戦姫絶唱シンフォギアIF 〜陰る陽だまり〜   作:ボーイS

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始まる最終決戦。

シンフォギアに強く影響を与えてしまうほど不安定な393、ギアの色が黒くなるようなことがあれば……

誤字報告毎回ありがとうございます(様式美)

それでは、どうぞ!


十三話

 遠くで爆発の音が響く。それに釣られて部屋が揺れ天井の破片がパラパラと落ちる。

 

「うっ……」

 

 激しい爆発音と揺れに気を失っていた弦十郎は目を覚ます。

 朦朧とする意識と痛む身体の中、目だけで周囲を確認する。狭い部屋だが簡易ベッドや机が置かれており、避難してきたらしき一般市民が幾人かいたが、部屋の中央に置かれた机には見知った顔の者達が集まっていた。

 

「司令!」

 

 その中の一人、緒川慎次が弦十郎が目を開けた事に気づくと急いで近づいてくる。それを追うようにパソコンをいじっていた二課のオペレーターである友里あおいと藤尭朔也も顔を向けた。

 

「ぐっ、ここは?」

「二課の非常用シェルターの一区画です」

「そうか……お前が俺をここに運んだのか?」

「はい」

 

 起き上がろうとする弦十郎に慎次は支えながらゆっくり座らせる。応急処置は済んでるとはいえ腹部を貫かれたというのにもう動ける弦十郎の回復力は異常だろう。

 

 慎次は翼とリディアンの女生徒の三人を今いる部屋に避難させた後、すぐさま未来の捜索に出たが、ほどなくしてさらに下層から異様な揺れと音が聞こえたため予定を変更し急行。そして見つけたのがパスワードが変えられて入る事の出来ないダインスレイフが安置されていた部屋への扉と、扉の前で腹を貫かれて血溜まりの中に沈む弦十郎の姿だった。

 弦十郎を担いで移動していた途中、避難しようと移動していたあおいと朔也とも遭遇して共に現在いる部屋に避難したのだ。

 

「ッ了子君は!?」

 

 頭が動き出した弦十郎は殺されかけたというのにまだフィーネを了子と呼ぶ。

 いつからカ・ディンギルという恐ろしい兵器を製造していたか知らなくても、長い間共にいて笑い合った櫻井了子が全て偽物だったとは弦十郎は思えなかった。

 

 朔也が使っているノートパソコンを怪我で動けない弦十郎の元に近づける。そして映し出されたのは三人の装者と金色の鎧を纏った女の姿だった。

 

「先程小日向さんが奏さん達と合流したところです。まだ戦いの行く末は分かりません」

「そうか……」

 

 弦十郎はパソコンに映し出されたのは三人の装者、特に小日向未来を注視する。

 いくら緊急事態とはいえ、精神が少し安定したところでまだ不安材料ばかりの未来を戦わせる事に抵抗があるのはもちろんの事なのだが。

 

(何も起こらなければ良いのだが)

 

 感じる嫌な予感が外れてくれと思いながら弦十郎は三人の無事を祈る事しかできなかった。

 

 ──────────────────

 

 目の前にたたずむ金色に輝くネフシュタンの鎧を身に纏うフィーネ。それに対峙する三人のシンフォギア装者。

 未来が助けに来た事により若干装者組が有利に見える。だがそれを跳ね除けるほどの性能差を持つのが完全聖遺物ネフシュタンだ。

 そんなネフシュタン相手に未来は自ら一歩前に出る。

 

「クリスと天羽さんは休んでて」

「はぁ!?未来一人で戦うってのかよ!?」

「さすがの小日向でも、それは無茶だ」

 

 フィーネと戦った二人だからこそ分かる。ネフシュタンの性能も合わさって、半暴走状態ならともかく今の未来では太刀打ち出来ないと確信を持って言える。

 

「……大丈夫。二人が休める時間を稼ぐだけだから。なるべく早く戻ってきてくれたら嬉しいけど」

 

 心配するクリスに笑みを見せて未来は大人しく待っているフィーネに身体を向ける。クリスの視界には顔は映っていないが、今の未来はクリスを傷つけたフィーネに怒りが湧いていた。そしてその表情を見るフィーネは逆に不適な笑みを見せる。

 

「くくっ。お別れは済んだか?」

「お別れも何もないです」

「そうか。なら始めようか!」

 

