なんだかんだで思いついた事を文字にしたら予想以上に時間がかかってしまった。ですが無印もいよいよ後半戦です。
新しい支えのおかげで僅かに理性の戻った陽だまり。それが幸となるか仇となるか。
そして槍と弓は目の前に広がる地獄を前に戦えるのか。
それでは、どうぞ!
未来が記憶を失わないようになってから三日後。その間にクリス以外にも時間の合間を縫って弦十郎や奏も様子を見に来る事が多くなった。
まだ灰の入った小瓶に目を向ける事は多いが話しかける時間はほとんど無くなってきている。それだけでもかなり精神が安定している証拠だろう。
「────はい、しゅ〜りょ〜!お疲れ様、未来ちゃん」
「ありがとうございます。櫻井さん」
精神が安定したとはいえまだ三日。経過を見る為に少し未来と問答をしていた櫻井了子はそれが終わると背伸びをする。ポキポキッと骨が鳴る音が病室に響き未来は苦笑をしながらお礼を言う。
櫻井了子の専門は聖遺物の研究と探究のため未来のような精神的に不安が残る者のケアは専門外だったのだが、未来の中にある聖遺物の天羽々斬のシンフォギアが風鳴翼のものと違い黒の面積が多かったため装者の精神がシンフォギアにどのような影響を与えたのか、そう言った部分が知的好奇心を刺激された了子が未来のケアを買って出たのだった。
「私の事はお姉様か了子さんって呼んでくれていいって言ってるでしょ?」
「でもお世話になっているので……」
「もう、真面目ちゃんなんだから」
つんつんと未来の肩を突く。了子の行動にどんな反応をすればいいか迷い、焦るがそんな未来を了子は「やっぱり真面目ねぇ」と声を漏らした。
「そ、それよりもクリスの方はどうですか?」
困った未来は話を無理矢理切り、クリスの話題に変更させる。悲しい涙を流していたクリスを知っている未来としては自分よりもそっちの方が気になっていた。
「ん〜実は最近忙しくてクリスちゃんとまだ面識が無いのよね」
「そうなんですか?」
「そうよ?一応聖遺物研究員として天才と言われてるんだからあまり他の事に時間をかけれないのよ〜。未来ちゃんは聖遺物に関係してるからこうやって時間を取れてるだ〜け」
戯ける了子に未来は貴重な時間を自分に使ってくれている事に少々罪悪感を覚えるが本人が生き生きとしているので謝るのは筋違いだと思い謝罪の言葉を呑む。
それから気分を変えるために聖遺物やシンフォギアに関係ない雑談をしていると時間はあっという間に過ぎ去って行った。
「さ〜て次のお仕事もあるし、そろそろ行くわね」
「はい。次もお願いします」
「ま〜かせなさい!いい観察対象、もとい患者を見捨てる了子さんじゃないわよ!」
「本音が漏れてますよ……」
「あら、いけない」
ペロッと舌を出して戯ける了子に未来は笑みを浮かべた。
ささっと帰り支度をしている了子から視線を外し手元にあるかつて親友だった灰の入った小瓶を見る。まだ完全に振り切った訳では無いため小瓶を見る度に二年前のライブ事件を思い出し胸が痛くなる。それでもその痛みを忘れないように、そして親友との思い出を思い出す為にたびたび小瓶を眺めていた。
「……一つ聞いていいかしら」
帰り支度をしていた了子がポツリと真面目な声で未来に話しかけてくる。いつも意気揚々としている了子しか知らない未来はその真面目な声に姿勢を正した。
「もし、貴女の親友が生き返る方法があったとしたら、貴女は今持っているものを全て捨てる覚悟はある?」
「……ぇ」
予想外の質問に未来の心臓の鼓動が早くなる。
人が生き返るなんてあり得ない。それを理解していてももし響が生き返る方法があるとしたら、それを知ったら自分はどうするか。
未来は目を瞑り考える。時間がない了子に悪いと思いながらも質問に対して深く考える。その結果出た答えはあまりにも簡単なものだった。
「……響が生き返るのなら私は喜んで全て捨てます」
「……そう」
予想していた通りの答えに了子は興味を失い、立ち上がって病室を出ようと踏み出そうとした。
「でも、もし誰か一人でも迷惑をかけるのなら、私は絶対にしません」
「なに?」
未来の言葉に了子は少し言葉使いを変えてしまうほど反応する。喜んで全て捨てると発言した後にすぐさま絶対に行わないという矛盾に眉を潜めた。
