ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー) 作:生死郎
アンケート結果から、水の街へ行きます!
「全て……買い、取り……たい、わね」
「それはやめたほうが、店主さんも困ってしまうだろう」
古書肆の店内を眺め、本を手に取った魔女がゆっくりと呟いたので、流水剣は少し呆れたように微笑んだ。
混沌の残党を討伐した後、辺境の街に戻る前に流水剣は一党の仲間とそれぞれ二人きりで街を散策していた。そこは混沌の残党の脅威に脅かされていたとある貴族領にある街。そこにある古書肆は元知識神の神官が経営している店だった。
本の内容は魔女の満足がいくものだったらしく、そんな冗談と欲求が綯い交ぜになった呟きをしたようである。
知識と理を尊ぶ魔術師として、満足がいく品揃えだったらしい。
それでも魔女にだってこの店全ての本を買い上げてしまえば、店に迷惑をかける事は理解している。だからこそ戯言の類である。
「一つ二つにしておきなよ」
「そう……ね」
諦めたように嘆息して、肉感的な肢体をしならせた魔女が書架を見て回る。
「ん……」
「これか?」
魔女が背伸びしても届かない高い位置にあった古書も、流水剣ならばひょいと簡単にとってしまう。
「ありが、とう」
嫣然と笑って魔女はお礼を言う。その本は魔女が求めていた古書、それも極美本だったので購入することとなった。
流水剣は魔女に促されて料理屋に入った。そこは流水剣たちに依頼した貴族の情婦に経営させている店である。店内は客で賑わっている。カップルが多い気がする。メニューの選定は魔女が流水剣の分も注文した。
「さ……、来たわ」
「なあ、これは一体……?」
流水剣が胡乱げにテーブルの上にある品を見た。大きなグラスに薔薇水が入っている。流水剣が見ているのは中身の飲料水ではない。グラスに刺してある細い管である。
周囲を見渡してみれば同じようにグラスに管を差している飲み物を注文している客は、この管を咥えて飲んでいるようである。それも恋人同士で一緒に顔を近づけながら飲んでいた。
「職人、が……作った、特別製……らしい、わ、よ」
錬金術師が使うようなフラスコなど器具を作るような職人の作品らしい。
「そうなのか……、曲げる加工が見事だね」
流水剣の言葉は散文的な賞賛だった。細い管は値が張るものの購入して持ち帰り使うことができるという。
「さあ……飲み、ま……、しょう」
「君。ここをちゃんと事前に調べていただろう?」
「ふふふ……」
嫣然と微笑み、答えない。流水剣も深く追及するつもりはないので管に口をつける。少し目線を上げれば魔女の美しい
魔女が視線に気づき、流水剣と視線がぶつかる。
鍔広帽子で流水剣からの視線を遮ろうとしたが流水剣がそれを止めた。
「せっかくこういう趣向の店なんだ、もっと見せてくれよ」
「──」
魔女は顔を赤くして俯いてしまった。懇意にしている受付嬢、後輩にあたる女神官が見たことのない稀有な様子。知己がいない遠方の地だからこそ魔女も幾分大胆になれたのだろう。
「ほぉ、あれも随分と可愛らしいことをする」
「そう。グラスに片方の先端部が曲げられた細い管を二本入れて」
流水剣がテーブルの上にあるグラスを手に取り、指さして説明する。管はきちんと洗浄され、乾かされている。物は試しとグラスに差してみる。
「あとは、二人で管から中身を吸うと」
「そういうものか。これを考えた奴はある意味凄いな」
森人の斥候がじっと流水剣と顔を近づけながら感心したように言う。どことなく、自分も実践してみるところは森人の斥候の可愛い部分かもしれない。
森人の斥候もその白粉が塗られた顔でも照れているのが見て取れた。
「二人で楽しんだんだ、私のこともきっちりもてなしてくれよ」
照れていることを誤魔化すように、いつもより不敵そうに微笑んでみせた。
◇◆◇
辺境の街に流水剣たちは帰還して、冒険者ギルドへ報告に行った。報告を終えるまでが冒険である。
対応したのはいつもの受付嬢や監査官ではない職員だった。流水剣はあまり話したことがなかった。
