戦姫絶唱シンフォギアIF 〜陰る陽だまり〜   作:ボーイS

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現未来さんの状況をクリスさんに見せて絶望ゲフンゲフン、ちょっと精神的ダメージを与える回です。

それと作者はどちらかと言えばクリスちゃん推しです。もう一言います。作者はクリスちゃん推しです!


七話

 ──夢を見る。

 

 ──あたしの手を優しく握るパパとママ。

 

 ──二人の歌があたしは好きだった。

 

 ──小さかったあたしを優しく抱きしめてくれた。

 

 ──とても大切で幸せで、忘れるはずがない記憶。

 

 ──でも何故だろう。二人の顔が思い出せない。

 

 ──二人がどんな歌を聴かせてくれたのか思い出せない。

 

 ──なんで

 

「なんで、パパとママは……笑っていないんだ……?」

 

 ──────────────────

 

「いっつ」

 

 折れた腕の激痛でクリスは目が覚める。その目覚めは最悪で決して気分が良いものではなかった。

 目を開けて見れば視界に入るのは慣れない白い天井と自分が使っていた物とは違うベットの感触に訝しむ。周りを見ると質素な白い空間と何処となく鼻を刺激する薬の匂いにここが病院だと分かる。

 

「うっ……ここは、何処だ?あたしは……」

 

 動かない腕には包帯が巻かれ首から吊り下げられる形になっている。それを見て自分が目を覚ます前に何をしていたか徐々に思い出して行く。

 

「これは……そうだ、あたしは確かダインスレイフを奪う為に……そんで小日向未来と戦って……」

 

 ダインスレイフを奪取するためにピンク色の輸送車及び護衛車をノイズを使って襲撃。ダインスレイフと運転手を守るように車から現れた奏との戦闘。奏を打ち倒した後残るはダインスレイフの回収、そこまでは良かったが突然現れた未来との戦闘。

 

「それから確かダインスレイフを……ダメだ、記憶がねぇ」

 

 異常なほどの戦闘力を見せた未来に敗北、いや殺されると思い近くにたまたま起動状態のダインスレイフを見た瞬間、生き残る為にこれを使うしかない!というクリスにとっては希望が見え迷わずダインスレイフを握った。その後の記憶が全く無かった。

 

「くっそ!なんで何も覚えてねぇんだよっ!」

 

 左手の拳をベットに向けて振り下ろす。利き手じゃない為力無い衝撃をベットは腹ただしいくらい優しく吸収した。

 必死に何があったか思い出そうと頭をガリガリと掻くクリスの耳に通路に繋がる扉が開かれる音が聞こえた。

 

「おお、目覚めたか!これは差し入れだ」

 

 声に気づき顔を向ければ丁度赤い髪シャツの大男が果物が入ったバスケットを片手に部屋に入ってくるところだった。

 弦十郎は近くにあった机にバスケットを置くとクリスのあるベット近くにあった椅子に座る。

 

「……んだよお前は」

「おっとすまない。俺の名前は風鳴弦十郎。二課の司令をやっている。言わば君の敵だな、雪音クリス君」

 

 名前を教えていないのに自分の名前を言い当てられ訝しげな目を向けるクリスだったが、弦十郎が自分からその答えを言った事に気づく。

 

「はっ!もうあたしの事は調べてがついてんだな!」

「……ああ。八年前、難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡した世界的な有名なバイオリニストの雪音雅律とその妻で声楽家のソネット・M・ユキネの一人娘であり、およそ六年の間捕虜だった事。そして二年前に救出され日本に移送される際行方不明になった事とか、な」

「……よく調べてるじゃねぇか。そういう詮索、反吐が出る」

 

 弦十郎の言葉にクリスは不機嫌な顔を隠しもせずに睨みつける。その瞳を弦十郎は目を逸らさずじっと見つめ返した。

 人を、大人を信じない。許さない。クリスはそのアメジストのような綺麗な瞳に映し出した思いを見た弦十郎は拳を強く握り締めながら頭を下げた。

 