「誰かに迷惑をかけて響が生き返っても響は喜びません。むしろ怒ると思うんです。場合によっては悲しむと思います。だから私は響を生き返らせる前でも後でも誰にも迷惑かけない方法でない限り絶対にしません」
「……そこにいるだけでは満足しないとでも?」
「はい」
口調が少し刺々しくなる了子だが未来は気にせず即答する。何故か分からないが今は本当の気持ちを答えねばならないと思うと今の了子のいつもと違う雰囲気が何故か気にならなかった。
「……なら友がそう思わないようにすれば良いのではないか?」
「私の好きな響は私の言う事を聞かずに一直線に他人のために無茶が出来る子で、誰かの為に涙を流せる子です。誰かの犠牲に悲しまない響は、私の大好きでいつも隣にいてくれた響ではありません」
姿形が同じでも中身が違えばそれはいつもの親友ではない。
例え声や仕草が同じでも自分が好きになった人が決してしない事をするのなら、それは同一人物とは思えない。
未来は記憶の中にあるいつも一緒にいた響という少女の中身も含めた全部が好きだった。だからこそ、その一つでも欠けたらそれは未来の好きだった響ではないのだ。
了子は未来の真意を測るようにその瞳をじっと見つめる。その視線を未来は目を逸らさず、逆に了子を見つめた。
ほんの数秒にも何十分もの間にも感じる時間、二人は互いを見続けて、そして了子が負けた。
「未来ちゃんは強いのね」
いつもの雰囲気に戻った了子がため息を吐く。
「私は無理ね。もしそんな方法があれば……どんな方法でもそれを使うでしょうね」
開けられた窓の外を悲しい表情で眺める。その瞳になにを思っているのか未来にはわからないが、それでも了子が悲しんでいるというのは分かる。
何を言うのが正しいのか未来には分からないが、それでも了子の言葉がとても悲しいものだというのは分かった。
「……私は強くありません」
少し悩んで未来は頭を横に振る。その言葉に了子は不思議そうに首を傾げる。先の言葉は死んだ友の為に思う強い意志のあるものだと思っていた為、未来の言葉少々意外だった。
「そう、ですね。私は……響に嫌われたくないんです。だから私は響が嫌がる事をしないんです。響が喜ぶならこの身体が傷つく事を惜しみません。あ、勿論響がそれも嫌がるならなるべく怪我しないようにしますけど」
少しふざけて未来は喋るがその目に嘘はない。その為、了子は真剣に未来の話を聞く。
「響が大好きだからこそ嫌われない為に響の嫌がるなら事をしない。ただそれだけなんです。だから私はこの苦しくて辛い気持ちも我慢して〝私を好きでいてくれる響〟の為に頑張りたいだけなんです」
我を忘れて暴れていた時の未来を響が見たらどう思うのか?
なんとかして説得して正気に戻そうとするのが記憶の中の響らしいが、もし獣のように理性の無い未来を恐れたら?それによって離れていったら?それが本性だと勝手に思い込み嫌われたら?
好きでやっていた事でないとはいえ、もし親友がそう思ったらと考えると胸が裂けるように痛くなる。
「私は、響がいない事よりも大好きな響に嫌われる方が何十倍も辛いんですよ」
胸が痛くなり苦しくて辛いが了子に笑みを見せる。何故笑顔を作ろうとするのか不思議に思うほど辛そうな痛々しい笑みだった。
それを見て了子は何故か動揺するが、未来はそれに気付いても何も言わなかった。
「……貴重な意見ありがとうね。それじゃ、私は行くわ」
いつもの元気はどこに行ったのか。トボトボと重い足取りで病室から出て行く了子の背中を見て、未来は何か言うべきか迷ったがただただジッと見つめるだけだった。
病室を出て少しふらつく足で歩く了子の視界に人影が写る。それは彼女のよく知る筋骨隆々で本当に人間なのか疑う規格外の超人、風鳴弦十郎だった。
「未来君の調子はどうだ?」
「まだ若干不安定なところもあるけど今のところ目立った問題はなし。クリスちゃんが上手く心の支えになってるみたい」
「……そうか」
自身の異常的な強さを理解している弦十郎はその自分でさえ、一瞬硬直してしまうほどの異常な殺意を持った未来が少しずつ人の道に戻ってきている事を知って安堵のため息を吐く。まだ三日しか経っていないとはいえ、それまでと比べたら遥かに良い結果だ。
