戦姫絶唱シンフォギアIF 〜陰る陽だまり〜   作:ボーイS

17 / 50
うちの393がダインスレイフなんて持ったら世界終わるなー。なんて思いますがね、血を求めるダインスレイフがマイナス、狂った393を同じくマイナスとした時、これを足すのか掛けるのかによって何か変わってくると思いません?

まぁどちらもヤバイですがね!

それでは、どうぞ!


六話

 一瞬にして空気が張り詰める。

 それをヘリに乗っていた弦十郎は思わず身を震わせるほど間近で感じた。

 急ぎヘリの扉を開けて周囲を確認するとここにいないはずの存在がいる事に驚きを隠さないでいた。

 

「何故ここに未来君が……緒川は何かあったのか?」

 

 一週間前のネフシュタンの少女との戦闘から、興奮が収まり落ち着いた小日向未来が()()()()()()()()に戻ってからはネフシュタンの少女か裏で糸を引く黒幕に命を狙われる可能性を考慮して緒川慎次を護衛兼見張りとして病院に付きっきりでいたはず。もし何かあれば直ぐ様弦十郎に連絡が行く予定となっていた。

 それが無い。それは慎次に何かあったという事に繋がる。

 奥歯ギリッと砕けそうになるほど噛み締めると同時に弦十郎の持ってある通信機に連絡が入る。その名前を見て急ぎ連絡を繋げた。噂をすればというものだ。

 

「緒川か! 無事なのか!?」

『し、司令……』

 

 通信機からは僅かな雑音と苦しそうな声を漏らす慎次の声が聴こえた。

 

『うっ、突然未来さんが暴れ出して……なんとか止めようとしたんですが不意を突かれました……』

「そうか……死傷者は?」

『怪我人はいますが幸い全員軽傷です。死者もいません。ただ病室は変える必要がありますね……』

「分かった。お前はそのまま現場の指示を頼む。……怪我をしているなら無理をするなよ」

『こちらは任せてください。では』

 

 慎次の生存確認と周囲の被害が少ない事に安堵する。だがそれ以上に未来がこの場にいる事が問題だった。

 

(今の未来君ではダインスレイフを破壊しかねん。いや、最悪敵に渡るよりかはマシだろうが今はその時ではない)

「……奏君も今は動け無いか。ヘリは降ろせるか?」

「無理です! ノイズが多すぎて近くに着地はっ!」

 

 ダインスレイフだけでも確保しようと弦十郎はヘリを降ろそうとするが操縦士が言ったように眼下にはまだノイズが残っている。そんな状態でヘリを降すどころかダインスレイフの回収と奏と了子の二人の回収を同時に行うのは難しい。それでも、相手がノイズでなければ弦十郎の人間離れした身体能力なら可能だったかもしれないが。

 

「取り敢えず今は人命救助優先だ。二人をなんとかして助けるぞ!」

「了解!」

 

 ダインスレイフよりも奏と了子の命を優先した弦十郎はヘリの操縦士になんとかして二人に近づくように命令する。

 

 弦十郎が動こうとしている間に鎧と神剣のリベンジマッチが始まろうとしていた。

 

 ──────────────────

 

 ネフシュタンの少女、クリスは視線の先にある建物の屋上で自分を見下ろす小日向未来に怯えながらもなんとか踏ん張って睨み返していた。

 元からの性能差があるはずの完全聖遺物のネフシュタンの鎧と天羽々斬の欠片から造られたシンフォギア、それを覆す程の戦闘能力を持った未来とは可能であれば戦う事は避けたかった。

 

(ちい! なんであたしをあそこまで目の敵にしてるか知らねぇがこのまま戦うのは命がいくつあっても足りねぇ!)

