ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー) 作:生死郎
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流水剣をキャラクターシートで再現することはできないかなと、ふと思いました。
流水剣は夢を見る。だが、これがただの夢ではないのは何となく、彼にはわかった。
そこは何とも奇妙な場所である。流水剣の故郷と同じ造りの内装が複雑に入り組んだ螺旋構造になっている。
そこでは二人の鬼殺隊隊士と一体の鬼が対峙していた。
髪を伸ばしてうなじ辺りで括った青年、花札のような耳飾りをつけた少年。
対するは上弦の参。強大なる鬼。
──なんだ、この光景は? 俺は知らない光景……未来の世界か?
流水剣は二人の隊士の様子から自分よりも後の時代の隊士ではないかと直感した。
隊士たちと鬼の戦いは壮絶を極めた。柱と柱に相当する剣士の剣技、凄絶な暴力を内包する四肢を駆使する鬼の徒手空拳。
流水剣は二人の隊士の技を食い入るように見つめた。水の呼吸、ヒノカミ神楽。
水の呼吸、流水剣も知らない、恐らくはあの柱の独創と思われる捨壱ノ型。手首の角度、足の運び、重心移動、呼吸の感覚、それらをひとつも取り零さないようにその瞳に焼き付けた。
同じようにヒノカミ神楽も同じくらい真剣に見入った。その綺麗な型を自分の技に取り込むことができるように見つめた。
──俺がいなくなっても鬼殺隊は鬼と戦う力がある。流水剣は頼もしい剣士たちを見て安堵した。自分の不在で鬼殺隊がどうなるか、不安に思った。だが、それは驕りだと認識を改めた。彼らはあの戦場で戦い続ける。そして、勝ってくれる。流水剣はもう彼らと共に戦うことはできないが……
流水剣は自分が隊士たちと鬼が戦う場所から遠のいていることを感じた。徐々に自分の輪郭が曖昧になり、ぼやけて、薄れていく。
ガチャンと何かが噛み合う音がする。その音を聞いたとき、流水剣の意識は暗転した。
◇◆◇
目が覚めると、そこは白一色の世界だった。柔らかなベッド、清潔なシーツ。部屋は心地よく、温かい。立ち並ぶ白亜石の円柱、その間から外を伺えば青空が見える。
「……んっ」
装備は外され、衣服も取り払われ、下着だけになっていた。身軽になった身体を、屈伸させ軽い運動で身体をほぐす。
ここは考えるまでもなく、水の都の神殿の一室だろう。仲間たちも無事、鬼の巣窟と成り果てた地下世界から脱出できたのだろう。
「よかった」
その事実を認識して、流水剣はひとつ頷いた。
そのあと衣服だけ着て、ベッドの横に置かれていた日輪刀を手に取り部屋を出る。神殿内で物取りはないだろうと思ったからだ。
流水剣がやろうとしているのは夢で見た隊士たちの技を再現するためだ。見て覚えた型を実際に行って身体に刻み付ける。ヒノカミ神楽は再現するのは難しいだろうがそれでも型から学ぶべきところはあるはずだ。
◇◆◇
鍛錬場は誰も使用していなかったので流水剣が一人、中央で只管日輪刀を振るっていた。身体で型を再現して、無駄な動きをそぎ落とす。集中して反復練習を繰り返すことで集中して没頭することで、景色から色が抜けてモノクロームになる。型の練習だけではない、赫刀──赫灼の刀を再び使えるように鍛錬を行った。
どれだけ時間が経過していたのかわからない。滝のような汗をかいて日輪刀を振るう流水剣に声がかけられた。
「お目覚めして、早々に剣を振るえるとはお元気そうで何よりです」
艶やかな声がかけられた。
果たしていつからそこにいたのだろうか。鍛錬場の入り口に佇む白い影。薄く肌の透ける布をまとっただけで、女神像と見紛うほどの美貌。
「けれど、酷使した身体を労わるのも大切なこと」
剣の乙女は流水剣に近づきながら。濡れた唇で囁くように言う。薄布一枚を身体に巻き、天秤剣の杖を手にした、法を司る聖女。
「どうかご自愛ください。鬼狩りの剣士様」
剣の乙女は手ぬぐいを流水剣に手渡した。彼はお礼を言って受け取った。
「すみません。どうしても、試してみたかったことがありまして、つい」
「あらあら……」
水晶を銀の彫刻刀でほりあげたような美しい手を口元に添えて、微笑む剣の乙女。
「焦ることはありませんよ」
「わかります。わかりますが……。ヴァルコラキのもとへ辿り着いたのに、取り逃がしてしまいました。逃げたあいつによってまた人の命が奪われてしまう。……心苦しい」
流水剣は内臓がひっくり返りそうなほどに悔しい思いだった。彼の精神にはマゾヒズムやナルシシズムの元素が水準以下しか存在していなかったから、“強い敵と戦ってこそ意義と成長がある”などという、戦闘とスポーツを混同するような観念に毒されることもなかった。
鬼から人を守るという使命感と正義感が強い流水剣にとって勝つということは、鬼の討滅という結果である。しくじったという結果は、彼の中で重くのしかかる。
「ヴァルコラキだけではない、小鬼もおそらくはまだ生き残りがいる。すべて、退治します。もうミスはしません、やり遂げます」
流水剣が現在心せねばならないことはミスの拡大再生産を防止し、禍を転じて福となすべく工夫することだ。
