ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー) 作:生死郎
水柱の青年に対して、村人たちは注意深く遠くから見ていた。先程まで武威を振るっていた彼を恐れていたのだ。
水柱の青年は少し考えを巡らせる。あまり近づき過ぎるのは村人達を委縮させてしまい逆効果だろう。水柱の青年はある程度距離を置いて立ち止まり、親しみを込めた優しい口調で話しかける。
「あなたたちはもう安全だ。安心して欲しい」
「あ、あなた、あなたは……」
村人の代表者らしき人物が口を開く。その最中も水柱の青年の腰にある刀から決して目を離さない。
「この村が襲われていたのが見えたので助けに来たものです」
「おお……」
ざわめきが上がり、安堵の色が浮かぶ。だが、そんな中にあってもまだ、集まった村人から不安の色は消えない。彼等の不安の理由を推察した水柱の青年は個人的には余り好かない方法に手段を変更する。
「……ただと言うわけではない。村人の生き残った人数にかけただけの報酬をもらいたいのだが?」
村人達は皆、お互いの顔を見合わせ。金銭的に心もとない、そういわんばかりの顔だ。だが、水柱の青年は想像通りに村人たちから懐疑的な色が薄れた事を確認する。金銭を目的に命を助けたという世俗的な言葉が、ある程度の疑いを晴らしたのだ。
「い、いま村はこんな状態で―――」
水柱の青年はその言葉を、手を上げることで中断させた。
「その辺の話は彼らを弔ってからにしましょう」
その後、水柱の青年は村人たちとともにゴブリンたちによって死亡した村人たちの亡骸を清めて埋葬した。合掌して祈る青年の所作を村人たちは物珍しそうに見るが青年が同胞の死を悼んでいることが伝わったので、何か言うことはなかった。そして、彼への警戒心も随分と低くなった。
──この世界でも墓土の臭いは変わらないものなんだな。
水柱の青年は自分の手が及ばず助からなかった命の喪失を嘆き、ゴブリンたちを憎んだ。
ゴブリンたちには青年たちが狩って来た鬼たちが重なって思えた。心を泥靴で踏みにじられているような怒りが青年の中でくすぶっている。
埋葬が終わった後に、水柱の青年は村長の家に案内された。
「お待たせしました」
向かいの席に村長が座る。
「どうぞ」
夫人はテーブルの上にみすぼらしい器を一つ置かれた。中には葡萄酒が入っている。水柱の青年は一口だけ飲んだ。
「ありがとうございます」
「と、とんでもないです。頭をお上げください」
軽く頭を下げた水柱の青年に村長は慌てる。小鬼たちを血祭りにあげた剣士が自分たちに頭を下げるとは想像もしなかったようだ。
水柱の青年としては不思議ではない。これくらいは礼儀作法のひとつだと思っている。
「……さて、それで本題ですが」
「はい。ですがその前に……ありがとうございます!」
村長は頭をテーブルにぶつけるのではと思うような勢いで下げた。
「あなた様が来てくださらなければ、村の皆が殺されておりました! 感謝いたします!」
強く心の籠った感謝の言葉に、水柱の青年は瞠目する。純粋な感謝を向けられて、水柱の青年は気恥ずかしさを感じる。
「お顔をお上げください。先程も言いましたがお気になさらず。私も無償で助けようと思ったわけではありませんから」
「勿論承知しております。ですが感謝だけは言わせてください。あなた様のお蔭で多くの村人が助かったのですから!」
「そうですか……、では報酬としてお願いしたいものがあります」
「私たちを助けて下さったあなた様にならば、できる限りのことをさせていただきます」
「私はかなり遠方からここまで旅をしてきました。そのため、この辺りの土地の知識が少ないのです。ですから私はこの近辺の情報を頂きたい」
「分かりました。出来る限りのことをお教えさせていただきます」
水柱の青年は内心で交渉がうまくいったことを喜ぶ。水柱の青年は手を伸ばす。村長もぎょっとした顔をしてから何かを納得した様子でその手を握った。