「お疲れ様でした。流水剣さん。あとこちら、水の都から流水剣さん宛にお手紙が届いています」
如才ない笑顔で対応した職員が報酬とともに手紙を渡してきた。
宛先は至高神の
恋文めいた内容が目立つが、内容は冒険者としての依頼である。依頼内容を読み、職員に少し話した後に魔女たちと依頼について相談したのち、一度別れた。流水剣はギルドに残りロビーから移動する。
(あいつが審査の立会人をしたとはな)
冒険者の等級は、白磁から白金までの一〇段階にわけられる。等級審査の基準は、今までの報酬金額と貢献度、そして人格。これらを“経験点”などと称する者もいる。
つまり、いかにして大衆や社会に役立ったか、という目安である。しかし一方、冒険者とは戦闘技術を持ったならず者でもある。冒険者において実力とともに重要視されるのは当人の人格的評価。等級が高いということは人格的評価が高いということである。
そして評価を行うために実施するのが、上位冒険者の立会のもと、審査──つまり、面接が行われる。
なので、ある日突然現れた身元の分からないものの実力が優れた流れ者が一挙に銀や金になるとか、あるいは長らく白磁だったものが隠していた実力を発揮して一挙に銀や金に昇級する……などという物語のような事はまず無理である。
あるいは、女性ばかりを仲間にしている男性冒険者の昇格もなかなか難しいという。実情はどうあれ、女癖の悪い冒険者に重要な依頼を任せたいと思う者は少ないからだ。もっとも、強さこそが正道であることも一面の真実である。流水剣のように女性ばかりが仲間でも周囲からの評価が高かったり、昇格を望まれたりするという例もある。
……つまりは、いくら実力があろうと実力しかない者は、一生涯、白磁のままなのだ。
職員に教えられた部屋に向かう途中、ちょうどゴブリンスレイヤーが部屋から出てきたところだった。
◇◆◇
ここではないどこか。ずっと遠くて、すごく近い場所。この世の“歩いて行けない隣”で。
できました~! そう言って《幻想》の女神様は額の汗を拭って一息つきました。《幻想》がかかげた大きな紙には、広い広い迷路が描かれています。ダンジョンです。ダンジョンでした。
完成して喜びはしゃぐ《幻想》はあっ、と間抜けた声を上げて、はたと動きをとめました。
《幻想》は失念しておりました。そう、ダンジョンには怪物がいなければならないのです。
冒険といえば
そこからの
《幻想》は頬杖つきながら考えて、とりあえずゴブリンを置いてみました。ゴブリンは基本です。
けれど後は思いつきません。ゴブリンだけでは満足できません。さあて、どうしよう。
強い冒険者には強い怪物、弱い冒険者にはそれに見合った怪物。そうでなくば冒険には盛り上がりが欠けて、楽しくありません。
と、そこに、男神様が二柱やってきました。《真実》と、最近よく現れて《幻想》や《真実》と混じって楽しんでいる仮面を被った男神です。
仮面を被った男神も《真実》に負けず劣らず酷いことをするので、《幻想》は胡乱げに彼を見ます。
《真実》が虚空から取り出した本から禍々しい怪物に罠を抜き出して、迷路へ押し込んでしまいました。仮面を被った男神は何やら黙々と
あーっと声をあげる《幻想》に、男神たちは悪童のように笑っています。
彼らは艱難辛苦を用意したいのです。抗い、立ち向かおうとする雄々しい冒険者たち。彼らが放つ輝きを愛していたいし、慈しんでいきたいのです。
《幻想》はハラハラしながら見守る中で、サイコロは投げられました。
「……あっ」
「マジかー」
そして、彼と彼、さらに彼女がやってきました。
仮面を被った男神だけが笑っていました。彼にとっては冒険が成功しても失敗してもどちらでも同じことだからです。
更新速度が落ちた理由→魔女とのデート回が思いつくのに時間がかかってしまいました!
この世界の卓には《真実》や《幻想》だけでなく別の神様もいるよという匂わせも入れました。仮面を被った男神にも一応元ネタがあります。《真実》と悪乗りすることが多い困った神様です。