTTTTIII!!」

 まるで雨粒を払いのけるかのように、岩喰怪虫は平然と甲皮でもって魔法を弾いてしまう。しかし、痛痒(ダメージ)がなくとも鬱陶しく苛立たしい行為であったのは間違いないらしい。ぎちぎちと咬み鳴らしていた顎を大きく広げ、巨蟲が一挙に魔女めがけて飛び掛かる。

「ヒュゥゥゥゥ」

 ──拾陸ノ型(じゅうろくのかた) 珠漣潮満球(しゅれんしおみつたま)

 水柱の青年は高く飛び上がって空中から地上へ向けて大小様々な斬撃を放つ。巨蟲は鉱物に匹敵する強度の甲皮を水柱の青年によって斬り裂かれ、衝撃で地面に叩きつけられた。

 巨人を相手にしているのと遜色のない怪物を地面に叩きつけ、悶絶させた只人の剣士に他の冒険者たちは瞠目する。

 水柱の青年は虎のような身のこなしで、身体を空中で反転させて着地。そのまま走り、飛散する石礫や悶える巨蟲の身体から、魔女を抱えて回避(リアクション)

 悶絶していた岩喰怪虫はそのまま地中深くへ潜行。唸る地響きは逃亡ではなく、奇襲の準備期間だと教えてくれた。

「……ごめ、なさい、ね」

「気にするな。あいつは斬り伏せてみせるとも!」

 腰が抜けたのか身動きが取れずにへたり込む魔女を庇うために寄り添いながら、水柱の青年は辺りを注意深く見渡す。

「つっても、こりゃ下手に動けねえぞ!」

 槍使いはそう毒づきながら、相棒の隣で身構えている。次にどこから来るかもわからない大顎の恐怖。まともに受ければ致命的一撃(クリティカルヒット)で黄泉路への片道切符を押しつけられる。

「こりゃ呪文で押すのは無理だな……」

 重戦士は背のだんびらを引き抜き構えた。

 水柱の青年は鋭敏な聴覚で巨蟲が潜行する音を捕捉しようとする。また、周囲を見渡す。

 狭い坑道に十数名の冒険者。どこから来るかもわからない大顎。下手をすれば、一網打尽にされかねない。

「術は補助優先、武器で──物理で攻める! 軽装なものは下がれ、それと本隊へ伝令を!」

「お、おう!」

「お前、軽装じゃないか」

「俺は避けれるから問題ない!」

 槍使いに言われても水柱の青年はきっぱりと言い返した。

「それと……」

 水柱の青年はさらに言おうとするとハッとなる。覚えのある臭いが近くにある。火箭の如き速さで走り、落ちてくる黒いタールのような粘液の塊を日輪刀で切り裂き、剣圧で振り払う。危うく粘液が顔に張り付きそうだった女性の弓使いは驚いて転倒していた。

「大丈夫か!?」

「え? えぇ……ありがとう、ございます」

「良かった!」

「なんだ、ブロブか!?」

 ざわめく一同。女騎士が輝く剣──《聖光(ホーリーライト)》を頭上へ向ける。

 そこには天井を蠢く粘液の塊が、びっしりと細い脇道から滲み出ているところであった。まるで小鬼か何かが棲んでいたような薄汚く狭い横道。穴をふさぐことも、片付けることも、今は時間がない。

「面倒な敵が増えたな」

「これは……私、たちが、餌、なのね」

「餌?」

 胡乱げな目の水柱の青年に、魔女は頷く。悠然としている彼女が珍しく緊張でやや強張っている。それでも、油断なく情勢を見ている。

 人間たちが岩喰怪虫の通り道から金を見出す。そして金を求めて集まる人間を餌としてブロブが狙いに来る、そういう共生関係が岩喰怪虫とブロブとの間に作られているというのが、魔女の推測だ。

