ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー) 作:生死郎
01
秩序の軍が去った戦場では、なお流血が続いていた。平原の各地で、火勢は衰えを見せず、火は煙を発するとともに風を生み、霧は無秩序に渦巻いた。太陽の光と清澄な空気に恵まれた土地であるのに、天候までが混沌に蝕まれているようだった。
魔神将から預かった兵を将が指揮する。勢いに乗った混沌の軍勢は攻撃と殺戮を繰り返し、秩序の軍はもはや自分たちの生命と名誉のために抵抗を続けた。この地域は増援を待つために秩序の軍が戦地に残り抵抗を続けていた。
流水剣ひとりで、混沌の軍勢の憎悪の半分を引き受けてもよいほどであったかもしれない。血と炎のなかで、彼は一人で剣を振るい続けた。
そのときすでに流水剣は残心を忘れず迎撃の姿勢をとる。日輪刀が青くきらめくと、つづく悪魔の雑兵の首が、血の尾を引いて宙に飛んだ。
怒りに顔をゆがめた下級悪魔が亡者たちを流水剣にぶつける。
渦巻く霧のなかを流水剣は駆けた。ヒュゥゥゥゥと流水剣の呼気が空気に響く。日輪刀が赫く輝く赫刀となる。
──
淀みない動きで斬撃を繋げて亡者たちは斬られた箇所から崩壊がはじまり、存在を維持することができず塵に還る。銀を用いることもなく亡者に
蝙蝠のような翼を羽ばたかせ猛り狂った悪魔たちが、次々と地上へ斬り落とされる。秩序の軍勢を追い詰める悪魔たちが、流水剣の剣技にかかっては幼児のごとく無力であった。
やがて悪魔や下級魔神たちを従えた巨躯の異形が現れる。青黒い巨体。額に生えた角。手にした巨大な戦鎚。魔神将より兵を預かるオーガ。
オーガは
「魔神将より軍を預かる我が戦陣にまで切り込むとは、弱き人間にしては中々のやつ。だが、それもここまでだ」
オーガは彼の息子も魔神将からの信任の篤い将帥であった。彼の戦歴のなかで
混沌の軍勢が、身をもって流水剣の進撃を阻もうとしたのは賞賛に値するであろう。だが、彼らの勇気は彼らの生命を代償として要求した。流水剣の進撃は、その速度を些かも緩めなかった。
オーガの前方で剣光が交錯し、凄まじい刃音が鳴りわたり、あらたな血が大地に吸い込まれた。そしてオーガは、眼前に見た。もはや彼と流水剣との間に人影はなく、彼を狙って、赫刀が振るわれる。
オーガも歴戦の勇者であったが、流水剣の予想を超えた驍勇に戸惑いながらも戦鎚を振るう。十合ほど武器を撃ち合わせた。この戦いでこれほど流水剣の斬撃を持ち堪えた者はいなかった。
迅雷の勢いを以て、流水剣の豪刀は、あけっぱなしのオーガの首へ振るわれていった。
流水剣が元の世界から四方世界に流れついてから五年が経った。彼は積み重ねた勲功から在野最高位の銀等級を越えて金等級の冒険者となった。金等級の冒険者は国家規模の難解な任務に関わるものだが、彼は例外的に街のギルドから依頼を受けることが多い異色の冒険者だった。より多くの衆生の願いを聞き届けるため冒険者ギルドからの依頼も依然として請け負うこと、それが在野最高位の銀等級から金等級に昇格することを望んでいなかった流水剣に、昇格してもいいと彼を納得させるために国が提示した交換条件だった。
その卓抜した剣技と驍勇から四方世界最強の
剣聖と讃えられる武人もいるが、果たしてどちらが強いか、技量比べを望む声も多い。二人はまさに万夫不当の大剣豪だった。
◇◆◇
流水剣の一党が援軍とともに彼のいる戦陣に着いたのは、オーガが戦死して混沌の軍勢が潰走した後だった。
流水剣は何も進んで従軍したわけではない。諸事情あって一党ではなく
砦というからには軍の管轄であるのだが、それはそれとして軍以外が訪れる事だってある。なにせ軍隊の行くところ、後には司祭や娼婦、商家、戦場漁りまでついてくる。馬車だなんだに商品乗せて、軍の砦までに商いに赴く商人はそう珍しいものではない。となれば、その護衛は冒険者の仕事であり、つまりは冒険だ。