 

 前回、多少油断してはいたが最後は本気だった。フィーネの命令が頭から消え去る程命の危機を感じ、奏の思いもよらない援護によって助かったがそれがなければ確実に自分は死んでいた。

 そう考えれば何の対策も無しに再び戦うのは得策では無い。

 

「さっさとダインスレイフを手に入れてとんずらするのが得策か……っ!?」

 

 未来から目を離さないように方針を決めていたクリスは未来が動き出すのをこの目ではっきりと見ていた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 獣のような怒りと殺意が込められた咆哮と共に乗っていた建物の壁を破壊する程力を溜めていた脚力で真っ直ぐクリスに向かい突撃する。

 一瞬身体が硬直するがなんとか抜け出し急ぎ横に回避する。その瞬間クリスが今いた場所に未来は新たに造り出した刀を叩きつけていた。

 地面が大きく陥没すると共に強い衝撃が近くにいたクリスを襲う。まだ空中にたため僅かにバランスを崩したクリスを未来は見逃さない。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 叫びと共にクリスに斬りかかる。その刀は真っ直ぐクリスの首目掛けてなんの躊躇もなく振り下ろされた。

 

「くそっ!」

 

 クリスは負けじと紫の水晶が連なった鞭で振り下ろされた刀を止める。だがただ振り下ろされた技も何も無い未来の刀に自分が押し負けていた。

 徐々に未来の力に負けて身体が反り負けはじめる。それに加えて早くも水晶の鞭からガラスがヒビ割れていくような嫌な音が聞こえてきた。

 

「っなめんな!!!」

 

 クリスは前回の鍔迫り合いの時のように身体を捻らせて無理矢理刀の軌道を変える。力を加えていた部分が変わり僅かに刀の軌道線上がずれ、今度は蹴り飛ばそうと未来の腹部に蹴りを放とうとした。

 

 だが未来はクリスが蹴りを放つよりも早く、クリスの側頭部に目掛けて持っていた刀を片手で持ち、そのまま刀の柄頭(柄の一番下の部分)で思い切り殴ったのだ。

 

「うぐっ!?」

 

 ネフシュタンのヘッドギアが小さく砕け破片が舞う。

 未来は蹴りよりも早く刀で切り裂くつもりだったのだがクリスとの位置が近かったため幸いにも刀の柄頭が当たったのだ。だが衝撃が完全に吸収されずにクリスは軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしてしまう。それは致命的な隙であった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 ふらついたクリスに目掛けて直撃すればネフシュタンごとクリスを両断してしまう可能性がある程の斬撃が躊躇無く振り下ろされた。

 それをクリスはふらつき、まともに思考出来ない身体で反射的なのか、それともただ運が良かったのか、水晶の連なった鞭で防御しようと構えた。

 

 鞭は僅かに拮抗するがまだ脳が揺れているクリスは踏ん張れず、そのまま鞭は断ち切られネフシュタンの鎧に天羽々斬の刀が食い込む。

 

「うっああああぁぁ!?」

 

 幸いなのか、防御した事により僅かに振り下ろされた刀の勢いが衰え、軌道がズレたためネフシュタンの鎧の表面を薄く切り裂くだけで済む。だがネフシュタンの鎧ごとクリスを両断するつもりで放たれた斬撃にはかなりの勢いがあったためその風圧だけでクリスは吹き飛ばされた。

 

 吹き飛ばされたクリスは近くのタンクに身体をめり込ませる。そのおかげでそれ以上吹き飛ばされないで済んだが決して小さく無いダメージを受けていた。

 

(ぐううっ! ネ、ネフシュタンの浸食が早過ぎるっ!)

 

 どれだけネフシュタンは傷つこうが自動的に修復する為一撃で粉々にならない限り鎧の損傷は気にしなくてもよい。だが纏っている者の身体を侵食している為見た目以上にクリスは限界が近かった。

 それに加えて未来は知らないが完全聖遺物のネフシュタンを破壊する寸前まで追い込んでいる。鎧の修復機能があったとしても安心出来るはずがない。

 

「なっめんなよ!」

 

 頭に登っていた血が抜けたからかクリスも負けじとふらつく足で立ち上がり鞭を構え未来に突撃する。逃げ回ってなんとかなる相手では無く、策や駆け引きも力で突破してくる相手に小細工せず、自分の技量で乗り越えるのが生き残る確率が高いと判断付けた。

 ちなみに、クリスが逃げても地の果てまで追いかけようと考えていた未来だった為どの道戦うことは避けられなかっただろう。

 

「凄い……ネフシュタンを圧倒してる……!」

 

