ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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皆さまリクエストありがとうございます。考えた結果、九尾さんのクエストを題材にさせていただきます。
他にも応募して頂いたクエストについても追々、シナリオに織り込んでいきたいと思います。本作は原作の五巻辺り(女神官の冒険者1年目終わり)まで続ける予定なのでそれまでにクエストを入れて起きたい。


21

 四方世界辺境の街で流水剣は冒険者ギルドの使いからの知らせを受け取ったのは、彼の自宅だった。金等級の彼と銀等級の冒険者である魔女や森人の斥候と暮らしている屋敷はもともと王国有数の豪商が引退後に使用していた大邸宅で、三〇室を有していたが華美さと豪壮さが流水剣の性に合わなかったが、邸宅選びは魔女と森人の斥候に任せていたので希望されたときは異論もなく承諾した。

 冒険者がひとつの屋敷を用意する例はあまり多くはない。しかし高位の冒険者が屋敷を持つならばこれほど大きな邸宅は持ち家として相応しいと言えた。もしも流水剣の感覚に任せれば平民向けの平凡な家を買って、金等級冒険者や銀等級冒険者には相応しからぬと人々には思われただろう。

 

 朝のことだ。

 流水剣は夜明けよりも早く起きて、魔女たちを起こさないように寝台を抜け出し、日輪刀を持った。まだ眠っている二人を起こさないように、部屋から出て廊下を進むときも気配を殺す。

 もとより殺気や闘気を抑えて凪のように鎮めることができるし、奇襲で鬼の首を刎ねるため足音を立てない歩き方は心得ている。蛇のように静かに迫り、虎のように獰猛に襲うことも剣達者な流水剣には得手とするところだ。

 足音を立てずに外を出ると、辺境の街にある一画へ向かった。そこは空き地だったが冒険者、それも戦士職がよく鍛錬のためによく利用している場所だった。

 

 そこで流水剣は一人で来ては型の稽古をしていた。一人で稽古しているのだが、冒険者で流水剣を敬愛する貴族令嬢は稽古中の流水剣を何度か見たことがあり、遅れて空き地にやって来た彼女は今日も流水剣を見つけた。

 

 貴族令嬢には不思議な事にその稽古が流水剣一人でやっている様には見えなかった。まるで古代の神が槍か矛を用いて流水剣の相手をしているみたいに見えていた。

 

「───」

 

 この光景が美しいと思うからこそ、鍛錬に付き合って欲しいと貴族令嬢は言い出せないでいた。

 暫く見入った後、貴族令嬢は結局流水剣に声をかけず自分の鍛錬を続けることにした。

 

 朝日の最初の一差しが、既に地平線の向こうから投げつけられている。流水剣が鍛錬を終えて邸宅へ帰る途中、邸宅の前に人影が見えた。

 

 鬼か? 手が腰の日輪刀を掴んでいた。人影へ、気配を断って一歩、二歩と迫る。一〇メートルの間合いであっても一足飛びで森人(エルフ)の矢よりも速く迫り鬼の頸を一閃することなど流水剣には造作もない。

 

 流水剣が日輪刀の鯉口をぱちり、と切った。彼は刀緒を柄に巻くようなことはなかった。それは彼なりの常在戦場の心がけだった。鎺は厚めにしてあり、姿勢によっては刀身が滑り抜けることがないようにするためだ。

 

 鋭敏な感覚では人影から鬼の気配や臭いは感じなかったが、それでも警戒は解かず近づく。蛇のように静かに迫り、ギルドの制服を着た青年であると確認できたことで腰のものから手を離した。

 

「何用か?」

「うわぁぁぁっ!?」

 

 驚きに声をあげてびくりと飛び上がり身を震わせた青年は、流水剣を怯えるように見る表情は強張っていた。

 青年にしてみれば忽然と流水剣が音もなく近づいて背後に現れているのだから驚くのも当然だった。

 しかも青年はギルド職員になる前は冒険者として前衛を任されていた。それ故に、いつの間にか流水剣の間合いに入っていたことには、まるでマンティコアの口腔に頭を差し出しているようで生きた心地がしなかった。

 

「ギルドの方か、当家に何かご用か?」

「は、はい」

 

 青年職員は軽く咳払い。

 

「ギルドの方にお客様がいらしております。一党の皆様、至急来られたし、と」

「客人か。それは依頼なのだろうか?」

「お、恐らくは」

「承知した。暫し待たれよ」

 

 そう言うと流水剣は青年職員を残して邸宅に入る。起きたばかりの魔女たちが帰って来た流水剣を出迎えた。

 

「……なぁに?」

 

