ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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ドラマCDを聴くと剣聖は意外と脳筋なスタイルでしたね。ちなみに流水剣と剣聖は面識がない設定です。


04

「さてと、それでは私はあいつらの付き添いで報告してくる」

 流水剣を見送った森人の斥候は貴族令嬢の一党(パーティー)とともに受付に向かい報告していた。魔女はそのすっきりした切れ長の目でロビーの壁際を見た。そこはあの奇特な冒険者の定位置となっている椅子に、女神官はちょこんと座っていた。

 女神官は取り残された。ぽつんと、一人。気を利かせた受付嬢が淹れた紅茶のカップを両手に持っている。見たところ、疲労が随分と溜まっている様子だった。

 ──彼は気を使ったのだろう。

 女神官を療養させようとゴブリンスレイヤーは考えたのだと魔女は推量する。流水剣ほどではないが彼との交流がある魔女である、ゴブリンスレイヤーの考えを想像することはできるが、女神官は果たしてどうだろうか。今の彼女は悄然としており所在なさげだ。

 魔女は肉感的な身体つきをしならせて、女神官の傍に佇む。女神官はきょとんとした表情で魔女を見上げる。まるで子犬が驚いたような様子で、魔女は優しげに眼を細めて、くすりと漏らして微笑む。

「え? え……と?」

「彼と、一緒にいる子、で良いのよね?」

「あ、はい! 御一緒させてもらってます」

 魔女の問いに女神官は素直に頷いた。

「『ごいっしょ』、ね」

 魔女は意味ありげに笑った。女神官が首を傾げる。まあ良いけど、と魔女は手を振った。

「彼、大変、でしょ。鈍いもの、ね……?」

「……? え、っと」

「意味、わかってないわ、ね」

 申し訳なさそうに恥じ入る女神官の様子を、魔女は愛らしいものを見るように見つめた。そして長煙管を取り出して、優美な手つきで刻み煙草を詰める。

「良いかしら。……《インフラマラエ(点火)》」

 女神官の返答を待たず、魔女人差し指で煙管の先を叩いた。ほの甘い香りのする桃色の煙が漂い出す。

「真に力ある言葉、呪文の無駄遣い……ね」

 呆気にとられる女神官に、魔女はくすりと笑う。少女にはそう言ったが魔女は魔的資源(リソース)を乱費などしていない。魔術師でも知る者は少ないが真言一つだけなら、消耗せず行使することが可能である。魔導の理を識る者とそうでない者とでは、魔法の核心との距離に天と地ほどの差があるのだ。

「あなた、奇跡は、いくつ使える……の?」

「えと……。二つだったのが、増えて四つに。祈れるのは三回くらい、です、けど」

「白磁等級、でしょ? それで四つなら、才能ある方、ね」

「あ、ありがとうございます……」

 女神官は小さい身体を更に縮めて、頭を下げた。魔女は笑みを崩さない。

「あたしも、ね。前に、変な依頼、請けたことあるの、彼から」

「え……」

 女神官は思わず魔女の顔を見た。魔女は蠱惑的な表情のまま首を傾げる。

「変なコト、想像した、でしょ」

「い、いえ……っ」

巻物(スクロール)に、ちょこちょこっとお手伝い。……大変、よね? 彼と『ごいっしょ』するの」

「いえ、その、……はい。……彼、銀等級ですし」

 疲れた顔を、女神官は微かに緩ませた。俯けば、そこには両手に握られた、小さなコップ。紅茶の微かな色を透かして底を見つめながら、ぽつぽつ、唇から零れるように言葉が落ちる。

「わたしなんかじゃ、ついていくだけで、精一杯で……。迷惑かけて、ばっかりで」

「それに彼、かなりキてるもの、ね」

 魔女は煙管を深く吸い、煙を輪の形にして噴きかけた。

「そりゃあ、ね。ゴブリン退治だけといったって、何年も、ほぼ休みなし、だもの」

 白磁等級とは比べられない。そう呟いて、魔女はくるりと煙管を回した。

「ゴブリン退治自体は、世の中のためになるし、ね。それで救われる人もいるように、ね」

 魔女がまるで誰かを思い描いているかのように、目を細めて虚空へ見つめる。

「だからといって、ゴブリンだけ、やっつければ、良いわけじゃ、ない、けど」

「……」

「都では悪魔(デーモン)が一杯。相変わらず、世の中には怪物がたくさん、ね」

 言うまでもない事だ。でなければ、いくら遺跡が残ろうが、冒険者は成り立たない。広範囲で散発的に発生する、多種多様な脅威に、軍隊では対応しきれないのだ。

 本来、彼らは近隣諸国なり、邪神なりに対応するべく存在する。ゴブリンは明確な脅威だ。だが、ゴブリンだけが脅威ではない。

「他にも……人を助ける、なら。他の冒険者たちと、一緒でも、できる、でしょ?」

「それは……! そう、ですけど……」

 思わず声を荒げ、身を乗り出した女神官だが──言葉が、続かない。その言葉は尻すぼみに縮んで濁ったように消えてしまう。

「……ふふ、道は、いっぱい、ね。正解、なんてないの。難しい、から……」

 人間の能力には限界があるがそれでも自分の器量の範囲で運命を動かすことはできる。女神官にはできることならば、より大きな範囲で運命を動かすことができなくても、その可能性を持って欲しいと思った。

「せめて……『ごいっしょ』する、なら。きちんと自分で、決めなさい、な」

 おせっかいかもしれないけど。魔女はそう言い残し、現れた時と同様、するりと女神官から離れて席を立つ。応接室から出てホールへ降りてくる流水剣の姿があった。ゴブリンスレイヤーも一緒にいる。