「……私は会った事ないけど、弦十郎君は今の未来ちゃんとクリスちゃんの関係は良いものと思う?」
「二人の関係、か」
了子の質問に弦十郎は口元を手で押さえながら考える。
三日、毎日互いに笑い合っていた今の二人を見れば関係は良好とも言えるだろう。だが。
「少し、危ういな」
「弦十郎君もそう思う?」
「ああ。二人ともそうだが特に未来君は、な」
ただの友達なら今の関係のままで良い。だが二人の場合は特別だった。
未来は二年前に自分が誘ったコンサートにより親友を失い、その結果、力を得てノイズを滅する為に周りの被害を気にしない破壊の獣になり。
クリスは幼少期に両親を失い、その後長年捕虜として扱われた挙句フィーネという謎の存在に拉致され身体にも心にも傷を負った。
二人の心はボロボロで、いつおかしくなってもおかしくない。実際未来は親友を失い心が一度壊れていた。
今の二人は互いに支えあっているように見えて、その実互いに依存している。
「もしどちらかがいなくなれば残った方はどうなるか俺には分からん。暴走してしまうほど彼女たちの受けた心の痛みを、俺は理解してやる事は出来ん……」
物理的に打ち払えるものなら自分の手で打ち払おう。
危機から守らねばならないなら鍛えた身体で守ろう。
そう思う弦十郎であるが、心の傷まで埋める事は弦十郎でも出来ない。ただの綺麗事を並べても二人の傷をより深くえぐると理解していた。
「時が解決してくれるのを待つしか、俺たちには出来ん」
「そう、よね」
弦十郎の言葉に何を思ったのか了子は何も言わず悲しい顔で目を逸らす。
「……時に了子君。『カ・ディンギル』という物を知っているか?」
重い雰囲気になるのを察した弦十郎は話題を変える為に最近手に入れた情報の事を了子に聞く。
それを聞いて一瞬了子の目が鋭くなるが直様いつもの調子に戻る。
「カ・ディンギル……古代シュメールの言葉で「高みの存在」。転じて天を仰ぐような塔を意味してるわね。それがどうしたの?」
「いや、実はな──」
事は二日ほど前。未来との和解の後、罪滅ぼしの為にフィーネと袂を分かったクリスからフィーネのアジトの場所を聞いた弦十郎は直様制圧部隊を編成。その日のうちに教えられたアジトへと向かった。
クリスの言った通りの場所に古い城があり、弦十郎率いる制圧部隊で慎重に中を探索した結果、大広間と思われる場所で大人数の武装した人間が血を流して死んでいるのを確認。死後数日は経っていた。
死体を確認しようとしたところ爆弾が仕掛けられており死体を動かした事により起動して爆発。かなりの死傷者を出した上に資料といった古城にある情報を抹消しようとしたのか、かなりの量の爆薬が詰められてあったらしく、ほとんどのデータや資料といった物が綺麗に瓦礫に埋れた。
その中で復元出来た情報に『カ・ディンギル』という名前があったのだ。
「仮に名前通りの物だとして、今まで何故俺たちは見過ごしてきた?」
「確かに、そう言われると何も言えないわねぇ」
首を傾げる了子を意味深く注視する弦十郎だが了子がその視線に気付くと視線を逸らした。
「……何にせよ、せっかく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば勝利も同然。相手の隙にこちらの全力を叩き込む。ノイズが相手であれば奏君に任せる事になるが、相手が人間であるなら俺の出番だ」
確実ではないが徐々に追い詰めている実感がある弦十郎は握り拳を強く握りながら言う。
弦十郎からすればフィーネは死傷者を出している事以外にも二人の少女に大きな傷を与えた上に、ノイズを使役して戦わなくていい者を戦場に巻き込み殺した黒幕。根が真面目な弦十郎はその行いを許すことが出来なかった。
「それに、ネフシュタンが消えた事も問題だ」
ダインスレイフ輸送事に襲ってきたクリスが纏っていたネフシュタンの鎧は戦闘後、医療班が到着する間に消えていた。最初はシンフォギアのように何か別物になっており、起動する際に見に纏うものだと思われていたがクリスの話によれば違うようだった。クリスが嘘をついた可能性は十分あるが、今のクリスがそんな嘘をつくとは弦十郎には思えなかった。