 長煙管を持った魔女が、とろりとした瞳で流水剣を見る。身を清めたばかりなのか肉感的な肢体をバスローブで包み、優美に足を組んでいる。

 魔女は机に出していた水晶に紗をかけて、抽斗に仕舞った。

 

「ギルドから使者が来て、俺達に客が来ているらしい」

 

 流水剣の答えに魔女は「そう」と呟いた。依頼の指名者かもしれない。魔女たち、特に辺境で唯一の金等級の冒険者である流水剣に名指しの依頼は意外と多い。

 

「依頼……?」

「そうらしい。名指しの依頼なのかもしれない」

「こんな早朝からとは、随分と急ぎなのだな」

 

 下着姿の森人──白粉を塗っていないため、麦畑のように輝く褐色の肌のまま。闇人(ダークエルフ)の正体を隠していない──の彼女が、やって来た。

 

「ああ、妙だが、急ぎと言うなら仕方ない」

 

 流水剣は闇人(ダークエルフ)の美女から自然と視線を逸らす。正面の魔女を見たとしても大胆にはだけた処女雪(ヴァージン・スノー)のような胸元を直視するため、視線は明後日の方角だ。

 闇人(ダークエルフ)の美女はいたずらめいた笑みを浮かべた。それは魔女も同じだった。既に男女の仲だがこうした反応をすることが、彼女らには好ましいようだった。

 

「今更か? 昨日いや今日だって夜は……」

「──一先ず彼を客間に通して待たせるから、準備してくれ」

 

 闇人(ダークエルフ)の美女が蠱惑的な笑みを浮かべながら囁く言葉を無視して、流水剣は女性二人に指示を出して部屋を出て行った。彼もまた、鍛錬帰りなので身を清めて着替える必要があった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「あ、流水剣さん。それに皆さんも」

 

 流水剣一党がギルドに入ると、真っ先に受付嬢が彼らの姿を見つけ、いつも通りの笑顔を張り付けて立ち上がった。

 

 時刻はまだ早朝だ。

 寝起きの冒険者がギルド二階の宿舎から酒場へ降り、眠気でぼんやりした頭で朝食を淡々と口に突っ込む食事というよりも栄養摂取の作業を行っている頃だ。

 依頼の用紙も貼られていないため、冒険者の姿も疎らでいつもとは異なるまったりした空気が漂う。

 例外と言えば受付の奥。事務所では既に業務は始まっているので忙しなく動いている職員たちが見える。

 

 昨日からの引継ぎ事項、連絡要項の確認、書類に誤り不足はないか検める掲示準備を進め、金庫の確認、等々。仕事はいくらでもあった。

 

 受付嬢が流水剣たちへ小さく手を振る。

 

「お客様、二階でお待ちです」

「わかった。

 

 流水剣は首肯して、彼らは階段へ足をかけた。向かった先は応接室。流水剣たちへの依頼者と会うときは決まって応接室で、流水剣も受付嬢も二階と言えばそれで通じた。

 

 応接室で待っていた依頼人は流水剣たちが入室したのを見ると、すぐに立ち上がって頭を下げ恭しく挨拶をした。

 脚の付け根の部分のカットが深い鋭角ラインのパンツは大きく美しい尻と脚線美を強調し、やや面積が狭いブラは薄いが形のよい胸を包む下着鎧を身に着けている。

 薄く入れた紅茶のように赤い髪、黒い瞳の半森人(ハーフエルフ)。見た目は一〇代後半か二〇代前半頃に見える。

 風体から察するに彼女は戦女神の女神官だろうと、流水剣は判断した。

 

「初めまして、今回は突然の依頼で申し訳ございません。ですが、是非金等級と銀等級の一党(パーティー)である皆様にお願いしたく、ギルドにもお願いしました」

 

 戦女神の女神官の挨拶の後、依頼内容について戦女神の女神官が説明を始めた。

 

「依頼は私が神殿から預かったこの宝玉を王都の神殿へ移送する際に、宝玉を狙う凶手を討滅して頂きたい。こちらがその宝玉です」

 

 戦女神の女神官が流水剣たちに見せた宝玉は、紅玉のように鮮やかな輝きを持つ、鶏卵ほどの大きさの宝玉だった。

 彼女が所属していた神殿に収蔵されていた赤い宝玉がある。それは光や炎といったエネルギーを吸収し、増幅、そして放出する性質を持つ霊験あらたかな秘宝である。

 

「……そう、これが」

 

 宝石としての輝きに森人の斥候が惹かれるが、魔女は宝石としての魅力よりも、魔導に関わる者としての関心が勝ったようだった。

 

「この宝玉を狙って私が所属していた神殿は怪異の襲撃によって壊滅させられました。私は神官長に託されて、馬でここまで逃げてきました。一緒だった仲間ともはぐれてしまい……」