 会話とも言えるか怪しいほどの短い会話。だがそれを合図に、未来とフィーネは同時に戦闘態勢に入り駆け出した。

 

 未来は刀を、フィーネは剣のように固定化させた紫の水晶が連なった鞭を振りかぶり互いに振り下ろす。二人の武器がぶつかりあった瞬間、周囲の小さな石を吹き飛ばす衝撃が走った。

 

「くっ」

 

 金属同士が擦れ合う音と小さな火花を散らせながら必至に対抗する未来にフィーネは笑みを浮かべる。

 

「やはり予想以上にパワーはあるようだな。だが」

 

 全力で押し返そうとする未来を嘲笑うかのようにフィーネが力を込める。そして徐々に踏ん張る足ごと押され始めた。今や未来専用に調整されたシンフォギアでも完全聖遺物のネフシュタンのパワーが上回っているのだ。

 

「今の貴様ではこの程度だ。それでは何も守れんぞ?」

「ッうるさい!」

 

 フィーネの言葉に苛っとした未来は叫びながら全力で押し返す。僅かに後退したフィーネだが、その顔はまだ余裕があった。

 

 刀と鞭の鍔迫り合いから互いに力を込めて反発するように後方に飛ぶ。距離が離れたとはいえネフシュタンの鞭であれば容易に届く位置に、未来は警戒を強めて刀を構え直す。

 先にフィーネが動き鞭を振るう。地面を砕き、えぐりながら飛来する鞭を未来は辛うじて回避し、直撃しそうであれば刀を使い切り払う。そして隙があれば一気に距離を詰めてフィーネを切り捨てようと刀を振るう。だがそれすら計算のうちなのか鞭を剣状に固定化して受け止め、何度も鍔迫り合いを繰り返した。

 

 一見拮抗しているように見えるが少しずつ対応出来なくなって来た未来は身体に傷を作り始める。まだかすり傷程度なため致命傷には程遠いが、体力的にいつミスをするか分からない。

 

「はぁ、はぁ」

「息が上がってきたじゃないか」

 

 回避を優先し動き回ったが故に余計な体力を使い肩で息をする。それを見てネフシュタンの加護なのか疲れている様子が無いフィーネはつまらなさそうに未来を見下ろす。

 

「ッはぁああぁぁぁ!!!」

 

蒼ノ断頭

 

 叫びと共に右足を大きく後ろに下げて両手に持った黒い刀を肩に担ぐ姿勢を取る。そして刀を地面を叩き割る勢いで全力で振り下ろし巨大な衝撃波を放つ。

 衝撃波は地面をえぐり、道中の瓦礫を破壊しながらフィーネに向かうが、当のフィーネはその場から動かず余裕の笑みを浮かべた。

 鞭を横薙ぎに振るい、鞭を衝撃波に当たることで軌道を変えるという離れ技を行う。そして衝撃波は大きくずれてフィーネの横を通過し後ろの瓦礫を粉々に破壊した。

 

 今持てる全力とも言っていいほど力を込めた一撃を難無くいなされた未来は悔しさで唇を噛む。クリスを傷つけられたというのに何も出来ない自分に怒りすら覚えていた。

 しかし、どれだけ悔しがろうとも目の前の敵にその手は届かず、ただ歯痒い思いをする事しか出来ない。

 

「────貴様に良い事を教えてやろう」

 

 圧倒的な戦闘能力の差を見せつけ、いつでも未来を打ち倒せるはずのフィーネは何を思ったのか鞭を下ろした。

 

「二年前のライブ事件、あれの黒幕は私だ」

「……えっ」

 

 その言葉に未来は金縛りにあったかのように身体が動かなくなる。

 フィーネは動揺する未来を見て笑みを作り語り出した。

 

「あの時はネフシュタンを手に入れたとしても風鳴弦十郎に邪魔される可能性が高かった。故に事前にクリスを使ってソロモンの杖を起動させ陽動に当てたのだ」

 

 当時のライブ会場でツヴァイウィングの歌と、それにより高められる観客のフォニックゲインを利用してネフシュタンの鎧を復活させる計画が同時進行されていた。

 司令である弦十郎はネフシュタンを観測するための部屋から少し離れた位置にはいたが、それでも何かあれば弦十郎ならすぐに駆け付けることが可能な場所であった。

 故に、ネフシュタンの鎧を手に入れるための一番障害である弦十郎を足止めさせるために、フィーネは前日にクリスが起動させたノイズを使役する杖『ソロモンの杖』を用いた。

 その結果世間に大きな衝撃を与え、ツヴァイウィングの片翼である風鳴翼が寝りにつき、未来は親友を失った。

 