となればフィーネという存在がどさくさに紛れてネフシュタンの鎧を回収した事になる。
「まだ安心は出来ないが事態は好転しつつある。ここが正念場だ」
「……そう。なら私も頑張らなくちゃね♪」
「ああ。……信じてるぞ」
「まぁっかせなさい!それじゃ、この後用事があるからこれで!」
そう言って無理矢理作った笑みを浮かべて了子は歩いていく。その背中を弦十郎は眉をひそめて視線を外し、了子が歩いて行った通路の反対を歩いて行った。
──────────────────
太陽が真上を通過した頃、すでに昼食を済ませた未来は時間を持て余しつつも何も出来ずに空を眺めていた。
携帯端末は使えるのでニュースや最近の流行り等を知る事は出来るのだが、それを見る
それ故に空いた時間は空をぼんやり見ることが多かったが、最近はその時間は少なくなっていた。
「起きてるかー?」
ノックも無しに遠慮無く銀髪の少女、雪音クリスが片手にコンビニの袋を持って病室に入ってくる。
「こんにちはクリス。今日は遅かったんだね」
「おう。ちょっと検査とか取調べとかで時間かかってな。おかげでまだ食べてねぇんだ」
そう言いながらクリスはベットの隣にあった大きめの椅子に行儀悪く座りコンビニの袋を開ける。何を思ったのかその中身はアンパンと牛乳だった。
「もう、もっとちゃんとした物を食べないとダメだよ?」
「つってもよ、時間も時間だしこれしかなかったんだよ!それに好きなんだからほっとけ!」
むっとした顔でそっぽ向きながらアンパンの袋を開け、ポロポロとパン屑を落としながら頬張る。
食べ方が悪いのか何故か頬にアンコがついているのにも関わらず平気で食べるクリスだが、それに気付いた未来はその頬にあったアンコを指ですくい取り自分の口へ持っていく。
「うん、久しぶりに甘いもの食べたけど美味しいね」
暴れていた自分が保護されてから今日まで味気ない病院食が続いた未来にとって久しぶりに口にする甘味はとても美味しく頬が緩まる。
微かに笑みを浮かべる未来を見たクリスは一瞬何が起きたか分からず硬直し、そして顔がみるみる赤くなっていった。
「お、おま、おま、お前!?」
口の周りにパン屑が付いているのも気にせずクリスは後ずさる。未来にとっては過去に響に幾度となくやった行為である為何も恥ずかしがるような行為では無いのだが、クリスにはそんな経験がある筈もなく、まるで恋人同士のような一瞬のやりとりにまだまだ初心なクリスには早かった。
「どうしたの、クリス?」
「ッ!」
顔を真っ赤にして飛び退くクリスを不思議に思い僅かに首を傾げる未来。その際にクリスは何故か少し濡れた唇に目がいき、心臓が何故かドクンッと大きく脈打った。
(なんでときめいてんだよ!?あたしらは女同士だぞ!?あり得ねぇだろ!!??)
頭では分かっていても大きく脈打った心臓が証拠である事はクリスが一番よく分かってある事なのだが、それを認めようとしなかった。両親を亡くし、フィーネに拷問紛いの実験を課せられてもそこはまだ一般人の常識範囲で収まっていた。
一人悶々としているクリスを不思議そうに眺めていた未来。だが突然心の中の憎悪が湧き上がる感覚に襲われる。
首が折れるかと思うほどの速度で窓の外を見る。その先にはビルに囲まれた赤い鉄塔、東京タワーの方面だった。
「ど、どうしたんだ?」
さっきまで楽しそうにしていた未来の雰囲気がいきなり変わった事に戸惑うクリス。そして東京タワーを睨む未来のシーツを握る手に力が入っているのを見てクリスは察した。
「……ノイズか」
「……うん」
天羽々斬のシンフォギアを纏った時から未来は何故かノイズが現れる時、自身の中にある怒りや殺意と言った憎悪が湧き上がって来る感覚に襲われる。未来のノイズを恨む心がシンフォギアに何かしらの影響を与えた結果会得した能力と未来を観察していた了子は推測している。
そしてその感覚が外れた事はない。それは未来が一番よく知っていた。
膨れ上がった憎悪に負けて未来はすぐさま東京タワーに向かおうと身を起こしたが、その肩にクリスは手を置いて止めた。
未来は煩わしいと思い手を除けようと振り向く。そして真剣な眼差しのクリスと目が合った。
「あたしに任せてくんねぇか」