 気絶している奏に肩を貸して避難していた了子はクリスと未来の戦闘を興奮を抑えきれずに見ていた。

 本来なら有り得ない筈の性能的な差があるはずの二つの聖遺物のぶつかり合いに文字通り()()()()()()()その戦闘を観察している。近くにいる奏の事なぞ忘れているほどに。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 未来の咆哮が二人の戦闘範囲から退避している了子まで届く。自分に向けられていないはずなのに思わず身体が(すく)むほどだ。

 

 未来の異常なほどの怒りと殺意を前に何故か()()()()()()()観察していた為すぐ後ろの異変に気づくのが遅れた。

 

「っ!? ダインスレイフが!」

 

 強固なスーツケースを内から食い破り、中から血で字を書いたような赤いラインの入った黒と銀の刀身が交差し、刃が二つに分かれた禍々しい剣が宙に浮かび上がったのだ。

 禍々しい剣、ダインスレイフは悪意を周りに振り向くように黒い霧のような煙を辺りに振り撒く。それに最初に被害を受けたのは近くにいて意識のある了子だった。

 

(なんだ!? 身体の奥底から何か黒いものが……これは怒り、いや憎しみ?)

 

 自分の中にある何か黒いものが精神を徐々に支配していく妙な感覚に了子は膝をつく。それと同時にその怒りと憎しみを誰かにぶつけたい。その血を浴びたい。飲み干したい。そうでなければ止まらない。そんな気持ちがふつふつと湧いてきたのだ。

 

「これがダインスレイフっ! 血を求める魔剣かっ!!!」

 

 禍々しくとも何処か神々しいその刀身に了子は()()()()()()()その誘惑的な姿のダインスレイフに手を伸ばす。だがその瞬間未来の攻撃により再び吹き飛ばされたクリスが地面に叩きつけられるよう了子の近くに落ちてきたのだ。

 

「うっ、かはっ!」

 

 かなりの勢いで背中から叩きつけられた為思わず口から血の混じった唾が飛び、意識も飛びかける。

 限界寸前の身体を無理矢理起こそうとするクリスだったが、鎧の砕けた箇所から修復していき、身体を蝕む激痛に悶え苦しむ。痛みが消える頃には鎧は元通りだがクリス自身、その痛みに耐える事はもう不可能に近かった。

 

 施設の爆発が周りに引火し大きな炎が舞い上がる。その炎を背にしてゆっくり歩いてくる未来はまるで修羅のように恐ろしく、そこにいるだけで恐怖を振り撒くほどだった。

 

(くそ、あたしはこんな所で死ねねぇ、死にたくねぇ! まだパパとママの願いも叶えてねぇのにこんな所で……!)

 

 涙目になりながら立ち上がるクリスの目の前に黒い霧を撒き散らす宙に浮かんだダインスレイフが目に入った。

 

(ダインスレイフ! ネフシュタンとあれがあればあの化物に勝てる!)

 

 恐怖と混乱でまともに思考できなくなっていたクリスは目の前の禍々しい剣が振るえば周りの人間の生き血を全て吸収しなければ止まらない魔剣の性質なぞ忘れ、むしろ生き残る道筋が見えたと歓喜を隠さずにダインスレイフに手を伸ばす。

 

「待て! その剣に触れるな!」

 

 クリスが落ちてきた事により吹き飛ばされて少し離れた場所にいた了子がダインスレイフに触れようとするクリスに静止の言葉を投げかける。だが少し遅かった。

 

 了子の静止を振り切り、クリスは宙に浮かぶダインスレイフにふれてしまったのだ。

 

「やった! これであたしはあいつに勝て、っ!!??」

 

 その瞬間、ダインスレイフは新たな持ち主を見つけた事に歓喜するかのようにその禍々しい刀身から黒い霧を更に撒き散らす。その瞬間、クリスは自分の身体の奥底から噴き上げてくる黒い感情に戦慄した。

 

「ああ、違う! あたしはパパとママの事を殺したいなんて、いや。あたしをおいて勝手に死んだから死んで当然……っそんなはず無い!」

 

 奇しくも忘れていた家族の楽しい思い出を思い出すが、その瞬間噴き上げられた黒い感情がその楽しかった思い出を忌々しいものに変えていく。

 優しい父親も自分に笑顔を向けてくれた母親も、三人で歌った事も、全て黒い炎に燃やされていき、自分を置いて勝手に死んだだけでなく生きるのも辛い生活を強いられた日々が掘り起こされ、その楽しかった日々を怒りと怨嗟の毎日に塗り替えられていく。

