ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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遅れてしまい申し訳ありません。どうしても年内に出したかったので短いですが投稿します。本当に今年これが最後の投稿です。


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 聖域たる伽藍をひとりの女が歩いてくる。装いからして戦士職であった。彼女は左手に槍をたて、それをついて、悠然とした足取りで歩いて来る。

 ──金等級の冒険者!

「あなたは?」

 流水剣の誰何に答えたのは剣の乙女だった。

「彼女はわたくしの古くからの友人なんです。一緒に《死の迷宮》に入った冒険者です」

「……と、いう、ことは……」

 魔女の胸では、驚きの波が渦巻いている。青白い輝きを持つ槍を携える女戦士。彼女もまた、剣の乙女と同じく六英雄と呼ばれる一人ではないか。

「ねえ、君たち依頼受けるんだよね?」

 魔女が戸惑うのも構わずに、女戦士が流水剣に問いかける。唇は優美に三日月のような弧を描く。

「そうですが……あなたも請けるんでしょうか?」

「ふふ、そうよ。だから……ちょっとやってみない?」

なにを?と魔女は言えなかった。取り澄ましたいつもの表情を維持するのに精一杯だった。

 

◇◆◇

 

 神殿にある神官戦士や武僧が利用する鍛練場に、女戦士と流水剣は相対した。

 鍛錬場を利用していた神官戦士たちが興味深げに流水剣たちを見ていた。何しろ、黒曜等級の冒険者と金等級の冒険者が立ち合いを行うのだから!

 普通ならば金等級が黒曜等級に稽古をつけてやるだけだろうと思うだけだが、この黒曜等級の剣士というのがただならぬ気配を持っているので、みんなの注目を集めていた。それは研鑽を積んだ武人だからこそ得られる直感的なものだった。

 しかもその剣士は弯刀を抜刀した途端、先程まであった壊れんばかりの躍動感と生命の鮮やかさが、一瞬で霧散して静かで活力や覇気を感じさせない様子に変わった。

(……なんだ、この剣士は)

 武に生きる者であればこそ、流水剣の境地がとんでもないことであることはわかった。これは、自分たちは凄いものが見れるのではないか?

 神官戦士たちは固唾をのんで流水剣と女戦士を見守った。

 

 どうしてこうなった、流水剣にはわからない。彼らが冒険に請け負ったことを知った女戦士が、彼の力量を知りたいと思い、剣の乙女に無理を言ってこの場を用意させたのだ。

 流水剣も英雄と讃えられる彼女の実力に興味がないわけがない。立ち振舞いを見るだけでも彼女は……

 ───強いな。

 彼の見立てでは眼前の女戦士は柱にも相当するだろうと見ていた。全ての柱へ敬意を払っていた流水剣にとっては柱に相当するというのは、戦士への最大限の評価だった。

 彼女の突きは、朋友の鳴柱よりも速いのだろうか。

 彼女の薙ぎは、敬愛する炎柱よりも力強いのだろうか。

 彼女の払いは、悪友の風柱よりも苛烈なのだろうか。

 一〇メートルの距離をおき、槍と刀を構えた二人の姿は、鉄か銅の彫刻のように見えた。

 魔女や剣の乙女、神官戦士たちは、微動はおろか息すらつけずにいた。

動くとも見えなかった両者は、しかしいつの間にか徐々に距離を近づけていた。それすら意識に上らなかったくらいだから、このとき流水剣の構えが最初と一変していることに気づいた者があったかどうか。──それほど、その変化は緩徐であった。

 女戦士は舌を巻いた。流水剣の日輪刀のせいだ。

「……さ、流石は。……」

 流水剣の姿は、完全に鍔の彼方に消滅していた。

 その鍔がみるみる巨大な壁と化し、ぐうっとこちらに迫ってくるような感覚を女戦士は錯覚とは思わず、その瞬間、

「しっ!」

 鋭く息を吐き、その壁をうち砕かんばかりの勢いで殺到していった。

 鍔が近づいて見えたのは錯覚ではなかった。その数秒の直前に、事実流水剣は女戦士めがけて足を踏み出していたのである。

 盟友である鳴柱から学んだ雷の呼吸の歩法。筋肉の繊維一本一本。血管の一筋一筋まで、空気を巡らせ力を足に溜めて、一息に爆発させる。

 星のように一点煌めく相手の槍の尖端に臆せず、踏み込み走る。空気を切り裂く稲妻のように。

 ──水の呼吸・壱の型 水面斬り!

