ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー) 作:生死郎
つきましては、訂正済みの28話を掲載いたしました。ぜひお手すきの際にお読みいただければ幸いです。
このたびはご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ありませんでした。掲載後の大幅な変更で無用な混乱を起こすような間違いを二度と起こさないよう、細心の注意を払って連載していきます。
今後ともご愛顧のほどお願い申し上げます。
──彼はゆっくりと目覚めた。
流水剣は直近左右で寝ている二人を起こさないように、慎重にベッドから出た。
その日は冒険者稼業を休むと、一党で決めた休暇だった。冒険者の朝はとても早い。活動日であれば依頼を受けに行くため夜明けとともに動き出す。
朝早くからギルドに待機して、張り出される依頼を吟味するのは勿論のこと、街から離れた目的地へと向かう場合は早くに出なければその日のうちに帰って来れなくなってしまう。誰でも好き好んで野宿をしたいとは思わない。
眠ったのは遅かったのだが、流水剣は僅かに残る二度寝を誘う眠気も、軽いストレッチで払いのける。
裸のままだったが、あらかじめ用意していた水をためた桶と手ぬぐいで身体を拭い清めて、飾り気のない麻の服を着こむ。
ベッドの上を見れば魔女や森人の斥候はまだ寝ている。魔女は一糸まとわぬ雪白の姿でその全身からは白光が放射されているようだ。森人の斥候は普段している白粉はなく焦がした琥珀のような淡い柔軟な褐色の肌を晒されている。
まだ外も薄暗い時間帯に流水剣は宿を出て日課の鍛錬を始める。柱になってからも鍛錬は欠かしたことはない。宿に戻れば魔女や森人の斥候が既に起きていた。森人の斥候は既に白粉を塗っている。
「おはよう」
流水剣は二人に挨拶して、宿屋の女将の手料理を一党でのんびり食べる。
「そうか、そうだったな。俺と君たちは昇級審査の立ち合いをする日か」
流水剣と魔女は白磁等級の冒険者の昇級審査の立ち合いをすることになっていた。
冒険者の等級は、白磁から白金までの一〇段階に分けれられる。等級査定の基準は、今までの報酬金額と貢献度、そして人格的評価。(これらは経験点とも呼ばれる)
つまるところ、社会に対してどれだけ役に立ったのか、という目安で査定する。また、一方で、当たり前だが冒険者とは戦闘技術を持ったならず者に他ならない。
冒険者において実力とともに重要視されるのは、当人の人格。よって、上位冒険者の立会いのもと、面接が行われる。
なので、身元もわからない風来坊が尋常ならざる実力を発揮して、一気に銀や金へ等級を上げる。……などという事は、まず無理である。
あるいは、女性ばかりを仲間にしている男性冒険者も、昇級はなかなか難しい。いかに高い実力を持ち、優れた識見を持っていても女癖の悪い冒険者に重要な依頼を任せたいと思う者は少ないからだ。
流水剣も彼以外は女性冒険者しかいない一党であるが、彼の謹厳実直な仕事ぶりや、必要とあれば男性冒険者とも組んで仕事を行った協調性を示す実績がある。
「そういえば……あの、娘、も昇級、審査……する、みたいね」
「あの娘……ああ、あの神官の」
得心が言ったように森人の斥候は頷いた。
「まあ、彼女なら大丈夫そうだな」
流水剣たちが担当はしていないが恐らくは女神官も昇級審査があるだろう。彼女ならば昇級することも可能だろうと、流水剣は思う。有望な新人が育つことは彼にとっても望ましいことである。
◇◆◇
「オーガと竜に襲われるって、ベテランでも経験できないことよ、それ」
見習聖女は友人が体験した話を驚いた。オーガだけでも金等級が当たる強敵である。そこに竜も立ちふさがるなど、神か何かの悪意すら感じると見習聖女は思った。
「そうですよね、本当に流水剣さんやゴブリンスレイヤーさんたちがいて本当に助かりました」
あの時、オーガと竜を見た女神官の心臓は強烈にステップをふんで踊りまわった。頼もしい先達がいなければ心が折れて、恐るべき怪物たちの犠牲になっていただろう。