 

「違う、違う、ちが……うあああああぁぁぁぁ!!!」

 

 クリスの叫びと共に握られたダインスレイフが妖しく光り輝く。その瞬間クリスの瞳に光が無くなり、ダインスレイフを大きく持ち上げて未来に目掛けて突撃しその禍々しい刃を振り下ろした。

 未来はその刃を()()()()()()()()冷静に握っている黒々とした刀で受け止める。舞い上がっていた炎をかき消す程の強い衝撃がうまれた。

 了子はダインスレイフが妖しく光り輝いた時に自分の中にある黒いものが大きくなった事に気づいた。

 

「くっ、まさかダインスレイフが周囲の人間の精神も狂わせるとはっ!」

『了子君聞こえるか! いったい何が起こって』

「うるさい!」

 

 上空から着陸出来る場所を探しながら様子を観察していた弦十郎から入る連絡すら忌々しいと思った了子は思わず口調が荒いものとなったが、それに気づくのに僅かに時間がかかった。

 

「……ごめんなさい弦十郎君」

『いやいい。ただ事では無いのは見ていて明らかだ』

 

 少し落ち着いた了子は深呼吸してもう一度クリスの方を見る。大振りながら技術的な繊細のあった時と比べて今は未来のようにただ力任せにダインスレイフを振るい未来を殺そうと暴れ回っていた。

 

「多分ネフシュタンの娘はダインスレイフを持った事で呑まれたんだと思う。現状の私から推測するにダインスレイフは周囲の人間の負の感情を増幅させて暴れさせてる。正直この会話も何処かイライラしてる!」

『なるほど。血を求めると言われるのは所有者の怒りと怨嗟といった負の感情を表に出させそれを殺意に変えていたのか。血を求める、というのは〝相手を殺したい〟という負の感情から生まれた結果か』

 

 離れた場所にいる弦十郎はまだダインスレイフの〝呪い〟の影響は弱い。そのためまだ冷静に判断できるが近くにいる了子はそんな落ち着く弦十郎にダインスレイフのせいだと分かっていても腹を立ち始めていた。

 

『待てよ。周りの負の感情を増幅させるというのであれば未来君がっ!』

「あっ!?」

 

 そう、既に未来はノイズに対する怒りと殺意で〝狂っていた〟。もしそんな未来の負の感情が増幅されたのならばどうなるか。最悪ダインスレイフと同様の地獄が発生する可能性すらあった。

 そんな最悪な事が頭に浮かんだ了子は急いで暴れるクリスと未来の方を見る。だがそこには予想外の光景が広がっていた。

 

「うああああああぁぁぁ!!!」

「……」

 

 ダインスレイフが力任せに振るわれ、その風圧だけで近くのタンクが大きく凹む。地面に当たれば大きくアスファルトを砕き陥没させる。その気迫だけで凡人は近づく事は出来ないだろう。

 

 だが一人、未来だけは人が変わったかのように嵐のように振るわれるダインスレイフの斬撃を冷静に見切り、受け流していた。

 

「……遅い」

 

 脳天目掛けて振るわれた斬撃を未来は黒の刀でダインスレイフの側面を叩き無理矢理軌道を変えさせ、ダインスレイフはそのまま地面にめり込んだ。

 すぐさまクリスはダインスレイフを引き抜き今度は横薙ぎに振るう。それにより生まれた風圧は斬撃のようになり、近くの鉄塔の足を両断する。だがそれを未来は身体を地面にすれすれまで屈めて回避した。

 

「遅い、弱い、単調、無策、隙だらけ……」

 

 それに比べて未来は了子が見た事が無いほど冷淡に、そして速く的確にネフシュタンの鎧を傷付けていく。

 斬撃の一撃一撃には先程のような力任せの一撃よりも弱い。だが全ての一撃に殺意が込められており徐々に追い込まれる恐怖をダインスレイフの呪いにより気がおかしくなっているクリスでも感じていた。

 

