ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

32 / 43
更新が遅れてしまい申し訳ございません。色々と展開に悩み捗らなくなってしまい……。短いですが投稿します。時間軸としては2巻のはじめよりちょっと前くらいです。

猩猩さん、猿猴捉月さん。活動報告「貴族令嬢一党のデータについて」でご意見を頂きましてありがとうございます。大変助かりました。
現在も募集中なので、皆さんよろしくお願いいたします。


12

 ゴブリンスレイヤーが女神官を伴ってその道を歩いたのは、ゴブリン退治をして辺境の街へ帰る途中であった。

 依頼そのものは典型的(テンプレート)な依頼だった。村に小鬼が現れた。作物や家畜を奪われた。人にも被害が及ぶかもしれない。そう恐れた村人からの依頼だった。

 傍に小川が流れる道を歩いていると、ゴブリンスレイヤーは既視感があった。

「──」

 その既視感の正体をゴブリンスレイヤーはすぐに思い当たった。あばら家を見つけたからだ。

 小屋というには老朽化が進んでいるものの造りはしっかりとしているので住居に向いている。屋敷と呼ぶにはかなり侘しい様子。

 ──孤電の術士(アークメイジ)のあばら家か。

 ゴブリンスレイヤーはそのあばら家が風変りな依頼人の住処だった思い出した。そしてこの道に覚えがあるのも、彼女のもとへ通っていたからである。

「……ん?」

「どうかしましたか、ゴブリンスレイヤーさん?」

「あれだ」

 ゴブリンスレイヤーはあばら家の前に、一人の老人が立っているの確認した。

 装いからして魔術師だろうか。髪は総髪、鶴のように痩せて顔が長い、口の両端にはどじょうのような鬚が二本。不思議と愛嬌のある顔立ちである。大変な年寄りのはずだが髪は真っ黒である。

 老人もゴブリンスレイヤーと女神官に気づいたようだ。振り向いたことで老人と視線がぶつかる。老人の眼は若々しい──というよりも、驚くほど精気の光を放っていた。

「君たちは、ここの家主の孤電の術士(アークメイジ)をご存知かな」

 声量こそ大きくないが、よく通る声で老人はゴブリンスレイヤーたちに尋ねた。

「ああ」

 ゴブリンスレイヤーが頷いた。

「儂はあの者とは直接の面識はない。だが、話には聞いていてね、来て見ればもぬけの殻となって時間が経っているようだ。今はどこにいるだろうか」

「……いや、わからない」

 老人はじぃっと、ゴブリンスレイヤーを見つめた。兜の奥に隠れる彼の瞳を覗き込んでいるかのようだ。女神官は困惑するかのように、二人の間で視線を行き来する。暫くして、老人は視線を外し、微笑んだ。

「なるほど。かの女人は……本懐遂げて、至ったか」

 老人は合点がいったようで肩を揺らして微笑んでいた。暫く笑っていると、ゴブリンスレイヤーにお礼を言って歩いて去っていった。

 

 

 ◇◆◇

 

 蘇った魔神王は勇者によって滅ぼされた。魔神王の脅威から四方世界は救われた。だが、かの王の軍が消滅したわけではない。方々に散っていった残党は未だに脅威である。

秩序を乱す混沌の徒。祈らぬ者ども(ノンプレイヤーキャラクター)

そして、彼らと戦うは秩序の軍勢である。その戦いは、この辺境にある大河で行われていた。

 混沌の魔将である上位魔神(グレーターデーモン)が指揮する魔軍の主力は、河口での展開を終了していた。四〇〇隻を越す船艇群は密集体形をとっていたが、これは思いもよらない情報を得た結果である。秩序からの脱走兵が捕らえられ、その口から秩序側の作戦を知り得たのである。《看破(センスライ)》は情報の正しさを証明した。上位魔神は船艇を並べて、作戦がばれていると知らず奇襲しようと進軍してくる秩序の軍勢を迎え撃つ態勢をとった。

 ──だが、それこそが秩序の詭計のめざすところだった。《看破(センスライ)》をかけられた脱走兵は、自分が真実だと思うことを語ったのだが、その“真実”自体が魔女創作のシナリオだったのだ。この混沌との戦いの指揮を任されたのが流水剣一党なので魔女もその智慧を以て混沌との戦いに助力したのである。

 太陽が河口の彼方に沈むこと、一隻の船が混沌の船艇群に接近してきた。兵が乗っている気配が船にないことを訝しげに思った魔軍だが、その船体には燃える水(ペトロレウム)や火の秘薬や油をかけた薪が大量に積まれてあり、船体からは異臭が漂っていた。

