ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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 水の都、遺跡にも通じている地下水道で遭遇した人形たちを流水剣が瞬く間に撃退してみせた。

古代の人々が築いた石造りの水路に散乱するその残骸を魔女が確認する。女戦士も覗き込むように様子を伺う。

 魔女が残骸を確認してみれば、それは白磁器のような材質で作られた人形であった。

「あ、ら……結構、軽い」

「本当だー、それに硬いわね」

 女戦士が拳で小突いたり、槍の石突きで突いたりしてみる。鉄剣や槍のたぐいでは壊すのは難しいと思われる。

「君さぁ、よくこいつを斬れたね。凄いよ」

「いえいえ、十二鬼月の頸に比べたら脆いですから」

 流水剣の見立てでは下弦の鬼の頸のほうが硬さでは上であろうというものだ。

「これ……は」

 魔女が残骸を手に持ち、岩塩を固めたような白い指で残骸をなぞる。彼女の見立てではその人形は通常の鉱物や陶器とは異なるというものだ。錬金術師ならば兎も角、彼女では材料の推量はできなかった。

「見た目は陶器みたいだが……」

 流水剣も人形たちのような陶器はかつていた世界でも見たことがある。

「これが群れて襲ってくると厄介だな」

 流水剣や女戦士は人形を破壊できるからまだいい。だがみんなが彼らほどの技量を持つわけではない。徒党を組んだ冒険者でも武器が通じず一方的に潰される可能性がある。

「もしかしたら地下の小鬼たちも、この人形から逃げてきたのかもね」

「小鬼では人形を退けることはできないだろうな……」

「どう、する…?」

「人形は警戒するが、このまま探索を続行。こいつが話に訊く人影ならば小鬼と人形、そして人形を作った相手はそれぞれ別行動しているのだろう。もっと調べておきたい」

 流水剣の方針に反対はなかった。

 

 ◇◆◇

 

 魔女がどこからともなく取り出した杖を軽く振る。

「《輝け(ルーメン)》」

 命令(コマンドワード)を受けて起動した呪具が、淡い燐光をあたり一面に振りまいた。まるで無数の蝋燭を灯したかのように磔台が輝き始め、玄室全体を照らす。

「あれは! 人か!?」

「魔法の儀式、その生贄のようね」

「魔法の罠とか、ありそうか?」

 流水剣の問いに、魔女は辺りを見て無しと答える。彼女の答えを得ると流水剣は、女戦士に周辺警戒を任せて生贄に近づき、拘束具を外しにかかる。

 生贄は傷つき、打ちひしがれ、ぐったりと弛緩しているが、生きていた。流水剣の透き通る世界でも彼女の内部に重篤な怪我や疾病はないことを確認した。

 暗い影のような焦げた琥珀色のような肌、流れるような銀の髪。豊満な肢体。そして長い耳。闇人(ダークエルフ)の女性であった。

 長針で拘束具を外そうとするが、暫くして断念。日輪刀を抜刀して振る。青嵐のような斬撃が生贄を一切傷つけず拘束具を破壊する。

 片膝をつき、拘束から解き放たれた娘を優しく受け止める仕草は、流水剣本人は自覚せずとも勇士そのものだ。娘はやつれ、体温も低く冷たかった。彼女に声をかける。かつていた世界で鬼から助けられた人々と、眼前の闇人の娘は被って見えた。