 どんどん未来の動くスピードが速くなる。そしてより首や心臓といった急所への容赦ない斬撃や突きが多くなっていく。それに釣られるようにシンフォギアとインナーの深い青色の部分がより深くなり黒色に浸食されていく。

 

「がっ! うう、ああああぁぁぁ!!!」

 

 恐れを宿したその叫びはクリスのものか、それともダインスレイフのものなのか。

 ネフシュタンの再生能力を上回り始め、クリスでは未来の動きについて来れなくなる。それでも辛うじて急所への防御は成功させているがそれも時間の問題だろう。現に攻撃一辺倒だったクリスは防戦一方になってきている。

 

「……終わり」

「っ!?」

 

 未来は殺意を込めて黒い刀を左下から斜めに切り上げる。それをクリスは反射的にダインスレイフで間一髪で防御した。だがそれで終わりではなかった。

 

 未来はそのままダインスレイフとぶつかっている黒い刀の峰をシンフォギアの力が合わさった全力の蹴りをぶつけて衝撃を増幅させたのだ。

 

「があああ!?」

 

 右腕にボキリッと嫌な音が響くと共にクリスはその衝撃を消す事が出来ずそのまま横っ飛びに吹き飛ばされる。その際握っていたダインスレイフは右腕が折れた時の痛みで手放していた。

 

 アスファルトを大きく砕かせながら十メートル以上吹き飛ばされ、止まる頃にはネフシュタンも修復する限界が来たのかボロボロになっていた。クリスは気絶したのかピクリともしない。

 

「……」

 

 ゆっくりと動かないクリスを見下ろしながら未来は地面に刺さったダインスレイフに向かって歩く。

 

「やめろ未来君! それに触れてはいけない!」

 

 上空からヘリに乗った弦十郎が声を上げて未来に警告する。だが未来は一瞬ヘリの方を見ただけで歩みを止めようとしない。

 

 そして地面に刺さった妖しく光り輝くダインスレイフの目の前に立つと躊躇せずその柄を握った。するとクリスの時とは比較にならないほどの黒い霧が発生し、かなり距離の離れた所にいる弦十郎ですら言い得ない怒りと憎しみが湧き上がってくるのを感じた。

 

 ──殺セ

 

 未来の頭の中に自分と全く同じ声が響く。

 

 ──目ノ前ノ仇ヲ殺セ

 

 ──全テヲ殺セ

 

 ──響ヲ殺シタノハコイツダ

 

 怒りと怨嗟のと殺意が湧き上がってくる。目の前でクリスがソロモンの杖を使いノイズを召喚した光景を見た時以上の憎しみがその身を呑み込もうと大きくなるのが未来自身が分かった。

 故に。

 

「──黙れ」

 

 ただの一言。たったの一言で自分を呑み込もうとしていた負の感情が弱まるのを感じた。

 

「この感情は私のもの。ただの剣にいいように使われるほど弱くない。

ただの物に好き勝手言われていいほど私の怒りも憎しみも小さくない」

 

 それだけ言って黙ってゆっくりとダインスレイフを引き抜く。それだけだというのに勇者が聖剣を抜いたようにも魔王が魔剣を抜いたように見えた。そして同時にあれほどの周囲に放っていた威圧を放っていたダインスレイフからその威圧がどんどん下がっていき、黒い霧も少しずつ未来に吸収されるように収まって行く。

 

「まさか……ダインスレイフを制御しているのか!?」

 

 あり得ない光景に弦十郎は目を見開く。実際起動したところを見た事はないが伝承からダインスレイフの呪いを受けずに操る事は不可能とされていた。それが出来ていれば伝承の内容が少し変わっていただろうからだ。だが未来は負の感情に呑まれなかった。

 

 負の感情を増幅させて周りをその刃に沈め血を求める魔剣を未来は淡々とした目で見下ろしながら引き抜いた未来は今度は気絶しているクリスの元に向かう。その姿はいつの間にかネフシュタンの鎧は消えて元から着ていた赤いドレスのような服装になっていた。

 

「なっ!? あの少女は!」

 

 クリスの姿を見た弦十郎は絶句する。それも無理はないだろう。クリスはネフシュタンが奪取された事件の前、諸外国から捕虜とされたクリスの保護を命じられたメンバーの最後の生き残りの責任として行方不明になった彼女のことを気に掛けていたからだ。