握手という文化があるのかと水柱の青年は安堵した。これで何をしたいのかわからないという顔をされたら恥をかくことになる。
「それでは……色々と教えていただけますか?」
◇◆◇
水柱の青年は彼によってゴブリンたちから救われた村人たちから情報をもらった翌日、村近くの辺境で一番大きな町の冒険者ギルドへ案内された。最初は馬車に乗ることをすすめられたが、水柱の青年はそれをやんわりと断り、馬車には村人たちを乗せて自分だけは徒歩だった。呼吸術を極めた剣士は健脚である。歩きでも馬車と並んで道を行くものだから村人たちも大層驚いた。
村人たちは後出しであっても冒険者ギルドへの水柱の青年によるゴブリン退治の経緯を話して、討伐報酬を貰えるように取り計らってくれた。
普通のゴブリンは兎も角、
「これをあなたが一人で倒したのですか?」
「そうですよ」
「……ちょっとお時間いただけますか?」
そうして至高神の神官位を持つギルドの女性職員が
「何というか判断に困るものだな」
辺境で一番大きな町の冒険者ギルドの上役は、水柱の青年の件を部下から相談されて何とも言えない表情で思案していた。
「
事情説明の対応をしていた至高神の神官でもあるギルド職員が証言する。
小鬼英雄は在野最上級の銀等級冒険者であっても単独で戦って勝つのは難しい難敵だ。しかも、ホブゴブリンやゴブリン・シャーマンの混じった小鬼の群れを平地で相手にして全滅してみせた剣士。尋常ならざる技量だ。信じられなくても仕方ないとギルド職員は思った。
「君の鑑定を疑っているわけではないよ。だが、そうなると、彼は強力なモンスターと戦った結果、どこへとも知れぬ場所へ飛ばされたと言うことになる」
「高位のモンスターならば、
「それはその通りだ。しかし、だとするとそれ程の力をもったモンスターが近隣にいる可能性があるということになってしまう」
「彼が戦っていたのはこの辺り一帯とは違う土地だったらしいですから、転移で飛ばされたのはあの剣士のほうかもしれませんよ。あの方は身なりもいいですし遠方にある武門の出身かもしれません」
「……そういう可能性もあるか。まあ、彼の証言には嘘がないのならば、そう考えざる得ないか」
上役は唸るように呟きながら腕を組む。
「武器の
「へえ、確かに珍しい」
「よく手入れされていた貴重な逸品です。あと見たことのない文字だが記号だかが刀身に刻まれていました」
「ほう、どんなのだ?書けるか?」
上役に言われてギルド職員が記憶を頼りに書く。それは正確ではなかったが『悪鬼滅殺』と書かれている。
「知らない字だな、古代語?」
「わかりません。流石に調べたいので預からせてくださいとは言えませんから」
貴重の刀だから、というだけではない。丁寧に手入れをされるほどに大切にされている武器だ。冒険者だろうが騎士や傭兵であろうが、そう簡単に預けるわけがない。
「それで彼はこれからどうすると言っているんだ?」
「私が薦めたこともあって冒険者として登録して活動するそうです」
「それは心強いな。腕の立つ冒険者が増えるのはありがたい」
ゴブリンは最下級とされる小鬼だ。成体でも人間の子供程度の身体に膂力と知能しか持っておらず、単体ではあまり強くないので玄人の冒険者ならば苦も無く倒せる怪物だ。
しかし、動きが素早いうえに悪知恵が利き、暗闇でも見える目と高い嗅覚を持って絶えず闇間から徒党を組んで襲いかかるため、けっして油断して良い相手ではない。まして今回の水柱の青年が陥ったような、単独で平地でゴブリンに囲まれ、
それを単独でゴブリンたちを殲滅して村人たちを救うとは驚愕すべき功績である。
「
言外に駆け出し冒険者の等級である白磁ではなく上の等級でよいのではないか、と問うてくる部下に上役は否定する。
「実力があるからといって等級を上げるわけにはいかん。『社会への貢献』や『面談による人格査定』など経験点も考慮しての昇級なのだからな」
「……わかりました。それでは彼は白磁等級として冒険者登録します」
◇◆◇