「貴女が……あの事件を……」

 

 その言葉を聞いて未来の中で何かピキリッと鏡にヒビが入るような音が聞こえた。

 

「そうだ!私がやった!貴様の友を殺したのは……この私だ!」

 

 大きく手を広げて未来に聞こえるようにわざと大声でフィーネは言う。

 

 身体の中から聞こえるヒビが入るような音が大きくなる。それと同時に激しい怒りと殺意が湧き上がってくる衝動に、未来は逆らえなかった。

 

「貴女が響を……私の大切な人を……」

 

 黒い感情が未来を支配していく。目の前の敵を殺せと、親友の仇を取れと自身と同じ声が頭の中で何度も響く。

 未来の感情に触発されえ徐々にシンフォギアの青い部分が黒く染まっていき、怒りと殺意に呑まれかけたその顔は鬼のように歪む。

 

 今にでも飛びかかりそうなほど血が滲むくらい刀を強く握る未来を見て笑みを隠さないフィーネだったが、その頬を何かが掠め何本かの髪がハラリと落ちた。

 

「……なんのつもりだ」

 

 気分を害されたフィーネは今頬を掠った物、シンフォギアによって作られたボウガンの矢を放ったクリスを睨んだ。

 クリスはフィーネを無視して構えていたボウガンを降し、七割ほど黒く染まったシンフォギアを纏う未来にゆっくり近づき、そして抱きしめた。

 

「クリ、ス……?」

 

 戸惑う未来を他所にクリスは抱きしめる力を強める。力を入れすぎではあるが、クリスの心臓の音や暖かさが今にでも暴れ出しそうだった黒い感情を徐々に鎮めていく。

 

「お願いだ……もうそっちに行かないでくれ……」

 

 未来を抱きしめる腕が震える。

 大切な友達であり、頼れる唯一の人間である未来を救いたいという気持ちと、もし正気に戻る前のように狂って拒まれたらという一種の恐怖がクリスの震えながら抱きしめている腕から未来に伝わる。

 

「……ヒビキの代わりになんてならねぇってのは分かってる。でも、あたしじゃダメか?あたしじゃ、未来の傷を癒してやる事は出来ないか?」

 

 先程まで勇猛果敢にフィーネと戦っていた人物と同じとは思えないほど今にでも泣き出してしまいそうなクリスに、荒ぶっていた黒い感情が少しずつ大人しくなっていく。

 親友を失って悲しく、そして目の前に二年前のライブ事件の黒幕がある事でまだ怒りや殺意といった感情はまだ残っているが、瞳を潤ませるクリスと思い出の中の親友の泣き顔が重なる。その涙の原因が自分だと気づくと心の中の黒い感情よりも申し訳なさが強くなっていく。

 

「……ごめんね、クリス。もう大丈夫だよ」

 

 刀を持っていない手で抱きしめてくるクリスの背中を優しく叩く。

 完全ではないにしろ身体を支配しようとしていた怒りや殺意は収まり、今は思考がクリアになって周りがよく見えていた。

 

 未来がもう大丈夫だと分かるとクリスは惜しみながら抱きしめていた腕を解く。そして自分がかなり大胆な事をやったと理解し赤面するクリスに未来は優しい笑みを見せた。

 

「おいおい、二人ともまだ戦闘中だぞ?」

「天羽さん!」

 

 和やかな雰囲気が流れる未来とクリスの間にいくらか体力が回復した奏が近づく。傷は残っているが元気そうな奏を見た未来はホッとするが、横にいるクリスは良い雰囲気を邪魔されて少し奏を睨んでいる。

 

「奏でいいよ」

「え、でも…」

「あたしが許可するんだ。それに今は三人で協力しなくちゃいけないし。言いたい事とかそんな重いもんは後回しさ!な、クリス?」

「い、いきなり呼び捨てすんな!」

 

 圧倒的な劣勢な状態な上に負けられない戦闘中のはずなのに三人はまるでそんなもの関係ないというように笑い合う。

 知らぬうちに背負わされたこの戦いに勝たねばならないという重い責任を軽くし、心に余裕が出来る。そんな雰囲気に黙って見ていたフィーネは不快な気持ちになった。

 

「ちっ。余計な事をやってくれる、な!」

 

