ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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短いですが、牧場防衛戦(原作一巻)の締めです。


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「私たちの勝利と、牧場と、冒険者とあの、なんか変なのにかんぱーい!!」

 冒険者ギルドに集った、傷だらけの冒険者を、妖精弓手(エルフ)はぐるりと見渡して取った彼女の音頭に、冒険者たちが歓声をあげて、次々に杯を掲げ、中身を干す。

 これは何度目かの乾杯だったが冒険者たちは気にしていなかった。

 合戦の返り血も乾かぬまま手当もほどほどに冒険者ギルドに集った彼らは大いに勝鬨をあげていた。

 一〇〇匹を越える小鬼の大群は全滅。様々な上位種もいたが数を揃えた冒険者に及ぶべくもない。

 無論、冒険者にも犠牲者はいる。不運な者はいつだっているのだ。だからこそ、幾人かの戦死者への弔いも兼ねて、冒険者たちは大いに騒ぐのだ。

 彼らは他者の生命を弄んでいるつもりはない。彼らは自分たち自身の生命をも、宿命と偶然の賽子に差し出している。いつか、彼らに立ちはだかる苦難や窮地に挫け、斃れる、そんな日が来ることもあるだろう。それを彼らはそれを知っている。せめてその日がくるまで、陽気さを失わない生き方をしたいと思うのだ。

 流水剣の周囲には彼の一党(パーティー)である魔女や森人(エルフ)の斥候。それと貴族令嬢一党がいた。

 流水剣たちが囲む卓に酒や料理が運ばれていく。彼らも、任務に失敗した死神を嘲笑う、生還者のささやかな行事を行っていた。

 流水剣も乾杯をしてからギルドを見渡せば、顔見知りの冒険者たちも宴に参加していた。妖精弓手(エルフ)鉱人道士(ドワーフ)蜥蜴僧侶(リザードマン)とゴブリンスレイヤーの一党。槍使いと彼の相棒。重戦士一党。少々の怪我を負った新米戦士は見習聖女に何か言われている。

 他にもグレートヘルム(バケツヘルム)を被った騎士、二つの盾を持つ騎士、魔法を駆使する青年剣士などの知己を得た冒険者たちもそれぞれの仲間たちと談笑している。

 ゴブリンスレイヤーはいつもの席に座っているが、小鬼の王との戦いで負傷した左腕を吊っている。

 女神官はゴブリンスレイヤーの肩に寄りかかり眠っている。そんな彼女を微笑ましそうに牛飼娘は見ていた。

 牧場を守ることができた。戦死した冒険者は出てしまったがその数も少なかった。上々な結果と言えよう。流水剣は上位種を優先して討伐したことで彼の討伐数は冒険者個人としては少ない。だが、流水剣のおかげで犠牲となる冒険者も減ったと言える。

「君たちも無事でよかったよ。上位種を仕留めたのも凄いじゃないか」

「い、いえ、そんな。上位種と言ってもゴブリンですから……」

 流水剣の賞賛に貴族令嬢は照れ照れと赤面する。

「そんなことないよ、リーダー。ゴブリンスレイヤーさんも強い個体だったと言っていたじゃない」

 圃人(レーア)の女野伏が言うように、小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)は小鬼の中でも上位種である。

「私一人で倒したわけではありません。仲間たちの助けもあったおかげです。もし助けがなければ私も死んでいました」

「それでも生き延びたんだからリーダーの勝ちさ。それにそんないい武器も手に入ったんだから冒険としては大成功でしょ」

 圃人(レーア)の女野伏の気軽な言葉に、貴族令嬢はすぐには答えず、古の名剣を触っていた。

「冒険のあとでも、こういう大勢で騒ぐというのはなかったから新鮮な気分だ」

 流水剣が火酒を飲みながら言う。いつもよりも高価な銘酒である。魔女たちが飲んでいるのも上酒だ。ゴブリンスレイヤーの一杯奢る約束のため、最初の一杯をゆっくり飲んでいた。

「鬼狩りの仕事の後には、こういうことをしなかったのか?」

 森人の斥候が銘酒を嘗めるように楽しみながら、ツマミを食べていた。

「丙とかのときはそれなりに大勢で仕事をしたこともあるけど、こういうことはなかったなぁ。柱になれば一人で動くことのほうが多くなった」

 命がけの鬼との戦い。それに生き延びても大勢で宴を催すということは考えたことがなかった。鬼と戦うことはどうしても陰惨で、悲劇に直面することも多く、生き残って祝うことをする、という考えを持ったことがなかった。

 流水剣が思索の浴槽に首まで浸かっていると、酔った妖精弓手(エルフ)が歌いはじめた。上の森人(エルフ)らしい、豊潤な歌声であった。

 