そっと空いている手で落ち着かせるように未来の手を握る。その行為に未来はビクッとしながらも耳を傾けた。
「少しでいい、お前の……未来の重りを分けてくれ。大切な友達が一人で傷つくなんて、あたしは嫌だ」
恥ずかしそうにしながらもクリスは未来の名前を呼ぶ。
罪滅し。そういった面は必ずある。だがそれ以上に久しぶりに出来た友人であり、そして自分の心の支えである未来が自分の不始末のせいでこれ以上傷つく事をクリスは黙って見ていられなかった。
「クリス……」
「心配すんな!あたしだってシンフォギア装者だぜ?しかも未来よりも装者歴長いんだ。簡単にやられねぇよ!」
腰に手をやりその豊満な胸を突き出しながらクリスは自信満々に言う。その突き出された胸を見た未来が別の憎悪が膨れ上がったのは本人でさえ気付かなかった。
クリスがシンフォギア装者と聞いていた未来は膨れ上がった憎悪を無理矢理壺に押し込めるように少しずつ抑える。理性が戻ってきた事と新しい心の支えが出来た事で自身の憎悪する心もある程度操作出来る様になった結果だった。
「……うん。ごめんだけど、任せていい?」
「あたぼうよ!んじゃ、ちゃちゃっと片付けてくるから未来は寝てな」
「ありがとう……頑張ってね」
「任せとけ!」
まだ暴れる憎悪を無理矢理落ち着かせて無理に笑顔を作る未来。辛そうな顔だったため無理をしているとクリスは分かったが未来を安心させるために気づいてない振りをする。
「クリス君はいるか!?」
突然弦十郎が無線を持ったまま焦りながら病室に入ってくる。
「今連絡が入った!東京タワーの周辺に大型のノイズが現れた!奏君一人では対処する事は難しい。キミには」
「わぁってるよ」
覚悟の決まっていたクリスは落ち着いて踵を返し弦十郎の方を見る。そのアメジストのような瞳の奥に強い決意を見た弦十郎は顔を引き締める。
「これを」
弦十郎は胸ポケットの中をあさり、中から赤い結晶のペンダントを取り出しクリスに渡す。それは本来クリスの物であり、そして彼女の
「クリス!」
戻ってきたペンダントを首に掛けて走り出そうとしたクリスをベットにいる未来は呼び止める。不安はあるがそれでも自分のために戦おうとするクリスにその不安を押し込めて笑みを造った。
「頑張ってね」
「おう!」
未来を心配させないように笑顔を見せたクリスは弦十郎の後を追い病室から出て病院の屋上のヘリポート部屋向かった。
クリスと弦十郎が病院の屋上へ到着すると丁度要請したヘリが着陸するところだった。
「俺はこのまま二課に向かう!キミは現場に到着後ノイズの殲滅を優先!何かあればすぐ連絡しろ!」」
「分かった!」
「任せたぞ!」
クリスが乗り込んだのを確認しヘリは離陸。それを見送った弦十郎もすぐさま屋上の手すりの方に向かいそこから
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それから数分後目的の場所付近に到着する。そこでクリスが見たのビルなぞ簡単に飲み込むほど巨大な飛行型のノイズが東京タワーを中心に人を襲わず止まっている姿だった。
「これ以上は近づけません!」
ヘリを近づけようにもいつ襲ってくるか分からない大型ノイズにこれ以上は危険と判断しパイロットはクリスに言う。その時、大型ノイズの下腹部が両開きの扉のように何かを地面に向かって投下し始めた。
クリスが視認しようと目を細めた。そしてその瞳に映ったのは人型や飛行型と言った多種多様の無数のノイズだった。
ノイズは地面に着地後、そのまま市街地へと進撃し逃げ遅れた人々を襲い始め火の手も上がり始めた。
クリスが焦りを隠せないでいると真下あたりにあるノイズが不自然に集まっているビルから突然横向きの竜巻が現れ、ノイズをなぎ払う光景が目に入る。そして竜巻が止んだ先にいたのは橙色と黒のインナーに機械的な装甲を纏った奏が大槍を構えて立っていた。
「ここまででいい!アンタはさっさと退避しな!」
そう言い残しクリスはヘリから奏のいるビルに向かって飛び降りた。
パラシュートも無しにそんな事をすれば自殺行為ではあるが、彼女はただの人間ではない。
──Killter Ichaival tron──
クリスの全身を赤い光が包み込む。