 笑い合う三人を邪魔するようにフィーネは鞭を振るう。風を切る音と共に地面を砕く一撃が三人を襲う。だが未来達は余裕を持ってそれを躱した。

 

 鞭を回避し着地した三人はそれぞれの武器を構えてフィーネに対峙する。だがそこには先程までの緊迫した雰囲気はなく、互いに背中を任せあえる戦友が出来たかのような余裕があった。

 

「今度は、私たちの番です!」

「やれるものならやってみろ!」

 

 三人を狙って何度目になるか分からないネフシュタンの双鞭が振るわれる。

 当たれば無傷では済まない、そんな襲ってきた一撃を未来は余裕を持って刀でいなし、奏は余裕のできた思考とネフシュタンの鎧を纏った時のクリスとの戦いで見せた集中力により紙一重で回避した。

 

「一気に行くぞ!」

「分かりました!」

「命令すん、な!」

 

BILLION MAIDEN

MEGA DETH PARTY

 

 両手のボウガンが四門の三連ガトリング砲に変形させ、腰周りの装甲が開きそこから大量のミサイルの頭を覗かせる。そして未来と奏に鞭を振るった事で隙の出来たフィーネに向かってガトリング砲とミサイルの雨を降らせた。

 

 フィーネはその場から飛ぶ事でガトリング砲を回避し、地面に着地後迫ってくるミサイルに向かって横薙ぎに鞭を振るい、全て撃墜して爆発により砂塵が舞った。

 そして砂塵の中で蠢く二つの人影。

 

「おぉりゃあああぁぁ!」

「はぁあ!」

 

 ミサイルを落とした事により出来た砂塵を抜けて奏と未来はフィーネに向かって駆け出す。そして奏は大槍を突き出し、未来は刀をフィーネに向かって振り下ろした。

 

 突き出された槍を片手で掴み、振り下ろされた刀を鞭を剣状に固定化させて受け止める。

 ネフシュタンの力があってこそ出来た事ではあるがシンフォギアを同時に受け止めるにはそれだけ力を分散させねばならない。であれば両手が塞がれれば身体がガラ空きになるのは明白である。

 

「隙だらけだぜ!」

 

 奏と未来を抑える事に力を割いたフィーネに向かってクリスはガトリング形態から戻したボウガンを連射させる。それに気づき対応しようとするフィーネだが既に両手は塞がっていたため、対応出来ずに放たれた矢の全てを受け、身体が大きくのけぞる。鎧にいくつものヒビが入り、それでも倒れないのはネフシュタンの鎧の性能故か。

 

「この程度で」

「まだです!」

 

 ネフシュタンを傷つけられて怒りの矛先がクリスに向いた瞬間、未来は空いている手にもう一本の黒い刀を創りだし振り下ろす。さすがのフィーネも危険を感じて振り下ろされた刀を回避して後方に退避する。だが逃げる事を奏は許さない。

 

「逃すかよ!」

「くっ」

 

 跳躍した事により空中で無防備になったフィーネに大槍を突き出しながら奏は地面を踏み砕くほど強く踏み込み、全力で突撃する。何もしなければ胸を貫く直撃コースだ。

 フィーネは焦りながらも鞭を剣状に固定化させ奏の突撃を受け止める。空中にいるため踏ん張る事が出来ずにそのまま近くの瓦礫まで奏と共に高速で移動し、大きな瓦礫にぶつかる事で動きが止まる。

 

 奏ごと巻き上がる砂煙を払うようにフィーネは鞭を横薙ぎに振るう。近くにあった小さな瓦礫は振るわれた風圧だけで粉々に砕け、鞭が当たった瓦礫も容赦なく砕け散る。

 砂煙が払われ、振るわれた鞭を後退しながら回避する奏を見つけたフィーネは串刺しにしようと鞭を奏に向けて真っ直ぐに飛ばそうとしたが、一瞬早く自分のいる辺りが妙に影になっている事に気づいた。

 

「やあああぁぁぁ!」

 

空ノ崩落

 

 未来がフィーネの頭上の死角で黒々した刀を両手に持ち、天を貫く勢いで高く振り上げた六メートル程の巨大な刀をフィーネに向けて全力の力を持って振り下ろす。以前の殺意が籠ったものとは違い、刀の峰と纏っているシンフォギアの手足の装甲の僅かな開きから点火されたブースターは今の未来を表すかのように青い炎だった。

 