「大丈夫ですか、お嬢さん。話せますか?」

「あぁ……」

 ひゅう、ひゅう、と掠れた吐息を漏らしまがら、返事があった。

「それならばよかった」

 流水剣が闇人の娘に外套をかけ、休ませる間、魔女が周囲を用心深く見渡す。流水剣は無造作に強壮の薬をそっと闇人の娘の口に含ませた。

 水薬は貴重な資源(リソース)ではあるのだが、魔女や女戦士は何も言わない。彼女らはこれを浪費とは思いもしないようである。

 一口、二口とゆっくり薬液を飲み、軽く咳き込んだ後、闇人の娘はそっと目を開いた。その身体も少しであるが温かさを取り戻したようだ。

「只人の戦士に只人の魔術師……何をしに来た?」

「この街の異常について調べに来た冒険者です」

「冒険者か。そうか……」

「お嬢さん、疲れているところすみませんが、何か話せることはありませんか?」

 流水剣の言葉は、彼女にとって何か愉快なものがあったようだ。空元気であっても微苦笑を受けべる。

「私の方が、恐らくは貴様よりも一〇倍か一〇〇倍は上だぞ、坊や」

「これは、失礼しました。えっと……お姉さん?」

「え? ふふっ……」

 闇人の女は、頬を緩めた。

「お嬢さんでも何でも、好きに呼んでくれて構わないよ」

 心の底から溜め息をついてから説明をする。

「別に、そう大した事ではないよ。邪神魔神の類の召喚。よくあることだ」

「そうなのか?」

「そう、ね。世界の、危機。世界、の、終わり。いつも通り」

 流水剣の問うような眼差しに、魔女は頷く。

「それで邪神召喚の儀式はどうなったの?」

「当初は、そのつもりであった。だが同胞は悪しき精霊(アンシーリーコート)に魅入られた。そのせいで呼ばれたのは神とは異なるものだった。血を啜り肉を喰う鬼(ヴァルコラキ)──異界を渡って来たのは人を喰う鬼だった」

「……なんだと」

 途端、流水剣が氷の冷ややかさを伴う気配を纏ったように、その場にいる女たちは感じた。

血を啜り肉を喰う鬼(ヴァルコラキ)に同胞は喰われ、私は奴の非常食とされたわけだ」

 ご覧の有様だという肌身には幾重にも傷跡が連なっている事が、薄闇の中でも確かにある。

「私の肉よりもこの街の人間たちを糧に好む。自分が使役する人形どもに連れてこさせている」

「──」

「大丈夫……」

 雰囲気が変わった流水剣に、魔女は宥めるように言う。

「やることは、変わらない、でしょ」

「そうそう」

 女戦士は気軽そうに頷いた。

突っ込んで(アヘッド)暴れて(アヘッド)殺して(アヘッド)帰還する(ゴー・アヘッド)。とっても単純なことよ」

「……そうだな、俺たちのやることは変わらない」

 流水剣は深く頷いた。

「問題となるのは敵の戦力だな。何か知っていることがあったら教えてください」

 闇人の女は、言い淀むように口を閉ざし、それから自嘲を滲ませ、話し出す。

「先刻言った通り、ここにいた指揮官も兵もすべてヴァルコラキに喰われるか殺された。残るのは奴とその人形たちだけだ。……私が生き延びているのは奴のお目こぼしに過ぎないんだ」

 流水剣はそっと息を吐いた。

「そうか……よかった」

 闇人の女は、心底驚いたらしかった。だが、しかし、彼にとっては、別に驚くことはない。

「あなたを助けるのが間に合って本当に良かった」

 冒険者であっても流水剣の底にあるのは鬼殺隊としての矜持である。人を喰う鬼は許せない。鬼から人を守る為に戦う。

 自分ではない誰かの為に最期まで戦った立派な戦友たち恥じることがないように、流水剣は己を律すると自分自身に誓ったのだ。

 魔女は優しい眼差しで流水剣の背中を見る。

 誰かの命を守るため精一杯戦おうとする人の、ひたむきな思いに勇者であろうが無名戦士であろうが関係ない。その思いはただただ愛おしく、尊い。

 流水剣が誰かに称賛されたくて命を懸けているのではないことを、魔女は知っている。どうしても、そうせずにはいられないだけ。その瞬間に選んだことが彼自身の魂からの叫びなのだ。

「そうか……。あなたに助けられたことを感謝する。今日は善き精霊(シーリーコード)に感謝しよう」

 闇人の女は、地下の星を見上げるように優美な口調で口ずさむ。典雅で瑠璃のように美しい音色だった。

「……何もなくなってしまったな」

「でも、生きています。失っても、傷ついても、生きていくしかないんです。どんなに打ちのめされようと」

「そうだな……」

 闇人の女はそう呟いて、薄く目を細めた。

「決めたよ。身を自由にして生きることにする。……生かして帰してくれるのなら、だが」

「殺す理由など俺たちにはないよ。地上まで送りましょう」

「いや、そこまで世話になるわけにはいかない」

 闇人はわずかによろめきながら立ち上がり、その身を覆おう外套を、ばさりと空中へ打ち捨てた。

「幸運を。冒険者──因果の交差路でまた会おう」

 流水剣の耳もとに囁くような声。

 褐色の裸身を闇の中へ溶かし込み、女は最初からいなかったかのように、姿を消した。




囚われていたダークエルフは原作にいたあの人です。運命(シナリオ)が変更された四方世界でも彼女は似たような経験をしてしまいました。
某作品の台詞を残して消えたのは彼女に再登場の予定があるからです。ダークエルフって、いいよね……!
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