眩しい太陽のような光が辺りを照らしそして中から現れたクリスは所々に赤と黒を基調とし、所々に白の装甲が混ざったシンフォギアを纏っていた。
降下しながらそのシンフォギア、イチイバルの基本の兵装であるボウガンを展開。そして見事な射撃で奏を囲んでいた周囲のノイズを打ち抜き、ビル屋上に着地した。
「お前……」
「助っ人だ!つべこべ言わずノイズをやるぞ!」
一掃したはずのノイズがビルの下から続々と登ってくる。それに加えて空からも大型のノイズが小型ノイズをばら撒き続けていた。
今は思うところがあってもそれを口にする暇はない。だが
「……あたしはまだお前を信じちゃいない」
目の前にいるクリスに向かって怒気を隠さずに奏は言い放つ。
それも無理はない。奏からしたら最高の相棒が眠りについた原因を造った一人でもある少女が目の前に、しかも協力者としているのだ。それに加えて二度も戦闘しそのどちらも完全に敗北し手痛い傷を負っている。いくら弦十郎が許したとしても奏本人は愉快であるはずがない。
「フィーネって奴が黒幕だったとしてもお前のやった事は変わらない。それに敵だったんだ。ダンナみたいに簡単に信じるほどあたしは人間出来てない。だから下手な動きをしたら後ろからでも背中を貫く」
殺意にも似たその圧を受けてクリスは息を飲む。
自分がやって来た事を考えれば信じられないのも当たり前の事であり、自身のやってきたこれまでの罪が重くのしかかってくる。それでもクリスは自分を睨む奏の瞳に真っ直ぐ答えた。
「それでいい。あたしだって自分がやった事の大きさは理解してる。オッサンみたいに簡単に許されても、自分か許せねぇ。だからアンタはあたしを見ててくれ。もしあたしが躊躇するような事があれば問答無用で殺せばいい」
思いもよらない返答に奏は今度は訝し気に眉をひそめる。仕事で忙しく、最近のクリスの様子を口頭でしか聞いていない奏は自分が戦った時のクリスと比べて、あまりにも丸くなったその態度に不信感を強める。
「それでもチャンスをくれ!もう、誰も悲しませたくないんだ……」
自分が都合の良い事を言ってると理解しているクリスは歯を食いしばり飛んでくるであろう奏の怒号に身を構える。だが返ってきた言葉は少し違っていた。
「……あたしはお前を信じない。だけど」
思い出すのは二日前。クリスが弦十郎にフィーネのアジトを教えた後の事だ。
未来の正気が戻ったと聞き様子を見に少し時間を作って来てみれば楽しそうに笑い合う未来とクリスの姿。
一見楽しそうに見えても何処か歪さを感じ、しかしその歪さが二人を支えていると思った奏は気味の悪さを感じると共に二人が苦しんでいると理解した。
「
まだ完全に許していないとはいえ呪縛により苦しんでいたからこそ、その苦しみから解放されたクリスを信じても良いと少なからず思っていた。
それに加えて初めて戦った時にあった怒りや殺意が無く、保護した後の魂が抜けているような感じもない、ただの少女の未来が信じているのならそれを信用するのもいいと思ってもいた。
「背中を見張ってはいるが見殺しもしない。それは約束する」
「……すまねぇ」
それだけ言い、互いに背を向けて目の前に広がる地獄に目を向ける。
戦いはこれからだ。
空を飛んでいた無数の飛行型のノイズが身体をドリル状にしながら奏とクリスに向かって降下する。シンフォギアにより当たっても炭素化しないとはいえその勢いは驚異だ。
奏は避けようと身体を傾けるが、クリスはその場で動かず待ち構えていた。
(パパ、ママ。もう一度、あたしに力をくれ)
歌で世界を救うと言っていた親を紛争により失ってから世界は甘くないと思い嫌いになっていた〝歌〟。だがクリスは奇しくも未来に殺されかけて自分が歌が大好きだったのを思い出していた。悲しい歌も楽しい歌も、両親と歌えばどんな歌でも楽しかった。
歌で世界を救う事は出来なくても、昔の楽しかった頃の自分のように誰かを守り、笑顔に歌は出来ると思い出したのだ。
『BILLION MAIDEN』
心に浮かぶ暖かい思い乗せた歌を歌いながらボウガンが変形しその華奢な身体からは想像出来ない四門の三連ガトリング砲という物騒な物を両方の手で二丁持ちをし、向かってくるドリル状のノイズに向かって一斉掃射する。