「ッなめるな!」

 

NIRVANA GEDON

 

 鞭の最先端の突起から黒い電撃を包み込むように白いエネルギー球を生成する。だがそれはクリスがネフシュタンを纏っていた時とは違い、その大きさは倍近いものとなっていた。

 

 巨大な刀とエネルギー球がぶつかる。

 僅かに拮抗したが、空からブースターによる加速も加わった未来の巨刀による斬撃がエネルギー球を真っ二つにして大きな爆発が起きる。そして爆発に呑まれても止まらない未来の一撃がフィーネを襲う。

 

 地面を陥没させる程の一撃だが、エネルギー球により勢いの落ちたそれをフィーネは無理して受け止めるような事はせずに余裕を持って回避しようとした。だが未来ばかり見ていた視界の端に見覚えのある朱い髪が写る。

 

「いっけえええぇぇぇ!!!」

「クソッ、ぬっ!?」

 

 巻き上がる砂塵をカモフラージュに使い、突撃した奏は持っていた大槍を野球のバットを振るうように大きく振りかぶる。それにいち早く気づいたフィーネは鞭を使って反撃しようとしたが、鞭を持つ右腕を後方にいたクリスのボウガンにより撃ち抜かれた。

 

 無防備になったフィーネの腹部に振り抜かれた大槍が綺麗に直撃し、そのままはるか後方に吹き飛はされて勢いよく瓦礫に突っ込んでいく。

 フィーネが吹き飛ばされた方向に向かって、未来は右足を大きく後ろに下げて両手に持った黒い刀を肩に担ぐ姿勢を取った。

 

「これで!」

 

蒼ノ断頭

 

「ぐ、があああぁぁぁ!?」

 

 勢いよく振り下ろされた黒い刀は地面にぶつかった瞬間、大きな縦向き衝撃波を生み出し、その衝撃波は奏に吹き飛ばされた、瓦礫に縫い付けられたフィーネのいる場所に向かって一直線に進み、そしてさらに大きく砂塵を舞い上がらせた。

 

 刀を振り下ろした格好のままの未来の両隣にクリスと奏が近づき、フィーネのいるはずの方向に向かって再び武器を構える。

 巻き上がる砂煙のせいでフィーネの姿は見えないが、クリスの纏っていたネフシュタンの回復能力を考えれば十分戦闘続行は困難なダメージを与えているだろう。

 

「勝った、のか?」

 

 疑問符を浮かべながらポツリと呟く奏。まだ油断できる状況ではないがいくら待っても立ち上がって来ないフィーネに三人は安堵のため息を吐く。

 

「は〜〜〜。なんとかなった……ぐっ」

 

 奏が脱力した瞬間シンフォギアの装甲の色が薄くなる。ここまで保っていたLiNKERの効果が切れ、副作用と連続投与による痛みで身体がふらつき大槍を杖代わりにして膝をつく。

 

「奏さん!?」

「お、おい。大丈夫かよ?」

 

 いきなり膝をついた奏を心配する未来とクリスに、奏はまだ身体中に痛みが走るがそれでもシンフォギア装者の先輩としての意地なのか笑みを見せた。

 

「大丈夫さ。ただLiNKERが切れてふらついただけさ」

「んだよ、心配させんなよな……っとっと」

 

 心配して損した。という風に顔を背けようとしたクリスだったが突然身体から力が抜けて近くにあった瓦礫にもたれかかる。既に限界が来ていた身体を無理矢理動かした後に戦いに勝って脱力したために一気に身体から力が抜けたのだ。

 

 唯一後から来てフィーネとだけ戦ったためまだ体力のある未来だけが必然的に目立つように立つ事になった。

 

「ふふ。クリスもお疲れ様」

 

 バランスを崩しているクリスに未来は笑みを浮かべながら手を差し出す。その手を見てクリスは恥ずかしくて顔を赤く染めながら手を取ろうとしたその時だった。舞い上がる砂塵の合間からキラリと何かが光った。

 

「ッ未来うううぅぅぅ!!!」

 

 伸ばされた手を取ろうとしたクリスが大声を上げると未来の伸ばされた手を拒否するかのように力いっぱい未来の身体を押して遠ざける。

 突然の事にバランスを崩した未来はそのまましりもちをつく。そしてその直後、砂塵から高速で紫色の水晶が連なった鞭が飛び出して未来の目の前にいたクリスを切り裂いた。

 

「……え?」

 