「我々は君の両親を助ける事が出来なかった。六年間君に辛い思いをさせた。謝っても君の傷は癒えるほど軽々しいものではないのは分かっているが、それでも言わせてくれ。すまなかった」

 

 謝罪を述べた弦十郎は頭を上げて真っ直ぐクリスの瞳を見る。それをクリスは訝しみ、睨むように見返す。

 

「そしてあえて言わせてもらう。もう一度君を助けさせてくれ」

「っ!」

 

 弦十郎は嘘偽り無く、本気の想いを込めて言う。

 クリスには言わないが過去の二課は行方不明となったクリスが見つかった当時シンフォギアの適合する可能性が高い者として確保する意味もあって両親を失った彼女を受け入れようとする考えがあった。だが弦十郎はそのような事は二の次とし、本気でクリスを助け出すつもりでいた。大人の事情ではなく、大人として子どもを守る義務があるとして。

 

 弦十郎の言葉に嘘は無い。それが分かるからこそクリスは腹が立って仕方ない。

 

「助けさせろだぁ?パパとママが死んだ時も、捕虜になって辛かった時も!助けてくれなかったのに今更それを言うのか!?大人の勝手で不幸になったあたしを大人のあんたが助けるっつーのか!?」

 

 クリスは思わず弦十郎が置いた果物が入ったバスケットを地面に投げ付けた。

 怒りが込み上げてくる。自分を残して死んだ両親も、その両親を殺した奴等も、捕虜になった自分を見世物にした奴等達も全部等しく弦十郎と同じ〝大人〟であった。自分を不幸にしてきた奴等と同じ〝大人〟である弦十郎を信じる事がクリスには出来なかった。

 

「お前らもどーせあたしを物として使うんだろ!?あの娘みたいに!」

「……あの娘?」

 

 興奮して肩で息をするクリスの怒りを真っ向から受け止めようとした弦十郎だったがクリスの言葉に反応を示す。

 

「分からねーとか言うなよ。あんな風に狂わせて、あんなんじゃもう人間じゃねぇよ!」

「……未来君の事か」

 

 クリスの言う狂った人間に弦十郎はすぐさまそれが小日向未来を指す事が分かる。ネフシュタンの鎧を纏って現れた時から考えれば数少ない接触で当てはめるのは未来しかいない。

 だが弦十郎は答えが分かっても辛そうに目を伏せる事しか出来なかった。

 

「……キミは、あの時の未来君が狂ってると思うか?」

「ああそうだよ!それ以外にあんのかよ!?」

 

 イライラを隠せないクリスに弦十郎は迷ったがすぐさま決意する。

 言葉ではクリスに思いを告げる事も、彼女の間違いを正す事も出来ない。それが分かったからこそ、弦十郎は自分が一番やりたくないやり方でクリスの過ちを認識させる事を決めたのだ。

 

「分かった。もう動けるよな?」

「あん?まぁ歩けねぇ事はないけど」

「ならついてきてくれ」

 

 先程の正々堂々とした雰囲気は何処に行ったのか。迷いを含んだ声でそう言った弦十郎にクリスは戸惑いながらもベットから降りて病室を出た弦十郎を追いかける。まだふらつくが歩けない程でもなかった。

 

「今更だけどよ、いいのか?このまま逃げるかもしんねぇぞ」

「するならもうしている。それにこれが無いと逃げるに逃げれないだろ?」

 

 弦十郎はポケットから紐が通された赤いクリスタルのペンダントを取り出す。それを見てクリスはますます不機嫌になり舌打ちをした。これが外であれば唾の一つや二つ飛ばしていただろう。病院内でしないだけ彼女にもモラルはある。

 

 イライラしながら弦十郎についていくと病室の前に黒スーツを着た男、緒川慎次が一人立っている場所にたどり着く。そこのネームプレートには「小日向 未来」と書かれており、その名前を見た瞬間心臓が鷲掴みされるような感覚がクリスを襲った。