 

 怜悧な印象を受けた女神官だが、今はやや憔悴しているように見えた。

 

「それで、この宝玉を狙う怪異というのは、何かわかっているのか?」

 

 森人の斥候の問いに、戦女神の女神官は顔色を悪くして言い淀む。

 かの者───その存在を呼び表す言葉はこの四方世界に多く存在している。

 夜の一族。不死者(ノスフェラトゥ)不死王(ノーライフキング)怪異の王(キングオブアウトサイダー)

 どれもこれも、この怪物どもを語るために生み出された言葉ばかりだ。

 

「───吸血鬼(ヴァンパイア)

 

 血のように赤い口蓋から、鋭く尖った犬歯を覗かせた哄笑を思い出し、戦女神の女神官は膝の上に置かれた彼女の手は震えていた。

 

恐怖の王(キング・オブ・ホラー)か……厄介だな」

 

 森人(エルフ)の斥候が端麗な顔をしかめて、画家がデッサンを望むような指を噛んでいる。

 流水剣の目にも鋭い光が宿っている。四方世界へ渡り歩いても、人を喰う鬼への怒りは忘れてはいないのだ。だからこそ、鬼狩りとも彼が呼ばれる所以である。

 

「何故、吸血鬼が宝玉を狙うことになったんだ?」

「その宝玉は利用すれば、吸血鬼は陽光を克服することができるのだと神殿には言い伝えが残っています。方法は私にもわかりません。もしかしたら、神官長ならご存知かもしれません」

「その鬼は太陽の光を克服する目的で襲ったのか」

「恐らくは。……皆さんには吸血鬼を倒して、この宝玉を王都にある神殿へ届けるために助けていただきたいのです」

 

 依頼の内容の重大さは金等級に相応しいものだった。二つの目的を達成しなければならないという難しいものだった。

 

「わかった。その依頼を請けよう」

「! あ、ありがとうございます!」

 

 断られても仕方ないと戦女神の女神官は内心思っていた。しかし、彼女の目の前にいる冒険者は鬼狩り。

無謬の猟犬の如く、鏃のように、刃のように、自らを限りなく鋭利に鍛えて研ぎ上げた鬼狩りの剣士。

 小鬼(ゴブリン)だろうが吸血鬼(ヴァンパイア)であろうが人を喰う鬼の存在を看過することはなかった。彼は仲間と一瞬の目配せによる受諾の採決を採り、すぐに返答した。

 

 流水剣が暫く考えて、戦女神の女神官に疑問を訊いた。

 

「その宝玉には特別な気配とかがあったりするのだろうか? 俺には他の宝石と変わりないように見える」

 

 得られる情報は何一つ取りこぼさすに集めようと、流水剣は戦女神の女神官にいくつも質問をする。依頼を達成には命のやり取りも伴う。だからこそ、慢心はなかった。

 

 命のやり取りにおいて勝負は一瞬だが、その勝負の場に至るまでの駆け引きは長い。最後にものを言うのは腕前であるにせよ、その腕前を十全に発揮するためには、直感と知恵と胆力を擦り減るほどに使って、駆け引きをしなければならない。

 剣の技量とは、そうした総ての力を総合したものであり、いかに腕が立とうと、鈍感や愚かさ、怯懦が自分のうちにあれば死ぬ。鬼狩りとしての経験則だった。

 

「《鑑定》を使えば一目瞭然ですが、見る分にはわからないと思います。吸血鬼も囮として私以外に逃げた神官たちを追ったことで、私も時間を得られました。ですから吸血鬼はこの宝玉の気配を追ってここに来るということはないと思います」

「そうか……」

「宝玉は彼女が持ったまま、私たちが護衛して王都まで届ければいいだろう。問題は道中に吸血鬼が襲ってくることを警戒すべきではないか?」

 

 森人の斥候による提案を、戦女神の女神官が力なく首を横に振って否定する。

 

「実は、私はこの街に向かう前、王都へ向かったのですが王都への道にある関所では兵が神官や冒険者が手荷物を調べていました。名目は盗賊対策とのことですが、唐突に行われたこの検閲を、私は今回の件と無関係ではないと思っています」




イヤーワンでは魔女がギルドにある宿舎に泊まっているようですが、本作では流水剣たちと一緒に邸宅を買っている設定です。等級に相応しいグレードの宿を長期間逗留するより、家を買ったほうが安くない?と言う疑問からそうしました。しかしながら、重戦士は宿住まいらしいですから意外とそのほうが安い?

戦女神の女神官
本作のオリキャラ
戦女神を奉じる半森人の神官。長い赤い髪、黒い瞳、胸は女神官並。美巨尻。
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