ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー) 作:生死郎
そういえば『イヤーワン』のときのゴブリンスレイヤーは竈門炭治郎とほぼ同年齢なんですよね。
そこは墳墓と呼ぶよりも、塚山といったほうが良いのかもしれない。鬱蒼と木々が茂るくらい森の奥、緩やかな坂が丘へ変わるその場所。
あたりは苔むした、しかし明らかに天然ならざる造詣の石がいくつも積まれ、転がっている。太古に名をはせた、力ある王か豪族の墓なのは間違いなかった。
「ここの雰囲気は独特だな……」
清廉でしかし濡れた衣のように身体にまとわりつき、のしかかるような空気に流水剣と呼ばれる青年は呟いた。
「ここは、よくない、もの、が、集まり、やすい、から、ね」
肉感的な肢体をくねらせた魔女が、流水剣の傍に寄り添っている。
「そういうものなのか」
腐葉土の上を音もなく進む流水剣が訊いた。藪の枝を払い、魔女が歩くときに枝が彼女の衣服にひっかからないように、何も言わずに配慮していた。
「こういう、霊場は、“よくないもの”の、吹き溜まりに、なりやすい、から雰囲気が……独特に、なる、ものよ」
木々に陽光が遮られ、じめじめとした湿気に満たされた空間は、ひどく饐えた臭いがした。
「“よくないもの”、か……。それは、どういう……あれ?」
「──どうした、の?」
流水剣が立ち止まり、一拍遅れて魔女も脚を止めて周囲を見回した。魔女は相棒である流水剣の鋭敏な感覚を信頼している。
腐った葉と、土と、湿り気の入り混じった、饐えた臭いの中に異なるものが加わった気がしたのだ。
「こういう塚だと何が出るんだろうか?」
「古びた陵墓だと……
魔女が歌うような音楽的な美しい声音で話す。
呪われた王、王や神との約定を破って眠りを許されない古代の武将など、亡者の類が敵であると、流水剣に説明した。
「亡者か……」
青年は思わず顔を顰める。いつの間にか周囲には薄い靄が漂い始めている。流水剣は腰に差してある日輪刀をすらっと抜いた。細身の、
石を積み重ねた柱。苔に覆われた盛り土が震え、柱が崩れ、次々と土中より敵影が起き上がる。
「まるで忍者の土遁の術だな……」
「ドトン?」
「いや、なんでもない。君は呪文の準備を頼む」
「諒解」
前方を流水剣が、後方に魔女が控える形だ。
「さあ、やろうか」
◇◆◇
魔女を庇うように前に立ち、日輪刀を振るい緩慢な動きで迫る死者たちを斬り払う。薙いで四肢を切断しても地虫のように這って迫るだけである。
「鬼と同じだな、首を落とさないと止まらないか!」
流水剣が舌打ち混じりに死者の首を刎ねる。首を失った死者は糸が切れた人形のように弛緩して倒れた。
「倒し方がわかっても、こう数が多いとは……」
いかに流水剣が精強無比な剣豪であろうとも、数の多い敵、
「──」
魔女は霧の薄闇へ目を凝らして、形のよい指を顎にあてがって思案した。
「
死人占い師。屍に
「
「呪詛の、基点、となる場所が、あるはず!」
魔女が塚山の頂上を指さす。
「あそこを、調べましょう。祝禱を行った、痕跡、が見つかる、はず」
「基点まで行けば潰せるわけだな」
「ええ」
魔女は杖をぎゅっと握りしめ、頷く。群がる動く屍の渦中故か、表情は緊張で張りつめている。
「わかった。塚山の頂上を目指そう」
流水剣は頷き、魔女とともに緩やかな丘陵を、四方八方より押し寄せる屍どもを退けて登坂する。死体を薙ぎ払い、踏み付け、踏み越える。
「ヒュゥゥゥゥ!」
──
刀を両腕で握り、肩の左右で素早く振るう二連撃。左右広範囲の屍たちは斬り払われる。
塚山の頂上へ辿り着く。その朽ちた屍たちは生前、冒険者なのか傭兵なのか、痛みがひどい武器を持っていた。まるで頂上へ流水剣たちが向かうのを阻むようであった。
「どけ!」
──
流水剣は怒涛の勢いと共に日輪刀を上段から打ち下ろす。屍たちは剣圧からぐちゃりと薄気味悪い音を立てて崩壊した。
そうして、ようやく頂上へ向かえばそこには魔女の推測通り、呪詛の基点があった。それは略式なのか簡素な祭壇に闇のように黒い翡翠のような勾玉が捧げられていた。まじないに無知である流水剣でも、尋常ならざるものであると察することができる雰囲気を持っている呪物であった。
「あれか! 壊せるか!?」
「やって……みる!」
魔女は力ある言葉を紡ぎはじめる。
「《サジタ(矢)……ケルタ(必中)……ラディウス(射出)》!」
杖から放たれた魔法によって呪物が打ち砕かれた。
◇◆◇
ざわめきと喧騒に満ち満ちた、いつも通りの活気に包まれた冒険者ギルド。
「何故、
「……それは、本当に……すみません」
流水剣の問いに受付嬢は、その笑みを引き攣らせた。
彼女の内心は嵐がやってきたかのように大混乱である。心臓は早鐘のようになるし、手のひらも汗でぐっしょりと濡れている。
騙したつもりは毛頭なく、嘘を言ったつもりもない。けれどこういう事は起こるものだ。
フォローを! と隣席の先輩職員に視線で救援を求めると、先輩職員が流水剣と魔女から話を訊き始めた。
至高神の奇跡も使いながら確認作業をしてみれば、彼らの言葉に真実があるのは確認できた。
恐らく、ギルドが依頼を受理して展開したものの、流水剣たちが請け負うまでの間に何者かが、件の陵墓に仕掛を施し、小鬼たちを滅したか追い払ったのだろう、というのがギルドの見解だ。混沌にまつわる者が関わる懸念がある以上、今後も調査は必要になりそうな案件だった。
ギルドからの見解を聞かされた魔女も、あの塚山の霊場としての性質が、今後も災いの原因になるかもしれないことを念を押して伝えたのだった。
確認作業と報酬の支払いを終えた後、流水剣と魔女を受付嬢が呼び止めた。
「剣の持ち主が見つかった?」
そう言われて流水剣が記憶をたどっているうちに、受付嬢が説明をした。
それは以前、小鬼退治のときに小鬼の巣穴から回収した宝剣の持ち主のことであった。剣にあった紋章からとある貴族の持ち物であると特定できたのだ。
「……そして、その家の方が冒険者となるために持ち出したらしいのですが」
「小鬼に敗れて剣はあそこにあったと」
「そういうことです」
「それ、で……、私たちに、何か?」
「その宝剣を回収した冒険者にぜひ会いたいと、依頼がギルドに来まして……」
受付嬢がファイルから依頼書を取り出して、流水剣たちに見せる。
「水の街へ行って頂けますでしょうか」
短いですが今回はこれで終わり。
次回から水の街へ流水剣たちが冒険へ赴き、彼女に出会うこととなります!以前ヒロイン候補アンケートでダントツ一位になったあの方です。
流水剣のオリジナルの水の型
刀を両腕で握り、肩の左右で素早く振るう二連撃の技。迎撃に向いた左右広範囲の水平斬りとなっている。