商談が終わった頃には、どこからともなく混沌の軍勢が溢れ出て、攻城戦──になるかと思えば、城壁が開戦早々に破壊されて混沌側の蹂躙が始まり、唐突の迎撃戦へと戦況は変わってった。
勿論、流水剣の依頼は商人を護衛して砦についた時点で解決している。眼の前で多くの人が殺される。しかし、依頼を受けていない、金にならない、関係ない、だから放っておいて帰ろう。……などと言い出す流水剣ではない。そのような在り方では水の呼吸の頂点に立つ水柱という大層な称号が恥ずかしいではないか。
流水剣は焼いた肉をフライパンに乗せたまま遅い朝食を食べ始めた。腰に帯びたナイフで肉を斬りながら食べる。食器は面倒なので使わない。焚火で熱した火かき棒をカップに入れて蒸留酒を温めて飲んでいた。
「無事で……よかった」
朧月のように凄艶な美女──魔女が肉感的な肢体をしならせて流水剣に近づく。彼女についてくる
「まったく胆が冷える」
やたら肌の白い
彼女が何故冒険者になって流水剣と組もうと思ったのか。曰く、「支え甲斐がありそう」だから、だという。
流水剣だけでなく魔女も森人の斥候も銀等級となっていた。
流水剣は騎士や冒険者と組み、殿として混沌の軍勢を食い止めていた。
その戦いぶりは、かつて流水剣がいた世界で、張飛は長板橋に一丈八尺の蛇矛を横たえ曹操百万の大軍をにらみ返したというが、まさにそれに劣らぬ大剣士は、数日の戦いを持ち堪えて
「大将首を葬ってようやく、落ち着いて食事ができるよ」
ナイフで突き刺した肉を頬張り、かき棒を抜いて蒸留酒を飲む。鬚を剃り、落ち着いて食事をし始めたのは今朝のことであった。
「三日三晩、只管戦い続けたのか? 相変わらず人間離れしたやつめ」
「寝て……ない、の……?」
「寝てないわけじゃないけどな」
渡り鳥やイルカのように、数秒だけ寝たり体の一部だけ寝たりするという体質を活かして、戦闘しながら眠っていただけだ。
「古代の魔神王の復活、十六の魔神将の召集がこれで遅れることを願いたいな」
大量の死と破壊を産みだした戦場を見渡して、流水剣は呟いた。
◇◆◇
「古い砦に小鬼が?」
流水剣一党がゴブリンの被害について訊いたのは、辺境の街へ戻る途中に立ち寄った村だった。混沌の軍勢との戦いがあった戦地を離れて
「ええ、古くからある山城でして……」
朴訥な青年が顔色悪く流水剣に説明するのは、彼の妹が小鬼に攫われたからである。善意で救助を請け負った通りすがりの冒険者たちが、青年からの願いを受けて出立したのは流水剣たちとはほとんど行き違いだった。
「山城……か」
白粉臭い森人が何か思い出すように呟く。
「何か?」
「いや、たしかこの地方には森人が作った砦があったと思ってな。そこは侵入者用の罠もあったはず……」
成程と流水剣が頷く。彼と魔女、女森人の斥候と目配せをする。攫われた日数からして村娘の生存は絶望的と思っていた。寧ろ救いに行った冒険者たちの安否が気になっていた。青年の説明では女性だけの一党だったらしいのだ。
「俺達も山砦のほうに行ってみよう」
「ありがとうございます! 妹をよろしくお願いします!」
──どうしてこうなったのだろう。
「
貴族令嬢と野伏の後ろには、
「ひ、ぃ……」
「く、くるな、くるなよぉ……」
怯えて引き攣った声をあげる
肩を寄せ合い、抱き合いながら身を震わせる獲物を前に、小鬼どもは舌嘗めずり。
ゴブリンたちに貴族令嬢が押し倒されそうになったときだった。
「GAUA!?」
ゴブリンたちの首が宙を飛び、血が尾を引いて地上に落下した。
現れたのは青い
ゴブリンたちは自分たちの獲物を取り上げた男に罵声を浴びせる。手に粗雑な武器をもって躍りかかる。ゴブリンたちは自身の愚かさから生命を失うことになった。
