ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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「昇級……ですか?」

 髪を緩く編んで束ねた受付嬢が支部長に、水柱の青年へ昇級審査の案内をするように言われたのは、彼の初依頼が完了報告を終えた次の日だった。

「そう。前回の件でギルドとしては審査を受けさせてもいいと思っている」

 実力は冒険者になる前のゴブリンの群れを壊滅させた件、初依頼のトロルや悪魔を退治したことで充分に証明している。

 怪物を退治して社会へ貢献したいと考えていることは、水柱の青年との受け答えで判明している。真面目な姿勢と人格に関しては既にギルドの信用を得ている。他の冒険者とも組んで依頼をこなしており、他者と協同できることも証明している。なので社会的信用度が高いと見なそうという意図だった。

 水柱の青年には速く栄達して欲しい、いうのがギルドの思惑なのだ。

「わかりました。──ああ、そうだ、彼と一緒に同行した冒険者はどうしましょうか」

「うーん、彼女も結構有望株みたいだね。使える魔法は二つ、使用できる回数は三回。白磁等級としてはとても優秀だ。ただやっぱり、依頼達成はあの剣士のおかげだろう」

 冒険記録用紙(アドベンチャーズ・シート)を手に取って内容を確認していた支部長がそう言った。魔女の実力を示すにはまだ足りない。というのが支部長の判断だった。

「彼女のほうについては留意しておこう。それじゃあ、彼が来た時には昇級審査のことを伝えておいてくれ。あと立会人の選定も決めておいてくれ賜え」

 受付嬢が支部長室を出て、依頼書をボードに掲示する準備をしていると、肉感的な肢体の美女が腰をふりながら優雅に歩いてる。先程、話題に出た女性冒険者だった。

「ね。……お時間、ちょっと……良い……かし、ら?」

「わ、私ですか?」

 なんだろう。受付嬢は不思議に思いながら作業を止めて魔女に向き合う。

「彼。刀、得意で……水、のような、痣が、ある……冒、険者。……覚え、てる……?」

「はい?」

 受付嬢はぱちくりと目を瞬かせた。つい先ほどまで自分と支部長が話題にしていた少壮気鋭の冒険者だ。

「手紙、の配達……の時、声……かけてもらった……の」

 仲は悪くない。話していても気が楽である。焚火を囲って過ごした夜も楽しかった。

「彼……と、組むのは……とても、難、しい……」

自分は冒険者だ。どちらかだけが一方的に甘い汁をすする関係であってはならない。

あの時、彼は自分から得られるモノがあると思ったから自分を誘い、自分もまた差し出せるモノがあると思ったから一党(パーティー)を組むことを了承した。

しかし、彼との冒険では自分は十全に役目を果たせたとは、魔女本人は思えず苦い経験となった。同じ白磁とはいえ、経験や技能など自分と青年とでは差があることを痛感した。

 だけど、と。遠慮がちに小さな声で、魔女はかすかな声で呟いた。

 固定で一党(パーティー)になりたい──

 そうはにかむように呟く魔女の姿に、受付嬢は微笑む。

「わかりました。任せてください!」

 

 ◇◆◇

 

「昇級? 俺が? ……早くないですか?」

 水柱の青年は胡乱げに受付嬢を見た。彼女も内心、ですよねーと同意した。水柱の青年がそう思うのも仕方ない。

彼が冒険者登録をして一週間と経っていない。白磁から黒曜への昇級速度として異常な速さだ。水柱の青年が驚くのも無理なからぬことだった。

「今日からすぐというわけではありませんが、直近に行いたいと思っています」

「そうですか。俺も断る理由はありません。よろしくお願いします」

 丁寧に受付嬢にお礼を言って、その手に持っていた依頼書を差し出した。

「わかりました。あの……それで、あなたと一党を組みたいと仰ってる方がいるのでけれど」

「俺と? どんな人なのでしょうか」

「あなたも御存じの人ですよ」

 水柱の青年の脳裡に一人の女性が思い浮かべる。

「彼女ですか?」

「どうでしたか、彼女。ギルドとしてもあなたの力量に見合った、才能ある魔法使いだと見ています」

「私は魔法についてよくわからないのですが、彼女には助けられました。信頼できる人だと思います」

 おお、好印象! と受付嬢は内心ガッツポーズをする。

単独(ソロ)で活動するよりも冒険者の依頼と言うのは一党(パーティー)で受けることを前提とするものも多いので、よろしければ、また彼女と一党を組んでいただけませんか?」