 

「司令。その人は」

「例の娘だ。未来君に合わせに来た」

「ですがその方を未来さんに合わせるのは」

「……()()未来君なら心配無い。俺もついていく」

「……分かりました」

 

 物々しい二人の会話にクリスは眉をひそめていると部屋の中からボソボソと話し声が聞こえる事にクリスは気づいく。暴れていた未来を知るクリスからは考えられないくらい、優しい声に戸惑いを隠さないでいた。

 クリスが戸惑っているのを知らない弦十郎は病室のドアを数回叩く。返事はなかったが弦十郎はそのままゆっくりと扉を開けて中に入った。

 

 そしてその目に入った光景にクリスは自分が何を見ているのか一瞬分からなかった。

 

 

「ねぇ響。今度は何処に行こうか?遊園地や水族館もいいね。でも響ならご飯が沢山食べられる場所の方がいいかな?二人で出掛けるならやっぱり楽しい思い出も欲しいよね!」

 

 

 楽しそうに、そして愛おしそうに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に向けて未来は笑みを浮かべて話していた。

 

 ほんの僅かな、しかもまともに会話をせず全てどちらが死ぬか分からない殺し合いの中で出会ったクリスでも信じられないくらい優しい声で灰が入った小瓶に向かって話す未来の姿に、戦闘中に味わったものとはまた別の恐怖が身体を支配した。

 

「どういう、コトだこいつは……」

「……彼女を保護してからというものノイズが現れなければ概ねこの調子だ。俺達二課の人間でさえ()()()()会話した者はいない」

 

 弦十郎の言葉にクリスは未来がこうなった理由を知らないはずなのに何故か動悸が速くなるのを感じた。

 

「さ、さっきからあいつは……誰と話してんだ……?」

 

 身体が恐怖で震えだす。自分が死ぬかもしれない恐怖でも、目の前でビンに話し続けている未来に対する恐怖でも無い。だが心の底から()()()()()()()()恐怖に身体の震えが止まらない。

 そんなクリスの姿を見て弦十郎は自分の事のように辛そうな顔を浮かべるがそれでもクリスが望む事を言おうと口を開く。

 

「……詳細までは不明だが、あの小瓶の中身は炭素の塊と見て間違いない。そして二年前、彼女の親友だった少女がノイズの犠牲になっている事も既に調べはついている。

 彼女が虚空に向かって呼びかけている名前とその親友の名前が同じ事から無関係とは……考えにくいだろう、な」

「っ!」

「クリス!」

 

 耐えられなくなったクリスは病室から走って外に出る。それを見て弦十郎はクリスを急いで追いかけた。

 

「?あ、ごめんね響。今度は二人でピクニックもいいね!それから──」

 

 音を立てて出て行くクリスと弦十郎に一瞬だけ顔を向けて不思議そうに顔を傾けるが再び何事もなかったかのように小瓶に向かって会話を再開した。その顔は幸せに満ち溢れていた。

 

 そしてその目に、光はない──

 

 ────────────────

 

「う、うぇぇ、うっ」

 

 吐き出してしまいそうなあまりの気持ち悪さにクリスは近くの壁に手を置きえずく。その背中を慎次が優しく撫でて少しでも気持ち悪さを無くそうとしていた。

 

(うう、なんだよ。なんだよあれは!)

 

 未来の姿はクリスの思っていたものよりも想像を絶するものだった。

 とても幸せそうに()()()()()。それが未来を見た最初の感想だった。

 

「……あれが今の彼女の現状だ」

 

 クリスを追いかけて来た弦十郎はクリスが落ち着くのを待って口を開く。もう見返す力はクリスには残っていない。

 それでもクリスな理解出来なかった。未来があそこまで狂う理由に。

 

「……キミは今、〝友人を一人失ったぐらいで〟あそこまで狂えるのか理解出来ていないだろう?」

「っ!?」

 