 そんな少女が今までネフシュタンを使いノイズを使っていた。そんな事誰が想像出来ようか。

 

「待て未来君! その娘を殺してはいけない!」

 

 ノイズの姿がなく、やっとヘリを着陸させて急ぎ必死で呼び止めようと声を出す弦十郎だが未来はその言葉に耳を傾けずにクリスの目の前に立つとダインスレイフを高々と掲げるように持ち上げその首に狙いを定める。

 

「……さようなら」

 

 冷めた目で見下ろしながら気絶して動かないクリス目掛けて掲げたダインスレイフを振り下ろそうと力を込め振り下ろした。その瞬間だった。

 

「……パパ……ママ……」

 

 遠くにいる弦十郎や了子では聞き取れないほどの小さなクリスの呟き。それと共に閉じた瞼から流れた一筋の涙を間近で見た未来はクリスの首を両断する寸前だったダインスレイフをギリギリで止めた。

 

「なみ、だ……?」

 

 クリスの涙を見て未来の脳裏に昔の記憶が蘇る。

 それは大切な人と共に喜び、悲しみ、そして笑い合った時の記憶。

 嬉し涙もあれば悲しい涙もあった。

 そんな暖かくて優しい記憶。

 そんな記憶が呼び起こされた途端。目の前で倒れているクリスに向けていた怒りや殺意が弱まっていくのが分かった。

 

「未来君!」

 

 近くまで走ってきた弦十郎は未来を刺激しないようにゆっくりと近づく。更にその後ろから遅れて了子と黒服の男達も走ってくる。

 クリスの首筋ギリギリまで振り下ろされていたダインスレイフをゆっくりと遠ざけて未来は走ってきた弦十郎達の方へ振り向く。

 

 その瞳には失われた光が宿っており、クリスと同じく一筋の涙が頬を伝っていた。

 

 握っていたダインスレイフが未来の手からするりと地面に音を立てた落ちる。するとダインスレイフの呪いにより辺りを支配していた負の感情を増幅させる空間が消失するのを弦十郎は感じ取った。

 

「私は……私は……」

 

 未来はふらついてその場に倒れる。直後纏っていたシンフォギアも消失し妖しく光り輝いていたダインスレイフも未来が気を失う事で完全に機能停止したのか光を失った。

 

「ッ急ぎ未来君と奏君、そして容疑者の少女を病院へ運べ!」

 

 弦十郎は倒れた二人の装者とネフシュタンを纏っていた少女、クリスを病院へ運ぶように黒服の男達に命令した。

 張り詰められて緊張の糸が緩んだような空気が辺りに流れ始める。

 

 ────────────────────

 

 遅れて二課の息がかかった救急車が到着し急ぎ気絶した未来と怪我をしている奏とクリスを連れて病院へ連れて行く。

 ボロボロになった奏や腕の折れているクリスも重傷だが見た目に反して怪我一つ無い未来の精神状態を一番弦十郎は気にかけていた。

 

「大丈夫? 弦十郎君」

「ん、ああ、了子君か」

 

 いつの間にか後ろにいた了子に少し驚きながら未来がダインスレイフを持った時の事を思い出す。

 

「了子君はあの時の未来君とダインスレイフを見てどう思う?」

「……恐らくだけどダインスレイフによる感情汚染は未来ちゃんの、その……」

 

 了子は言い方を探すように目を彷徨わせる。あまりいい知らせではないと分かっていても司令としてこの事を把握しなくてはいけないと、そして未来が背負う重みを少しでも理解しようと覚悟を決める。

 

「いい。今は俺しか聞いていない」

「……ありがと。なら遠慮なく。

 未来ちゃんの異常な程のノイズに対する怒りや憎しみ。そのあまりの強さがダインスレイフの感情汚染だけを打ち消したんだと思う」

「それは可能なのか?」

「可能も何も実際に未来ちゃんがそれをやったじゃない。でも、弦十郎君や奏ちゃんみたいな〝真面目な〟精神の子じゃそのままダインスレイフに呑まれてたと思う」

「そう、なのか」

 