「それがどうした!?」

 どんな正論も雄弁も跳ね除ける台詞を吐き出したのは女騎士だった。彼女は信仰の証と頼む十字剣を振りかざした。

「喰われる前に叩き殺す!」

「……まあ、間違ってはいないか」

 水柱の青年は微苦笑をこぼし、重戦士は仲間たちを振り仰いだ。

「おい、《付与(エンチャント)》をくれ!」

「は、はい!」

 少女巫術師が強張った表情で祈禱を行う。途端、重戦士のだんびらが赤々と燃え始める。

「えんちゃんと?」

 水柱の青年はいかにも発音がわからないと言った様子だ。魔女が杖を支えに呪文を紡ぐ。すると、水柱の青年の日輪刀に魔力の光が灯る。

「おお! これは……すごく光ってる!」

 水柱の青年は自分の言語学的貧困さを恨んだ。しかし、魔女の魔法が施された日輪刀を見て感激したのは確かだった。

「《裁きの司なる我が神よ、我が剣が善きを裁かぬよう見守りください》!」

女騎士も至高神へと奇跡を嘆願し、己の武器へと《祝福(ブレス)》を施した。

 地響きはより酷くなり、ブロブは蠢き、天井からは砂利が降り注ぐ。

 冒険者たちが大慌てで陣を組みだす、そんな中、水柱の青年や魔女と一党を組んだあの若い戦士が天を仰いで剣を掲げた。

 天井が崩れる。岩が降り注ぐ。巨大な大顎が迫りくる。その顎にあの子は噛み砕かれた。

 ──こいつの臓腑には、あの子の身体が残っている!

 相討ちも同然、遮二無二になって戦士は剣を両手で突き上げる。怪虫の喉奥へ柄まで通れと渾身の力を込めて刃を突き刺し、熱い体液を全身に浴びる。

 それっきり、精根尽きた戦士の意識は暗黒の中に沈んでいった。

 若い戦士にしてやられた岩喰怪虫が激痛に悶え、坑道で暴れ出す。

「ちっ、凶暴化しやがった! 潜り続けるよりはマシだがなぁ!」

「なかなか根性のある奴だ! 俺も負けてられねえな!」

 槍使いも重戦士も、怪虫の甲殻の思わぬ頑丈さに辟易する。甲殻が多少削られるだけで、痛痒(ダメージ)には至らなかった。

悶える怪虫の巨体が、若い戦士にぶつかりそうになる。

「いけない!」

 ──捌ノ型(はちのかた) 滝壷(たきつぼ)

水柱の青年は庇うために、怒涛の勢いと共に上段から打ち下ろす。岩喰怪虫は大顎を片方へし折られて、壁面に激突する。

「CEENNTTTTTTIII!!」

 岩喰怪虫の動きが鈍くなる。人間で例えたら、顎をパンチが掠り、脳を揺らされ、さらに頭を強打したようなもので、意識が混濁していた。

 あいつ、やりやがったっ!? 冒険者たちが驚愕する。あれほど頑丈な甲殻を砕いてみせた、事実に瞠目する。先程も怪虫を脳天から打ち下ろし、甲殻を大きく割ってみせていた。魔女の魔法が加わることでついに大顎を砕くまでの戦果をあげた。

 恐るべき膂力、技量、そして武器の強靭さだ。

「っ、いける!」

 水柱の青年は確信する。日輪刀に魔女の《付与(エンチャント)》の魔法があるとはいえ、岩喰怪虫の甲殻の硬さはせいぜいが下弦の鬼の頸くらいだと見当をつける。

 このまま、前衛で戦える戦士たちは岩喰怪虫の動きを抑え、弓持ちは岩喰怪虫の頭を狙う。呪文が使える者は掩護を、それ以外の者たちがブロブの対処をすることとなる。

 先遣隊が奮闘している最中、本隊がやって来た。

「奴が岩喰怪虫か……聞いていた通りの巨体だな。よぉし、あれを使うぞ!」

 頭目が指示を与える。

付与(エンチャント)の詠唱は終わっているな」

「おう!」

 本隊の呪文遣いたちが応じる。

頭目が金と知己(コンタクト)を使って用意したもの。それは鉱人(ドワーフ)造りの弩砲(バリスタ)と黒い矢だ。

 照準を合わせ、弓弦を引き絞り、そして

「放てっ!」

 頭目の指示で放たれた矢が飛来して、岩喰怪虫の頭部に被弾する。

「CEENNTTTTTTIII!!」

 岩喰怪虫はついにもう一方の大顎も失った。激痛に悶え、怨嗟が混じった咆哮を上げる。

「二発目用意!」




相変わらず水柱の青年がいると一党に野伏や斥候が要らない感じですが、罠解除みたいな技量がないので彼の一党に斥候か野伏を入れるならばその分野で需要があります。


□水柱の青年のオリジナルの技
拾陸ノ型(じゅうろくのかた) 珠漣潮満球(しゅれんしおみつたま)
空中から地上へ向けて大小様々な斬撃を放つ。風の呼吸の玖ノ型 韋駄天台風を元に編み出された技。
風の呼吸・玖ノ型 韋駄天台風をもとに編み出した独自の技。水柱の青年ほどの筋力がなければ風の呼吸の性質を実現化できないので水の呼吸の使い手では再現は難しい。

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