「あ……」

「じゃあ、ね」

 そしてひらりと手を振って、彼女は腰を振りながら流水剣のもとへ進んでいった。

「自分で、決める……」

 再び一人で取り残された女神官はそっと呟き、ゴブリンスレイヤーのもとへ小走りで向かった。

 

 ◇◆◇

 

 ゴブリンスレイヤーは無造作な足取りで階段を降りて、受付嬢と話して特別に報告より前に報酬を自分の分だけ受け取る。

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 彼の後ろから足音が近づいてくる。軽い靴音だった。

「あ、あの! 依頼、ですよね!」

 女神官だった。ロビーの隅から小走り来たようで少しだけ息が切れている。

「ああ」

 ゴブリンスレイヤーは頷く。

「ゴブリン退治だ。俺は行く。お前は好きにしろ」

「え……! あ、あの、はい。一緒に行かせてください」

 彼女は健気にそう言った。はっきりと、迷いなく。女神官はゴブリンスレイヤーの、汚れて傷だらけの兜をじっと瞳に映している。

「そうか」

「あ、でも」

「──?」

 ゴブリンスレイヤーは、不思議そうな様子で、その兜を傾げた。

 女神官は嘆息する。

「選択肢があるようでないのは、相談とは言えませんよ?」

「そうなのか?」

「そうなんです」

「そうか」

「はい」

 

 流水剣は魔女や森人の斥候と集まった。森人の斥候からは貴族令嬢たちはトロル退治をちゃんと評価された上、報奨金も出たことを教えられた。貴族令嬢たちは先にギルドを後にしていた。森人の斥候は愉快そうに笑っている。そっと近づく彼女から白粉の匂いがする。

「三度も尋常ではない小鬼退治を経験して生き延びるというのも、運が良いといえるのかもしれないな。三度目こそ彼女らでやり遂げたのだ。この将来(さき)、どれほどのびるか、楽しみではないか」

「なに、ただ単に一生分の幸運をまとめて使い果たしたのかもしれないだろう。ここで気が緩んで冒険を甘くみるようになったら、彼女らの命取りになる。一党(パーティー)の器量が真に問われるのはこれからだ」

 厳格な指導者兼先輩らしい態度で流水剣は言ったつもりだったが、魔女や森人の斥候の表情を見ると、成功したとはとても言えないようだった。無理しなくてもいいのに、と、彼女らの表情は語っていた。

「まあ、それは置いておいて、さっきの客との話なんだが」

 流水剣は蜥蜴僧侶たちと報酬やその他について相談して、魔女と森人の斥候との打ち合わせを行った。

「そう」

 魔女はたいして驚きもせず、しかし流石に煙管をしまった。

「また小鬼退治か」

 森人の斥候の口調は、甚だ不熱心だった。

「そうなんだ。何度も小鬼退治で申し訳ないと思っている」

「でも……ご指名の、依頼……だから」

「断るのもよろしくはないな」

 流水剣は依頼の詳細、報酬などの条件を説明した。ゴブリンを殺すことに強い決意があるという共通項はあるものの、彼はゴブリンスレイヤーと異なり、ちゃんと詳細を詰めてから依頼を受ける。

「依頼内容はこういうものだが。それで、連続ですまないがみんなにも一緒に来て欲しい」

 流水剣からのお願いに魔女は嫣然と微笑み、森人の斥候はにやりと笑う。

「まあ、森人に貸しを作るのも悪くはない」

 白粉を使ってまで偽っているというのに、正体を隠す気があるのか疑いたくなることを、森人の斥候は言った。

「放って……おけない……から……ね」

 魔女の許しを得て、ありがとう、と安堵したような笑みを流水剣は浮かべた。

 

 流水剣と魔女と森人の斥候。そしてゴブリンスレイヤーと女神官。その姿を、異人たちは階段の踊り場から、吹き抜けを通して見下ろしていた。

 妖精弓手と、鉱人道士、蜥蜴僧侶の三人は顔を見合わせ、誰かがふっと息を漏らす。

「わしらだって、ああは解りづらい性格はしとらんの。……かみきり丸とは見応えのある若造じゃ」

 最初に、鉱人道士が階段を降り始めた。笑って鬚を扱きながら。

「かの鬼狩り殿もなんとも興味深い御仁だ。斬り合い殺し合い、血風の戦場が嫌いだという。大剣士とは思えぬ心根。虚言ではなく本心というのが、実に興味深い」

 蜥蜴僧侶が重々しく頷く。そして尻尾を揺らして、一段一段、踏みしめて階段を降りる。

「……」

 妖精弓手は言葉もなく二人の冒険者を見下ろしていた。

 オルクボルグ、小鬼殺しの冒険者。

 グラムドリング、鬼狩りの冒険者。

 想像とはまるで異なる彼らの在り様。それは彼女の慮外のものであった。

 つまり、理解できないもの。未知の存在だ。

 ──何を今更、そんな事で驚いて立ち止まっているのだろう。

 妖精弓手は思った。それを求めて自分は森を出たのではないか。彼女は大弓の具合を確かめて、しっかりと肩にかけ直す。

「まったく、年長者に敬意を払うべきだと思わない?」

 そうして彼女は軽快にステップを踏んで、階段を駆け下りていく。




せめて臭い消しまで書きたかったけれど長くなりそうなので一旦切ります。魔女が女神官にどういう意図で言ったのか、自分なりの解釈と原作とは違う人生を歩んでいる魔女なので、ちょっと異なるようになりました。そこが一番難しかった。
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