冒険者ギルドから討伐報酬と村人たちからもらった報酬で、水柱の青年は今後の宿泊先と装備のための資金に利用しようとする。
宿泊先はすぐに決まった。冒険者ギルドの冒険者向け宿泊施設だ。衛生環境は水柱の青年がいた鬼殺隊施設や藤の花の家紋のある家と比べたらかなり劣るものの、多少の手数料を払えば掃除や寝具の消毒はしてくれるようで、虫に噛まれるなどのリスクは減りそうだ。相部屋の冒険者も衛生面が不安になるような相手ではないことも幸いした。
武器屋と古着屋に立ち寄った水柱の青年はそこで着物から着替え、シャツとズボンに着替える。水柱の青年がいた時代は明治になったばかりの頃で既に洋装は普及しており、彼も身につけたことはよくあった。彼の知人には洋装軍服の柱の剣士もいたくらいだ。そのため、水柱の青年も洋装には抵抗はなかった。
さらに
さらに冒険者セットと
「さて、どうしたものか……」
依頼書が掲載されているボードの前で、水柱の青年は腕を組んで思案する。
───文字が読めない。
この世界の言葉は水柱の青年も理解できた。しかし、文字はまるで読めない。日本語でも英語でもない未知の文字だった。
「えーと、とりあえず。白磁等級でちょうどいいお仕事を教えてください」
悩んだ末に文字が読めないという恥を堪えつつ、事情説明などで縁ができたギルド職員へ相談した。彼女が受付担当だったため、わざわざ列に並んで相談したのだ。
「そうですねぇ。今の時期じゃ白磁級にはゴブリン退治かどぶさらい、下水道のネズミ駆除くらいしか無いんですが」
普段ならば個別に依頼の対応はしないのだが、水柱の青年については等級において優遇ことしないものの、特別枠として多少の融通は利かせようというのがギルドの判断だった。
───白金等級は不可能でも金等級ならば到達するかもしれない。
そう思えばこそ、なるべく早く昇級して欲しいというのがギルドの本音だ。
「この依頼はどうでしょうか? 遠方へ手紙を配達する依頼なんです」
「配達の仕事ですか」
「本当は白磁等級にはご紹介しない依頼なのですが……」
ギルド職員がちらっと水柱の青年を見て、改めて彼を観察する。手足のスラッとした長身、鍛えられた堂々たる体躯で、凛々しい美丈夫だ。左の頬を覆う流れ渦巻く水のような痣も精悍さを印象付けさせる。異国衣装から着替えた冒険者の装いも似合っていた。
「あなたならば、安心してお任せすることができると思います」
本来ならば白磁等級などは武器を持った破落戸や素人と大して変わらないので、ギルド職員もすすめないのだが、そこは水柱の青年。振舞いも礼儀正しく、教養があることは、既に知っている。
それに街道には
「わかりました。謹んでお受けします!」
「はい。ありがとうございます。それと、
「なるほど、一党か。わかりました、ちょっと声かけてみます」
水柱の青年は丁寧にお辞儀をしてギルド職員にお礼を言ってカウンターから離れる。
一党として組まないか、誰かを誘うとしてどのような人物を話しかけようかなと、水柱の青年はギルドを見渡す。
ギルド職員から聞いた知識をもとにするならば前衛で働く戦士である自分ならば、神官や魔術師が望ましい。あるいは斥候や野伏でも良いかもしれない。
「ん?」
たくさんの冒険者。その中で一際目をひく冒険者がいた。
女性──只人の──魔術師だ。
紫色の長髪に泣きぼくろが特徴的な美女だった。肉感的な肢体と肩や胸元が大きく露出しているローブに魔女帽子を身にまとっており、全身に妖艶でなまめかしい雰囲気を持っていた。そして身の丈ほどの大きな杖を所持している。
水柱の青年が魅了されたのは、彼女の肉感的で妖艶な美貌だけではない。何か強く引き寄せられる引力のようなものを感じた。
「やってみるか」
そう呟いて水柱の青年は魔術師へ歩みよる。
「こんにちは」
「ええ。こんにち、は」
「君も新人なのかな?」
「そう、ね。今日。登録、した、の」
女性魔術師──魔女は独特なテンポで話す。
「やっぱり、そうだったか。ならば一緒に依頼を受けないか?」