「彼女が良ければ喜んで! 俺が断わる理由はありません」

 水柱の青年は満面の笑みを浮かべて頷く。

 

 

 受付嬢に言われた通り、酒場へ向かった水柱の青年は目的の人物を見つけて席に着く。

 対面へ座った女──肉感的な肢体の魔女は、片隅の席で壁に杖を立てかけ、優雅に足を組んで座り、気だるげにくつろぐ姿。

衆目を集めるのか、ちらほらと他の冒険者から視線が向かう。

 新人、それも単独の女性の魔術師ともなれば、声をかけようとする冒険者も多いのだろう。だが、そんな彼らの目も、対面に座る水柱の青年の姿を認めると声をかけず通り過ぎてしまう。

 魔女はどこか落ち着きなく髪をいじり、視線を帽子のつばで隠しながら、彼を見やった。

「受付さんから話は聞いたよ。これからよろしく頼む」

 水柱の青年は一礼して、魔女へ話かける。テーブルへ近づいてきた給仕に水柱の青年はレモン水を注文する。

 魔女はその細く白い喉をこくりとならした。

「……どうし、て……、組ん……で、くれ……た……の?」

「どうして、と言われても断る理由が俺にはない」

「前、の……依頼。……役に、立た……な、かった」

 前回、水柱の青年と魔女がともに請け負った依頼は手紙の配達、そしてその際に偶発的遭遇(ランダムエンカウント)した下級魔神やトロルとの交戦があった。

「あれは前にも言ったけれど、あのときの依頼は俺が戦いやすい相手だったからだよ。偶然、俺に向いた仕事だっただけ」

「でも……私、は」

「──」

 水柱の青年は帽子の鍔で目元を隠す魔女に対して、彼女の中にあるわだかまりを察した。

 魔女はばつが悪いのだ。自分が役に立てることを示せなかったことを。自分の魔法を発揮できるときに、魔女は《粘糸(スパイダーウェブ)》を下級魔神へ使用したとき、初めての依頼と怪物との遭遇による緊張で、竦んでしまったことを恥じているのだ。

「君は魔神へ放った魔法を使うのに躊躇ったことを気にしているのか。失敗してしまったと?」

「そう……」

 自分にはまだ引き換えに渡せるものなんて全然無いかもしれない。それが魔女の不安だった。

「ならば、気にする必要などまったくないさ!」

「……え?」

 水柱の青年の言葉に驚いたのか、魔女はその瞳をまん丸と見開いている。

「失敗したって事は挑戦したって事だからな。それを気に病むことなどない」

「──」

「仕事でかいた恥は仕事で取り返すほかないんだ。君が恥をかいたと思ったら、君が自分で『取り返した!』って思えるまで自分で頑張るしかないんだ」

 冒険者だけではない。鬼狩りの剣士だけではない。どんな者だって一線で頑張る人間で恥をかいた事の無い者などいないのだ。

 魔女は水柱の青年の答えを聞いて、ぐい、と鍔広の帽子を引き下げて椅子にもたれた。

「それ……で?」

「それで? ……ああ、組む理由だったか」

 水柱の青年はまだ、自分が彼女の質問へ答えていなかったことを思い出す。

「初めて会ったときに、グッとくるものがあった」

 魔女は美しい睫毛を瞬かせた。

「そ、れは……見た、目?」

「それもある。だが、直感で君とはうまくやれる気がした。俺は直感を大切にしているんだ」

「──」

「それと……」

「え……?」

「家族の話をしたのは、久しぶりだったんだ。……君には話すことができたんだ」

 話したときは魔女に気を使わせてしまったことを後悔してしまった。だが、彼女に自然と話せてしまったことにあとから驚いた。魔女を除けば育手や鳴柱くらいだった。ともに死線を潜った戦友であっても話すことはなかったことだった。

「冒険者が一党を組む理由として正しいのかわからないけれど、一緒に組んでも気が合う。そう思ったんだ」

「……そ」

 魔女はそう呟いて、画家がモデルにとのぞむほど形のよい手でゆっくりとした動作で煙管を取り出した。煙草を詰めて、着火具を用いて火を入れて一服する。魔女は何も言わなかった。やり過ごした、とも言えた。




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