 小鬼殺しの鋭き致命の一撃(クリティカルヒット)が、小鬼王の首を宙に討つ。

 おお、見るが良い。青にもゆるその刃。まことのその刃。まことの銀にて鍛えられ、決して主を裏切らぬ。

 かくして小鬼王の野望もついには潰え、救われし美姫は、勇者の腕に身を寄せる。

 しかれど、彼こそは小鬼殺し。彷徨を誓いし身、傍に(さぶら)う事は許されぬ

 死地におもむく我なれば、君との未来(あす)を望みえず。

 伸ばす姫の手は空を掴み、勇者は振り返ることなく立ち出でる。

 されば歌わん奈辺に在る君がため、永き別離(わかれ)に耐え、過ぎにし日々を遠く見る。

 

 吟遊詩人(バード)から聴いた歌を妖精弓手(エルフ)がアレンジしたものだったが、それを知る者は殆どいなかった。

 魔女が、手にした杯に向かって、溜め息をついた。流水剣は聴覚に残響する歌詞を反芻して微苦笑した。

「よっぽど気分がいいんだな。それにしても、あいつの歌の割には随分としゃらくさい歌だな」

「感傷過剰の安っぽい歌だ……森人もああいうのを好むのか」

 森人の斥候の言い方に森人の女魔術師が不思議そうに彼女を見ている。

 辺境最優の勇士とはいえ、あのぶっきらぼうな男の英雄譚を、男と女の感傷的な関係にアレンジされているのだ、流水剣たちと同じような感想を持った冒険者は多いらしく、何とも言えない表情で笑いながら聴いている。歌声は心に染みわたるように美しいのだからまた面白い。

「あぁーーーーっ!! オルクボルグが兜はずしてるー!?」

 美しい歌が突然に途絶え、素っ頓狂な声を妖精弓手(エルフ)があげた。それはよく大きく、よく通る声だった。

 その声に反応し、ギルドの注目が一斉にゴブリンスレイヤーへと集まる。そして彼女の言う通り、ゴブリンスレイヤーが兜を脱いで素顔を露わにしていた。

 ゴブリンスレイヤーの素顔を見るために、冒険者たちが彼のもとに殺到する。珍獣を見るような目で見る者、顔の造作を賞賛する者もいれば、彼の素顔について賭けでもしていた者は勝ったものは喜び負けたものは苦悶していた。

 ゴブリンスレイヤーにとっての帰る場所である牧場を守り、牛飼娘や牧場主を守った。自分だけではない、みんなでやり遂げたことだ。だからこそ、みんなで笑って明日を迎えられる。その事実が心に染み入る水のように、このひと時を楽しいという思いとして新鮮に湧き立った。

 この四方世界に漂泊して五年。冒険者を続けていても、内界の鬼狩りの剣士としての自分と外界の冒険者としての自分が分離しているように思うことがあった。

 心と世界の間には錆びついた鍵がかかっているようだった。だが、それは自分の思い違いなのではないのか。

「何かを成せばそれが俺自身そのものだ。どっちか、ではない。どっちも俺だ」

 鬼狩りだろうが冒険者だろうが、実際に行動を起こせば、起こした人間になる。行動を起こすこと、それが自分を作ることになる。

 彼はそう結論づけて、流水剣は火酒をあおった。もともと苦い液体が咽喉の内壁を流れ落ちるとき、流水剣の過去の一部も、ともに流れ落としていった。

 流水剣の資質は、戦士として傑出しており、武人としての勇敢さと、戦略家としての識見と、戦術家としての巧緻さとを、最高度の水準でそなえているであろう。水の呼吸を極めてその頂点である水柱に就任した。新たな型を開発して、透き通る世界に到達して、身体能力を強化する痣も発現した。

 だが、鬼舞辻無惨が存在しなければ、これらの資質が発芽することはなく、鬼殺隊の水柱、冒険者の流水剣も存在しなかったに違いないのだ。家業を継いだか、あるいは明治維新の気運に乗って未知の分野に挑戦するのか、いずれにしても平凡で平穏な人生を航行(セーリング)することになっていたかもしれない。そう流水剣も想像しないではないが、想像と現実とを交換する意思は、まったくなかった。どのような困難があれ、現実にこそ、彼の至福はあった。




原作で吟遊詩人が歌っていた歌は貴族令嬢たちが生存しているので、本作ではタイトルや内容に一部変更があります。
妖精弓手や魔女は(中の人的に)歌が上手いと思います。

ラスト・ダンサー様の作品「ゴブリンスレイヤーRTA 小鬼殺し√」より作者様がフリーキャラとして解放している疾走戦士、猩猩様の作品「ゴブリンスレイヤー 実況プレイ 」より作者様がフリーキャラとして解放している魔法剣士を出演させていただいております。
他にももふもふ尻尾様の「【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート」より疾走騎士を出演させていただきました。
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