 両者は止まらない。そのまま二つの流星のようにすれ違った。二人は駆けすぎて雷光のごとく振り向いた。

「驚いた……脚斬られちゃうかと思った」

「……俺も串刺しにされるかと思いました」

 流水剣のそれは紛れもなく本心だ。雷の呼吸の壱ノ型 霹靂一閃を思わせる迅速の一撃。あれを受けるのが鬼であればたとえ下弦の鬼であっても、彼女の一突きを知覚する前に絶命されそうだ。

 ほぼ同時に互いは武器を降ろした。

「納得していただけましたか?」

「うん、いいでしょう。認めてあげる」

女戦士は形のよい唇を三日月のように曲げる。

「あなた達、私とついて来なさい」

女戦士は蠱惑的な笑みと声音で、流水剣たちにそう告げた。

 六英雄が新人を認めた!修練場の神官戦士たちがざわめいた。

 

 ◇◆◇

 

「本当に……あなたは」

「本当に?」

「凄いわ」

 魔女は感極まったように言う。驚愕のあまり語彙力が低下しているようだった。自分の仲間が並外れた剣士であることは、彼女にもわかっていたがまさか金等級の冒険者と渡り合えるほどの実力だったとは。魔女は流水剣の実力を測りかねた。

「えっと……ありがとう」

 流水剣としては率直な賞賛には反応に困った。水の呼吸の頂点に立つ男だが剣技に対して面と向かって賞賛される経験は少なった。そして、賞賛するのが美女であれば流水剣は照れ臭かったのだ。

 魔女に対してどのような表情で会えばいいのか悩んでいると、魔女が流水剣の肩をつつく。流水剣が女戦士のほうを振り返る。

「地下潜る前にさ、確認させて欲しいのよね。あなたのソ・レ」

 女戦士は三日月のような笑みを浮かべ、流水剣の腰にある日輪刀を指し示す。

「これですか? これは日輪刀という湾刀(イースタンサーベル)の一種です」

「それを彼女に見て欲しいの。昔は鑑定屋をしていてね、その日輪刀は気になるのよね。特別な何かがある気がする」

「特別……? それではお願いできますか?」

「ええ、承りましょう」

 剣の乙女が鷹揚に頷き、日輪刀を鑑定するため再び先程まで話していたところに戻る。

 流水剣は腰から日輪刀を抜いて、剣の乙女へ差し出す。受け取った剣の乙女は日輪刀を鞘から抜いて刀身を検める。

「さっきも思ったけれど、綺麗な青色の刀身ね」

 青玉のような深く鮮やかな青の刀身を眺めて女戦士はそう呟いて、魔女もそれに同意する。

「ご存知であれば伺いたいのですが、こちらの湾刀(イースタンサーベル)、材質は特別なものを使っていますか?」

 日輪刀を鑑定している剣の乙女が流水剣に尋ねた。

「……よくわかりましたね。湾刀(イースタンサーベル)としては独特なものだと思います」

 流水剣は剣の乙女の問いに肯定した。

「日輪刀は日光が蓄えられた鋼で造られた刀です。とある山で採取される猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)を材料に作られる刀です。俺が狩って来た鬼は、その日輪刀で頸を落とすことと、日光に晒す以外では滅ぼすことはできないんです」