悪い冗談だ。女神官は本当にそう思った。
そのような竜がオーガとともに敵になるという悪夢のような現実。
戦慄が女神官の全身の神経回路を音もなく駆け抜け、皮膚には鳥肌が生じ、冷たい汗が内側から衣服を湿らせるのも当然であった。
「正直、まだ寝ているときに竜の鳴き声が聞こえて起きてしまいます……」
女神官は昇級審査後、黒曜等級に昇級が決まってから受付で鉢合わせた。見習聖女から昇級を祝われて、その後は二人でギルドの隅にある椅子に座ってそれぞれ最近した冒険について話していた。
「で、どう? 銀等級と一緒なんて楽じゃないでしょ?」
「あはは……そうですね、でも──」
「でも?」
「自分で決めましたから、付いていくって」
「そう、でも無理はしてはだめよ」
「はい」
気負う事なく微笑む女神官に、見習聖女は少しだけ安心する。かつてはゴブリンスレイヤーの悪い噂を鵜呑みにしてしまい、ゴブリンスレイヤーが新人である女神官を囮として引きずり回しているのではないかと勘違いしてしまった。そのため、彼女を助けようと自分たちのもとへ引き抜こうなどとしてしまったが、誤解が解けて以降二人は同期の友人として付き合うようになっていた。
「あぁ、オーガと竜を退治なんてあたしにはまだまだ無理。暫くは下水道で頑張るわ」
「私だってたいしたことはしていませんよ! 倒したのは私ではありませんから」
やれやれと、わざとらしく肩を竦めて見せた見習聖女に、女神官は微苦笑して否定する。
「ところで、彼は? 今日はご一緒ではないのですか」
閑話休題とばかりに女神官は話題を変える。彼とは、見習聖女が組んでいる新米戦士である。
「ああ、それだったら、ギルド裏手の広場で流水剣さんに稽古つけてもらっているんじゃないかしら」
今日は流水剣が新人冒険者たちを相手に稽古をつけるというのは、以前から知られていたので新米戦士はそちらに向かっていた。
女神官と見習聖女がギルド裏手の広場に向かえば、金等級の冒険者が多くの戦士たちと打ち合いしていた。流水剣は木刀を持っているので実際に斬られはしないが打撃音が生々しい。
「あ…ら……?」
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
流水剣たちを遠くから見ていた魔女と
女神官はそのスタイルの良さや知的で大人な雰囲気から密かに憧れていた。
最近、稽古をつけられているのは新米戦士だけではない。重戦士
上は鋼鉄、下は白磁の烏合の衆らしくがむしゃらな動きだが、それでも連携を取らんする辺り、筋は良いと言える。
「……人って木の葉みたいに飛んじゃうんですね」
「……そうみたいね」
冒険者たちが悲鳴をあげながら空中をくるくる回転しながら地上に墜落する様子を見て、女神官の顔色は青ざめた。
「わきゃっ!?」
「ぬわぁっ!?」
「ほげぇぇっ!?」
経験と力量が違いすぎるので、流水剣一人にいいようにあしらわれている。魔女は月光のような笑みを湛えながら眺めているが、新人冒険者の少女たちはまるで自分が叩かれているかのように、時折、身を竦めている。
「戦いは数だと訊いたことあるけど、圧倒的な個は数ごと潰してしまうのね」
「あ、あははは……」
見習聖女がまるで自分が殴られているかのように表情が曇っている。
「ああ、来たのか」
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
二人の近くに女騎士が来るかと思えば、彼女自慢の大盾や剣を置いて木刀を手に取って、柵を飛び越える。
「やれやれ、青二才どものためにもこの秩序にして善なる聖騎士志望の私が加勢してやろう」
にぃと不敵な笑みを浮かべた女騎士。悪戯を企む悪童の笑みだ。先程まで重戦士と稽古していた彼女は猛者を求めてやってきたのだ。
「さあ、勝負だ! まさか逃げようなんて思わないだろう。人界最強などという大層なあだ名が恥ずかしいもんなぁっ!?」
「お、おいっ、それでも聖騎士志望か!」
「問答無用っ!!」
キエェェェッ! と怪鳥の嘶きのような声とともに渾身の力で木刀を振り下ろす。