「どうした、何ごとだ!?」

 もっともな、だが個性を欠く疑問が魔神の口から発せられると同時に、オレンジ色に燃え上がった。船が炎上して自爆し、火炎が水面から八方に飛んだのだ。混沌の船艇は燃え上がる味方の船から離れようとして混乱の極致に達した。互いに衝突しあい、動きがとれないでいる間に、数隻の小舟が紛れ込んでいたのを、誰も気づけなかった。

 青黒い肌の最高位悪魔(グレーターデーモン)はこの程度の炎熱では耐えられる。しかし、彼につき従う夜鬼(ナイトウォーカー)など混沌の軍勢は炎に焼かれて命を失った。

 悪魔は醜悪な顔ににやついた笑みを浮かべる。冒険者どもは船艇を、軍勢を焼いて満足しているのか。自分は魔法一つでこの炎を消せるというのに!

 祈る者(プレイヤーキャラクター)の抱いた希望を打ち砕き、その身を蹂躙する事こそが悪魔にとっての愉悦である。

 さて、吹雪でこの煩わしい炎を消してやろう。

「───!?」

 そして大顎を開けた彼は、そこでようやく自分の声が発せられないことに気が付いた。視界に自軍の船艇に紛れた小舟に女の森人(エルフ)がいるのを見つけた。

 ───こいつか!? こいつに術を封じられたのか!?

 魔神の推察通り、森人の斥候の天上に座す神への祈禱が呪文を封じてしまった。

「《夜の御方よ痛みの母よ、叫びと嘆きをしじまの内へ》」

 ───《沈黙(サイレンス)

「ヒュゥゥゥゥ」

 悪魔や魔神たちが困惑する中をすり抜けるように流水剣が走る。海戦にて敵将に追われた九郎判官の八艘跳びのごとき軽捷自在な身のこなしで小舟を跳び移り、最高位悪魔に接近する。

 ───全集中・水の呼吸 壱ノ型(いちのかた) 水面斬り(みなもぎり)

 跳躍した状態でクロスさせた両腕から勢い良く水平に刀を振るう。流水剣の致命的な一撃(クリティカルヒット)

「───!?」

 グレーターデーモンは顎を開いて咽喉を震わせながら暴れ狂う。《沈黙》の奇跡によって断末魔が封じられて誰にも声は届かない。

 首を刎ねられた魔神の胴は、ぴゅうと青黒い血を間欠泉のように迸らせる。

 司令官の死は、すなわち指揮系統の崩壊であった。すでに河面自体が燃え上がり、行動の自由を失った混沌の魔軍の船艇は爆発と炎上を繰り返し、そこに秩序の軍勢からの攻撃が加わって、水上の凄惨な火刑場となった。船上の火を逃れて川に飛びこむ者も多いが、その半数は矢か魔法を受けたり、味方の船に頭部を砕かれたりして水中に沈んでいった。

 流水剣は一切の返り血を浴びる事なく飛び下がる。司令官を失って数拍呆然としていた魔神たちとの間合いを詰めた。

 ───拾伍ノ型(じゅうごのかた) 水祝(みずいわい)

 流水剣は細身の湾刀(イースタンサーベル)を両腕で握り、肩の左右で素早く振るう二連撃で悪魔たちを血祭りにあげる。

 大河の広大な河口は蓮のような紅に彩られ、上空は渦巻く黒煙のヴェールに覆われた。混沌の軍勢の反撃はけっして微弱ではなかったが、それは効果をあげなかった。勝敗の帰するところは明白であった。魔女を筆頭に秩序の軍勢から放たれる魔法や矢が混沌の軍勢を滅ぼしてゆく。

「美周郎に擬する畏れ多いことは言わないが、火をもって制するか」

 胸中に呟く流水剣の黒檀の瞳は江上の炎を映して紅蓮に輝いていた。

 流水剣の作戦立案、魔女の情報工作、森人の斥候によって火船に施された時限発火装置、どれもが嵌り、混沌を撃滅することができた。

「乗り越えたぞ……と」

 彼らは全能を尽くした。混沌の残党との抗争、それは秩序の軍勢と運命の分担するところだった。




一党で活躍しているのは流水剣だけじゃないよ、というお話でした。
直近の展開で考えているのは剣の乙女が登場する2巻のアレンジ版、火吹き山の闘技場のアレンジ版か。どちらを先にするか、下でアンケートさせていただきます。

評価、ご意見、ご感想をいただければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。