「君たちの同業だ。助けに来た。さあ、時を稼ぐから逃げろ」
流水剣が指さす方向から魔女と森人の斥候が駆けつけていた。貴族令嬢たちは死闘の旋風に当てられて委縮しながらも、流水剣の首に金等級の認識票があることを認めた。
「き、金等級……!? それに、青い
貴族令嬢が驚愕のあまりに状況を忘れて叫ぶ。
「き、金等級!?」
「なんで、そんな凄い人が?」
「と、兎に角助かった!」
「り、リーダー、流水剣って?」
「四方世界最高、剣聖と並び称される人界最強の剣士よ」
「……そう言われると、むず痒いな」
貴族令嬢のうっとりとした眼差しと賛辞に、流水剣は表情の取捨選択に迷ったような表情で言った。そんな態度をしつつも、流水剣はしっかりと日輪刀でゴブリンたちを斬り捨てる。ゴブリンたちには自分の死を認識する暇もない。
貴族令嬢たち一党のもとへ魔女や森人の斥候が近づく。
「さ。逃げる……わよ」
「私が先導しよう。さあ、行くぞ」
自分たちを助ける魔女と斥候が銀等級の認識票を持つことで安堵する。そして、自分たちに活路を拓き、指示を飛ばす剣士に感謝しながら撤退する。
「攻撃の起こりがまったく見えない。綺麗な太刀筋……。流石は金等級……!」
逃げながらも貴族令嬢は流水剣の剣技が脳裏に焼き付いて離れなかった。剣を振るう者として惹かれないと言えば嘘になる最強の二文字を持つ冒険者の背中は、貴族令嬢にとって印象に残った。
既に一〇を越える小鬼を斬った。魔女たちに追手が及ばないように
「GOOBB!?」
ゴブリンたち大敵に、自分に降りかかる不運に怒り、喚く。しかし、それではゴブリンにとって死と同義語である剣士から逃れることは出来なかった。
「お前たちはこの城からは逃がさない。例え便所に隠れようとも見つけ出して殺してやる」
流水剣の眼光は、弩から放たれた無形の矢となって、ゴブリンたちの心臓へ貫通した。
流水剣
【性別】男性
【年齢】25歳
【等級】金
【身長・体重】185cm・97kg
【痣の位置】左の頬
【外見のモデル】神山聖十郎(『新サクラ大戦』)
【服装のモデル】赤の王Verアドル・クリスティン(『イース9』)
未だに実力が絶賛成長中の主人公。
身長と体重はアキレウス(Fate)とほぼ同じ、ラグビー選手のような体型。彼のあだ名である人界最強は渡辺綱(Fate)への人界最強の武者という賞賛が元ネタ。衣装が代わり、自力で赫刀を発現できるようになった。
魔女
マイウェイをマイペースでモデルウォークするクールビューティー。流水剣から贈られた身の丈ほどの大きな魔杖は今でも大切に持っている。流水剣との仲はとても良好。Iカップ。
森人の斥候
原作12巻に登場したキャラクター。白粉臭いエルフ。正体は流水剣が五年前に水の都で出会ったダークエルフ。白粉でエルフに変装している。流水剣と対話して「この人は支えがいがありそう」と思い冒険者になって一党を組んだ。遠回しに言えば「おまえ危なっかしいから面倒見に来た」とも言える不敵さがある。押しかけ女房属性持ちのダークエルフ。五年かけて魔女や剣の乙女とは色々な意味で友になった。Fカップ。
鋼鉄等級冒険者
原作一巻に登場した、第八位の鋼鉄等級の冒険者。ゴブリンによって全滅した冒険者たち。本作では運よく生存する。外見は漫画版を参考にしている。
・貴族令嬢
セミロングヘアと釣り目が特徴的な美女。貴族の令嬢と言う身分で生まれ、至高神に仕える遍歴の自由騎士となった。Gカップ。
・女野伏
圃人の野伏。ナイスバディのパーティの中では逆に浮く普乳。Bカップ。
・森人の女魔術師
ポニーテールと胸元露出した巨乳が特徴的な容姿のクールビューティ。Fカップ。
・女僧侶
只人の僧侶。黒髪のロングヘアの大人しそうな雰囲気の女性。Eカップ。
オーガ
原作に登場するオーガ兄弟の父親。流水剣と十合撃ち合うという戦闘力の高さを見せつけた。