 今まさに思っていた事を弦十郎に言われてクリスは動揺を隠さず狼狽えてしまう。それを見て弦十郎は暴れる子に言い聞かすように優しい声で話す。

 

「両親を亡くしたキミにとって〝血が繋がらない友人を失った程度〟でも未来君にしたら狂うほど大切なものを失ったんだ。キミの中にある大切なモノを汚されて怒るように、彼女にとって親友がそれと同じものなんだよ」

 

 その言葉に思い出されるのは楽しかった頃の両親との記憶。自分を置いて勝手に死んで、そのせいで不幸になった原因でもあるのに、その思い出は誰にも汚されたくなかった。

 もしそれを汚されたら?もし目の前に両親を殺した奴が現れたら?その時、自分に復讐するだけの力があれば?

 そんなありもしない過程がいくつも浮かび上がる。未来と同じように狂うかは置いとくとしてもきっと復讐だけで頭がいっぱいになっていただろう。そして両親の仇と関係ある者は全て殺したいと思うだろう。

 

「彼女を正気に戻すためにあの小瓶を取り上げようとしたり、ヒビキという名前の人間がもういない事を伝えた者は全員殺されかけた。中にはシンフォギアを纏い暴れるケースもあった。故に下手に刺激せずに自由にさせている。その方が周りの被害も少ないからな」

「……ならシンフォギアを取り上げればいいだろ」

 

 なんとか動悸が収まり落ち着いたクリスは背中を撫でていた慎次の手を退けて弦十郎の方に身体を向ける。まだ顔は青いままで言葉にも力は無い。

 クリスの言葉はもっともな事なのだが、それが元から分かっていた事でも弦十郎は苦い顔をして頭を左右に振る。

 

「……彼女のシンフォギアは彼女の体内にあるんだ」

「体、内?」

「二年前の事故、いや事件で、な」

 

 もしあの事件がなければ未来は狂わなかっただろう。そして今も眠る風鳴翼も眠りにつく事はなかっただろう。既に起きてしまった事のためどうする事も出来ないがその考えは無くならない。

 

「もう一度キミに問う。今の未来君とキミを襲っていた未来君、キミから見てどちらが()()()だ?」

「それは……」

 

 クリスは答えられない。普通であればあれだけ殺意を振りまいていた時が狂ってると答えるだろうが、今の未来を見てあれがまともとは当然言えない。異常なほどではあるがむしろ人間らしい怒りと殺意を持っていた時の方がまともだと言える。

 それくらい未来はどうしようもないくらい()()()()()

 

「あたしは……あたしは!」

 

 あれだけ自分を邪魔して憎たらしかった未来の今の状態にクリスは分からなくなる。ノイズに対して向けるあの異常なほどの怒りと怨嗟と殺意、そして灰の入った小瓶に語りかける痛ましい姿。いったい何が彼女をそうさせたのか。

 

「教えてくれ。いったい二年前に何があったんだよ!」

 

 何処か「知りたくない」と叫んでいる自分がいる事を自覚しつつも聞かずにはいられなかった。聞かなければとても大切なモノを失う予感をクリスは感じていたのだ。

 

「……あれは二年前の事だ」

 

 弦十郎は目を瞑り二年前の忌々しく、そして光り輝く二人の少女の晴れ舞台を思い出したのだった──

 




正直あのイラストとこの話作ってる時点で殺意ありありで暴れまくる393とベットでビンに入った灰に話しかけてる393、どっちが狂ってるのか分からなくなりました。どっちも狂ってるっちゃ狂ってるんですが正気度を考えると……

他人にとって「その程度」の事でも人によっては「その程度」の事に周りの目なんて気にせず暴れてしまうものなんですよ(遠い目)。393にとってビッキーはそれくらい大きな存在でした。
……んーこの393、だいぶ前からクレイジーサイコレズが顔を見せてたよね?

ではでは、次回は待望(?)の過去編です!お楽しみに!

次回 太陽が消えた日

「陽だまりはね、太陽が無いと出来ないんだよ?」
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