 はっきりと弦十郎でもダインスレイフの呪いに呑まれる言われダインスレイフを素手で回収しようとしていた自分を恥じる。間一髪聖遺物の回収班に止められた事が幸をなしていた。下手をすれば第二次災害が始まっていただろう。

 

「でも未来ちゃんはダインスレイフが増幅させる怒りや憎しみを既に持っていた。さっき言ったみたいに異常なほどね。それがダインスレイフの呪いとぶつかり合い対消滅。デメリットだけ消えてメリット、と言ってもダインスレイフに他にどんな秘密が眠ってるから分からないから残りが全部メリットとは限らないけど、それが残ったと思うの」

「完全聖遺物の呪いと同等の怒りと憎しみ、か」

 

 仮に了子が言った推測が正解であれば未来の中にある負の感情は相当なものになる。何せ同じ完全聖遺物に守られていたはずのクリスですらダインスレイフの呪いに負けて気がおかしくなったのだ。それほど強い呪いを打ち消すレベルの負の感情なぞ弦十郎が想像できるものではない。

 

「……データ上の彼女の過去は知っているが、やはり彼女から話を聞かねば分からないか」

 

 目を伏せて呟く弦十郎。

 未来が狂った理由自体は二課の情報収集能力により検討はついていた。だがそれであれほど狂う事が出来るのか、それは弦十郎でも分からない。それに未来がどう思っているのかは本人の話を聞かない限り分かるものではない。

 

「……未来君の事の過去も雪音夫妻の忘形見も、生半可な気持ちで背負えるものではないな」

 

 大人である以上子供の重りを肩代わりするのは義務だと思っている反面、二人の背負う重りを代わりに背負える自信はあまりない。

 クリスの事も勿論無視出来ないが今だに未来の背負う重りがどれほどのものか知らない弦十郎は計りかねていた。

 それでも背負わねばならない。それが戦いから守れなかった二人の少女に対する細やかな贖罪と思っている。了子の言ったように根が真っ直ぐで真面目な弦十郎にはそういったやり方しか出来なかった。

 

「今は休みましょ。輸送作戦も失敗してダインスレイフは二課に逆戻り。私達が出来ることはもう無いし、戻って頭を冷やさないと、ね?」

「……そうだな」

 

 了子の言葉に弦十郎は深みにハマりかけた思考を一時止めて後始末を他の隊員に任せて二課本部に戻るため車の方に歩き出す。

 その後ろをついて行く了子が自身の手を見て不気味な笑みを浮かべた事も知らずに。




この展開は皆さんが予想したものの斜め下なのか上なのか……不安な作者です。

精神を狂わせる魔剣を既に精神が狂った人に持たせたらまともになるんじゃね?って感じですねはい。足すんじゃなくて掛ける事でマイナス部分だけ打ち消した感じですね。
仮に原作でこの時点でビッキーがダインスレイフ持ったらキャパ的に思いっきり呑まれるでしょうね。マイナスの値が多いためプラスが負ける感じです。
だけどうちの393はダインスレイフと同じ負の感情に大きく傾いた状態。デメリットを打ち消してるんですよ。そのため容赦無さは消えてなくても少し冷静になっちゃってます。
ドラクエ4の隠し仲間のピサロが呪いの装備をデメリット無しで装備出来る感じです(分かるかな?)
逆に言えばそこまで393落ちてるんですがね。これ私の考えてるやり方で精神落ち着くレベルなのかな?壊れてるから立て直しやすいにも限度がありますよね……

ダインスレイフの性質や解釈は完全にオリジナルです(誰かと被ってる可能性は大いにある)なので「伝承のダインスレイフ(ダーインスレイヴ)と全然違うわ!」と思われても仕方ないです_(:3」z)_
あとクリスちゃんの腕折った技?はるろうに剣心の縁を知っている人なら想像つくかと。

ノイズ?そんなもん393がクリスちゃん狙って暴れてる時に全部粉々、いや灰々になりましたよHAHAHA☆

次は過去編に入る前に未来さんの現状を見せる為短いです。過去編と一緒に載せるべきとは思いますが過去と現在を分けるために……ね!

次回 壊れた陽だまり

かる〜くクリスちゃんの精神がピンチでっせ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。