 未来の目の前で鮮血が飛び散る。

 鞭に切り裂かれたクリスは血と共にシンフォギアの破片を辺りにばら撒きながら空高く吹き飛ばされ、まるで人形のように未来から少し離れた場所の地面にグシャリと嫌な音をたてて落下した。

 

「相手の生死を確認もせずに勝利したと思うとは……まだまだ甘いな」

「フィーネ!」

 

 晴れる砂煙からあれだけの連続攻撃を受けたのにも関わらず無傷のフィーネが余裕の足取りで現れた。

 奏達の唯一の誤算はフィーネが纏うネフシュタンの鎧の性能をクリスが纏っていた時のものと同じレベルだと思っていた事だった。

 シンフォギアでさえ奏のようにLiNKERを使う者と未来のような特例を除いてクリスのようなLiNKER無しでもシンフォギアの能力を十全に扱う者がいるように、ネフシュタンの鎧も使い手によってその性能は大きく変化する。

 それに加えてフィーネはその身に聖遺物を宿す未来を参考にし、自身の体内にネフシュタンの因子を埋め込み、自ら融合症例になる事で更にその性能を高めていた。

 仮にネフシュタンの鎧を纏ったクリスと対峙してもクリスはまともな一撃を入れる事なく敗れるだろう。それほどまでにネフシュタンを使いこなすフィーネは強力な存在だった。

 

「なかなか痛かったぞ。だがこれしきなら見た目通り無傷と言っても過言では無い」

「くそ!構えろ小日向!まだ終わってねぇぞ!……小日向?」

「……」

 

 フィーネの戦闘能力を見誤り、クリスがやられた事により圧倒的な不利な状況に奏は焦りながらも大槍を構える。だが未来の耳には奏の言葉が入って来ない。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 視界には未来を守る為に致命傷を受けて地面に横たわるクリスの姿。そして地面と身体の間から少しずつ血の池が広がっていく。その姿に動悸が速くなっていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 手を差し伸ばした未来をクリスが突き飛ばす瞬間、大切だった親友の姿と重なり、二年前の光景がフラッシュバックする。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

 

 親友は自分を守るためにその身を犠牲にした。そしてクリスも同じく自分を守るために傷つき、流れ出る血で血の池を作る。それが親友が灰になった時のように、クリスという存在が血の抜ける事で少しずつ消えていくようなその光景があまりにも似ていて、未来の心が大きくひび割れていく。

 

「いや……」

 

 せっかく出来た心を許せる友人が、壊れた心を治してくれた新しい大切な人が、自分のせいでその命を散らせてしまう。

 

「いや……いや……」

 

 そのあまりの絶望に、(いびつ)ながらも直されたはずの心はいとも容易く崩れていく。

 

「おい、大丈夫か小日向!?」

 

 様子がおかしくなった未来を心配して触れようとした奏だったが、その前に未来の心は砕けてしまった。

 

 

「ッいやああああアアアアアアァァァ!!!

 

 

 叫びを合図にしたかのように未来の身体から黒い煙のようなものがその身を突き破るように溢れ出し、天すら黒く染めようかというほど広く大きく広がる。

 奏は未来を中心に広がる黒い煙から嫌な予感を感じとり、逃れるようにその場から後退する。その間にも黒い煙は未来の身体を覆い尽くすように広がる。

 

「くくくく、はあはっはっはっはっ!!!」

 

 黒く染まる未来を見てフィーネは不敵に大声で笑った。

 

 そして、今まで微動だにしなかったカ・ディンギルが淡い光を帯び、動き出したのであった。




一度は治った黒い感情が奇しくもビッキーを失った光景とそっくりな状況に再び染まり、壊れる393。
怒りと殺意と怨嗟によるものだけではなく、悲しみと絶望も加わり黒く染まった暴走。そして不敵に笑うフィーネ。

刀が堕ち、矢が脱落し、残るはボロボロの槍のみ。

原作よりも若干絶望的な状況をどう打ち破るのか!

ラスボス全員生存は半分冗談でしたが、各編のクライマックス等で想像出来ても細部まで練り込めてないためその時の作者に判断を委ねるという事で深く考えないでいてくだせぇ。出来ればしたいですが(遠い目)。
どの道GEDOUはゆ゛る゛さ゛ん゛けど!

今後を考えててもこの393が心から笑顔になる日が遠すぎて困ってしまっているのは内緒。

次回! 君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ

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