次々と空中から襲いかかるノイズをガトリング砲で対処していると今度はビルを登っていたノイズが屋上に顔を出している姿が目に入ってきた。
「ちょせぇ!」
『MEGA DETH PARTY』
シンフォギアの腰部アーマーから小型ミサイルを掃射する。ミサイルは確実に一体一体のノイズに着弾し、その周囲のノイズも巻き込みながら一掃した。だがそれも一瞬の事。
上空の大型ノイズが再び内蔵する小型ノイズを追加で降下させていた。
「ちっ、これじゃあキリがねぇ。ッ!」
周囲のノイズを一掃し、意識を上空ばかりに集中させたクリスは背後から忍び寄るノイズに反応が遅れた。
覆いかぶさろうとその身体を傾けるノイズ。シンフォギアを纏っているとはいえ突然の事にクリスは身を守ろうガトリング砲をクロスさせる。だがその前にノイズはクリスの後方から投擲された大槍に身体を貫かれ、更にその後ろにいた数体のノイズも巻き込んで全て灰になった。
振り向くとクリスの視線の先には既に新しい槍を造った奏が自分の周りにいるノイズをなぎ払う後ろ姿があった。
「守ってやらない、とは言ってないからな」
クリスの方を向かない奏だが、今の状況でクリスを援護出来るのは奏しかいないため答えは分かりきっていた。それでも正直に言わないのは奏なりの意地だろう。
「ところでさ、アンタは上空の敵なんとか出来る?」
「あ?まぁあたしのシンフォギアは遠距離メインの広域殲滅特化だからな。出来ねぇ事もねぇけど……」
ガトリング砲を撃ちながら眼下に広がるノイズと空中を浮遊するノイズに目を向ける。見ているだけで目が痛くなりそうな色の嵐にクリスは眉を潜めた。
イチイバルはクリスの言った通り超射程と広域攻撃に優れたシンフォギアである。一対多々でこそ本領を発揮すると言ってもいいほど攻撃範囲は広く、破壊力や突破力に長けたガングニールや天羽々斬よりも殲滅力は上だ。
だが今回はあまりにも数が多すぎた。普通に戦っていれば時間がかかり被害が広がってしまうのは容易に想像出来る。
「方法があるんなら上はアンタに任せる。代わりに下はあたしがやる」
「……いいのか?」
「いいも何も適材適所ってやつだ。それにあたしはここで死ぬ気はないし、アンタもそうなんだろう?」
首だけ動かしてクリスの方に目を向ける奏にクリスはまだ戸惑っていたがすぐに顔を引き締める。信じないと言っていた奏がこの場を任せる言われたのだ。奏の内情を考えれば簡単に認められるものではないが、それでもこの場をなんとかするにはクリスの力が必要と言外に言っている事を理解できないほどクリスも馬鹿ではない。
「分かった。アンタもヘマすんなよ!」
「任せとけ!」
それだけ言い残し奏は一直線にビルの端に向かって走り、道中のノイズを貫きながらビルから飛び降りる。ビルの壁面にもびっしりとノイズが張り付いており、気持ち悪さがあるが奏は笑みを見せていた。
(誰かに背中を任せられるっていつぶりだろうか)
大槍を持ちノイズ切り払いながら降下する中、奏は思う。
風鳴翼が眠る前はボロボロになっても互いに背中を任せて戦い、背負う重荷を分かち合っていた。
一人になってのしかかる重荷を一人で背負うようになってから、その思いもよらぬ重圧に奏の心も疲れ切っていた。それでも頑張って来たのは翼がいつか目を覚ますと信じているからだろう。
しかしそう思いながら戦い続ければ心は疲弊する。アーティストとシンフォギア装者を両立させているため休む時間も無く、ただすり減る時間が増えているだった。
だが今現在はこうやって戦場でクリスに背中を任せている。まだ信じきれてはいないと思いながらも、誰かに背中を任せる事がこんなにも気持ちが軽くなるものなのかと思い出していた。
「だからよぉ、あたしもアイツの背中を守らねぇとなあ!!!」
久しぶりに出来た心の余裕と一人で戦う時には得られなかった安心感。それが奏に力をくれる。
「さぁ!あたしと歌おうじゃないか!」
軽く感じる大槍を手に奏はノイズの群れに突撃した。
奏を追いかけて大半のノイズはビルから消え、残されたクリスは頭上東京タワーを中心に飛行する大型ノイズを見上げる。
(任されたからな。失敗するわけにはいかねぇ!)