「まるで示現流だな!」
感嘆混じりの舌打ちひとつで、剛剣をかわして返す刀で跳ね返す流水剣。これ幸い貴族令嬢たちが息を吐くが、女騎士の「囲め囲め!」という声に従って流水剣を囲み始める。
「死角から攻めろ!」
「口に出した作戦が通じるか!」
「脛だ! 脛を狙え!」
「っどっせい!」
「ほげぇっ」
包囲を破ってから流水剣は流れるような足運びで冒険者たちを次々と沈めていく。
騒ぐ冒険者たちを眺めつつ、魔女は呟いた。
「喧騒、から……、平、和を……感じる……」
魔女の呟きに、女神官たちは思わず噴き出した。
◇◆◇
「筋は悪くないんだ。教えた走法を覚えていてくれるしな。あの騎士様もそうだが、ちゃんとモノにしている」
流水剣はそう言いながら、手ぬぐいで軽く体を拭く。恐ろしいことにあれだけの乱闘をしているのに、然程汗もかいておらず息もあがってはいない。手ぬぐいも身体に付着する砂塵を拭うための理由のほうが大きかった。
流水剣が鳴柱から学んだ
「鬼殺隊では……使える……人は……いなかった……の?」
「俺と鳴柱だけだったな。元々、鳴柱が人にものを教えるのが苦手でその……癖の強いやつで進んで学ぼうと思った隊士も少なくてな。必須科目でもなかったし」
閃雷走法は卓抜した運動センスが必要とされる。鳴柱がどこで修得したのか流水剣はわからないが、新陰流や一刀流のような体系としてある剣術には足運びとして伝わっているかもしれない。そういった剣術を高い水準で修めた剣客ならば使えるのかもしれない。
だが、流水剣や鳴柱が鬼殺隊に入隊した時点で既に御一新の後であり、剣術は廃れつつあり、学ぶ者も少なくなっていた。
そもそも、鬼殺隊に入隊する者で所属する前より剣士だった者が稀少であり、仮に天与の剣才を持っていても呼吸術の才幹を持っているとは限らないのだ。鬼殺の剣士としては呼吸術を扱えることのほうが重んじられていた。
「ああ、悔しい。これだけの数を揃えたら一撃くらいは入れられるとおもったのだが……」
女騎士は不本意そうに、柳眉を逆立てている。
「またしてもダメだったか、こうなったらお前も混ざれ!」
「なんでだよ」
重戦士は歯痛を抑えるように顔を顰める。自称秩序にして善なる騎士の負けず嫌いの火が点いてしまったようだ。
「そうだ、あいつも入れてみるか」
あいつと言うのは槍使いのことだ。
「槍のリーチと魔法があればあるいは……」
「あの、もう目的が違くないですか?」
貴族令嬢が呆れたように言った。女騎士はじろと彼女を見た。
ふくよかな胸には、さらしでも巻いているのだろうが、稽古用の平服はおさえきれずにむっちりと盛り上がって、短い袖からは匂うような腕がつき出している。肌は桜色だった。
その桜色の頬が、ぱっと濃い紅をちらした。──今更ながら流水剣の視線を気にしたのだ。新米戦士など他の男の目線は気にならないが、彼は例外のようだ。貴族令嬢はそっと胸元を整えた。
「冗談じゃない」
女騎士の提案に流水剣は嘆息した。彼女の負けず嫌いは上昇志向にも繋がるので一概に欠点とは言い難い。だが、没頭し過ぎるのは玉に瑕である。
「だ……め……」
成り行きを見守っていた魔女も流水剣に加勢した。
「ふ……ふ……これ……から……デート……なの」
「なにぃ!?」
魔女が微笑みながら言うとき、さらに森人の斥候もやってきて流水剣の肩に手を置く。
「
解体した竜の身体を高値で売り払うことが出来た森人の斥候は常よりも上機嫌である。
「そういうわけで、今日はこれでお仕舞だ」
爆ぜろ、と言わんばかりの女騎士の視線を受け流して、流水剣たちは立ち去った。
ラスト・ダンサー様の作品「ゴブリンスレイヤーRTA 小鬼殺し√」より作者様がフリーキャラとして解放している疾走戦士を出演させていただいております。他にももふもふ尻尾様から許可をいただきまして「【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート」より疾走騎士を出演させていただきました。
次回はゴブリンロードとの戦いです。