「どんな、依頼……?」
「遠方への手紙の配達なんだ。ここから二日程かかるらしい」
「配達……」
「それで配達途中、何かあるかもしれない。そのときは後方に魔術師がいてくれるとありがたい」
そういって水柱の青年は依頼内容や報酬の説明をした。初対面の男と長距離の旅になるのは断られるかなと思いつつも、さらに言葉を探す。
「依頼内容は以上だ。冒険と呼べるほど大きな仕事ではないけれど、これも人の役に立てる仕事だ。やりがいはあると思う」
「ふう、ん」
何が気になったのかはわからないが、魔女は水柱の青年の言葉に何か気になった様子だった。
「いい、わ。行きま、しょう」
「それはありがたい。よろしく頼む!」
それが水柱の青年と魔女の初めての冒険であった。
冒険者ギルドを出るとき、水柱の青年と魔女は出入口で青年とすれ違った。危うくぶつかりそうになって、水柱の青年は謝罪する。
「おっと、すまない」
「おう、気にするな」
そう言って、手を振るのは槍と思わしき木の棒を担いだ青年だ。彼の横を通り過ぎるとき、魔女はその切れ長な眼で彼を一瞥したが、それだけで水柱の青年の背を追って歩き出した。
《登場人物紹介》
水柱の青年
身長:185cm
体重:97kg
所属:鬼殺隊
武器:日輪刀
防具:革鎧
技能:水の呼吸、痣者、透き通る世界、超感覚、トラッキング
水の呼吸
鬼殺隊が、人食い鬼と戦うために編み出した、一度に大量の酸素を血中に取り込むことで瞬間的に身体能力を大幅に上昇させ、鬼と互角以上の剣戟を繰り出す“全集中の呼吸”の一つ。水の呼吸の型は、その名の通りどんな形にもなれる水のように変幻自在な歩法が特徴であり、それによって如何なる敵にも対応できる。水柱の青年は独自の型を作り出すほどの天賦の才とセンスを持っていたが、彼が四方世界へ転移したことで元の世界では彼独自の型は失伝している。
痣者
一定条件を満たして身体に鬼の紋様に似た『痣』が発現した者の総称。痣が発現した者は身体能力が飛躍的に上がり、鬼から受けたダメージが通常では考えられない速さで回復する。これにより、上弦の鬼のような強力な鬼とも戦えるようになる。水の呼吸を使う彼は左の頬の広範囲を覆う形で発現し、流れ渦巻く水のような形を成す。
「痣の力」は寿命の前借りであって痣者は例外なく二十五歳を待たずに死ぬのだが、四方世界へ転移したとき失われるはずの寿命は何者かによって取り戻しているが、水柱の青年は自身の寿命問題には気付いていなかった。
透き通る世界
極限まで鍛えた者が至る境地。他者の身体の中が透けて見える(或いは存在を感じ取れる)ようになり、それによって相手の骨格・筋肉・内臓の働きさえも手に取るように分かるようになる。 無駄な動きを削ぎ落とし、『正しい呼吸』と『正しい動き』で身体の中の血管一つ一つまで認識していくことにより、通常ならば困難な動作も一瞬で行なうことができるようになるということ。最小限の動作で最大限の力を引き出すことで、頭の中も不要な思考が削がれ、無我の境地或いは明鏡止水と呼ばれる領域に到達する。この状態だと“殺気”や“闘気”といった戦闘の際に無意識に出てしまう情動も消失、感情を一切揺らがせる事無く相手の頚を落とすため、殺気を放たず自然体のまま鬼と闘える。
超感覚
この能力の本質は神経成長因子(NGF)の異常な分泌であり、高まり過ぎた脳内の活性によって感覚神経が過剰反応し、音や空気にも鋭敏に反応して、その場の異物や違和感を察知する。戦闘などの緊張下ではアドレナリンやドーパミンなどにより一層NGFの合成が促進されるため、その能力が高まる。
トラッキング
残された足跡から、その人物の年齢や性別、身体的特徴、状態などの情報を読み取る技術。ネイティブアメリカンが駆使する技術であり、異能でも何でもないので誰でも習得が可能な技能。水柱の青年の場合、元またぎであった育手から学んだ。
縁壱がトンデモスペックなのでオリ主を強くしても「彼ほど強くないし……」となってつい盛ってしまいたくなります。