そしてクリスは再びありのまま心をそのままに歌う。
歌う事でシンフォギアのエネルギーがどんどん高まり今にでも溢れる出しそうになる。
『』
ギアの腰のアーマーからビルの床に向けて楔が打たれ身体を支える。そして固定砲台のようになったクリスはガトリング砲と小型ミサイルに加えて背中から何処に格納されていたのか分からない、クリスの身長を超える大型ミサイル四基が現れた。
クリスは歌いながらガトリング砲と表面の装甲が外れて中から更に小型のミサイルを広範囲に放ち、上空を飛ぶ小型のノイズをなぎ払う。そして大型のノイズの周囲に敵はいなくなり、その隙間を狙って四基の大型ミサイルを撃った。
障害物がないミサイルは真っ直ぐに四体の大型ノイズに向かい着弾。大きな爆発するを起こしながら四体とも灰と化した。
そして残るは地上のノイズなのだが。
「結構やるじゃねぇか」
大型ノイズを倒した事を確認したクリスはビルの下で戦っているはずの奏を援護しようと見渡せば殆どのノイズは奏の手によって灰になっていた。
後で知る事だが、クリスという後ろを任せる相手がいる事で精神的に安定した分視野が広くなり、LiNKERの効果時間も伸びていた。その結果奏自身も驚くほど身体が軽く戦いやすくなっていたためクリスと戦った時以上の戦闘能力を発揮していたのだ。
「んじゃ、あたしはあたしでやらせてもらうか!」
地上のノイズは奏に任せてクリスは上空に残った数がかなり減った飛行型ノイズの殲滅に移った。
十分後、上空と地上のノイズはクリスと奏の手で綺麗に消え去った。
町への被害は無視できるものではないが規模の割には死傷者と行方不明者の数は少ない。それだけ二人が死力を尽くしたとも言えるだろう。
「お疲れさん」
シンフォギアを解き身体から力を抜いたクリスの背中に奏は話しかける。その声にクリスは一瞬心臓が跳ね上がり、恐る恐る振り向いた。
「あんがとよ。おかげで町への被害は抑えられたよ」
「いや、あたしは……」
「自分を卑下すんな!アンタは十分頑張った。誇ったっていいんだよ」
「あ、ああ……」
戦闘前の険悪な雰囲気が嘘のようにフレンドリー話しかけてくる奏に戸惑いながらも頷く。
奏もまだモヤっとする気持ちは抜けきれていないが、奏一人ではとうの昔にLiNKERが切れて戦えなくなっていたはずだ。クリスがいなければ町はもっと被害が、いや死傷者もこんな数では済まさなかっただろう。
クリスの頑張りようから肩肘張っている自分が恥ずかしいと少なからず思ってもいた。
「……その、悪かった。欠陥品なんて言って」
クリスの突然の謝罪に今度は奏が目を丸くする。クリスも、必死で大型ノイズを倒すために動けない自分の代わりに戦い、そして数多くのノイズを滅したのを見ているため、何も知らずに欠陥品扱いしてしまった事を謝らずにいて少し落ち着かないでいたのだ。
「んじゃ、おあいこって事で」
「すまねぇな」
互いにぎこちない笑みを浮かべるがさほど悪い雰囲気ではない。二人の和解もそう遠くはないだろう。
荒正しく一課の人間が後処理を開始し始めた時、奏の持っていた携帯端末が鳴る。誰からか確認すれば画面には弦十郎の名前があった。
「ダンナか?こっちは無事終了したよ。すぐそっちに帰投」
『今すぐリディアンに戻れ!』
端末越しに聞こえた弦十郎のただならぬ声に、奏は気を抜いていた身体にもう一度力を入れる。それを見たクリスも何か嫌な予感を感じた。
「どうしたんだよダンナ!何があった!?」
『ノイズが現れた!すでに──しゃが出て──にもど──」
「なんて!?おいダンナ!!!」
『──────────』
突然ノイズが走ると通話が切れる。最後は何を言っているか分からなかったがあまり良い状況でないのは今の僅かな会話で分かることだった。
「いったい何が起こったってんだよ!」
「ッ!リディアンにノイズが出やがった。こいつらは囮だったんだよ!」
戦闘後に間髪入れず次のリディアンが襲われる。タイミングを考えればあれだけの数のノイズを囮だったのだろう。
一般人は知らないが、奏が所属する二課本部はリディアンの地下にある。理由はシンフォギア起動の為のフォニックゲインを観察するために適合率が比較的に高い女学生を一か所に集めて観察する為のものだった。
それがこのタイミングで狙われるとは偶然とは思えない。
奏は自分の母校と二課にいるはずの弦十郎や了子の心配をするが、クリスはそれ以上に心臓が息苦しくなるほど早く鼓動するのを隠さないでいた。
何故なら、リディアンの近くには未来が入院している病院があるからだ。
「未来っ!」
「あ、おい!待て!」
クリスは静止しようとする奏を振り切り、未来のいる病院に向かって走り出した。
原作より一人足りない状況での戦闘。ですが防人とビッキーはクリスを〝守ろう〟としたが奏は〝背中を託す〟事になりました。それにより一人で戦ってきた二人の少女はその頼もしさを改めて知る。
……かなクリか、探そう。
思いもよらず了子(フィーネ)さんの生存フラグ建ててしまいましたが、出来ない事ないですがなかなか扱いに困りそうなんですよね(汗)。一応は原作に沿って(ビッキーry(以下略))やってるつもりなので同じ頭脳役のエルフナインの出番とかすげえ減りそう……
という訳で自分で決められないので生意気にもアンケートという事でお願いします!一応無印最終戦直前までが期限としておきますぅ。
……途中にあったなんか甘い空気はなんだって?ただ書きたくなっただけでさぁ。もしかしたら響の代わりにクリスがポンコツクリスになる日が……
次回! フィーネ