 剣の乙女が流水剣の話を頷きながら訊いている。魔女よりも同じ戦士職である女戦士のほうが興味深そうだった。

「日輪刀はみんな青いの?」

「人によります。日輪刀は別名が『色変わりの刀』と言われています」

 流水剣は日輪刀の特性を説明する。刀身の色のバリエーションを説明する。剣の乙女から何度か質問を受けて、それに答えた。そして剣の乙女の鑑定が終わった。

「こちらの日輪刀は一種の妖刀のようになっているようです。恐ろしいほど強い念が宿っています」

「念? そもそも、妖刀になっているとはどういう?」

 剣の乙女はその玲瓏な声音で説明する。日輪刀はその念によって変化しているのだという。流水剣は知らないうちに起きていた変化に戸惑っている。

「どういう変化が起きているのですか?」

「折れず、曲がらず、よく斬れる……刀剣としての在り方が強化されて、最良の状態を維持されているようですね。鬼を残らず斬るという強い怒りと憎悪がこの刀から感じます」

「──」

 剣の乙女の説明を受けて、流水剣の表情が強張る。

「思い当たること、あるの?」

「……ああ、俺の刀を作った刀匠は、鬼に孫夫婦を喰われて以来より鬼を斬るのに優れた刀を作ることに腐心していました」

その刀匠は里の者からも同情されるとともに、狂気と憎悪から恐れられていた。

「この刀はその刀匠の遺作。最期の刀なんです」

「……刀に残る念はその方のものでしょう」

「その刀匠の念が物に力を与えることはあり得るのでしょうか?」

「強すぎる念がこの世に残り、影響を及ぼすことはあることです」

 亡霊(レイス)などは死者の末期の念によるものである、という話もある。

 異世界に漂流して自分は異世界の言葉を解するという変化があったと自覚する流水剣だが、日輪刀にも異世界に漂流したことによる変化があったらしい。

「日輪刀が手入れも要らないくらい綺麗なままだなと思っていたが、そういうことだったのか……」

「気づいて、なかった、の……?」

「いや、まあ、不思議だなとは……思っていたよ?」

 魔女の呆れが含まれた視線から逃れるように流水剣は目を逸らす。流水剣も言い訳をすれば異世界への漂流、そこで生きるために尽力していたことで日輪刀の変化に気をやる暇がなかったのである。

 

 ◇◆◇

 

 流水剣、魔女、女戦士の臨時一党は地下へ降りた。前衛を流水剣、中間に魔女、後衛に女戦士の組み合わせだ。

 ───水の都の地下世界はゴブリンの群れが跳梁跋扈していた。

 水路へ降り立った流水剣たちは、ほどなくして小鬼たちから襲撃を受けた。増設を繰り返した結果なのか、複雑に入り組んだ水路は迷宮のようであり、ゴブリンたちにとって地の利となっていた。

 不規則に間をおいて、幾度となく繰り返される戦闘が行われていた。

「ヒュゥゥゥゥ」

 水の呼吸陸ノ型 ねじれ渦!

 流水剣は上半身と下半身を強くねじった状態から、勢いを伴って斬撃を繰り出す。

「私、小鬼(ゴブリン)粘液(スライム)は嫌いなの、だからお願いね」

 女戦士はそう言って流水剣にウィンクすると後衛に控えていた。彼女もまったく無警戒ではないが、ゴブリンの群れは流水剣一人で対処できると信用されているからだ。流水剣としては言いたいことがないではないが、魔女を後方で守ってもらえるのはありがたいという思いもあって、黙って従っていた。

「……」

 角灯を持つ魔女は、その表情に緊張の色が濃い。常とは異なり足取りも、どこか不安そうだ。

「ゴブリンが襲ってきても、君には近づけさせない」

「……うん」

 周囲をくまなく調べていた流水剣は、魔女にそう言った。流水剣の鋭敏な感覚はゴブリンの呼吸、動作音、独特な異臭を感じ取っていた。全ての水の呼吸の頂点に立つ技量があればゴブリンどもは鎧袖一触。草刈りのような手軽さで討滅(スレイ)していく。

「……何か、不思議」

「不思議? 何か気になることがあるのか?」

「私も気になるな~、教えて?」

 女戦士も流水剣に乗っかるように魔女へ問い返す。

「さっきの……小鬼……まるで、逃げて……いる、みたい……に、見え、た……の」

 魔女がその岩塩で形作ったような白い指を、その端正な唇に当てて考えながら言った。

 流水剣と女戦士は見合わせた。

「逃げるとしたら、この奥か」

 流水剣は小鬼たちが来た方向を見た。ランタンの光も届かない闇が続いている。

 刀身と柄の固定が緩くなっていないか、日輪刀を検める。流水剣は気を引き締める。

「行ってみるしかないな」

 流水剣たちはすぐに小鬼たちが逃げ出す理由を知った。

「なんだあれは!?」

「人形かなぁ?」

 人間サイズの白い人形が複数、迫って来たのだ。武器を持ち、流水剣たちを襲ってきた。

 ──参ノ型 流流舞い!

 水流のごとく流れるような足運びで人形を斬り裂き破壊する。

(硬い!)

 かつて鬼殺隊入隊前の修行中、岩を斬ったときの手応えを思い出した。

「……岩って、斬れる、の?」

「鍛えてるからな!」

「あははは、面白いなぁ君たち」

 人形の残骸を確認しようと、流水剣たちは残骸を検めようと近づいた。




AAとかありませんが、流水剣の見た目は神山聖十郎(新サクラ大戦)がアドル・クリスティン(イースVIII)の服装+水の呼吸の痣でイメージしています。
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