後悔して、死亡した者が復活するものなら、キロリットル単位の涙を流すのもよかろう。だが……結局、それは悲壮ごっこにすぎないではないか。
「ありがとうございます。ちゃんと、ゴブリンのことも覚えていただいておりましたのね。……あなたのような方に早く出会えていたら何かが違っていたのかもしれません」
どこか他人事のように呟き、微笑む彼女の双眸。黒帯を解かれ露わになった彼女の瞳を、流水剣は初めて見た。どこかぼやけた、焦点のあっていない瞳。
忠実なる神の従者として完璧な造形のただ中で一点、彼女の美貌は、残酷な手法よって瑕を与えれてしまった。
「ゴブリンですか」
「ええ」
応じる剣の乙女はさして気にした風もなく頷いた。
「五年前になりますか。わたくしも、冒険者でしたから……」
流水剣へ流し目をくれる。
「ゴブリンに捕まって、洞窟の中で──何をされたか、お聞きになりますか?」
「……いいえ」
ゴブリンには下級悪魔も鼻白むほどの残忍さがあることを、流水剣はこの四方世界へ渡ってから既に学んでいる。剣の乙女は微笑み返す。
「わたくし、痛い、痛いって。小さな子みたいに、泣いて」
自身の薄く白んだ傷跡の残る腕を、肉付きの良い脚を。彼女はまるで見せつけるように、形の良い細い手指で慰撫していく。
艶やかな唇は、あどけない少女のような声音で囁いた。
「でもね、見えているんです。ぼやけているけれど、あなたの静かで大きな存在感も、ちゃんと」
剣の乙女は流水剣の眼を覗き込むように、見上げる。流水剣の輪郭を白磁のような手先が宙に描き出していく。
彼女が流水剣と対面したとき不思議な感覚に襲われた。樹海に踏み込んでしまったような、圧倒的な何かに絡めとられてゆくような、音も無く静かに締め付けられてゆくような。
「人というのは、女というのは、弱いものです」
「──」
剣の乙女はそっと身を乗り出して、流水剣の傍らへと身を添わせていた。流水剣は悠然とした態度と表情を変えなかったが、内心は揺れた。蠱惑的な美貌、ぷるんと揺れる豊かな乳房。健全な男子である流水剣には刺激的だ。魔女との冒険、そして今回の冒険で同行する女戦士など相手にも、理性が必要になる場面もあった。
ただ、流水剣は日頃の死線を潜った経験から余裕がないときでも、余裕があるように振る舞う癖がついていた。
「邪悪なものの強大さに比べれば、押し負けてしまいそう……」
柔らかく豊満な、肉の感触と温もり。吐息の温かさを肌で感じる。
「……わたくし、不安なのです。怖いのです。おかしいでしょう」
薔薇のような、ほの甘く、芳しい香りが漂う。
「剣の乙女ともあろう女が、毎晩、毎晩、怖くて、恐ろしくて、たまらないのですよ」
そう言って彼女は、自らの肩を、胸を、そっと掻き抱いた。薄布が乱れ、崩れ、しどけない姿を晒す。
「おかしいではありませんか。かつて魔神を討伐した女ですよ。わたくし……それがゴブリンを怖がっているだなんて」
「そうでしょうか。怪物を怖がることはおかしいことではありません。あいつらの残忍さ、暴力性を恐れることは正常だと思います」
優しい人ですね、そう言って剣の乙女は笑う。流水剣が彼女を慮って言っているのだと思っているようだ。
「おかしいですよ……、こんな世界ですもの。助けとなるものは、いくらあっても……」
「この世界でも、人は傷つき、死ぬ。俺はより多くの人を助けたいのに俺が伸ばす手はまだまだ届かない。それでも手を伸ばすことはやめたくありません」
剣の乙女が虚を突かれたような表情になる。
「ね」
不意に、その隠れた瞳が流水剣へと縋るように向けられる。
「わたくしを、助けてくださいますか?」
流水剣に迷いはなかった。
「助けます。俺の剣技を以て、有象無象は薙ぎ払う。あなたが恐ろしいと思うものから守るため、この剣が幾ばくかの力になるのなら……全霊をもって力になろう」
「……」
彼女は、その場へ崩れ落ちるように跪いた。その美しい顔が、くしゃくしゃになる。押さえた口元から嗚咽が漏れ、はらはらと目尻から零れる涙を堪えることができない。夢を見た時以外に泣いたのは、はたしていつ以来だろうか。
「来て……くれる……のですか」
「ああ、行こう」
「夢……夢の……中……でも?」
「夢の中でも」
流水剣が首肯する。
なぜ、そう問うた声が震えて言葉にならなかったはずだが、流水剣は答えてくれた。
「俺がそうするべきだと思うからだ。鬼狩りである俺は、君を庇護し続ける」
◇◆◇
鍛錬場をあとにした流水剣は
歩きながら先程の彼女のことを思い出す。唐突に泣き出してしまった彼女が泣き止むまでただ傍らにいることしか出来なかった。彼は自分の言語学的貧困を嘆いていた。
大浴場は華美ではない程度に流麗な彫刻が施された白亜石の大広間だった。籠に衣服を入れようとする流水剣の耳に水音以外の音が聴こえた。
「ん……?」
流水剣が胡乱げな目で見ながら、大浴場の少し開いた扉に近づく。ほの甘い香りの湯煙で満たされた室内の向こうに人影が見える。微かに聞こえる女性の声。
(こ、この……声、は……まさか!!?)
ぎょっとした流水剣は、よく知る彼女のものだった。
赫刀に続いて流水剣の強化イベント&剣の乙女の好感度上げの忙しい回でした。
・ヒノカミ神楽を流水剣が使えるようにはなりません。見て学んでフィードバックされるだけです。